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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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王都中編 2

 同じ頃。

 第二騎士団を出たディオンは、そのまま王都の神殿に向かった。


 受付で名前と用件を告げると、すでに話は通っていたらしく、奥にある一室に案内される。

 しばらくして、一人の神官が入ってきた。


「お待たせしました、ディオン団長」

「いえ。それで、行方が分からなくなっている子供について聞かせてもらえますか」

「はい」


 神官は向かいの椅子に腰を下ろすと、手元の書類を開いた。


「少し前、地方を巡回していた神官から報告がありました。属性判定を行った際、珍しいスキルが発現した子供がいたそうです」

「どんなスキルですか?」

「『空間収納』です」


 ディオンの表情が変わった。


「空間収納……」

「ご存じですか?」

「いえ。続けてください」


 神官は頷き、書類に目を戻す。


「子供の名前はラズ。平民の男の子です」

「……やはりか」

「何か?」

「その子なら知っています」


 今度は神官が驚いた顔をした。


「ラズをご存じなのですか?」

「ええ。現在、王都にいます」

「王都に?」

「詳しいことはあとで話します。まず、そちらで何があったのか聞かせてください」

「分かりました」


 神官は戸惑いながらも説明を続けた。


「判定が行われたのは、ヒンス男爵領にある町です。地方では領主が属性判定を見に来ることも珍しくありません。その日もヒンス男爵が立ち会っていたそうです」

「男爵は、ラズのスキルを?」

「スキルが発現したことには気づいていたようです。巡回していた神官に、どのようなスキルなのか尋ねたそうですが、本人に関わる情報ですので、その場では答えなかったと聞いています」

