表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の貴公子  作者: 健康


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

17話 再会の温もり、運命の糸

 ミレイは俺を強く抱きしめて、


「……ウタジ、ウタジ、ウタジなのよね!」と耳元で何度も俺の名を呼ぶ。

「あぁ、そうだとも」

「……うん……」


 ミレイの温もりは昔と同じ。

 腕の中から伝わる温もりが、声の震えが、失われた永い時間が嘘だったかのように、凍てついた心を溶かしていく。


 その心のままミレイの背を撫でていくと、彼女は俺の首筋に顔を埋め、吸い付くように唇を当ててきた。昔の記憶通りの唇の感触……。 

 甘く切ない感触。体も元通りだ良かった。

 

 ミレイの氣持ちに応え――。

 首を動かし、その唇を求めようとミレイの唇へと、己の唇を重ねようと動かした。ミレイの鼻と俺の鼻が当たり、唇を重ねたところで、


「あっ……」


 澄んだ声が響き、ミレイはハッと我に返る。

 周囲の視線に気づき、みるみるうちに頬を朱に染めた。

 そんなミレイの表情の移り変わりに、深い安堵感を得ながら、ミレイの背を左の掌でぽんと優しく叩き、腕を離して先に立った。


 ミレイは上目遣いで、恥ずかしそうに、はにかんでいる。


 そのミレイに「――立てるか?」と片手を差し伸べた。


 ミレイは瞬きをしてから間を空ける。

 ……微笑み、


「ふふ、うん、たぶん大丈夫――」


 と俺の手を掴む。

 いつぞやの記憶が、蘇る……細い手の感触は昔と変わらない。

 そのまま腕を引きミレイを引っ張り上げた。


「ガォ?」


 小形のドラゴンは俺たちを見て鳴いてからサジハリと呼ばれている赤髪の女性を見る。


 ミレイは「きゃ」と可愛い声を発して<血魔力>を体に展開させる。素早く軽装の衣服を<血魔力>で展開させた。

 己の体が肌だと氣付いたか。


「<血道・装具>は前と変わらず、使える」

「うん、装具は前と変わらないし、今の復活で急激に成長した、感覚も色々と強化されたの……」


 急激に成長し、感覚も強化か……。

 ミレイは語尾で言い淀み、アケミと呼ばれていた少女、女魔術師を見る。

 そのアケミは、


「……もう、ミレイさん、と言ったほうがいいですよね……後、わたしたちの記憶は?」


 ミレイは細い顎を下げて俺を見てはアケミを見て、


「あります、死にそうだった私は迷宮核に取り込まれて助かった。そして、アケミ。あなたを主と想い、忠誠を誓っていた。けど、もう違う。でも、あの時、命を助けてくれてありがとう……そして血骨重騎士ではないので……ごめんなさい」


 と、謝っている。言いにくそうだ。

 血骨重魂騎士の時の記憶も残っているからこそだろう。

 アケミとの付き合いも結構長い間あったからこその、急に昔の記憶の俺を思い出したと……。

 アケミは、


「……うん、分かっている、いきなりの展開だったけど、感動した。ハルゼルマ家のことは聞いていたから」


 と語る。ミレイを見る目には、淋しさも感じられた。ミレイもかすかに頷いて、アケミの言葉が真実だと分かるように微笑む。

 すると、サジハリが、


「バルよ、この二人は、シュウヤたちと似ている<血魔力>を扱うが、本物の吸血神ルグナドの眷族だ。しかも高祖級だろうねぇ……」

「ガォォ」


 しかし、このサジハリと小形のドラゴンのバルミントは……。

 その疑問の下、赤い髪のサジハリに、


「あの、あなたは、サジハリとバルミント? アケミも、そもそもミレイ、救われたと言ったが、ここにはどのように……」


 と聞くと、ミレイが、


「ウタジ、説明する。皆さんにも、これまでの経緯を」


 ミレイは深呼吸をし、語り始めた。

 その声は落ち着いていたが、時折、過去の苦痛が滲む。

 ミレイは、自身の空白の時間を簡潔にまとめていく。


「ハルゼルマ要塞が襲撃された夜は、もう皆も知っている」

「あぁ」


 アケミたちも頷いた。

 ミレイは、俺を見る。


「あれから……永い間……ううん、それよりも、ウタジと再会できた時は、短い間だったけど、最高に嬉しかったし、ハルゼルマで過ごしていた頃よりも、深い愛を感じた……幸せだった……」

