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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
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王都後編 4

 その頃——。

 王都を離れたレオは、護衛する商人たちとともに、港町ヤンカへ向かう街道を進んでいた。

 昼前になったところで、一行は街道脇に馬車を止め、休憩を取ることになった。


「今のところ順調だな」


 木陰に腰を下ろしながら、カーターが言う。


「ああ。このまま何もなければいいけどな」

「せっかく護衛依頼を受けたのに、何もなかったら拍子抜けじゃないか?」

「何言ってるんだ。護衛なんだから、何もない方がいいだろ」

「それもそうか」


 カーターが笑う。

 カーターはオルソン侯爵家に仕える護衛だが、実戦経験を積むため冒険者ギルドにも登録している。

 普段は侯爵家の仕事があるため依頼を受ける機会は少なく、ランクはまだEだ。


「でも、ヤンカまで行くのは初めてだな」

「俺もだ」

「王都から一番近い港町だし、一度行ってみたいと思ってたんだよな」

「そうなのか」

「ああ。せっかくだし、着いたら少しくらい見て回れるかな」

「依頼が優先だからな」

「分かってるって」


 そんな話をしながら、レオは昼食用に持ってきたムギボの包みを開き、一本取り出してかじる。


「それ、昼飯か?」


 声をかけられて顔を上げると、少し離れたところで休んでいたロイドがこちらに歩いてくるところだった。

 今回、ヤンカまで護衛する商人の一人だ。


「これか?」

「ああ。見たことないな」

「ムギボっていう携帯食だ」

「ムギボ?」


 ロイドは興味を持ったらしく、レオの手元を覗き込む。


「王都で売ってるのか?」

「商業ギルドで売ってる。仲間が作ってるんだ」

「へえ。お前の仲間が」


 ロイドの視線は、まだムギボに向いたままだ。

 レオは少し考えてから、包みに残っていた一本を取り出した。


「食べてみるか?」

「いいのか?」

「ああ」

「じゃあ、もらおう」


 ロイドは受け取ったムギボを眺めてから、一口かじった。


「……うまいな、これ」

「だろ?」


 自分が作ったわけでもないのに、レオは少し得意な気分になる。


「甘いけど、くどくない。それに食べやすいな」


 ロイドはもう一口食べる。


「さっき、商業ギルドで売ってるって言ったな?」

「ああ」

「覚えておこう」


 そう言って、ロイドは残ったムギボを食べながら自分の馬車へ戻っていった。


「ずいぶん気に入ってたな」


 カーターがその背中を見ながら言う。


「みたいだな」


 レオも何気なく答え、自分のムギボを口に運んだ。

 休憩を終え、一行は再びヤンカに向けて出発した。

 しばらくは何事もなく進んでいたが、街道が森に近づいたところで、レオは足を止めた。


「待ってくれ」


 カーターがすぐにレオを見る。


「どうした?」

「何かいる」


 レオは森の方に目を向けた。

 わずかに草木が揺れている。

 次の瞬間、茂みの間から灰色の毛並みをした魔物が姿を現した。


「シルバーウルフか」


 一匹、二匹。

 続いて奥からも現れ、全部で六匹になった。


「結構いるな」

「カーター、馬車の方に行かせるなよ」

「分かってる」


 二人は剣を抜き、馬車の前に出た。

 シルバーウルフたちは低く唸りながら、こちらの様子を窺っている。

 やがて一匹が駆け出した。

 それにつられるように、残りの群れも一斉に動く。


「まとめて来るな……!」


 レオは剣を構えながら、空いた手を前に向けた。

 正面から強い風を叩きつける。

 先頭を走っていた二匹が大きく体勢を崩し、その後ろを走っていたシルバーウルフたちも左右に散った。


