特典15「最っ高に楽しかった!」
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王都マルクルス魔法学会。
国の中でも選りすぐりの魔法使いたちが、自己の研究成果を公開・発表しあいその魔法的妥当性を検討・論議する場である。
無限大の可能性を信念とし、あらゆる観点から考察されることによって今までいくつもの新たな可能性を見出してきた。
研究者同士の交流はもちろん、文化団体として魔法学者の利益を代表する役割も担っている。
王都魔法学院もまた、この魔法学会で開校が決められた建造物のうちの1つだ。
授業として『魔法考察』を取り入れ、入試試験に『魔法考察論文』を提出させているのは、後にこの国そして学会を背負ってゆく次代を育成するためでもある。
数年に1人、必ずと言っていいように学者たちのお目に叶う論文を提出する生徒が居る。
その生徒には在学中から少なからず魔法学会からの目があり、どんな人物なのかを見極めているのも事実だ。
魔法に対して真摯な人物なのか。
魔法の無限の可能性を信じるか否か。
この魔法が存在している国の行く末を任せるに足る人物なのか。
評価するレベルが高すぎる気がしなくもないが、魔法に対する考え方が人と違うというのはそれだけ多くの可能性に気づけるということだ。
魔法学会では日々そんな人物を求め育成し、そんな人物同士が切磋琢磨することで今のレベルを保ってきた。
創立者魔法神レビス曰く
「魔法に真摯であれ。
魔法を知り、常に想像し挑戦せよ。
そこに無限の可能性がある。
常に新しい扉を開き続ける者こそ、真理の探求者なのだ。」
という説明を建物に入って間もなく、オーグレイ公爵様から受けていた。
今年の入学生の中で論文がお眼鏡にかなったのが俺だということなのだろう。
とまあそれはいい。
1つだけ確認したいことがある。
それは本当にレビス様の言葉なのか?
いやもちろん神様として存在している事実から見ても数々の偉業を成し遂げたことは想像できる。
そして先程の説明のような考えをもっていることも知っている。
実際『魔法考察』の授業ではその言葉を使わせてもらったくらいだしな。
だがあのゆるふわっと喋る今の姿からは、そんな偉そうに物を言う想像ができない。
「たくさん魔法を知って新しいことを想像して、挑戦しなさいねえ。
そこに無限の可能性があるのよお。
常に新しい扉を開き続ける者こそ真理の探求者と呼ばれるのお。
だから魔法に真摯でありなさいねえ。」
のほうがよっぽどしっくりくる。
まあ設立からかなりの時間が経っているし、途中で貴族の手が入ったのだと思っておこう。
というか、それ以外認めん。
美しく可愛く優しいゆるふわ系のレビス様以外は認めん。
「ありがとうございます、オーグレイ公爵様。
して、参加すると答えてしまったものの、本日はどうようにしていればよろしいのでしょうか。」
「今日というよりは、慣れるまでは僕の隣で見学をしていて構わないよ。
その中で思うことがあれば発言してもらえればいいかな。
会のあいだは僕がフォローするから安心してくれていい。
リングリー先生も居ることだし、難しく考えなくて大丈夫だよ。
まずは肌で感じてもらうところからスタートしよう。」
そう言いながら立ち上がり、俺の胸に金色に輝くバッジをつけてくれた。
学会議員用のバッジなのだそうだ。
これがないと、身分に関係なく会場への立ち入りができないらしい。
逆に言えばこれさえあれば身分は関係ないということだ。
貴族だろうと平民だろうと、魔法を究めるためには身分は関係ないと言いたいのだろう。
それもレビス様が言いそうだ。
応接室から出て長い廊下を歩き、会場へと続く扉をくぐった瞬間。
度肝を抜かれた。
建物の大きさから想像は出来ていたものの、なんてでかい会場なんだ。
『魔法考察』の授業教室の造りとほぼ同じ造りだが、大きさは10倍以上はある。
貴族が多いということもあり、参加者全員が独立した長めの机を使用するとしてもだ。
「僕達の席はこっちだ。」
オーグレイ公爵様の後に続き最前列へ。