「そうだな……だが、あの時の襲撃だ……」


 ミレイの瞳には俺が映る。

 そのミレイは瞳を潤ませ、


「……襲撃を受けて引きつけたけど、あの時は、死を覚悟をした。でも、急に追跡者の人数が減って切り抜けられると思ったけど、崖から墜落し、モンスターに……あ、ウタジは、あれから……二人を?」

「あぁ、探した。ミレイから聞いていたサルジンとスゥンの居場所を確認しにいった」

「え!! では会ったの? 本当に南マハハイム地方の樹海にいたの?」

「あぁ、居たさ、会ってはいないが、二人は生きている」


 ミレイは笑顔を見せた。


「……え? 会えずに見ただけ?」

「あぁ、理由がある」


 ミレイは俺を見て、何かを悟ったように頷いた。


「……生きている。それは確実なのよね」

「あぁ、確実だ。赤髪の獣人吸血鬼(ヴァンパイア)に、頭が禿げた吸血鬼(ヴァンパイア)に鋭い目を持つ吸血鬼(ヴァンパイア)はあまりいない」

「ふふ、たしかに。それは確実にサルジンとスゥンね……よかった生きていてくれた。ハルゼルマ家はまだ大丈夫……」


 ミレイの頬を、一筋の涙が伝った。

 その姿に、俺も胸に迫るものがあった。

 ミレイは哀愁を残した表情のまま、


「墓掘り人って名の組織……あの情報は正しかったってことね」

「そのようだ。その情報入手場所は地下都市ゴレアと言ってたな」

「そう、ダークエルフたちの地下都市、私が訪れた時は変わった魔導貴族が支配していた。今はもう分からないけど」

「俺はまだゴレアに行ってない。だが、なんにせよ、その情報で、南マハハイム地方の樹海の地に行ったんだ」

「うん、ここからでは南マハハイム地方はかなり遠い……」

「そうだな。俺たちが過ごした東マハハイム地方の地下からも遠い地が、南マハハイム地方だ」

「……うん……」


 ミレイは俺をジッと見続けてくれた。

 互いに永く放浪し、こうして再会し、救出することもできた。

 奇跡に近い。今もこうして美しいミレイと……ミレイは片目から涙を零した。その涙を親指で拭く。

 ミレイは俺の指を右手で掴んでから、頬に当て目を瞑る。

「……」

 あぁ、変わらない。

 あの頃のままだ……。

 ミレイは目を開けて俺を見た。

 何かを語るような視線は前と変わらない。

 微笑んでくれた。そして、「ウタジの大事な指……武骨だけど、昔のまま……」ミレイの小声が聞こえた。

 

 そのミレイは俺の手を離すと、少し視線を強め、

 

「……南マハハイム地方の十二樹海はルグナド様が地下の傷場を失った地。そこはどんなところだったの?」

「樹海は高低差が激しい、樹だらけで、湿った土地もある。そんな地上と、地下にも、色々な戦力が動いている」

「それはどこも同じだから分かるけど……」


 ミレイの言葉に頷いた。


「まぁ、濃密なんだ。サルジンとスゥンが身を寄せている連中も強いし、その連中と敵対勢力も色々だった。巨大な空飛ぶ魔機械の鳥も落下していた。更に、魔界の鹿頭など、様々な連中が現れていた。俺は遭遇していないが、死蝶人などもいたはずだ。魔界騎士に、古代狼族の集団もいた。オークの大帝国にゴブリンもいる。旧神と、地底神連中も地下には多いだろう」

「……混沌か。サルジンとスゥンにケンダーヴァルの追跡が及んでいない理由ね」


 頷いた。


「仮に及んでいても対処可能な戦力だ。墓掘り人とやらは、それほど強そうに見えた」

「へぇ……」

 感心したのも束の間、俺は言い添える。

「それに、皆吸血鬼だった」

「え? 墓掘り人って、全員吸血鬼たちなの?」

「そのはずだ。サルジンとスゥンの傍にいたダークエルフの男と紅色の髪の女と大柄の男も吸血鬼だった。<血魔力>の氣配が濃厚。しかもだ。エヴァって女も吸血鬼で光と闇を扱う強者、その中心にいたのは、闇と光という相反する属性を宿した、特異な吸血鬼の槍使いだった」

「ガォォォ」


 お? 小形のドラゴンが、げ、<血魔力>を、光と闇の……あの時に見た槍使いたちと同じ……。

 ここでもう一度見るとは……。


「え……光と闇の、槍使いって……ウタジ……」


 ミレイも知っている?

