↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/50

1-7

 ミアは扉の近くに立ち、廊下の気配に注意を向けていた。

 ルナはゆっくり話し始める。

 属性判定の日からの出来事。

 そして、両親が自分を修道院に入れると話していることを偶然聞いてしまったこと。

 レオは一度も口を挟まず、最後まで黙って耳を傾けていた。

 話し終えると、部屋に静かな沈黙が流れた。

 レオは腕を組み、少し考えてから口を開いた。


「……事情は分かった」


 その声は穏やかだった。


「でも、その前に確認したいことがある」

「はい」


 ルナは真っ直ぐ頷く。


「まず一つ」


 レオは静かに尋ねた。


「修道院に行くことは、父親たちから直接言われたわけじゃないんだよな?」

「はい」


 ルナは小さく頷く。


「偶然、お話を聞いてしまいました」

「じゃあ、まだ正式には何も言われてない」

「そうです」


 レオは少し考えるように視線を落とした。


「だったら、一度話し合うって選択肢はなかったのか?」


 ルナは静かに首を横に振る。


「もし直接言われたら、お父様の決定には従ってしまうと思います」


 その言葉に、レオは少し驚いたような表情を浮かべる。


「従う?」

「はい」


 ルナは苦く笑った。


「今までずっと、それが当たり前だと思って生きてきましたから。だから、正式に言われる前に決めました」


 ルナはゆっくりと言葉を続ける。


「自分で、自分の人生を選びたいんです」


 レオは何も言わず、その言葉を受け止めた。


「二つ目だ」


 少し間を置いてから続ける。


「修道院が嫌だから家を出るのか?」


 ルナは少し考えたあと、小さく首を横に振った。


「修道院が悪い場所だとは思っていません」


 その声は穏やかだった。


「でも、そこで一生を終える未来だけは選びたくありません」


 一度窓の外へ視線を向ける。


「私は、この世界をほとんど知りません」


 王都しか知らない。

 海も見たことがない。

 隣国に行ったこともない。


「だから、自分で選んだ人生を歩いてみたいんです」


 その瞳には迷いがなかった。

 レオは静かに頷く。


「三つ目」


 少しだけ表情を引き締めた。


「平民として生きるってことが、どういうことか分かってるか?」

「正直に言えば、全部は分かりません」


 ルナは素直に答えた。


「でも、働かなければ食べていけないことも、今までのように家が生活を保証してくれるわけではないことも分かっています」

「使用人もいない」

「はい」

「洗濯も掃除も料理も全部自分でやる」

「はい」

「贅沢なんてできない」

「それでも構いません」


 ルナははっきりと答えた。


「四つ目」


 レオは少しだけ声を低くした。


「家を出たら、フィールズ家はルナを探すと思う」


 ルナも頷く。


「はい」

「追われるかもしれない」

「はい」

「見つかれば連れ戻される可能性もある」

「……それも覚悟しています」

「怖くないのか?」


 その問いに、ルナは少しだけ笑った。


「怖いです」


 迷いなく答えた。


「でも」


 一度言葉を切る。


「何もしないまま修道院に行く方が、きっと後悔します」


 静かな部屋に、その言葉だけが響いた。

 レオはルナを見つめたまま、しばらく黙っていた。

 やがて、小さく息を吐く。


「最後だ」


 ルナは姿勢を正した。

 レオはその隣に立つミアに視線を向ける。


「ミア」

「はい」

「お前も本当に行くつもりなんだな?」


 ミアは迷うことなく頷いた。


「はい」

「後悔しないか?」

「しない」


 即答だった。


「ルナ様は、ずっと私を支えてくれました」


 ミアは優しく微笑む。


「今度は私が支える番です」


 レオはその答えを聞き、苦笑した。


「……お前らしいな」


 少しだけ肩の力を抜く。

 そして二人を順番に見た。


「二人とも、覚悟だけは本物みたいだ」


 レオは立ち上がる。


「分かった」


 その一言に、ルナもミアも息をのむ。


「俺が護衛を引き受ける」


 ルナの表情がほっと緩んだ。


「ありがとうございます」

「ただし」


 レオはすぐに続ける。


「無茶はさせない」


 二人を真っ直ぐ見つめる。


「途中で危険だと判断したら、予定を変えることもある」

「はい」

「俺は二人を目的地まで連れて行くのが仕事になる。だから俺の指示には従ってもらう」


 ルナは真剣な表情で頷いた。


「もちろんです」


 ミアも続ける。


「私も従うよ」


 レオは満足そうに笑った。


「よし」