「今だ!」

「ああ!」


 カーターが迷わず飛び出した。

 群れから離れた一匹との距離を一気に詰め、振り下ろされた爪をかわす。そのまま剣を振り抜き、一匹を倒した。


 レオも別の一匹を迎え撃つ。

 飛びかかってきたところを横へかわし、すれ違いざまに剣を振るった。

 残ったシルバーウルフたちが再び集まろうとする。


「カーター、そっち二匹!」

「任せろ!」


 レオはもう一度風を放ち、群れを分断する。

 一匹ずつなら対処できる相手でも、四匹を同時に馬車へ近づけるわけにはいかない。

 数を分け、一度に相手をする数を抑える。

 カーターが二匹目を倒し、レオも目の前の一匹を仕留めた。

 残ったシルバーウルフも二人で連携しながら一匹ずつ倒していき、やがて最後の一匹が地面に倒れた。


「……終わりか?」


 カーターが周囲を確認する。


「たぶんな。念のため森の方も見ておこう」

「ああ」


 二人でしばらく警戒したが、新たな魔物が現れる気配はなかった。

 剣を収めて馬車の方に戻ると、ロイドが感心したように二人を見ていた。


「六匹もいたのに、馬車には一匹も近づけなかったな」

「レオが最初に群れを分けてくれたからですよ」


 カーターが答える。


「まとめて相手にするより、ずっと楽でした」

「カーターがちゃんと合わせてくれたからだろ」

「お前たち、息も合ってるんだな」


 ロイドはそう言って笑った。


「護衛を頼んだのが二人でよかったよ」


 商人からそう言われ、レオは少し照れくさくなりながらも、悪い気はしなかった。

 討伐したシルバーウルフから魔石を回収すると、一行は再び街道を進み始めた。

 その後は大きな問題もなく、夕方にはヤンカの町に無事到着した。


 翌日。

 王都に戻るのは明日の予定だったため、この日はヤンカで過ごすことになっていた。


「俺はこれから市場を見てくるけど、お前たちはどうする?」


 朝食を終えたところで、ロイドにそう聞かれた。


「市場?」

「ああ。せっかく港町まで来たんだ。何か仕入れられそうなものがないか見ておきたい」

「じゃあ、俺も行っていいか?」

「もちろん」


 カーターも一緒に行くことになり、三人で市場に向かった。


 ヤンカの市場には、港町らしく魚介類や乾物が多く並んでいた。

 ロイドは店先の商品を確認したり、店主に値段を尋ねたりしながら歩いていく。

 レオとカーターはその後について市場を眺めていたが、ある店の前を通りかかったところで、レオが足を止めた。


「……あれ?」

「どうした?」


 カーターに聞かれ、レオは店先に並んでいるものを指した。


「これ、前に見たことある」


 そこにあったのは、茶色く硬そうな塊だった。

 以前、ナキールの市場でルナが見つけたものだ。


「これ、ナキールにもあったやつだ」

「食い物なのか?」

「ああ。ものすごく硬いけどな」


 レオが近づいてみると、その隣には見覚えのない道具も置かれていた。

 木で作られた箱のような形をしており、上には刃が取り付けられている。


「これ、何に使うんだ?」


 レオが店主に尋ねると、店主は乾物と一緒に置かれた道具を指した。


「そいつを削るための道具だよ」

「削る?」

「ああ。この刃に魚を当てて滑らせると、薄く削れるんだ」


 店主が実際に使ってみせると、刃の上を通った乾物から、薄い欠片がひらりと落ちた。


「へえ……」


 レオは思わず身を乗り出す。

 以前は包丁でも削るのに苦労していたものが、ずっと簡単に薄くなっている。


「これ、前からあったのか?」

「いや、最近だな。ナキールから来た商人が、この魚と一緒に持ち込んだんだ。向こうじゃ、これで薄く削って料理に使い始めたらしい」

「ナキール……」


 レオはもう一度、削る道具を見る。

 ナキールを離れる前、海鳥亭のダグが、この乾物を薄く削るための道具を作ってもらうつもりだとルナに話していた。


(あれ、本当に作ったのか?)