「それで?」

「男爵も、それ以上は聞いてこなかったそうです」


 それだけなら、おかしな話ではない。

 珍しいスキルが発現すれば、領主が興味を持つこともあるだろう。


「ラズ本人には?」

「スキルについては、本人とご両親にも説明しています。珍しいスキルでしたので、国の保護を希望するかも確認しましたが、ご両親は必要ないと」

「その後、教会に来る予定だった?」

「はい。スキルの扱い方や、今後受けられる指導について、現地の教会で改めて説明することになっていました」

「だが、来なかった」

「はい。何日か待っても姿を見せなかったため、現地の神官が家を訪ねました。しかし、すでに家族の姿はなかったそうです」


 ディオンは黙って話を聞く。


「近所の住民にも尋ねましたが、家族がどこへ行ったのか知っている者はいませんでした。ただ、そこで気になる話が出まして」

「どんな話です?」

「属性判定のあと、ヒンス男爵が何度かラズの家を訪れていたそうです」

「男爵本人が?」

「はい」


 判定の日にスキルについて尋ねた領主が、その後も何度か家を訪れている。

 それだけで何か問題があったとは言えないが、家族が突然いなくなっている以上、無関係とも言い切れない。


「それで、こちらへ報告が?」

「はい。珍しいスキルを持つ子供とその家族の行方が分からなくなっていますので、念のため王都の神殿にも報告が上がりました」

「騎士団への連絡まで時間がかかったのは?」

「申し訳ありません。こちらでも、まず状況を確認する必要があると判断しました。巡回していた神官から改めて話を聞き、現地にも確認を取っていました」

「なるほど」


 理由は分かった。

 地方から届いた報告だけで、すぐに事件と判断できる状況ではなかったのだろう。


「先ほど、ラズは王都にいるとおっしゃいましたが……」


 神官が心配そうに尋ねる。


「無事なのですか?」

「本人は無事です」


 ディオンはそう答えてから、少し間を置いた。


「ただし、両親は亡くなっています」

「……亡くなった?」

「王都に向かう途中、街道で一家の乗った馬車が襲われました」


 神官の顔が強張る。


「そんな……」

「ラズだけは無事で、現在はこちらで保護しています」

「犯人は?」

「すでに捕らえています。ただ、まだ捜査中ですので、詳しいことはお話しできません」


 神官は一度驚いたような顔をしたものの、すぐに頷いた。


「分かりました」

「今回教えていただいたことも含めて、こちらで調べます」


 空間収納という珍しいスキル。

 判定後、何度かラズの家を訪れていたヒンス男爵。

 そして、王都へ向かう途中で襲われた一家。


 まだ、すべてがつながったと断定することはできない。だが、ただの偶然で片付けるには気になる点が多かった。


「それと、ラズのスキルについてですが」


 ディオンは神官に目を向けた。


「今回の事件との関係はまだ分かりませんが、念のため、この件については他言しないでいただけますか」

「もちろんです」

「今後必要になる説明や指導については、こちらから本人にも話しておきます。今はまだ、神殿まで連れてくるのは難しいでしょうから」

「分かりました。落ち着いてからで構いません。必要であれば、こちらから人を向かわせることもできます」

「ありがとうございます。そのときはお願いします」


 最後にいくつか確認を済ませ、ディオンは神殿をあとにした。

 向かう先は王宮だ。

 アーサーにも確認しておきたいことがある。


 ——『空間収納』。


 そして、一家を襲わせた仕事を持ちかけたのは、第二騎士団が別の事件で調べていた男だった。


(偶然にしては、重なりすぎているな)


