特典22「せめて、安らかに眠れ」
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リンリンを抱えて帰宅。
ずっと俺の胸に顔を埋めて泣き続けているものだから、ことの詳細をなかなか聞けずにいる。
サクヤが起きてこないか心配だ。
何があったかは分からないが、できれば巻き込みたくないからな。
しばらく抱えていると涙は止まったのか、スンスン言いながらも顔をこちらに向けてくれた。
「あの日・・・シャペル公爵が・・・家に来て。
強引に・・・息子とボクの・・・結婚を、決めて。
お父様が・・・反対、したんだけど。
侯爵が・・・公爵に、逆らうなって。
見たことのない魔法で・・・お父様の意識が・・・戻らなくて・・・グスッ。
ボク・・・もう、どうしたらいいか・・・。
あと・・・タクミが来たら・・・伝えろって。
『君が断るからこうなったのだぞ』・・・って。」
その言葉に驚く。
確かに、サクヤの結婚を断った際に問われた。
「それで君の友人が不幸になるとしても、かい?」
・・・あれはこういうことかよ。
自分の手を思い切り手を握りしめてしまった。
ギリ、と音が鳴るほど。
「リンリン、巻き込んでしまって本当にごめんな。」
首を振るも身体が震えていた。
こんなにも小さく、細い身体が。
「お父様が・・・居なかったら・・・誰も逆らえない。
けど・・・ボク・・・あんなのと、結婚したく・・・ないよぉ・・・。」
再び涙を流す。
悔しさと、悲しさに苛まれているのだろう。
そんな彼女の頭を優しく撫でた。
「タクミ・・・たすけてッ・・・!!」
震える声と身体で、今一度。
助けてほしいと願う声。
それも、大切な仲間からの。
その震える小さな身体を、涙を流す頭を。
そっと抱きしめた。
実家が燃えていても何も思わなかったんだけどな。
仲間の涙を見て、悔しそうな声を聞いて。
今まで生きてきた中で、1番キレている気がする。
「まかせろ。」
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俺の声を聞いたリンリンは安心したのか、泣き疲れたのか。
ソファーで目をつむり、そのまま寝てしまった。
さすがにこのままにはしておけないので、お屋敷に帰しておこう。
さて、任せろと言ったものの。
どこから手を付けるか。
まずはリンクス侯爵様を目覚めさせるところからだろうな。
『鑑定』で状態を見れば解除方法も分かるかもしれない。
とはいえこんな夜中に押しかけても失礼だ。
早く行動したいものの、門前払いをくらった後だしな。
少し対策を考える時間もほしいし、明日の朝一番で動くとしよう。
翌朝。
リンクス侯爵家へと出向き、またも門前払いをくらいそうになる。
しかし「俺が治す」と言った瞬間に悟ったのか、中へと招待された。
見たところ目立った外傷はないようだ。
衰弱しているわけでも、眠らされているわけでもない。
ひとまず『鑑定』をしてみたところ。
呪いが4つもかけられていることが分かった。
精神喰奪、幻想追い、暗影睡眠、魂喰呪詛。
しかしなんだこの呪いは。
見たこともなければ聞いたこともない。
解除方法が全く分からないが、試してみるか。
さすがに見られるわけにもいかないので、リンリンだけを残して部屋の外に出てもらった。
「『解呪の光』!」
白く大きな魔法陣から、眩しさに目がくらむほどの光が放たれる。
その光はリンクス侯爵様を包み込み徐々に消えてゆく。
その後もう1度『鑑定』したところ、幻想追いと暗影睡眠は消すことができたようだ。
しかし危険そうな2つは消すことができなかった。
そこでその魔法を知ろうと2つとも『スキル創造』。
ステータス画面の数あるスキルの中から探すのに手間取った。
どうやらどちらも使用者に解呪させるか、使用者を倒すかしないといけないらしい。
なかなか厄介なバッドステータスだ。
2つの性能を考えると、残された時間はあまり多くはないかもしれない。
ひとまず『自動継続治癒』をかけ、屋敷を後にした。
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サクヤを巻き込みたくないので、学校に行くフリだけでもしておかないとな。
一度家に帰り、制服に着替えていつも通りを振る舞う。
「お兄ちゃん、何か隠してるでしょ。」
ダメだ、俺はサクヤに隠し事は一生できる気がしない。
事情をぼかしながら説明すると、さすがのサクヤもかなりおかんむりのようだった。
だが危険なことに巻き込みたくないと全力で頼み込んだ結果、俺が危険な状態にならない限りは手を出さないと約束してもらえた。
これでこの問題は大丈夫だろう。
再びここに来るとは思ってなかった。
シャペル公爵家。
だがこの前来た時よりも嫌な感じが、屋敷に入る前からする。
屋敷の中に、なにかが居る。
「正直、クエストと冒険以外での戦闘経験ってあんまりないんだよな・・・。」
嫌な予感に思わずこぼれた言葉。
いつ戦闘になっても良いように心の準備だけはしておこう。
扉をくぐり、足を進める。
ここまで誰とも遭遇していない。
完全に不法侵入なのだが、なんとなく俺を待ってる気がする。
早く来いと言わんばかりに。
そしてこの前と同じ部屋の扉を開けると、シャペル公爵に以前と変わらぬ調子で声をかけられた。
「ようやく来たか、イスタル男爵。」
「リンクス家から事情を聞きました。
色々とやりすぎでは?」
「おや?友人がどうなろうとも構わないと言ったのは君自身じゃないか。」
大げさに両手を広げ、嫌な笑みを浮かべるシャペル。
そっちがお前の本当の顔だな。
「詭弁にもほどがある。
ひとまずリンクス侯爵様の解呪、それと婚約の件を取り下げてください。」
「君は誰に向かって指図しているのかね?
