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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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マレットの町 4

 露店を出す場所を確認したルナたちは、月花亭に戻ってきた。


「あ、おかえりなさい!」


 受付にいたソフィーが、ルナたちに気づいて笑顔を向ける。


「どうでした? 露店、空いてましたか?」

「うん。三日後だけだけど、一か所借りられたよ」

「本当ですか! よかったですね!」


 ソフィーは自分のことのように喜んでくれた。


「場所は広場の端の方なんだけどね」

「この時期に借りられただけでもすごいですよ。私はもっと前から申し込んでましたから」

「やっぱり早く申し込まないと駄目なんだね」

「毎年人気ですから。でも、ルナさんも出すなら楽しみです!」


 ソフィーは嬉しそうに笑う。


「お互い頑張りましょうね」

「うん。頑張ろう」


 そう答えたものの、ルナたちはまだ何を売るのかさえ決めていない。

 まずはそこから考えなければならなかった。


 部屋に戻った五人は、テーブルを囲んで商品会議を始めた。


「じゃあ」


 ミアが楽しそうにルナを見る。


「何を売ろうか?」

「うーん……」


 ルナは腕を組んで考える。

 何でもいいというわけではない。

 せっかく花祭りで店を出すのだから、この町らしいものを売ってみたかった。


「やっぱり、花を使ったものがいいな」

「花?」

「うん。せっかく花祭りなんだし、安くて、たくさん用意できて……それでも花祭りらしいもの……」


 ルナは考えながら、昨日歩いた町を思い返していく。


 色とりどりの花が並ぶ花屋。

 花を使った飾りや小物。

 そして、品評会にも並んでいた、この町のもう一つの名物。


「……香水」

「香水?」


 ミアが首を傾げる。


「うん。マレットって、花だけじゃなくて香水も有名だったよね」


 昨日の品評会にも、たくさんの香水が並んでいた。

 町を歩けば香水や香油を扱う店も多く、綺麗な瓶に入ったものは見ているだけでも楽しかった。


「でも、香水は私たちが簡単に作れるものじゃないし……もっと気軽に花の香りを楽しめるもの……」


 そこまで考えて、ルナはふと思いついた。


「あ」

「何か思いついた?」


 ミアが身を乗り出す。


「匂い袋はどうかな」

「匂い袋?」

「うん。乾燥させた花を小さな布の袋に入れて、部屋に置いたり、鞄に入れたりして香りを楽しむの」


 ルナは両手で小さな袋の形を作ってみせる。


「そういえば、昨日は匂い袋ってほとんど見なかったよね?」


 ルナが尋ねると、リアムも少し考えてから頷いた。


「うん。香りを楽しむものなら、香水や香油がほとんどだったと思う」

「花もそのまま売ってる店が多かったよね」


 ミアの言葉に、ルナも頷く。


 これだけ花が身近な町なら、生花を飾ることも難しくない。

 香りを楽しむなら香水や香油もある。

 そのためなのか、匂い袋は他の町では見かけるものの、マレットではあまり目立たなかった。


「だったら、匂い袋もいいかもしれない」


 香水ほど強い香りが長く続くわけではない。

 けれど、小さな袋ならそれほど高い値段にしなくても作れそうだ。


「お祭りのお土産なら、気軽に買える方がいいと思うんだ」

「なるほどな」


 レオが頷く。


「問題は、中に入れる花だな」


 マシューの言葉に、ルナも頷いた。


「うん。香りがよくて、乾燥させても使えて、それほど高くない花……」


 昨日見た花々を思い返しながら、何が使えそうか考える。

 品評会に並んでいたような立派な花ではなく、町の花屋で見かけた、もっと身近な花。


「あ、ラベンダーならどうかな」

「ラベンダー?」

「昨日、花屋にあった紫色の小さな花」


 リアムも思い出したように頷く。


「ああ、あれね!」

「大きくて華やかな花に比べたら、そんなに高くなかったと思うの」


 小さな花をいくつもつけたラベンダーなら、袋にも入れやすそうだ。

 何より、あの香りなら匂い袋にも合う。


「それを乾燥させるのか?」


 レオに聞かれ、ルナは頷いた。


「うん。『ドライ』を使えば時間はかからないから」


 自然に乾かしていたら、三日後の出店には間に合わない。けれど、『ドライ』を使えば短い時間でも用意できる。


「それなら任せて」


 リアムが自信たっぷりに言った。


「俺も乾燥ならできるようになったから」

「最初は煮干しをカラカラにしてたけどね」


 ルナが言うと、リアムが少し不満そうな顔をする。


「あれは最初だけだろ。今はちゃんとできるよ」

「ふふっ。じゃあ手伝ってもらおうかな」

「もちろん」


 乾燥させる花が決まれば、次は袋だ。


「袋はどうするの?」


 ミアに聞かれ、ルナは少し考える。


「高い布じゃなくていいと思うんだ。布屋さんで余った端切れを安く売ってないかな。それで手のひらに乗るくらいの小さな袋を作って、ラベンダーを入れるの」

「それくらいなら私が縫えるよ」


 ミアがすぐに手を挙げた。


「難しいものは無理だけど、小さな袋なら大丈夫」

「本当? じゃあミアにお願いしてもいい?」

「任せて!」


 少しずつ商品の形が見えてきた。