 小形のドラゴンといい、どういうことだ。


「私……会ってる。その槍使いに……ここにいる皆も……」

「な、なんだって……」


 ミレイの言葉に全身が硬直した。どういうことだ? 

 あの樹海で見た槍使いと、ここにいる全員が繋がっている?

 点と点が意志を持ったかのように結びつこうとしていた。

 ここで再会したミレイが、この場の全員が、あの樹海の『墓掘り人』と、光と闇の槍使いと繋がっているというのか?

 あまりにも予想外で、頭の中が混乱した。


 すると、サジハリが、


「その槍使いだが、シュウヤ・カガリだねぇ」

「シュウヤさん? あなたは、シュウヤさんを知っているのですか!!」


 アケミがえらい勢いで、あの槍使いの名を……。

 シュウヤが、あの槍使いの名なのか。


「そうだよ、エヴァと戦った時に聖槍のような槍を<投擲>してきた。二槍流、一槍流の使い手だろう」

「うん、それはシュウヤさんで間違いない!」

「ガォォッ!」

 

 小形のドラゴンが四枚翼を拡げて、前に来て、偉いアピールを……光と闇の魔力を有しているし、このドラゴンもシュウヤたちの種族の仲間だというのか。


 ミレイは、少し唖然としている。

 アケミは、ウタジとミレイの間に視線を行き交わせ、


「シュウヤさんと繋がりあるなんて凄い! わたしたちはシュウヤ様に救われたんです!」


 救われたか。アケミは凄く嬉しそうだ。

 サジハリは、相変わらず口元にわずかな笑みを浮かべたまま、紅い瞳でこちらを見つめている。

 そのサジハリは、


「……やはり、繋がっていたか」

「サジハリ、あなたと黒髪の槍使い、サルジンとスゥンと墓掘り人たちとも繋がりが?」

「墓掘り人は正直知らない。が、アケミが言ったように、槍使いは、もろに私たちと関係していると言って良い」

「アケミは、シュウヤに救われたと言いましたが」


 あの槍使いは、ここに来たということか。

 ミレイは傍らに立ち、そっと腕を触れてくれた。

 確かな彼女の体温が伝わってきた。


「ウタジ、驚かせてごめんね。本当なの、私の経緯を説明するわ……」


 ミレイは深呼吸をし、語り始めた。

 その声は落ち着きがあるが、昔を思い出しているようで、わずかな震えが混じる。


「先程の続きだけど……深手を負って、崖から落ちて、そこでモンスターと戦って、意識が朦朧となりながらモンスターを倒し、ひたすら彷徨って……氣がついたら、私は、この迷宮の近くに倒れていた……」


 すると、アケミが、


「そこからは私が語る、いい?」

「あ、うん」


 短いやりとりだが、ミレイとアケミの間に絆のような物があると理解した。

 アケミは、


「……倒れていたミレイさんを、私たちのスラちゃんたちが、助けて、ここに運び入れたんです。でも、ミレイさんの傷はあまりにも深くて、普通の治療では追いつかなくて……」


 アケミは迷宮の中央にある巨大な鏡、おそらく迷宮核そのものに視線を向けた。


「……私の迷宮核の力を借りる以外に、助ける方法がなかった。迷宮核に取り込んで、ミレイさんの命を繋ぎ止めたんです」


 ミレイは、自らの体を見て痛ましげな表情を浮かべた。


「迷宮核と融合することで、私は命を救われた。でも、その代償として、体が……血骨重騎士のような姿に変わった。ハルゼルマ家の頃の記憶は有していた、しかし、迷宮核を得て血骨重騎士として、この迷宮を守っていたのは、その時の私、記憶もある。アケミを主だと想い忠誠を誓っていた。それが己の新しい使命だと考えていたの」


 アケミは、ミレイに申し訳なさそうな目を向けた。


「迷宮核との融合は、リスクが高いことは分かっていました……でも、ミレイさんの命を救うにはそれしかなくて。記憶や自我が不安定になる可能性も……本当に、ごめんなさい」