やはりここを管轄しているだけあり、相応の席が用意されているんだな。
というか今更ながらこの人はどれほど凄い人なのだろう。
そしてその娘であるリズは実はとんでもないお嬢様なのではないだろうか。
明日学院で会うし、その辺りも少し聞いてみるとしよう。
着席したまま開始を待っていると、見知った顔に挨拶をされた。
「オーグレイ公爵様、イスタル男爵様。」
「イグリード先生!こんにちは。」
「これはリングリー殿。本日もよろしくお願い致します。」
「はい、こんにちは。こちらこそよろしく頼むぞい。」
そう言いにこやかに席へと戻っていった。
週末は参加していると言っていたしな。
見知った顔が居るというだけで安心できる。
しばらくして全ての席が埋まり、会が開始された。
どうやら今日はとある魔法使い団体の研究発表だそうだ。
多くの魔法使いが所属しており、その研究成果をお披露目する場ということらしい。
魔法学会ではこういうこともやっているんだな。
この歳でなかなかに有意義な場に招待されたものだ。
その会の代表だろうか、どこかのご令嬢らしき女性が話を始めた。
「今回私達が提唱させていただくのは、『混成魔法について』です。
普段の生活の中で1番身近なのはお風呂でしょう。
ではそのお湯はどのようにして生まれているのか。
魔導水路を通り浄化された水を吸い上げ、火属性魔法で瞬時に加熱して浴槽へと流れています。
これに関してはすでに完成されているもの。
これ以上改善の余地は少ないでしょう。
しかし魔法使い3人でそのお湯を作り出せるのです。
1人が水魔法、もう1人が火属性魔法。
そして残った1人がそれぞれの魔法を合わせるようにコントロールしてやれば・・・。
このように簡単にお湯を作ることができます。」
実践も交えつつわかりやすく説明している。
実際に魔法で造られた浴槽に入った混声魔法によるお湯からはほどよく湯気もあがっており、ちょうどいい温度なのだろう。
とはいえなあ・・・すでに1年以上前から俺1人でその程度はクリアしている。
この前の『魔法考察』の授業と同じで魔法陣を魔力で書いて両手で発動、そして自分で魔力コントロールすれば問題ない話しだ。
「ここからが今回の本題ーーー」
「もうそのあたりでよい。
未来あるワシの生徒に、それ以上醜態をさらす前にやめておけ。」
イグリード先生が話を遮った。
日本であればご法度だぞ。
その顔はいつものにこやかな表情からはほど遠い、冷たい表情だった。
かと思えばいつも通りのにこやかな顔でこちらを向いてきた。
「生徒?バカを言わないでください!
学院の生徒にこのレベルの理論が理解できるわけがない!」
「イスタル男爵、やってみるかい?」
会場がざわついた。
もちろん子どもがこの場にいることは皆さん分かっていただろう。
しかし今回は『魔法考察』の授業ではなく、大人たちが全力で意見を言い合う場だ。
否定的な意見も飛び交うだろう。
そこに子どもである俺が意見を許されるというのだ。
それは皆さんざわつきもする。
叙爵式で似たような感じだったのと同じだ。
それなのに変わらぬ笑顔での信頼を向けてくれているのだ。
実際同じことを目の前でやってしまったしな。
だが子どもの俺の判断で、勝手にやっていいものかどうか。
ふと、隣のオーグレイ公爵様に目線をやると目があった。
「リングリー殿の目からは信頼が見てとれるが、できそうかい。」
「・・・はい、できます。」
「よろしい、全ての責任は私が持つ。
思う存分にその才を揮ってきなさい。」
「はい!」
壇上へとあがり、先程まで発表していた団体に深々と頭を下げる。
「せっかくのお時間を頂戴してしまい、申し訳ございません。」
そして会場に向き直る。
入学式での視線が、まだ優しいものに感じる。
まるでなんだあの子どもはとでも言いたそうな重さだ。
だけどあの時の挨拶とは違う。
魔法においてだけは、どんな妥協もしないと決めたんだ。
俺は魔法の神であるレビス様の弟子なのだから。
あの人と同じ世界を見ると決めたのだ。
だからこんな視線、なんともないーー
「お初にお目にかかります、タクミ・イスタルと申します。
爵位は男爵。
