束の間の平穏
領域を固めている間に、運営からお知らせが来た。それは時間の流れが通常通りに戻ったというもの。これからはいつもみたいに長い間ゲームをプレイする事が出来なくなった。
まぁ、ドリームランドから切り離された訳だし、これは仕方ない。一部のプレイヤーからは文句が出そうだけどね。
しっかりと領域を固めて、要塞化させた後、リリィルーナのところに戻る。リリィルーナの近くにはアカリがいる。
「どう? 大丈夫?」
「うん。今のところは、こっちに異変はないよ。リリィルーナちゃんの体調とかにもね」
リリィルーナの様子に変化がないというのは、まだ皇帝が完全復活していないと考えられるので余裕が生まれる。
「ノマドはいるかな」
空を意識していると、頭の中に声が響いてくる。
『世界が戻ったな』
「いた。うん。皇帝が復活する。城の様子に変化は?」
『城の形が変わっている。土地が隆起し、高くなっている。汝なら関係ないだろうが』
「まぁ、空を飛べるしね。何か変化があったら、教えてくれる?」
『ああ』
そこでノマドとの会話が途切れる。完全に離れたみたい。ノマドが何か情報を掴んでくれたら嬉しいけど。
「ハク」
「アーサーさん。周囲はどうでしたか?」
「変化はそこまでない。周囲の脅威はそこまで変わらないだろう」
「なら、この要塞でどうにかなりそうですね」
「ああ。堅牢な要塞にしたな。だが、かなり目立つだろう? 良いのか?」
「はい。今は目立たないよりも硬いを優先したいので。アーサーさん達は基本的にリリィルーナの護衛と周辺の警戒をお願いします。皇帝との戦いになったら、力を借りるかもしれませんが」
「ああ。承知した」
アーサーさんはそう言うと、小屋を出て行く。他の皆に指示を出しに向かったのだと思う。そのアーサーさんと入れ替わりに、シキドウジが入ってくる。
「ワンスアポンは変わりない。昏睡していた事も覚えているみたいだ」
「じゃあ、時間が巻き戻ってるとかはないみたいだね。シキドウジもここの護衛をお願い出来る? 皇帝がこっちに来たら戦って欲しいけど……そもそも皇帝と戦うのは良い?」
元々仕えていたという事もあるので、少しでも躊躇いがあるのなら皇帝との戦いは頼みにくい。
「ああ。別に構わないが。そもそも俺を殺したって話だしな」
「ああ……うん。そうだね。それじゃあ、その時に近くに来たらお願い」
「任せろ」
この要塞に攻撃を仕掛けてくるのであれば、シキドウジも参戦してくれる事になった。これは本当に有り難い。シキドウジの強さは実際に戦ったから十分に分かっているし、そもそも純色の異神の眷属の異神を平然と倒せるくらいだし。
皇帝がシキドウジを警戒した理由も、ここにあるという事がよく分かる。この戦闘力の高さを放置したら、自分の王政が崩れるという妄想に取り憑かれるとも無理はない。
だとしても、英雄を殺す馬鹿としか言えないけど。
後の問題は、皇帝を倒した時にシキドウジやフレンダさんがどうなるのか。最悪このまま私達のギルドエリアに連れてくるという事もあり得るかな。死者を蘇らせるという事だけど、そもそもアーサーさん達がいるという時点でそれは問題ない。
「ねぇ、ハク」
リリィルーナが私の元に来て、服を軽く引っ張ってくる。何か心配事か頼み事か。どちらにせよ、リリィルーナが私に話したい事があるのは間違いない。
「どうしたの?」
「あのね。皇帝と戦う時……私も連れて行って。私の手で、この楔を打ち砕きたいの」
「…………」
許可は出したい。でも、相手が純色の異神よりも強い異神の力を得ているという事を想定すれば、正直なところ賛成できない。でも、ここはリリィルーナの意思も尊重したい。私はもう後悔しないように、苦渋の決断をする。
「分かった。でも、絶対に無茶は無し。出来れば他に護衛も欲しいけど……」
「なら、俺も連れて行けば良い。リリィルーナがいないなら、俺が守る必要もないだろう?」
シキドウジがそう言う。フレンダさんという守らないといけない相手がいるけど、リリィルーナがいなければ、ここが襲われる可能性も低い。なので、ここを守る必要はないというのは正しかった。
「まぁ、そうだね……う~ん……良し。そうしよう。でも、シュラ達は残ってね。そもそも戦える力は……なくはないのか」
『私はないわよ。でも、この辺りの統治なら任せて。元々女王をやっていたから、得意という程ではないけど、問題ないわ。だから、あの王様も連れて行って良いわ』
「ありがとう、ヒストリア」
ヒストリアのおかげで、安心してアーサーさんを連れ出せる。まぁ、リリィルーナがいないなら、アーサーさんに頼る必要もないから普通に連れ出せはするのだけど、安心出来るかどうかの要素は大事だ。
『私も出来る限り協力しましょう。皇帝の力が強く城の近くの植物に繋がる事が出来ませんが、その範囲より外の植物であれば、情報を得られます』
「じゃあ、何か城に変化があったら教えてね」
『はい』
ノマドとマールムの協力があれば、城の変化にはすぐに気付けるようになるだろう。だから、ここら辺は二人に任せる。
「わ、私は……」
「シュラは無理しないで大丈夫だよ。でも、もし手伝ってくれるなら、ここが襲われた時相手に幻術を掛けてくれる?」
「う、うん……!」
シュラには、ここの守りをお願いする。シュラの幻術があれば、守りは万全と言えるだろうし。
「じゃあ、私はライブするね」
「そうだね。メイリーンにはライブを頼もうかな」
「あ、え? 本当に?」
この状況でライブは空気が読めないと思っていたのか、自重していたらしい。でも、こんな状況だからこそ、ライブを頼みたい。
「うん。メイリーンのライブは士気が上がるからね。何なら今からお願いしたいかな」
「分かった! 目一杯歌うよ!!」
ライブが出来ると知って、メイリーンはテンションを爆上がりさせていた。皇帝が目覚めるのは、未だにいつか分からない。でも、出来れば休日に目覚めてくれると嬉しいかな。