「アケミが謝る必要はないわ。アケミが助けてくれたから、私はこうしてウタジと再会できた。感謝してる」


 ミレイはアケミに優しく微笑みかけた。アケミは涙ぐむ。

 ミレイは、優しい人族の魔術師に命を救われたんだな。

 

 サジハリは、


「槍使いとこの小形のドラゴン、バルミントは繋がりが深い。そして、槍使いは私がここに連れてきた。その時、ここは魔人帝国ハザーンと争いの最中だったのさ、私と槍使い、神獣ロロディーヌと皆で、アケミたちを苦しめていた連中と戦って勝利した。アケミたちにとってはシュウヤと、黒猫でもあり黒豹にも変化が可能な神獣ロロディーヌは、ミレイの命の恩人でもあるということさ」

「……なるほど」


 だから小形のドラゴン、バルミントは闇と光の属性を持つんだな。

 サジハリは、


「そして、この迷宮はアケミがダンジョンマスターだが、私が世話してあげているのさ」

「世話?」


 とアケミに聞くように顔を向ける。

 アケミは胸元に手を当て、


「はい、サジハリたちには、助けてもらっているんです。サジハリは、高・古代竜ハイ・エンシェント・ドラゴニアで、凄く強い。頼りにさせてもらってます」

「……高・古代竜ハイ・エンシェント・ドラゴニア……」


 聞いたことがある。

 では、サジハリの今の人型は仮の姿、本当は、巨大なドラゴンということか。そして、バルミントという小形のドラゴンもまた同じ種か……。


「そうでしたか……」


 様々な情報に頭が追いつかないが、今は一つずつ理解していくしかない。視線をミレイに戻す。


「皆の言葉は本当。わたしも助けてもらった。そこのソジュに、スラ吉たちと絆を得た。大切な仲間だった」


 ミレイの言葉だ。信じるが……絆に仲間か。


「「「「はい!」」」」


 スライムたちは嬉しそうだ。

 ソジュは何も語っていないが、脳の部分から魔力が噴出している。


 青蜜胃無(スライム)も随分と変わっているが、このソジュ……剥き出しの脳髄と、それを支える腕だけの異様な姿をした怪物が、大切な仲間とはな……。

 サジハリは、


「先程話をしたが、魔人帝国ハザーンの連中には、何度も侵攻されている。他にも亜神ゲロナスの連中に、地底神の連中と、闇神リヴォグラフの眷族や怪物兵など、人族の冒険者たちなど多種多様に、この迷宮は狙われているのだ」

「……はい、納得です。ミレイは血骨重魂騎士として、様々に助けてあって、生きていたんだな」


 ミレイは頷いた。


「うん」

「光と闇属性の、黒髪の槍使いも、ここで皆を助けていたと……」

「そう、槍使いと黒猫……黒豹にも変身していた。その槍使いと黒豹はかなり強い。強者中の強者。魔人帝国ハザーンの連中を一人残らず、サジハリさんと同じように倒しまくって、アケミを助けて、私も助けてくれた」


 納得だ。あの十二樹海の地で……独立した土地を守っている勢力のトップなだけはある。

 ミレイは、


「槍使いとは会話もしている。ハルゼルマ家の生き残りで、ここに迷宮核となった経緯を伝えたわ」

「そういうことか、偶然と言ったらそれまでだが、運命の巡り合わせということだな」

「ハッ、運命か、偶然も、すべては必然だ」


 サジハリの言葉は深い……。

 たしかにそうなのかもだ。

 サジハリは、


「……私も相当長く生きているが、あのような槍使いの存在を見るのは生まれて初めてだったからな。そして、このバルミントの世話もその槍使いに頼まれている。その関連で、アケミの迷宮核をバルミントに食わせていたのさ、成長力が桁違いだからねぇ……」

「ガォォ~」


 バルミントは四枚翼を拡げては、俺にそれを見せてくる。

 くっ、なんか可愛いぞ……。

 そして、猫のような動きをしているのは、あぁ、そういうことか、俺を誘導してきた、黒猫! あの時は黒豹だったが……その黒豹と、このバルミントは……あぁぁ、だから光と闇の魔力繋がりなのか。


 あ、では、俺の中の<血魔力>を感じて、槍使いシュウヤとサルジンたちに再会させようと動いてくれたのか。

 だから案内に、俺に食事まで……。


「……理解した。しかし、魔人帝国ハザーンの連中とは? 黒き環(ザララープ)から来る獄界ゴドローンの勢力、地底神たちの魑魅魍魎軍団を魔神帝国と呼んでいましたが、この地方では別の名で呼んでいるのですか?」