男爵風情が公爵に向かって意見だと。冗談も休み休み言いたまえ。」
「なら、実力で黙らせるまでだ。」
「これだから野蛮な猿は困る。
まあ良い、ちょうど実験をしたかったんだ。
猿の相手にはちょうどいいだろう。」
言いながら部屋の奥へと入ってゆく。
逃がすまいと追いかけた瞬間、視界の端から黒い何かが飛んできた。
思わずガードするも威力は大きく、壁に打ち付けられてしまった。
俺の身体を覆っているバリアもおかまいなしか。
生物の思考回路じゃねえな。
そう思い、飛来してきた何かを確認して言葉を失った。
「『魔法生物学』の第一人者だ。
噂では隠れてキメラを作っているのでは、なんて言われてもいる人だ。」
そんなグレイの言葉がよぎった。
そこに居たそれは、間違いなく俺の授業を邪魔してきた伯爵家の坊っちゃん。
だったもの。
「人間と・・・魔物を・・・合成したのか・・・!?」
「うー・・・・・・あー・・・・・・」
声にならないうめき声をあげ。
俺を殴ったであろう潰れた右手をボコボコと再生させながら、俺へと向かってくるキメラ。
たしかに、こんなの人間が逆らえるわけねえな。
攻撃力はバリアを纏う俺を吹き飛ばすレベル。
そして自動再生を持っており、身体はゆうに2メートル以上に変化している。
しかし本人の顔は肩のあたりについており、異形の姿という言葉がぴったりだ。
どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ。
人間の命をなんだと思ってやがるんだ・・・!
「シャペルーーーーーーー!!!!!
てめぇだけは絶対にぶっ飛ばす!!!!」
「ハッ、吠えるなよ青二才が。やれ。」
「うああああああああああああああああああ」
シャペルはそのまま背を向けて屋敷の奥へと入って行った。
大きな声をあげながら俺とシャペルの間に立つキメラは、こちらに高速で向かってきた。
殴られてもダメージはないんだが、距離を取らされるのは厄介だ。
あと正直な話し、命の取り合いなんて今までしたことがない。
魔物は倒したら消えてなくなるが、人間相手ではそうもいかない。
いや、正直目の前のこれを人間と形容していいかは分からないが。
とはいえ元は人間だ。
そんな相手にまともに俺の魔法をくらわせたら、跡形もなく消滅するだろう。
人を殺める覚悟なんて、持ち合わせていないっつーの。
大ぶりのパンチを避けて距離を詰め、試しに殴ってみた。
と言っても体術7のスキルのおかげで威力はとんでもないが。
パアンと音を立てて殴った箇所が破裂。
そしてすぐに自己再生。
これは自己再生のために身体のどこかにある核をつぶさないとダメだろうな。
正直、他人が作り上げたキメラの核の位置なんて分からない。
全部一発で潰すのが手っ取り早い。
そうすれば一発で跡形もなく消える。
ああもう、やらなきゃどのみちキリがねえか。
またも大ぶりのパンチを躱した瞬間。
「た・・・・・・・す・・・・・け・・・・・・・・・・・・て」
キメラの口から音が発せられた。
正直言葉にはなっていなかったと思う。
それでも口の動きは間違いなかった。
助けて。
この数時間で何度言われるんだ、この言葉。
正直汚水をぶっかけられたり、授業を邪魔してくれたりでそんな義理はねえ。
・・・けど、苦しんでる同じ学院の生徒もほっとけねえ。
一度は俺の生徒になったしな。
「分かった・・・。今、助ける。」
地面と並行だと街に被害がでかねねえ。
ならば身体全てを狙えて、かつこの屋敷ごとぶっ壊すなら真上からだ。
『飛翔』してキメラの真上に移動。
「せめて、安らかに眠れ。
第十階梯ー神話級魔法『母なる自然の裁き』。」
魔法陣から放たれる無数の木々が部屋の全てを覆う。
キメラを真上から押しつぶし、そのまま床に穴を開けたところでなにかにぶつかる。
そういえば嫌な気配を大層な結界で保護してたな。
お前の目論見、全部ぶっ壊してやる。
「砕け散れ!!!!」
バリィィィィィィィンーーー
大きな破壊音ののち、徐々に地面が揺れ始めた。
それは次第に大きくなっていく。
「フハハハ!!!
自ら冥府の扉を開けるとは、馬鹿な奴め。」
どこからかシャペルの声が聞こえた。
あたりを見回してもどこにも居ない。
それよりも先程まで結界で護られていた嫌な感覚。
それが今となっては全開で浴びせられている。
「おい・・・どういうことだ、これは・・・!」
「王都がどうなろうと、全てはお前のせいということだ。」
俺が破壊したのはシャペル公爵家の下にあった結界だ。
それを壊せば、この屋敷から全てが出てくるものだと思っていた。
だが、この嫌な感覚。
キメラの大量発生は、王都全土からだ。