 同じものなのかは分からない。

 それでも、これを見たらきっとルナは喜ぶ。


「これと、この乾物も一つくれ」

「買うのか?」


 カーターが聞く。


「ああ。土産にする」

「ルナに?」

「そうだよ」


 代金を払い、乾物と道具を受け取る。

 その様子を見ていたロイドが、不思議そうに尋ねてきた。


「そのルナって、昨日のムギボを作った仲間か?」

「ああ」

「この魚の使い方も知ってるのか?」

「仲間がナキールで見つけたんだ。湯に入れて料理に使ってた」

「へえ……」


 ロイドが改めて乾物を見る。


「ムギボを作って、こんな変わった食材も料理に使うのか」

「料理が好きだからな」

「なるほど……。食品を扱ってる身としては、ちょっと興味があるな」


 ロイドは少し考えてから続けた。


「そのルナって子、一度会って話してみたいな」

「ルナに?」


 レオはすぐには返事をしなかった。

 ロイドとは今回の護衛で知り合ったばかりだ。

 ここまで一緒に行動して、特におかしなところがあるようには見えない。

 だからといって、それだけでルナに紹介していいかどうかは別の話だった。

 そんなレオの様子に気づいたのか、ロイドが苦笑する。


「そんなに警戒するなよ。まあ、会ったばかりなんだから当然か」

「悪い」

「いや、仲間のことならそれくらいでいいさ」


 ロイドは気にした様子もなく続ける。


「俺も商業ギルドに登録してる。ロイドって名前で確認してくれれば分かるはずだ。それでも気になるなら、ギルドを通して話を持っていってもいい」

「……それなら、帰ってルナにも話してみる」

「頼むよ」


 ロイドは満足そうに頷くと、再び市場の店に目を向けた。


 レオも買ったばかりの道具を見ながら、ルナがどんな顔をするのか少し楽しみになっていた。


 翌朝、レオたちはヤンカを出発した。

 帰りの道中では魔物に襲われることもなく、一行は予定どおり王都に到着した。


「ありがとう。おかげで無事に帰ってこられた」


 ロイドがレオとカーターに声をかける。


「こっちこそ。何事もなく終わってよかった」

「ああ。それと、昨日の話も頼むぞ」

「ルナのことか?」

「そうそう。一度会ってみたいって伝えておいてくれ」

「分かった」


 ロイドたちと別れたあと、レオとカーターは依頼達成の報告をするため、そのまま冒険者ギルドに向かった。


 受付でギルドカードを渡し、ヤンカまでの往復について報告する。


「行きにシルバーウルフが六匹出た。それ以外は特に問題なかった」

「護衛対象や荷物に被害はありませんでしたか?」

「ああ」

「分かりました。確認しますので、少々お待ちください」


 職員が依頼書とこれまでの記録を確認していく。

 しばらくして、職員が顔を上げた。


「レオさん。今回の依頼達成で、Cランクへの昇格条件を満たしました」

「……本当か?」

「はい。これまでの依頼実績にも問題ありません。今回の護衛依頼も無事に達成されていますので、Cランクへの昇格が可能です。昇格を希望されますか?」

「もちろん」


 レオは迷わず答えた。


「では、手続きを行いますので少々お待ちください」

「やったな、レオ!」


 隣にいたカーターが、自分のことのように喜ぶ。


「ああ……」


 しばらくして、昇格の手続きを終えた職員がギルドカードを差し出した。


「お待たせしました。こちらが更新されたギルドカードです」

「ありがとう」


 受け取ったカードには、これまでのDではなくCの文字が記されている。


「……やっと上がれた」


 旅を始めたころから目指していたCランクに、ようやく上がることができた。

 昇格することだけを考えて旅をしていたわけではない。

 それでも、こうして形になってみると素直に嬉しい。


「おめでとうございます」

「ありがとう」


 レオはもう一度、自分のギルドカードを見る。


「帰ったら、ルナたちにも報告しないとな」

「絶対喜ぶだろ」

「ああ」


 ヤンカで買った土産もある。

 レオはカードをしまうと、三人の待つ家へ帰ることにした。


◇◇◇


「レオ、おかえり!」

「ただいま」

「依頼はどうだった?」

「問題なく終わった。それと——」


 レオは三人を見回してから続けた。


「Cランクに上がった」

「えっ!」


 真っ先に声を上げたのはミアだった。


「本当に?」

「ああ。今回の護衛で条件を満たした」

「すごい! おめでとう!」

「おめでとう、レオ」

「僕も聞いてた。Cランクを目指してたんだよね? おめでとう!」


 三人から次々に言われ、レオは照れくさそうに笑った。


「ありがとう」

「じゃあ、今日はお祝いしないとね」


 ルナがそう言うと、ミアもすぐに賛成する。


「うん! 何か豪華なものにしようよ」

「レオ、何が食べたい?」

「肉」


 ほとんど迷うことなく答えたレオに、ルナは笑った。


「やっぱりお肉なんだ」