「違うさ、魔人帝国ハザーンと魔神帝国の地底神連中は、異なる勢力だ。亜神や呪神に旧神もいるように様々な勢力の一つ。そいつらは、アケミの迷宮核を執拗に狙っている。ゲートを使い、軍隊規模で遠くから移動してくる。アケミには、かなり危険な連中だ。私には、ただの雑魚でしかない。否、軍団長は、ちょいと、私も倒すのには時間が掛かる時がある」


 ミレイたちは頷いている。

 そいつらの侵略を防いだのが、槍使いか……。

 ミレイも助けられていたのなら、礼がしたい。

 が、俺が不用意に槍使いにサルジンとスゥンに近づけば……ケンダーヴァルの矛先が槍使いたちに向かうことになる。

 サジハリは、


「……ウタジとやら、ミレイを連れていくつもりなのかい?」


 その問いに答える前に、ミレイが、


「私はウタジと付いていく」


 その言葉を聞いて嬉しかった。


「俺もミレイが傍にいてほしい」

「ウタジ……」


 ミレイは俺の手を強く握りしめてくる。


「ハルゼルマ家を滅ぼしたパイロン家への復讐を行うのか」


 サジハリの言葉に、頷いて、


「ケンダーヴァルが大本ですが、はい、そのパイロン家にも復讐はしたい」


 だが――ミレイの温もりを感じている今、復讐への炎がわずかに揺らいでいるのを感じた。

 憎しみに燃える日々と、愛する人との平穏な生活。どちらが本当に求めているものなのか。


「……私たちのすべてを奪った存在たち……アケミとサジハリさん悪いけど、ウタジと一緒に行動する……私は、ハルゼルマ家の<筆頭従者>だからね」

 

 ミレイ……。

 サジハリは、アケミを見て、


「いいのかい? 重要な戦力だろうに」

「あ、氣にせず、実は、先程の影響で……」

「あぁ、ミレイを元に戻した不思議な吸血神ルグナドとの内臓のアイテム、それが迷宮核に何か作用でもしたのかい?」

「はい、実は迷宮核が進化をし、新たに数体の血肉石塊ゴーレムを創れるようになりました――」

「なんと、まぁ!」


 サジハリも驚くが、俺たちもだ。

 ミレイも俺と目を合わせ、笑みを見せつつも驚いている。

 アケミは、薄い鋼板の魔道具に指を当て操作した途端に、足下の岩が凹み膨らむ。

 左右の壁も膨らんで、そこから<血魔力>を放つ大柄のゴーレムが誕生した。

 血肉は吸血神ルグナド様の関連している吸血鬼(ヴァンパイア)の血肉だ……。


 これは吸血神ルグナド様が見たら怒るのでは……ミレイも絶句状態で驚いている。

 サジハリはあまり驚いていない、笑っていた。

 

 アケミは、


「血肉石塊ゴーレム。ミレイさんの血骨重魂騎士とは、単体戦闘能力、及び、思考能力では、能力的に劣ります。しかし、迷宮に組み込めるので、それ以上の強さを得たことになります」


 血肉石塊ゴーレムは左右に動いた。

 胸元の装甲には特殊な機構が施されていると分かる。

 二つの腕と二つの足。両腕と両足に、すべてが、かなり分厚い。

 <血魔力>を再度確認した。


 ミレイは、

 

「……それは……ウタジの〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟がここにも影響を……」


 アケミは頷いて、


「はい、ウタジさんも、ありがとうございます」

「あぁ……礼を言われるとは……」

「いえ、ミレイ、血骨重魂騎士との感覚共有が途切れて、とても、寂しさを覚えたけど……そんなことは、もう、どうでも良いです。それほどまでに、ミレイさんとウタジさんの愛を感じました」

「「……」」


 ミレイはすこし笑っているが……。

 アケミは瞳を潤まして、


「もう、うるうるですよ! とっても! 感動しましたし、偉大すぎるカップルすぎます……数千年も愛し合い離れても結ばれる……運命の恋人ですよ……見ているだけで、胸が、ときめいて……私も、すっごく、恋人がほしくなりました! あと、とってもとっても、二人のことを応援したくなりました」

 