最近では、魔法学院1年首席を賜りました。
わたしがその功を得たのはおそらく、入学試験での論文のおかげかと思います。
その内容は、『補助魔法の複数同時発動について』です。
これに関してはこの場にいらっしゃるイグリード先生の目の前で実演させていただいたので、割愛させていただきます。」
なんだろう、この感情。
人前に出るのは好きではない。
もとが陰キャだからな。
だけど自ら得た知識を先人や仲間たちに共有して、一緒に先の世界を目指していく場。
それがたまらなく、楽しいーーー
「さて、今回のテーマである『混成魔法について』ですが。
片手ごとに魔法を使用してしまえば、1人で完結できるものです。
当然操るのにコツは要りますが、わたしは12歳の時点でその操作を会得しております。
このように右手で火属性魔法、左手で水属性魔法。
その発動するための魔法陣を魔力で描きます。
そうすることで簡易的な『詠唱破棄』ができるのです。
あとは発動した魔法同士を操作・調節しながらぶつけてやることで同じ効果が得られます。」
右手の火属性魔法を、左手の水属性魔法で作り上げた球体に向けて放つと徐々に沸騰してゆく。
人肌くらいの温度に温まったところで、浴槽に入れてやれば完成だ。
「と、このように『混成魔法』はコツさえ必要ですが、誰でも1人でできることなのです。
今までの1度に1つしか魔法を発動できないという常識は捨てましょう。
そこまで考えられていたのであれば今回のテーマはとても良いものだったと思います。
ですが、常識にとらわれ視野が狭くなってしまっていたのも事実。
魔法とは常識にとらわれた瞬間に輝きを失います。
その輝きは言い換えれば、可能性です。
魔法には無限の可能性があります。
皆さん。
くだらない常識を壊しましょう。
ご清聴ありがとうございました。」
俺がお辞儀すると『魔法考察』のときよりも静かに。
それでもその時よりも大きな拍手に包まれた。
その後、会議が終了するまで質問攻めにあい開放された頃には夜になっていた。
これさえなければ楽しいのだが。
「今日は見事だったよ、イスタル男爵。
初日にして参加者の心を掴むとは、娘に聞いている以上に君は大物かもしれないな。」
「とんでもありません。
快く送り出していただいたおかげで勇気がでました。
ありがとうございます。」
「うむ。とまあ週に4回このような集まりが行われているわけだが。
学院や交友関係もあるだろうし、聞いている通り2回程度が限度だろう。
参加できなかった分は議事録で渡すので目を通して、気になることがあればわたしのところまで持ってきてくれ。」
「かしこまりました。
ご厚意ありがとうございます!」
「ハハッ、君は本当によくお礼を言うね。
人柄も分かるというものだ。
娘が惚れ込むのもわかる気がするよ。」
「ええええ、そんな、滅相もございません。」
「まあ友人として、だがな。
あの子は王太子殿下の許嫁だから、そういう気持ちは他の誰に対しても抱かないようにしているさ。
それじゃあまた、学会で。」
「えっ・・・?」
最後にものすごいこと言って去っていったぞ。
しかしさすがファンタジー世界だ。
まさかあの2人がそんな関係だったとは。
あーでもリズに友達が居なかったというのも、その辺りが関係していそうだな。
それはつまり将来の王妃様なわけで。
誘拐されたこともあったし、貴族同士でバチバチに因縁があり、その子どもにもその態度が受け継がれているのかもしれない。
そう考えれば色々と納得できるな。
正直、リズが俺達4人グループ以外の学生と話しているところは本当に見たことがない。
本人が言わない限り深くは詮索するつもりはないが・・・。
まあ、俺は変わらず友人として接してあげるのが1番いいか。
さて、今日も疲れたし愛する妹が待つ我が家に帰るとしよう。
あの子の笑顔を見るために日々頑張っていると言っても過言ではないからな。
「おかえり、お兄ちゃん!魔法学会は楽しかった?」
「最っ高に楽しかった!」
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