 レオの返事を聞いて、ルナはほっとしたように表情を和らげる。


「ありがとうございます」


 ルナは深く頭を下げる。

 レオは軽く手を振った。


「まだ決まってないことも多いからな。これから少しずつ準備していこう」

「はい」


 ルナが頷くと、レオは思い出したように口を開いた。


「それと、王都を出たらやっておいた方がいいことがある」

「何でしょう?」

「冒険者ギルドへの登録だ」


 ルナは少し驚いたように目を瞬かせる。


「私も登録するんですか?」

「ああ」


 レオは頷いた。


「旅をするなら、身元を証明できるものがあった方が何かと便利だ。街に入る時や宿を取る時にも役立つ」

「なるほど……」


 ルナは納得したように頷く。


「それに、戦えなくても受けられる依頼はある」

「依頼、ですか?」

「例えば薬草採取とか、荷物運びとかだな。生活費を稼ぐ手段にもなる」


 ルナは少し考え、小さく微笑んだ。


「働いて生活するんですね」

「そういうこと」


 レオも笑う。


「最初は慣れないだろうけど、少しずつ覚えていけばいい」


 ルナは真剣な表情で頷いた。


「分かりました。王都を出たら、登録します」

「それがいい」


 レオは満足そうに頷く。


「もう一つ、実は俺からも頼みがある」

「頼み、ですか?」

「ああ」


 レオは少し照れくさそうに笑う。


「ルナには、ギルドを通して俺に護衛依頼を出してほしい」


 ルナは首を傾げた。


「護衛依頼?」

「冒険者にはランクがあるのは知ってるか?」

「はい。Fランクから始まるんですよね」

「そう」


 レオは頷く。


「俺は今Dランクなんだけど、Cランクに上がる条件の一つに、長距離の護衛依頼を受けるってのがあるんだ」

「魔物を倒すだけじゃ駄目なんですね」

「そういうこと」


 レオは肩をすくめる。


「だから、今回の旅は俺にとってもちょうどいい。もちろん最後までちゃんと護衛する。その上で、昇級に必要な実績にもなるから、俺にも得があるってこと」


 ルナは少し安心したように笑った。


「それなら、遠慮しなくて済みます」

「だろ? でも、報酬はちゃんと払ってもらう」


 レオは笑う。


「俺も冒険者だからな。仕事として引き受ける以上、その辺はきっちりする」

「はい」


 ルナも笑みを返した。


「お金は、私が用意します」

「そのためにも、宝石を換金しないとな」


 レオはミアに視線を向ける。


「換金する店は俺も探しておく。変な店に持ち込むと、足元を見られることもあるからな」

「助かる」


 ミアはほっとしたように頷いた。


「私だけじゃ不安だったんだ」

「一度に全部売る必要もない」


 レオは続ける。


「旅に必要な分だけ用意できれば十分だ」

「分かりました」


 ルナも静かに頷く。


「焦らず、少しずつ準備を進めましょう」

「そうだな」


 三人は机を囲み、これからの予定を考え始めた。

 レオが机の上に紙を広げる。


「まず、一番大事なのは家を出る日だ」


 ルナとミアも真剣な表情で頷く。


「今決まっている大きな予定は、お披露目式だけだよな?」

「はい」


 ルナが答える。


「あと八日後です」


 レオは少し考え込んだあと、紙の上を指で軽く叩いた。


「だったら、決行はお披露目式の日がいい」


 ルナは少し驚いたように顔を上げる。


「その日ですか?」

「ああ。その日は王族も神殿も貴族も、みんなリア様に注目する。フィールズ家も朝から慌ただしくなるはずだ」


 ミアも考えるように頷いた。


「旦那様と奥様、それにリア様も王城に向かいます。使用人も何人か同行すると思います」

「ルナは式には出ないんだよな?」

「はい。屋敷で過ごすように言われています」

「だったら好都合だ」


 レオはルナを見る。


「家族が王城へ向かったあとも、しばらくは部屋にいると思われる。すぐにいないことに気付かれる可能性は低い」

「確かに……」


 お披露目式当日は、屋敷に残る使用人たちも忙しいだろう。

 自室で静かに過ごしていると思われていれば、わざわざ様子を見に来る者も少ないかもしれない。


「屋敷を出るなら、裏門がいいと思います」


 ミアが口を開いた。


「普段は使用人や荷物の搬入に使われています。正門より人目は少ないです」

「警備は?」


 レオがすぐに尋ねる。


「普段は門番がいます」


 ミアは正直に答えた。


「ただ、お披露目式の日は護衛の何人かも旦那様たちに同行するはずです。屋敷に残る人も、正門や屋敷内の警備を優先すると思います」

「じゃあ、裏門の警備が薄くなる可能性はあるってことか」

「はい。でも、誰もいなくなるかまでは分かりません」

「そこは確認しておいた方がいいな」


