↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/117

王都後編 5

 露店当日の朝。

 四人はいつもより少し早めに起き、朝食を取りながら今日の予定を確認していた。


「今日は、前と同じであたしは接客すればいい?」


 ミアがパンを食べながら尋ねる。


「うん。お願いしてもいい?」

「任せて」


 ミアは自信ありげに頷いた。

 マレットの花祭りでも接客を担当していたので、四人の中では一番慣れている。


「私は肉巻き串を焼くから、レオは肉を巻いてくれる?」

「ああ、分かった」

「ラズには、そのときできそうなことを手伝ってもらおうかな」


 ルナがラズを見ると、ラズも頷いた。


「うん。僕も手伝う」

「ありがとう。忙しくなったら、ミアかレオの手伝いをお願いするかもしれないから、そのときはよろしくね」

「分かった」


 これで大まかな役割は決まった。

 すると、レオが何かを思い出したように口を開く。


「でも、俺も焼き方を覚えといた方がよくないか?」

「レオも?」

「ああ。マレットのときみたいに客が増えたら、一人じゃ間に合わないだろ」

「ああ、そっか」


 あのときも、途中からマシューに手伝ってもらった。

 今日は四人だけなのだから、焼ける人は多い方がいい。


「じゃあ、最初に何本か一緒に焼いてみよう。やり方を覚えたら、忙しくなったときにお願いするね」

「分かった」

「あたしも忙しくなったら手伝うよ」

「ありがとう。でもミアは接客が忙しくなると思うから、そっちをお願い」

「はーい」


 それぞれの役割が決まったところで、ルナは食卓を見回した。


「じゃあ、朝ごはんを食べたら準備を始めようか」

「おー!」


 ミアが元気よく片手を上げる。

 その隣では、ラズも少し楽しそうに笑っていた。

 いよいよ、王都で初めての露店が始まる。


 朝食を終えると、四人はすぐに準備を始めた。

 まずは、買っておいたライサを炊いていく。

 炊き上がったライサを少し冷ましてから、細長く形を整えていった。


「これで全部?」


 ミアが並べられたライサを数える。


「うん。あとは向こうで肉を巻いていけば大丈夫」


 形を整えたライサは、乾かないよう布をかけて容器に入れていく。

 準備を終えたライサを持って、四人は家を出た。

 最初に向かったのは、昨日肉を頼んでおいた店だ。


「お、来たな。用意してあるぞ」

「ありがとうございます」


 受け取った肉は、頼んでいた通り巻きやすいよう薄めに切られている。

 ルナは量を確認して代金を払い、そのまま商業ギルドに向かった。


 ギルドでは受付を済ませ、前日に頼んでおいた焼き台などを借りる。


「忘れ物ないよね?」

「たぶん大丈夫」

「たぶんって言うなよ」


 レオに言われ、ルナはもう一度荷物を確認する。


「……うん。大丈夫」

「今度は自信あるんだな」

「ちゃんと確認したからね」


 そんな話をしながら、四人は荷物を持って広場に向かった。


 広場では、すでにいくつもの露店が準備を始めていた。

 料理の材料を並べている店もあれば、商品を台の上に一つずつ並べている店もある。

 その間を抜け、指定された場所までやってくる。


「ここだね」


 ルナが足を止める。

 一昨日、四人で下見に来た場所だ。

 あのときは別の店が出ていたが、今日はここが自分たちの店になる。


「じゃあ、準備しようか」

「うん!」


 ミアの元気な返事を合図に、四人は開店の準備を始めた。


 焼き台を置き、持ってきた材料や道具を並べていく。

 準備がほとんど終わったところで、ラズが大事そうに持ってきた看板を取り出した。


「これ、どこに置く?」

「そうだね。通る人から見えやすいところがいいかな」


 相談しながら店の前に看板を置く。

 そこには『ライサの肉巻き串 二銅貨』の文字と、昨日ラズが描いた肉巻き串の絵が大きく描かれている。

 その下には、ムギボの名前と値段も添えられていた。


「うん。いい感じ」


 ルナは少し離れたところまで歩き、改めて看板を眺めた。


「ちゃんと何を売ってるか分かるね」

「絵があると目立つよね」


 ミアも隣に並ぶ。


「ラズに頼んで正解だったな」


 レオに言われ、ラズは少し照れたように看板を見た。


「じゃあ、始めようか」


 ルナの言葉に、三人が頷く。


 王都で初めての露店が始まった。

 開店して間もなく、ミアが広場を行き交う人を見ながら尋ねた。


「ねえ、前みたいに試食も用意する?」

「そうだね。ライサを知らない人もいるだろうし、少し用意してみようか」


 まずはレオに肉の巻き方を説明し、一本作ってもらう。

 ルナはそれを受け取ると、焼き台の上に置いた。

 肉の焼ける音がして、しばらくすると香ばしい匂いが漂い始める。

 仕上げにタレを塗ると、さらに甘辛い香りが広がった。


「これを小さく切って——」

「あの」

「はい?」


 突然声をかけられ、ルナは顔を上げた。