 ラベンダーを『ドライ』で乾燥させ、端切れで作った小さな袋に詰める。

 最後に紐で口を結べば、花祭りのお土産らしい商品になりそうだ。


「問題は、実際にいくらで材料を揃えられるかだな」


 それまで話を聞いていたマシューが口を開く。


「そうだね。昨日見た時はそんなに高くないと思ったけど、たくさん買うならちゃんと確認した方がいいよね」

「ああ。それに、使えそうな端切れがあるかも分からない。一度市場に見に行ってみないか?」

「うん。そうしよう」


 ルナは頷いた。

 まだ本当に商品にできるかは分からない。

 まずは少しだけ材料を買って、一つ作ってみることにした。


 ルナたちは再び町に出ると、昨日立ち寄った花屋に向かった。

 店先には今日も色とりどりの花が並んでいる。

 その中から、ルナは目当ての紫色の花を見つけた。


「あった。これだよ」


 小さな花をいくつもつけたラベンダーだ。

 近づくだけでも、ほのかに香りがする。

 値段を確認してみると、やはり品評会に並んでいたような華やかな花と比べればずっと安かった。

 ルナは店員に声をかける。


「すみません。このラベンダーって、まだたくさんありますか?」

「ええ。これはこの辺じゃよく育ちますから。今ならそれなりにありますよ」

「後で、もう少したくさん欲しいんですけど……」

「それなら大丈夫だと思います。どのくらい必要ですか?」

「まだ分からなくて。今日は試しに少しだけ買いたいんです」


 どれくらいの花があれば一つの匂い袋を作れるのかも分かっていない。

 まずは試してから、必要な量を考えた方がいいだろう。

 ルナは何束か購入すると、次に布を扱う店に向かった。

 店内には様々な色や柄の布が並んでいる。


「小さな袋を作りたいんですけど、余った端切れって売っていますか?」


 尋ねると、店員が店の奥から端切れをまとめた籠を持ってきてくれた。


「これなら安くお譲りできますよ」

「わあ、いろんな色がある!」


 ミアが楽しそうに籠を覗き込む。

 大きさも色もばらばらだが、小さな袋を作るには十分だった。


「これくらいの端切れって、いつもありますか?」

「そうですね。日によって色や大きさは違いますが、仕立ての後にはどうしても余りが出ますから」


 それなら、試作が上手くいったあとに追加で買うこともできそうだ。


「じゃあ、今日はこの辺りをお願いします」


 ルナとミアで使いやすそうなものを何枚か選び、袋の口を結ぶ細い紐も一緒に購入した。


 必要な材料を揃えると、五人は月花亭に戻った。

 さっそく部屋のテーブルに買ってきたものを広げる。


「まずはラベンダーだね」


 ルナは少量を手に取った。


「ドライ」


 魔法をかけ、様子を確かめる。

 水分が抜けていくのに合わせて加減し、乾燥しすぎないところで止めた。


「香りは……」


 顔を近づけてみると、乾燥したあともしっかりと香りが残っている。


「うん。大丈夫そう」

「次は俺がやってもいい?」


 リアムも残りのラベンダーに『ドライ』を使う。


「ほら、ちゃんとできたでしょ?」

「本当だ」

「だから任せてって言ったのに」


 得意そうなリアムに、ルナは小さく笑った。

 一方、ミアは端切れを小さく切り、手早く縫い合わせていく。


「こんな感じ?」

「うん。ちょうどいいと思う」


 出来上がった袋に乾燥させたラベンダーを入れ、最後に紐で口を結ぶ。

 手のひらに収まる、小さな匂い袋が完成した。


「できた!」


 ミアが嬉しそうに手に取る。


「可愛いね」


 ルナも出来上がったものを眺める。

 華やかな香水瓶とはまったく違う、素朴なものだ。

 けれど、袋を近づければラベンダーの優しい香りがする。


「これならいいんじゃないか?」


 レオも匂いを確かめながら言った。


「うん。お祭りのお土産にもできそう」


 リアムも頷く。


「問題は値段だな」


 マシューの言葉に、ルナは買ってきた材料の値段を思い出しながら考える。

 ラベンダーと端切れ、紐。

 一つ作るのに必要な量を考えれば、それほど高い値段にする必要はなさそうだった。


「これくらいならどうかな?」


 ルナが考えた金額を伝えると、マシューが少し考える。


「売れれば赤字にはならないな。ただ、利益はあまり残らないぞ」

「最初だから、それでいいかなって」


 ルナは出来上がった匂い袋を見る。


「今回は一日だけだし、まずは買ってもらえるか試してみたい。それに、香水より気軽に買えるものにしたかったから」

「まあ、それならいいんじゃないか」


 マシューもそれ以上は言わなかった。

 値段もだいたい決まり、これで何とか形になった。


「じゃあ、匂い袋をたくさん作ればいいんだね」

「うん。必要な数を考えて、明日また材料を——」

「でも、ルナ」


 ミアがふと口を挟んだ。


「料理はしないの?」

「……料理?」


 思いがけない言葉に、ルナは目を瞬く。


「せっかく自分のお店を出すのに、料理は何も売らないの?」

「それは……」


 そう言われて、ルナは考え込んだ。

 花祭りらしいものを考えることに夢中で、料理を売ることまでは考えていなかった。


「料理かぁ……」


 花祭りの露店で売るなら、どんなものがいいだろう。

 ルナは昨日歩いた、賑やかな祭りの広場を思い浮かべた。

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