復活の気配
そうして平日の平和な期間を経て、土曜日がやって来る。この間、皇帝は動かなかった。でも、世界には少しずつ変化が訪れている。世界の一部が少しずつ欠けていくという変化だ。欠けた場所は元の星への出入口になっている。
世界が崩れ始めている。それが皇帝の復活が近づいている証拠なのかもしれない。
世界の三分の一が欠けていった状態で、私はリリィルーナと一緒に過ごしている。リリィルーナの些細な変化が、皇帝の行動を予測するのに重要だから。
「リリィルーナ、大丈夫?」
「うん。今のところは大丈夫」
「ナイアルラトホテプ達も特に動きはないし、今日も何も起こらないのかな……」
私がそう言った瞬間に、何か予感がした。その予感が何に対してのものなのかは、即座に理解した。そして、それはリリィルーナも同じだった。
「皇帝が復活した……」
「うん。シキドウジ!」
「何か起きたのか?」
「多分、皇帝が復活した。今から向かうよ。フレ姉達が仕事で来られないのは痛いけど、ここは仕方ない」
さすがに、仕事があるのに無理矢理来てもらうというわけにはいかない。最後の戦いに参加出来ないのは痛いと思うけどね。
天使と悪魔をレメゲトンに入れる。リリィルーナを連れていくという事で、ここに護衛を残す必要はほぼない。だから、皆を連れて行く事に決めた。
「アーサーさん達とお母さん達は後で召喚しますね」
「ああ」
「ええ……」
血液で籠を作った私はリリィルーナとシキドウジを籠に乗せて移動する。目的地は変化した城だ。その道程でノマドが私達を引っ張る。リリィルーナはともかくシキドウジが大丈夫かと思ったら、平然としていた。本当にこの人は人間なのか。
『世界が揺れている。復活の時という事だな』
「うん。さすがに援護は出来ないよね?」
『いや、今回に関しては人間同士の諍いではない。我も協力しよう』
「良いの? ありがとう」
ノマドが関与しないのは人と人との諍い。そして、今の皇帝は人と言える存在じゃない。だから、ノマドも参戦できる。私達への援護が可能という事だ。ウロスは、さすがに呼び出すわけにもいかないので、参加するのは後はプレイヤー達だけになるかな。
プレイヤーがどこまで近くにいるのかによって変わるけど、なるべくなら多い方が良いはず。
「どう行動する?」
シキドウジが作戦を聞いてくる。ある程度は決めておいた方が良いのかな。私は少し考えてから、取るべき行動を決めた。
「先手を打ちたい。私は【混沌熱線】を放つ。リリィルーナは隕石を落として。とびっきり大きいやつ」
「良いの?」
下手すれば、この星が終わる。恐竜を絶滅させた大きな隕石と同じような感じになるかもしれない。でも、さすがにそうはさせない。
「ガイアさんがいるから大丈夫。いや、大丈夫とまではいかないけど、被害は抑えられる」
こういうときに大地を司るガイアさんがいてくれるのは助かる。戦闘慣れしているから、ここに呼び出すのも問題ない。
問題は被害をどこまで抑えられるかというものだけど、そこはガイアさんを信じるしかない。
「分かった」
「それで終わるか?」
「多分、終わらない。そんなので倒せるならナイアルラトホテプ達が倒せない訳がない。私達を頼る必要がないんだよ。だから、多分これでも倒せない。でも、ダメージになるのかどうかは調べられる。まぁ、これの後はそのまま成り行き任せで戦うしかないかな」
「なるほどな」
先制攻撃するという点だけは決めて、後は臨機応変に戦う。そもそも相手がどういう力を持っているのかも分からないので、それ以上の作戦を立てられない。だから、いつも通りの成り行きで戦うしかないのだ。
「相手が純色と同じなら、私が相手の世界に入って力を奪うんだけど……正直、そこら辺もよく分からないから」
「だが、異神である事には間違いないんだろう?」
「ナイアルラトホテプ達が言うにはね。恐らくは純色の上。ヨグ=ソトースや純色みたいに、別空間に囚われているのなら、世界を奪うのも可能だと思う。問題は私とヨグ=ソトースみたいに、身体の中に入っている場合。力を授けられているのではなく、異神を宿している場合、力を奪うには皇帝に噛み付く必要がある。アカリに作って貰った四色の指輪で異神の影響は全く受けないから、力を奪っても問題ないけど、噛み付くまで行けるかどうか」
「剣からも吸収出来るんじゃないの?」
リリィルーナは赫夜刀からの吸収は見ていないはずなので、誰かから聞いた感じかな。
「出来なくはないけど、それでも皇帝に突き刺さないといけないの。噛み付くのと突き刺すのだったら、どっちもどっちでしょ?」
「噛み付く方が大変だと思う」
「普通はそうだな」
「まぁ、確かに……」
私の感覚が狂っていただけで、普通は噛み付く方が難しいか。基本背後に回って突き刺してからの噛み付きで、先に突き刺しが発生していたし。噛み付きのインパクトが強いだけだ。
「とにかく二人に約束して欲しいのは、絶対に無理をしないでって事。良いね?」
「うん」
「ああ」
最後確認をした後、私は正面を見る。そこには地面から大きく隆起した山の上に立つ黒くゴツゴツとした城があった。城の形も変わっている。
「リリィルーナは、あの城を見た事ある?」
「ううん……あの城は私が暮らしていた城じゃない……」
「だよね」
私も見覚えのない形だけど、古い時代はあんなだったとかあると思って、リリィルーナに確認した。でも、リリィルーナが暮らしていた時代を考えると、そんな事が分かる訳もなかった。
「良し。シキドウジはノマドと一緒にいて。ガイアさん」
私が呼ぶとすぐにガイアさんが出て来る。
「私だけって事は、何かあるのね」
「はい。今から私が【混沌熱線】を放って、リリィルーナが空から巨大隕石を落とします」
「地上への被害を抑えろという事ね。分かったわ。完全に打ち消す事は難しいと思うけれど、出来るだけ抑える」
「ありがとうございます。いくよ、リリィルーナ」
「うん」
私は皆から少し先行した位置に移動して、【混沌熱線】を城に向かって放つ。私の【混沌熱線】は城の手前で七色の障壁に弾かれる。純色の異神の障壁と同じだ。
そこに空から馬鹿でかい隕石が落ちてくる。普通に星が滅びる規模の隕石が城に落ちてくる。でも、それが触れる直前でやっぱり障壁が拒む。
障壁に命中した隕石は割れて城の周囲に破片を落としていった。その被害をガイアさんが抑えてくれる。
こっちの先制攻撃は失敗し、恐らく向こうに気付かれた。ここからどう戦うか。相手の出方次第になるか。いや、やるなら徹底して攻撃しまくろうかな。
皇帝と私達の戦い。長く続く因縁が決着する戦いが始まる。