 レオの言葉に、ミアは頷いた。


「当日までに、護衛や門番の配置をそれとなく確認してみます」

「無理に聞き回るなよ。怪しまれたら意味がない」

「分かってる。普段の仕事の中で確認できる範囲にする」


 レオは頷く。


「もし裏門が使えそうなら、俺はその近くで待つ。無理そうなら別の方法を考えよう」

「はい」


 ルナも真剣な表情で頷いた。


「それから、ミア」


 レオが視線を向ける。


「お前はルナと同時にいなくなったら、すぐに一緒に逃げたと思われる」

「それなら……」


 ミアは少し考えてから口を開いた。


「式の日の仕事が終わったあとから、数日お休みをいただこうと思います」

「休み?」

「孤児院に泊まりに行くことにします。今までも何度か、それでお休みをいただいたことがありますから」


 ルナが心配そうにミアを見る。


「でも、孤児院に確認されたら、すぐに分かってしまうんじゃない?」

「はい。ずっと隠せるとは思ってません」


 ミアが答えると、レオも頷いた。


「それでいい。必要なのは、いつまでも誤魔化すことじゃない」


 レオは二人を見回した。


「ルナがいなくなった時、ミアまで同時に消えたと分かれば、最初から二人で逃げたと考えられる。でも、ミアが前から休暇を取っていれば、少なくとも確認する手間は増える」

「その間に、少しでも王都から離れるんですね」

「ああ」


 ルナの言葉にレオが頷く。


「どうせ最後には、ミアが一緒だってことも知られる。大事なのは、それまでにどれだけ先に進めるかだ」


 ルナは納得したように頷いた。


「分かりました」


 レオは紙に簡単な予定を書き込んでいく。


「それから、護衛依頼のことだけど」


 レオはミアを見る。


「孤児院の院長先生に頼めないかと思ってる」

「院長先生に?」

「ああ。俺も昔から世話になってるし、ミアのこともよく知ってる。詳しい事情をどこまで話すかは別として、護衛依頼を出してもらえないか相談してみる」


 ミアは少し考えてから頷いた。


「院長先生なら、話は聞いてくれると思う」

「ただ、正式に依頼を出せば記録は残る」


 その言葉に、ルナが顔を上げる。


「お父様たちが冒険者ギルドを調べれば、分かってしまうということですか?」

「可能性は高いな」


 レオは隠すことなく答えた。


「院長先生が、俺に港町方面への護衛依頼を出した。それを調べられれば、ルナたちが西へ向かったと考えるはずだ」


 ルナは少し考え込んだ。


「……それなら、お父様たちがどこを探すのかも予想できますね」

「ああ。俺もそう考えてる」


 レオは頷いた。


「完全に行き先を隠したまま逃げるのは難しい。それなら、向こうがどんな情報を手に入れて、どう動くかをこっちも分かっていた方がいい」

「港町方面に追っ手が来ることを前提に動くんですね」

「そういうことだ」


 ルナの表情が引き締まる。


「それでも、港町を目指すことは変えません」

「ああ。ただし、追われていることは忘れるな。途中で予定を変えた方がいいと判断したら、俺の指示に従ってもらう」

「はい」


 ルナは迷わず頷いた。


「俺は王都を出たあとに通る街道と宿場町を調べておく。まずは一日ほど離れた大きな町を目指そう。そこでルナたちの冒険者登録もして、必要な物を揃える」

「お願いします」


 ルナは頭を下げる。


「ミアは宝石の換金と旅に必要な物。それから、式当日の警備について確認してくれ」

「分かった」

「一度にいろいろ動くなよ。普段と違うことをすれば目立つ」

「はい」


 最後にレオはルナを見る。


「ルナは持って行く物を決めておいてくれ」

「必要な物だけですね」

「ああ。荷物は少ない方がいい」


 ルナは真剣に頷いた。


「それと、生活魔法も練習しておきます。旅では必要になりますよね」

「その方がいい。旅じゃ、火を起こしたり水を出したりできるだけでも助かるからな」

「分かりました」


 三人は顔を見合わせる。


 まだ、決まっていないことは多い。

 裏門から本当に出られるのか。

 院長が依頼を引き受けてくれるのか。

 宝石を無事に換金できるのか。

 王都を出たあと、追っ手がどれほど早く動き出すのか。


 それでも、一人で抱えていた不安は、少しずつ具体的な計画へと変わり始めていた。


 レオは紙を丁寧に折り畳む。


「あと八日」


 その声に、ルナとミアの表情が引き締まる。


「今、一番大事なのは、何事もなかったように過ごすことだ。準備していると気付かれたら、全部無駄になる」

「はい」

「分かりました」


 レオは二人の返事を聞いて、静かに頷いた。


「じゃあ、準備を始めよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。