 アケミは早口で色々と恋バナを語る。

 皆は、このアケミの口調になれているようで、笑っていた。


 ミレイも快活に笑っている。

 その笑顔は、俺の知る昔のままだ。

 同時に、血骨重魂騎士で過ごした期間の、たしかな絆が、あるんだな。


 笑い声が落ち着いた後、ミレイがふと、真剣な眼差しで俺を見つめた。


「運命、納得できるわ」

「あぁ」


 二人で笑い合い、地上に何回出ては、遊んでは色々と経験をした。

 決死隊の仲間たちと励まし合い、激しい戦いを生き抜き、そして愛し合った日々…。走馬灯のように、温かくも切ない記憶が胸を駆け巡った。


「……ウタジのお母様、ソーニャ様も、きっと喜んでくださっているわね。私たちがこうして再会できたこと」


 その言葉が、引き金になった。

 母の名を聞いた瞬間、この再会という奇跡の裏にあった深遠な研究と思惑が、脳裏に鮮やかに蘇る。

 

 だから、母の研究が実ったのか。〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟。力を求めた結果、その力が人を救うこともある。母上、あなたは父と未来のすべてを見据えて俺に……。

 その血妙魔の一部を託していたのですね……。

 

 吸血神ルグナド様と神界セウロスの生命の神アロトシュが関係しているとは、にわかに信じられないですが……ハルゼルマ家が襲われ、俺への追跡……この、ミレイの復活……そのすべてが符号する。


 また、俺の中の血妙魔が、このように活かせるようになるまでには、膨大な日数が必要だったと理解出来ました……。

 当時の俺もそれなりに歳を重ねていましたが、まだまだ若造のままで、勘違いをしていた。


 そして、――あれはどのくらい前だったか。

 教皇庁の地下牢から救い出されたミレイが、母上の前で跪いていた光景。


『この娘を、私の筆頭従者として迎え入れたい』


 当時、俺は母ソーニャの決断に複雑な思いを抱いていた。

 しかしミレイの強さ、剣術の腕前は確かだった。

 幾星霜と共に戦友、恋人、愛する人として過ごしてきた。

 ……温かい血魂と愛の交流を行える、俺にとって唯一無二の大切な女性がミレイ……。


 過去の事象と今が重なる。

 涙が流れた。


「……そうだな、母の研究、父の言葉、それが今に繋がっている」


 涙を拭った。


「あ、ウタジ、ごめん……」

「いや、いいんだ。話を続けてくれ」

「うん、私も過去にソーニャ様に救われている、ボロボロな体と聖痕を、研究中の魔法技術とアイテムを使い利用し、私を<筆頭従者>に迎えてくれた」

「……あぁ、母様は……吸血神ルグナド様の<筆頭従者長(選ばれし眷属)>、ハルゼルマ家の女帝だ」

「うん」


 少し間が空いた……サジハリは、


「アケミ、強化されたのなら、見せてほしいが」

「あ、はい!」

「と、まずは、<地殻圧縮砲(チカクアッシュクホウ)>。胸部の空洞に迷宮の圧縮された地層と、〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟の圧力制御機能を組み合わせ、高密度の結晶片や溶解した岩石を射出する。射程は短いですが、着弾地点では血脈の触手が急速に成長し、周囲を捕縛する二次効果を持ちます」


 そのアケミの言葉に応じ、ゴーレムの胸部装甲が軋むような音を立てて開く。内部で凝縮された魔力が禍々しい光を発した。


「「ジッジジッ――」」


 轟音と共に、圧縮された岩石が射出される。

 それが壁に激突し、爆散すると同時に、着弾点から無数の血の触手が蛇のように伸び、周囲の岩肌を侵食していく。

 