 ラズのスキルが今回の事件に関係している可能性はある。だが、まだ推測にすぎない。

 ディオンは考えをまとめながら、王宮へと向かった。


 王宮に到着したディオンは、取り次ぎを頼み、アーサーのもとを訪れた。


「珍しいスキルを持つ子供について、確認したいことがあります」

「神殿から連絡があった件か?」

「ラズという子供です。十二歳で、『空間収納』のスキルが確認されています」

「ラズ?」


 アーサーが眉を寄せる。


「……待て。以前、リアムから聞いた子供か?」

「はい。街道で両親を亡くし、現在ルナたちと一緒にいる子供です」

「そうか……」


 アーサーは近くに控えていた者に、スキルについての記録を持ってくるよう命じた。

 やがて届けられた書類に目を通し、その手を止める。


「あった。ヒンス男爵領、ラズ、十二歳。空間収納のスキルが発現……」


 アーサーの表情がわずかに険しくなる。


「本人と家族は保護を希望せず、か」

「その後、こちらから何かしましたか?」


 アーサーは首を横に振る。


「珍しいスキルではあるが、本人たちが保護を望んでいない以上、こちらから干渉する理由はない。記録を残すだけにしていた」

「そうですか」

「このラズが、街道で襲われた子供で間違いないんだな?」

「はい、間違いありません」


 ディオンは神殿で聞いたことと、これまでの捜査について簡単に説明した。

 話を聞き終えたアーサーの表情が険しくなる。


「ラズのスキルが原因だと思うか?」

「まだ断定はできません。ただ、その可能性はあると見ています」

「理由は?」

「空間収納なら、荷物を持たずに物を運べます。外から見ただけでは、何を持っているのかも分かりません」


 第二騎士団では、以前から王都で起きている窃盗や盗品売買について調べていた。

 だが、何人か捕らえた頃から相手側の動きが鈍くなり、捜査は進みにくくなっていた。


「もし盗品の運搬に使うなら、都合のいいスキルです」


 さらに、一家を襲わせた仕事を持ちかけた男が、その捜査で名前の挙がっていた人物であることを伝える。


「新しい運び手としてラズに目をつけたと?」

「その可能性があります」

「ヒンス男爵はどう見る?」

「判定のあと、ラズの家を何度か訪れていたそうです。まずは男爵について調べます。以前から追っている事件とのつながりがないかも含めて」


 アーサーはしばらく考えてから頷いた。


「分かった。だが、今の段階では推測だ。慎重に進めろ」

「もちろんです」


 ディオンが答えた、そのときだった。

 扉が叩かれる。


「陛下、失礼いたします。ディオン団長に至急お伝えしたいことが」


 入ってきた騎士に、ディオンが振り返る。


「どうした?」

「以前から行方を追っていた男ですが、居場所が分かりました」

「どこだ?」


 ディオンの目つきが変わった。


◇◇◇


 翌日。

 ディオンたちは、報告にあった建物の前まで来ていた。


 王都の外れにある、古びた二階建ての建物だ。

 表から見た限りでは人の出入りも少なく、周囲に目立った動きはない。


「間違いないんだな?」

「はい。昨日の夕方に入るところを確認しています。それから外には出ていません」

「裏は?」

「二人回しています」


 ディオンは建物を見上げた。


 窃盗や盗品売買について調べる中で名前が挙がっていた男だ。

 何人か仲間を捕らえてからは動きが鈍くなり、しばらく足取りを掴めずにいた。

 ようやく見つけた。

 今度こそ逃がすつもりはない。


「行くぞ」


 ディオンの合図で、騎士たちが一斉に動いた。

 扉を開け、中に踏み込む。


「第二騎士団だ! 動くな!」


 中にいた男が驚いたように振り返る。

 次の瞬間には奥へ走り出した。


「逃がすな!」


 騎士の一人があとを追う。

 男は裏口に向かったが、そこにもすでに騎士が回り込んでいた。


「くそっ!」


 慌てて引き返したところを取り押さえられる。


「離せ!」

「大人しくしろ」


 抵抗する男の腕を押さえ、拘束する。

 ディオンは少し離れたところからその様子を見ていた。


「ずいぶん探したぞ」


 男が顔を上げる。

 ディオンと目が合うと、その表情がわずかに歪んだ。


 男を第二騎士団に連行すると、すぐに取り調べが始まった。

 ディオンは向かいに座る男を見つめる。


「街道で夫婦と子供の乗った馬車が襲われた。知っているな?」

「……何の話だ」

「とぼけても無駄だ」


 ディオンは一枚の書類を机の上に置いた。


「実行犯は五人とも捕まっている。誰から仕事を持ちかけられたのかも聞いている」


 男の表情がわずかに変わる。


「お前の名前が出た」

「……」

「今さら何も知らないでは通らないぞ」


 しばらく沈黙が続いた。

 やがて男は諦めたように椅子の背にもたれる。


「……あいつら、喋りやがったのか」

「認めるんだな?」

「俺が仕事を回した。それだけだ」

「何を頼んだ?」

「指定した馬車を止めて、中にいる家族を連れてこいって言った」

「夫婦と子供の三人を?」

「ああ」

「急ぎの仕事だったそうだな」


 男の目がわずかに動く。


「実行犯たちは、急に持ちかけられた仕事だったと話している。その分、報酬もよかったそうだ」

「……だったら何だ」

「なぜ、そこまで急いであの家族を捕らえる必要があった?」


 男は一度口を閉ざした。

 ディオンは急かさずに待つ。


「……逃げたからだよ」

「逃げた?」

「あの家族が、突然町からいなくなった。それで、王都に向かってるから連れ戻せって言われたんだ」

「誰に?」

「……」


 男は答えない。


「お前自身が、あの家族に荷物を運ばせていたわけではないんだな?」

「俺が頼まれたのは、あの家族を連れ戻すことだけだ」

「理由は聞かなかったのか?」

「子供に使えるスキルがあるとは聞いた」

「『空間収納』か」


 男が目を見開いた。


「……知ってたのか」

「こちらが聞いている」


 ディオンは表情を変えなかった。


「なぜ空間収納を持つ子供を連れ戻す必要があった?」

「荷物を持たせても外からは分からない。子供なら余計に怪しまれにくい。そういう使い道があるとは聞いてた」