 店の前に、一人の男性が立っている。

 男性は看板と、ルナが焼いているものを交互に見ていた。


「この『ライサの肉巻き串』っていうのは、それか?」

「はい、そうです」

「ライサをこんなふうに食べるのは初めて見るな」

「肉を巻いて、タレを塗って焼いてるんです。よかったら試食してみますか?」


 ちょうどよかったと、ルナは焼き上がった一本を小さく切って差し出した。

 男性は一つ受け取り、口に入れる。


「……うまいな」

「本当ですか?」

「ああ。このタレも肉に合ってる」

「ありがとうございます」

「じゃあ、一つもらおうか」

「はい!」


 まだ試食の準備さえ終わっていないのに、もう最初のお客さんが来てくれた。

 ルナは嬉しく思いながら、新しい肉巻き串を焼き台の上に並べていった。


 それをきっかけに、少しずつ店の前で足を止める人が増えていった。

 肉とタレの焼ける香ばしい匂いに気づいて足を止める人もいれば、店先に置かれた看板を見て近づいてくる人もいる。


「ライサって麦みたいなものかしら?」

「麦とは違いますけど、同じ穀物です。これは炊いたライサに肉を巻いて焼いてるんです」

「へえ。初めて食べるわ」


 珍しそうに看板の絵と焼き台を見比べ、そのまま買っていく人も少なくなかった。

 ラズが描いた看板は、しっかりと店の役に立っている。

 ルナが嬉しくなってラズを見ると、ラズも看板を見ている客に気づいているようで、どこか嬉しそうだった。


「ルナ、次の二本できたぞ」

「ありがとう」


 レオから肉を巻いた串を受け取り、焼き台に並べる。


 客が途切れたところで、ルナはレオにも焼き方を教えた。

 串を返すタイミングや、最後にタレを塗って軽く焼くことを説明し、何本か一緒に焼いてみる。

 しばらくすると、レオも焼き方に慣れてきた。


「これなら俺でも大丈夫そうだな」

「うん。お願いしてもいい?」

「ああ」


 焼き台をレオに任せ、ルナは他の作業を手伝おうとした。そのときだった。


「あら、ムギボもあるのね」


 店の前で一人の女性が足を止めた。


「ムギボをご存じなんですか?」

「ええ。前に商業ギルドで買ったことがあるわ」


 思いがけない答えに、ルナは女性の方に向き直る。


「本当ですか?」

「ええ。食べやすくて美味しかったから、また買おうと思ってギルドに行ったのよ。でも、そのときはもう売り切れていて」

「そうだったんですか?」

「ええ。次はいつ入るのか聞こうかと思ってたくらい」


 委託したムギボが売れていることは、メーガンから聞いて知っていた。

 けれど、実際に買った人から感想を聞くのは初めてだった。


「実は、それを作ってるの私なんです」

「あら、そうだったの?」

「はい」

「じゃあ、ちょうどよかったわ。今日も買っていくわね」

「ありがとうございます!」


 自然と声が弾んだ。


 ミアがムギボを渡している横で、ルナは嬉しさを噛みしめる。

 ギルドに預けてしまえば、自分の手を離れた商品が誰のところへ行ったのかは分からない。

 それでも、こうして買ってくれた人がいて、美味しかったからもう一度欲しいと思ってくれた。

 その言葉を直接聞けたことが、何より嬉しかった。


「ルナ、嬉しそう」


 女性を見送ったあと、ミアが笑う。


「うん。だって、こういう話を聞いてみたかったから」

「やっぱり、露店やってよかったね」

「うん!」


 ルナは笑顔で頷くと、また次の客を迎えるために店へと向き直った。


 昼時が近づくにつれて、広場を行き交う人の数も増えていった。

 それに合わせるように、ルナたちの店にも次々と客がやってくる。


「肉巻き串、二本ください」

「はい! 二本で四銅貨です」


 ミアが代金を受け取り、出来上がった串を渡していく。


「これがライサか。初めて食べたけど、うまいな」

「肉と一緒だと食べやすいね」


 買ったばかりの肉巻き串を近くで食べながら、そんな話をしている人たちもいた。

 もっと話を聞いてみたいと思ったものの、今はそんな余裕もない。


「ルナ、こっちもう焼けそうだぞ」

「あ、うん。今タレ塗るね」


 レオと二人で次々に肉巻き串を仕上げていく。

 少し離れたところでは、ムギボを手に取った客がミアに何か尋ねていた。


「これは何で作ってるの?」

「ムギボですか? 潰し麦を使ってるんですよ」

「潰し麦?」

「はい。それを——」


 ミアが説明している声が聞こえる。


「ラズ、そっち取ってくれる?」

「うん」


 ラズも忙しそうに動いていた。

 ミアに頼まれてムギボを渡したかと思えば、今度はレオのところに必要なものを持っていく。


「ありがとう、ラズ」

「次は?」

「じゃあ、これをミアにお願い」

「分かった」


 ラズは受け取ると、すぐにミアのところへ向かった。

 四人で協力していても、昼時になると休む暇はほとんどなかった。

 肉を巻いて、焼いて、タレを塗る。

 出来上がればすぐに客の手に渡り、また次を作る。

 そうして慌ただしく動き続けているうちに、用意していたライサはどんどん減っていった。


