特典21「たすけて」
「父上、やはりあの者は貴族としてふさわしくありません!!
男爵でありながら平民の手をとり、同格の仲間として振る舞うなど!
あまつさえ、この僕をこけにしやがって・・・!」
「ふむ・・・分かった。こちらでも公爵様に話してみるとしよう。」
「ありがとうございます!」
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あの伯爵家お坊ちゃんの騒動以降、授業で邪魔をする者も久しく来なくなった。
おかげで人数は多いものの、順調に皆の成長を見ることができている。
最初に声をかけてくれた熱血先輩も、今となっては片手での魔法陣生成を終えて両手の段階に入っている。
まあなかなかに苦労していそうだが。
先日、週に1度しか参加していないグレイがついに両手での魔法陣を完成させた。
俺の授業での完成第一号だ。
さすが優れたステータスを持っているだけのことはある。
身体に馴染ませる段階に来てはいるが、そろそろ3つ目に行ってみても良いかもしれない。
それを見た生徒たちは共に喜んだものの、自分たちもやるんだとなおさら気合いが入ったようだ。
おかげでつまづいている箇所を互いに教え合ったりと、良い兆候が見えてきた。
「タクミ・・・できた。」
そう言いながらこちらも週1プレイヤーのリンリンが、両手に魔法陣を輝かせながらこちらに歩いてきた。
確かに完成している。
左右ともに『速度上昇』なのが気になるが、まあ理論上できていることには変わりはない。
「おおおー!!凄いじゃないかリンリン!」
「やめ・・・恥ずかしい・・・!」
思わず持ち上げて振り回してしまった。
それを不思議そうに見た生徒たちからこんな声があがった。
「お2人は、その・・・やっぱりお付き合いされているのですか?」
やっぱり・・・?
思わずリンリンに目を向けるも顔を赤くして首を振っていた。
「あら、そうなのですね。
入学して間もない頃、タクミくんがリンクさんに向けて『壁ドン』して『顎クイ』していたのを見てしまったもので、てっきりそういう仲なのかなあと・・・。」
待て、いつの話しだ。
『思考速度上昇』、『二重思考』。
カシャッ、カシャッ、カシャッ、チーン。
思い出を遡ること0.2秒。
リンリンに孫弟子の称号がついた日に確かに勢いでそんなことをしてしまった気がする。
というか見られていたとは驚きだ。
人目につかないところを選んだつもりだったのだが。
「あー・・・あれは俺の秘密を知ってしまったリンリンに他言無用だと言っていたんだ。」
「そうなのですね。リンクさんも嫌がっていなそうでしたので、つい勘違いしてしまいました。
気分を害してしまっていたらごめんなさい!」
「いいいいいい嫌なわけないじゃないですか!!
入学試験のときに咄嗟に学院を守った行動に惹かれてからずっと追って・・・憧れて!!
そう、憧れです!!
憧れている相手にあんなことをされてボクの中で何かが弾けーーー」
「ちょっ!?リンリン、ストップ!!」
久しぶりに現れた残念系妄想乙女を後ろから抑え、なんとか停止。
頭から煙を出しながら顔を真っ赤にしているリンリンはしばらく大人しかった。
「ふう・・・まあとりあえず両手での魔法陣完成は2人目だな。
この調子でやっていけば、ここに居る全員ができるようになるはずだ。
焦らずじっくりやっていこう。
それじゃあ、今日はここまで!」
チャイムと同時に終了を宣言し、徐々に部屋から生徒が出ていくのを見送る。
その間俺の腕の中で大人しくしていたリンリンも、ようやく動き出した。
「ごめん・・・タクミ・・・もう、大丈夫。」
「ん、急に止めて悪かったな。」
「ううん・・・ありがとう。
止めてくれなかったら・・・たぶん爆発してた。」
「まああの状態のリンリンは見慣れないとびっくりするよな。」
「そういうことじゃ・・・なくて。
その・・・溢れる、想いが。
・・・ッ!!また・・・あとで。」
言い残して走り去っていった。
・・・俺も片付けて少し休むとするか。
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昼休み、いつも通り中庭で4人で食べていると。
「ハッ、マイシスターの気配!!」
「ついにシスコンこじらせて幻覚でも見えるようになったか?」
「お兄ちゃーん!!」
「あら、ホントにサクヤさんが飛んできましたよ。」
「マジか・・・気持ち悪いな。」
「絆と絆でつながってるから分かるんですー!
あとキモいではなく気持ち悪いとストレートに言われるほうは結構傷つくのでおすすめしませんー!」
グレイに言い返していると、目の前でサクヤが着地。
皆に丁寧にお辞儀をしたのち、こちらに向き直った。
「お兄ちゃん、大変!