「せっかく聞かれたんだから、好きなものがいいだろ」

「じゃあ、今日はいつもより豪華にしようか」

「賛成!」


 その日の夕食は、レオの希望どおり肉料理を中心に、いつもより少し豪華になった。

 全員が席につくと、ルナが飲み物の入ったカップを持ち上げる。


「それじゃあ、レオのCランク昇格、おめでとう!」

「おめでとう!」

「乾杯!」


 四人でカップを合わせ、食事が始まった。


「やっぱり肉うまいな」

「レオ、嬉しそう」

「今日はレオのお祝いなんだから、いっぱい食べていいよ」

「言われなくても食べる」


 レオが肉を頬張るのを見て、三人が笑う。


 しばらく食事を楽しんでいると、ラズが思い出したように口を開いた。


「そうだ。レオがいない間に、僕も冒険者ギルドに登録したんだ」

「……え?」


 レオの手が止まった。


「冒険者に?」

「うん。ルナたちに聞いたら、魔物を倒さなくてもできる依頼があるって分かったから」

「それで、癒し草の採取にも行ってきたんだよ」


 ルナが付け加える。


「三人で王都の外まで?」

「大丈夫だったって。あたしがちゃんと周りを見てたから」


 ミアが胸を張る。


「レオがいつもやってるみたいにね」

「初めての依頼もちゃんと達成できたよ」


 嬉しそうに話すラズを見て、レオは少し複雑そうな顔をしたものの、最後には小さく笑った。


「そうか。まあ、無理はするなよ」

「うん」

「危ない依頼は一人で受けるなよ」

「分かってるよ」

「あと、王都の外に出るなら——」

「レオ、心配しすぎ」


 ミアに遮られ、また笑いが起きた。


 食事を終えて一息ついたところで、レオがヤンカから持ち帰った荷物に手を伸ばした。


「そうだ。ルナに土産がある」

「私に?」

「ああ」


 レオが取り出したものを見て、ルナは目を丸くした。


「これ……!」


 見覚えのある、鰹節に似た茶色い硬い魚の乾物だった。


「ヤンカの市場で売ってた」

「ナキールにあったのと同じだよね?」

「たぶんな。それと、こっちも」


 続いて取り出した木製の道具を見て、ルナはさらに目を見開いた。


「これって……削る道具?」

「そうみたいだ。店の人が使ってるところも見せてくれたけど、ちゃんと薄く削れてたぞ」


 ルナは受け取った道具を興味深そうに眺める。

 木で作られた箱に刃が取り付けられている。

 形は前世で知っていたものと少し違うが、使い方はよく似ていた。


「ナキールから来た商人が、乾物と一緒に持ち込んだらしい」

「じゃあ、もしかして……」


 ルナはナキールを離れる前のことを思い出した。


「ダグさん、本当に作ってもらったのかな」

「俺もそう思った」


 ナキールを離れる前、ダグはこの堅い魚を削るための道具を作ってもらうつもりだと話していた。

 それが本当に形になったものなのかもしれない。


「嬉しい……」


 ルナは道具を手にしたまま笑った。


「レオ、ありがとう」

「喜ぶと思ったからな」

「今度これで出汁を取って、何か作ろうね」

「ああ。楽しみにしてる」


 ルナが道具を眺めていると、レオが思い出したように口を開いた。


「そうだ、ルナ。もう一つ話がある」

「なに?」

「今回護衛した商人が、ルナに会ってみたいって言ってた」

「私に?」


 ルナが不思議そうに首を傾げる。


「ロイドっていう商人なんだけど、休憩中に俺がムギボを食べてたら興味を持ってな。一本やったら気に入ったみたいだ」

「ムギボを?」

「ああ。それで昨日、市場でこの乾物を見つけたときに、仲間が使い方を知ってるって話したんだ」


 レオは先ほど渡した乾物を指す。


「食品を扱ってる商人らしくて、興味があるから一度会って話してみたいって」

「そうなんだ……」

「ただ、俺も会ったばかりだからな」


 レオは少し表情を引き締めた。


「その場では返事しなかった。そしたら向こうも俺が警戒してるのに気づいたみたいで、商業ギルドに登録してるから確認してくれていいって」

「商業ギルドに?」

「ああ。ロイドって名前で確認すれば分かるって。それでも気になるなら、ギルドを通して話してもいいって言ってた」

「それなら……」


 ルナは少し考える。

 これから店を始めるなら、食材の仕入れについても考えていかなければならない。

 商業ギルドで、商会や商店と契約して仕入れる方法があることも聞いたばかりだ。


「今度、メーガンさんに聞いてみようかな」

「それがいいと思う」

「うん。ちゃんと確認してからなら、私も会ってみたい」


 食品を扱う商人なら、これから店を始めるうえで話を聞いてみたい相手でもある。


「じゃあ、まずギルドで確認してからだな」

「うん」


 ルナは頷いた。

 王都に来てから、少しずつ新しいつながりが増えている。

 まずはメーガンに、ロイドという商人について聞いてみようと思った。

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