「何を運ばせていた?」

「そこまでは知らねえよ」


 神殿で話を聞いてから考えていた可能性が、少しずつ形になっていく。


「両親まで生きたまま連れてくるよう指示したのはなぜだ?」

「それも俺が決めたことじゃねえ。三人とも生かして連れてこいって言われたから、そのまま伝えただけだ」


 男は面倒そうに答える。


「誰に言われた?」


 男の口が止まった。


「ラズのスキルについて、お前に教えたのは誰だ。家族が町を出たことを知らせたのは?」

「……」

「お前一人で動いていたわけじゃないだろう」


 男は答えない。

 先ほどまでとは明らかに様子が違っていた。


「お前の雇い主か?」


 男の視線が一瞬だけ動く。

 だが、すぐにディオンを睨み返した。


「そこから先は知らねえ」

「知らない人間から、家族が逃げたという連絡を受けたのか?」

「……俺が知ってるのは、あの家族を連れ戻せと言われたことだけだ」

「誰に?」

「言うことはねえよ」


 ディオンは黙って男を見つめた。


 街道の襲撃については話す。

 空間収納についても隠そうとはしない。

 それなのに、その背後にいる人間の話になると途端に口を閉ざす。

 知らないのではない。

 知っていて、話すつもりがないのだ。


「そうか」


 ディオンは机の上の書類を閉じた。

 ならば、別のところから突き崩すしかない。


 そのとき、取り調べ室の扉が叩かれた。


「団長、少しいいですか」


 聞き覚えのある部下の声に、ディオンは立ち上がる。


「ここで待っていろ」


 男にそう告げ、部屋の外に出た。


「どうした?」

「調べるよう言われていたヒンス男爵について、いくつか分かりました」

「聞かせてくれ」

「男爵家は領地でいくつか事業を行っていますが、その一部でベケット伯爵家と取引があります」

「ベケット伯爵?」


 思いがけない名前に、ディオンは眉を寄せた。


 ベケット伯爵家は鉱山を所有し、宝石を扱う事業を中心に手広く商売をしている。

 伯爵自身も慈善事業に力を入れており、表向きの評判は悪くない。


「どの程度のつながりだ?」

「ヒンス男爵側が、伯爵家の事業の一部を請け負っているようです。かなり前から取引は続いています」

「そうか……」


 ディオンは考え込む。


 夜会などで二人の姿を見かけたことはある。

 だが、特別親しくしている印象はなかった。

 少なくとも、ヒンス男爵の名前からすぐにベケット伯爵を連想するほどではない。


「他には?」

「現在、さらに詳しく調べています。ただ、ヒンス男爵がラズの家を訪れていた時期にも、両家の取引は続いていました」

「分かった。そのまま調べてくれ。金の流れも確認してほしい」

「はい」


 部下が立ち去る。


 ディオンはしばらくその場に立ったまま考えていた。


 ヒンス男爵。

 ベケット伯爵。

 そして、取り調べ室にいる男。

 まだ三者を結びつけるものはない。


 ディオンは扉を開け、再び取り調べ室に戻った。


「待たせたな」


 椅子に腰を下ろし、男の表情を見ながら何気ない調子で続ける。


「そういえば、ヒンス男爵について調べていたんだが」


 そこで一度言葉を切った。


「ベケット伯爵と取引があるらしいな」


 その瞬間だった。

 男の目が、わずかに動いた。

 本当に一瞬だった。

 すぐに何事もなかったように顔を背ける。

 だが、ディオンは見逃さなかった。


「……ベケット伯爵を知っているのか?」

「知らねえよ」

「そうか」

「貴族の名前なんて、いちいち覚えてねえ」

「まだ、知っているかと聞いただけだが」

「……」


 男が口を閉ざす。


 ディオンはそれ以上追及せず、静かに男の様子を見た。

 名前を聞いただけで反応した。

 それだけでは証拠にはならない。

 だが、調べる理由にはなる。


「分かった。今日はここまでだ」


 ディオンは立ち上がった。

 止まりかけていた捜査が、ようやく一つの方向に動き始めていた。


◇◇◇


「まだ見つからないのか?」


 低い声が部屋に響いた。

 机を挟んだ向こうでは、一人の男が頭を下げている。


「申し訳ありません。子供が王都に入ったところまでは確認できています」

「誰と一緒だ?」

「街道で襲撃に遭った際、助けに入った者たちです。その者たちと一緒に宿に滞在していたようです」

「今もそこにいるのか?」

「いえ。数日前に部屋を引き払っています。その後の行き先が、まだ掴めていません」


 その報告に、男はわずかに眉を寄せた。


「騎士団や孤児院は?」

「そちらも探らせましたが、それらしい子供が保護されたという話は外には出ていません」

「なら、子供だけでなく、一緒にいる者たちも探せ」

「すでに調べています」


 しばらく、部屋に沈黙が落ちる。


「騎士団が動いている様子はあるか?」

「以前より人の動きは増えています。ただ、それが子供の件と関係しているかまでは分かりません」

「そうか」


 男は考えるように指先で机を叩いた。


 街道で一家を襲った者たちは捕らえられた。

 幸い、末端の者たちには必要最低限のことしか知らせていない。

 だが、仕事を仲介した男まで捕まれば、どこまで辿られるか分からない。

 ただでさえ慎重に動かなければならない時期に、あの子供まで王都に来てしまった。


「冒険者ギルドは?」

「そちらも探らせています」

「商業ギルドや市場も調べろ。宿を出たのなら、生活に必要なものを買いに出ることもあるだろう」

「分かりました」

「子供だけではない。一緒にいる者たちもだ」

「はい」


 男が頭を下げる。


「見つけたら、すぐに報告いたします」

「ああ。勝手なことはするな」


 念を押すように告げると、男はもう一度深く頭を下げ、部屋を出ていった。


 一人になった部屋で、男は机に指を置く。

 騎士団の動きが、以前より活発になっている。

 これ以上、余計な手がかりを残すわけにはいかなかった。


「……早く見つけろ」


 誰もいなくなった部屋で、男は小さく呟いた。

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