「「「おぉ」」」

「これは驚きだ、迷宮核とはこのような変化が起きるんだな」

「はい、他にもあります」

「ほぉ、アケミ、その血肉石塊ゴーレムだが、スキルには、迷宮にも連動している物もあるんだろう? あるなら見せろ」


 サジハリさんが、そう指示を出す。語り口調は踊っているような印象で、随分と楽しそうだ。アケミも顔をほころばせ、


「はい、血肉石塊ゴーレムと関連したスキルで、最大の特徴は地形操作能力。迷宮も強化されたので、今から見せます」

「何? アケミ様の迷宮が強化……ミレイたちのおかげで進化とは驚きです」

 剥き出しの脳髄と、それを支える腕だけの異様な姿をした怪物のソジュの言葉だ。

 そして、小さいスライムがぴょんぴょん跳ねて、


「わ~、すごいすごい、アケミ様、楽しみです!」


 と叫ぶ。


「ミレイを失ったけど、代わりにゴーレムを得て、迷宮までも強化とは驚きですね」

「これは驚きですよ」


 スライムの騎士とスライムの剣士とスライムも発言した。

 アケミは、


「はい、血肉石塊ゴーレムと迷宮が連動した新しい力は、<血脈地形変成術ケツミャクチケイヘンセイジュツ>です。地形操作能力。迷宮の構造と血妙魔の力を組み合わせた戦術的変成技術、主要戦術技は、<血脈地層牢獄>。周囲の地形を急速に変形させ、敵を囲む円形の檻を形成する。檻の内壁には無数の微細な血脈管が張り巡らされ、囚われた者の微量の血を吸収しながら、徐々に体力を奪う。さらに、吸収した血は迷宮の地形データとして処理され、囚われた者の行動パターンを学習し、檻の構造を最適化していく」


 血肉石塊ゴーレムは、迷宮と融合し、その部分が円形の檻に変化し、周囲には大量の血管が宙空を靡いていた。

 血肉石塊ゴーレムはすぐに元通り、


「ほぉ」

「更にあります。これは主に迷宮の罠の進化。<結晶血反射障壁>と<結晶血反射障壁の盾>――」


 途端にアケミが指で天井を差す。

 その指先が輝いていた。爪も少し伸びて、あれは独自の魔法か?

 その天井から、結晶、鏡のような破片が大量に降ると、それが<血魔力>で壁に引き寄せられ、鏡面のような物に変化した。アケミは、


「……迷宮の天井から大量の結晶質を降らせ、それを血妙魔の血で結合させた反射障壁を形成する。物理攻撃を無効化するだけでなく、魔法攻撃を吸収し、増幅して反射する能力を持つ。障壁は使用するごとに学習し、以前受けた攻撃に対する耐性を獲得していきます。そして、二体の血肉石塊ゴーレムだけに、<結晶血反射障壁の盾>の盾として、鏡のような盾を持たせることが可能となりました」

「「おぉ」」

「物理攻撃と魔法吸収、または増幅して反射かい、それはなかなかいやらしい攻撃だねぇ」

 

 サジハリの言葉に皆が頷くが、嬉しそうだ。

 迷宮が強化されたらそれだけ、サジハリたちにも恩恵があるということだな。しかし、<血魔力>か……ミレイを助けるために自然と発動した俺の〝血妙魔・十二指血始祖剛臓エピズマ・オリジナルズ〟が、迷宮に効果を発揮するとは驚きだ。

 アケミは、


「<血肉地殻融合>もあります。一時的に自身の体を迷宮の壁や床と完全に同化させ、物理的な攻撃を無効化する。この状態では移動速度が著しく低下しますが、迷宮全体を感知器官として使用でき、あらゆる振動や血の氣配を察知できる。また、融合している間は迷宮核からの魔力供給を直接受け、急速に自己回復が可能となります」

「「「おぉ」」」

「よかった、私が抜けてもここは大丈夫そう」


 ミレイの言葉にアケミは笑みを見せ、頷くが、淋しそうに、


「ミレイ……やはりウタジさんと?」

 と聞くとミレイは頷いて、

「そのつもり……ウタジと……」

 俺を見てきた。

「あぁ、俺たちにはやることがある」

「うん……ケンダーヴァルに復讐したい」


 そう言うミレイの瞳に一瞬の迷いが宿ったのを見逃さなかった。

 復讐への意志と平穏への憧れが交錯している――俺と同じように。


「ハルゼルマ家はあいつに潰された」

「でも、ウタジ、私たちはもう永く放浪し、こうしてウタジと再会できた。スゥンとサルジンにも別の目的ができているようだし……なにもかも忘れて……私は、ウタジさえ居てくれたら……もう……」


 ミレイは涙目で語り、俺の胸に頬を寄せてくれた。

 その時、彼女の手が俺の服をぎゅっと握りしめているのが分かった。

 まるで、俺が消えてしまうのを恐れているかのように。


「……あぁ、ミレイ、それは俺もだ。憎しみを忘れ、お前とどこか遠くに行くのもいいかもな……」

「うん……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