「ルナ」


 レオに呼ばれて顔を上げる。


「これで最後だ」

「え?」


 見ると、レオの手には肉を巻き終えた一本があった。

 材料を置いていた場所には、もうライサが残っていない。


「もう?」

「ずっと焼いてただろ」

「そうだけど……」


 ルナは驚きながら最後の一本を焼き台に置いた。

 丁寧に焼き、仕上げにタレを塗る。

 香ばしい匂いが立ったところでもう一度軽く焼き、それを待っていた客に渡した。


「ありがとうございます!」


 客を見送ってから、ルナは空になった容器を見る。


「……売り切れた」

「肉巻き串、完売だね!」


 ミアが嬉しそうに言う。

 まだ昼を少し過ぎたばかりだった。

 予想していたよりもずっと早い完売に、ルナは驚きながらも笑みを浮かべた。


「やっぱり、匂いがよかったんじゃない?」


 ミアが空になった容器を見ながら言った。


「匂い?」

「ああ、それはあるかもな」


 レオも頷く。

 肉を焼くだけでも香ばしい匂いがするのに、最後にタレを塗ると、さらに甘辛い香りが広がる。

 実際、何を売っているのかと聞きに来た客も何人もいた。


「話してたら、またお腹減ってきた」


 ミアがお腹に手を当てる。


「ずっといい匂い嗅いでたもんね」


 ルナも笑った。

 朝から動き続けていたうえ、昼時も休む暇がなかった。

 肉巻き串が売り切れたことで、ようやく一息つけそうだ。


「何か買ってくるか?」


 レオが周囲の露店を見る。


「お願いしてもいい? ラズも一緒に行って、食べたいもの選んできたら?」

「うん」


 ルナが代金を渡すと、レオとラズは並んで近くの露店に向かった。


 肉巻き串はなくなったものの、ムギボはまだ残っている。

 こちらは肉巻き串ほど一気に売れるわけではなかったが、広場を通りかかった人が足を止め、一つ、二つと買っていった。


「これがムギボ?」

「はい。潰し麦を使って作ってるんです」

「へえ。潰し麦って、こんな食べ方もできるのね」


 客は受け取ったムギボを、その場で一口食べる。


「美味しい」

「ありがとうございます」


 そんな言葉を直接聞けるたびに、ルナは自然と笑顔になった。


(やっぱり、こういうのがいいな)


 自分が作ったものを目の前で食べてもらえる。

 そして、美味しいと言ってもらえる。

 ルナがしたかったのは、きっとこういうことなのだと思う。


 やがて食べ物を買ってきたレオとラズも戻り、四人は交代で簡単に昼食を済ませた。

 その間にもムギボは少しずつ減っていく。そして——。


「これで最後です。ありがとうございました!」


 ミアが最後のムギボを客に渡した。

 客を見送ると、ミアが空になった台を見下ろす。


「……終わった?」

「終わったね」


 ルナも台の上を見る。

 肉巻き串も、ムギボも、一つも残っていない。


「全部売れた!」


 ミアが嬉しそうに笑う。


「思ったより早かったな」

「看板も役に立ったよね」


 ルナが言うと、ラズが嬉しそうに自分の描いた看板を見た。


「ラズもいっぱい手伝ってくれたしね」

「うん」

「四人でやったからだな」


 レオの言葉に、ルナも頷いた。


「うん。みんな、お疲れさま」

「お疲れさま!」


 四人は顔を見合わせて笑った。

 王都で初めて開いた露店は、無事に完売で終えることができた。


◇◇◇


 ルナたちが完売を喜んでいた、その少し離れた場所。


 広場を行き交う人々に紛れるように、三人の男が立っていた。

 そのうちの一人が、ルナたちの露店に視線を向ける。


「……あの子じゃないか?」


 隣の男も同じ方向を見る。

 片付けを始めたルナたちのそばには、ラズがいる。

 看板を大事そうに抱え、ミアと何かを話していた。


「年頃も特徴も聞いていた話と合ってる」

「じゃあ、やっと見つけたのか」

「ああ。たぶんな」


 三人はここ数日、冒険者ギルドや市場の周辺を探っていた。

 ラズが王都に来ていることは分かっていたものの、なかなかその姿を見つけることができなかったのだ。


 一人の男が、ラズの周囲にいる三人を見る。


「じゃあ、あいつらが街道で助けた連中か?」

「たぶんな」


 若い女が二人に、男が一人。

 聞いていた話からもう少し年上の者たちを想像していたのか、男は意外そうに眉を上げた。


「……ずいぶん若いな。女の方なんて、まだ子供じゃないか?」

「男も大して変わらないだろ」


 三人はしばらくルナたちの様子を窺う。


「どうする?」

「まず居場所を確かめる。店も終わるみたいだ。距離を空けて追うぞ」

「報告は?」

「住んでいる場所まで分かってからだ。その方が二度手間にならない」

「分かった」


 三人はそれ以上話すことなく、人混みの中に紛れた。


 少し離れたところでは、そんな視線に気づくこともなく、ルナたちが楽しそうに片付けを続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。