なんかシャペル公爵?って人から手紙が来て、公爵家に来るようにって!」
「シャペル公爵ですか・・・。あまりいい噂は聞きませんね。
気を付けてください、タクミ。」
「どんな人物なんだ?」
「『魔法生物学』の第一人者だ。
危険と判断されて否決されたが、『合成魔獣について』の論文を提出したりな。
噂では隠れてキメラを作っているのでは、なんて言われてもいる人だ。」
「性格は・・・冷酷無比で・・・貴族の身分が絶対だと、思ってる。」
そういえば仲良くしすぎて忘れていたが、この3人は王都でも10本の指に入るほどの名家なんだった。
それは情報もポンポン出てくるわけだ。
同格の相手のものならなおさらな。
「とりあえず今日の放課後に行ってみるよ。
わざわざありがとうな、サクヤ。」
頭を撫でてお礼を言うと満足そうな顔をし、再び飛んで帰っていった。
「しかし、『飛翔魔法』とは・・・。
兄が兄なら妹も妹だな。」
「ふふっ、ですね。」
「もう・・・何も驚かない。」
「可愛いだろ?」
俺の言葉にため息をつきながら弁当を再び食べ始めるグレイ。
そして何度も大きく頷くリズと、小さく頷くリンリン。
心配してくれてるのはありがたいが、まあ大丈夫だろう。
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放課後。
リンリンに案内され、呼び出しの通りにシャペル公爵家へとやってきた。
何があるか分からないので先に帰るように促し、自分は中へ。
たしかに皆の心配の通り、嫌な感じがする。
高度な結界魔法を張って隠しているつもりだろうが、他の人は騙せても俺は騙せない。
とはいえ俺ですら中に入ってようやく気づくほどには隠蔽できているのだから褒めるべきだろう。
まあ今この場で破壊してもいいが、相手の意図が分からないうちはやめておくべきか。
「突然呼び出してすまない、イスタル男爵。」
「お初にお目にかかります。
タクミ・イスタルと申します。
以後、お見知りおきを。」
「フリーマン・ペドリック・シャペルだ。
知ってはいると思うが爵位は公爵。
こちらこそよろしく頼むよ。」
座ったままに挨拶を返された。
思うところはあるがまあいいだろう。
金髪の髪と長い耳、そして鋭い目つき。
そして金のかかってそうな豪華な服だこと。
見た目的には30代半ばに見えるが、エルフか。
長寿というイメージもあるし、おそらく見た目以上の年齢なのだろう。
「早速本題だが、イスタル男爵は学院でも人気の講師と聞く。
平民だろうと別け隔てなく接するようだ。
それはなぜかね?」
探りを入れてきたか。
事前情報で貴族身分が絶対だと思っている人からすれば、俺のような存在は邪魔なのだろう。
「わたしは魔法の可能性を信じています。
今後もまだまだ発展してゆくことでしょう。
しかしながらその発展には大勢の人員、知識、力が必要です。
学院に入るほどの生徒であれば、身分に関係なく教養を受けることができれば、発展の力になってくれると思うからです。」
「なるほど。
「たられば」や「思う」で語るのはやめておいたほうが良い。
貴族としての品が落ちる。」
「・・・肝に銘じておきます。」
「それともう一点。入りなさい。」
促す声に従い、扉から入ってくる1人のエルフ。
身体は肥え、額に脂汗を浮かべるその姿は、ファンタジー世界で見てきた容姿端麗なエルフとは程遠い。
「私のせがれだ。
彼を君の妹さんの結婚相手としていかがかね。」
何を言っているのだこいつは。
立場が逆なら不敬罪に処すところだぞ。
「申し訳ございませんが、妹はまだ嫁に出すつもりはありません。
それが公爵様のお言葉であってもです。
妹に不幸が訪れるようなら、俺は相手が国であろうとも敵に回りますよ。」
「そうか。それでたとえ君の友人が不幸になるとしても、かね?」
「はい。」
「ふっ、そうか。肝に銘じておくとしよう。
話は以上だ。急に呼び出してすまなかったな。」
「失礼します。」
お辞儀をし、屋敷を出た。
何を考えているのか全く分からねえ人だ。
そしてかなりの危険人物だと脳が言ってる。
もしサクヤに手を出そうものなら、全力で潰しに行くからな。
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翌日。
朝の朝礼にリンリンが来ず、心配になって帰りにリンクス侯爵家に寄ってみた。
しかし、詳しいことは話せないと門前払いをくらってしまった。
あまりに不思議に思った俺は、申し訳ないと思いつつも深夜のリンクス侯爵家に空から侵入。
リンリンの気配のする部屋の窓をノックすると。
目の周りを真っ赤に腫らしたリンリンが顔を出した。
俺の顔を見るなり涙を流しながらも、窓を開けー
「タクミ・・・ッ・・・たす・・・けて・・・ッ!」
助けてと。
震える声で泣き叫びながら、飛んでいる俺に手を伸ばす。
俺は思わずその手を取り、リンリンを抱えて我が家へと連れ帰った。
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