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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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ハセンの町 6.

 翌朝。

 ルナたちはメドウ亭の食堂で朝食を囲んでいた。


「そうだ、ルナ。昨日のことなんだけど」


 パンを食べていたミアが、思い出したように顔を上げる。


「マシューに、弓とか護衛の仕方を教えてもらうことになったの!」

「本当?」

「うん。昨日、レオと一緒にお願いしたんだ」


 嬉しそうなミアの隣で、レオも頷く。


「俺も剣を見てもらうことになった。どうも癖がついてるらしくてな」

「そうなんだ」

「ああ。今までずっと自己流だったからな」


 ルナは二人を見て、それからマシューに視線を向けた。


「マシュー、ありがとう」

「気にするな。旅の間、時間がある時に見るだけだ」

「それでも嬉しいよ」


 ミアもレオも、自分からもっと強くなりたいと思って動き出したのだ。

 ルナも二人を応援したかった。


「ルナたちは昨日、ずっと魔法の話をしてたの?」


 ミアに聞かれ、ルナは頷いた。


「うん。生活魔法と属性魔法の違いを教えてもらったり、水属性について話したりしてたよ」

「俺は調べたいことが増えたけどね」


 リアムが楽しそうに言う。


「水属性で水を凍らせられるのかとか、雷属性を魔道具に応用できないかとか」

「……なんか難しそう」


 ミアが首を傾げる。


「まだできるかどうかも分からないよ」

「できるまでやりそうだな」


 レオが言うと、マシューが静かに頷いた。


「こいつは一度気になったら、納得するまでやるからな」

「いいじゃん。面白そうなんだから」


 リアムはまったく気にした様子もなくパンを口に運んだ。

 それぞれ昨日は別々に過ごしていたが、みんな新しくやりたいことができたらしい。


「私、今日は料理をしたいな」

「料理?」


 真っ先に反応したのはミアだった。


「この前もらったライサ、まだ残ってるでしょ? それに、ハセンで買ったチーズもあるから、二つを使って作ってみたいものがあるの」

「ライサとチーズ?」

「うん。この前食べたものとは、全然違う料理だよ」


 そう言うと、ミアの目が輝いた。


「食べたい!」

「俺も気になるな」


 レオも興味を示し、リアムも楽しそうに笑う。


「俺も。あのライサがどう変わるのか気になる」


 マシューは何も言わなかったが、反対する様子もない。


「じゃあ決まりだね。足りない材料があるから、あとで市場に行ってくる」


 朝食を終えると、ルナは食堂にいたセージのところに向かった。


「セージさん、少しいいですか?」

「どうした?」

「今日の午後、また調理場をお借りしてもいいですか? 作ってみたい料理があって」

「ああ、構わないよ。昼の片付けが終わったあとなら空いてるから、好きに使ってくれ」

「ありがとうございます!」


 無事に調理場も借りられた。


「それじゃあ、市場に行こうか」

「うん!」


 ミアが元気よく返事をする。

 ルナたちは料理に必要な材料を揃えるため、朝の市場に向かった。


 市場に着くと、ルナは並んでいる食材を眺めながら歩き始めた。


「チーズはこの前買ったのがまだ残ってるから……あとは何を入れようかな」

「何を作るかは決まってるんじゃないの?」


 隣を歩くミアに聞かれ、ルナは頷く。


「作るものは決まってるよ。でも、入れる具材は色々変えられるから」


 まず目に入ったのは、籠いっぱいに積まれた玉ねぎだった。


「玉ねぎは入れたいな」

「じゃあ買おう!」


 ミアと一緒に状態のいいものを選び、いくつか購入する。

 さらに市場を歩いていると、今度はキノコを並べた店があった。


「キノコもいいかも」


 数種類が並んでいたが、その中から香りのよさそうなものを選ぶ。


「玉ねぎとキノコと……あとはお肉も少し欲しいかな」

「普通のお肉?」

「それでもいいけど、燻製したものがあれば——」


 探してみると、燻製にした豚肉を扱う店が見つかった。

 塩気もあるというので少量を買う。


「これで具材は十分かな」

「ライサとチーズに、玉ねぎとキノコとお肉?」

「うん。絶対美味しいと思う」


 想像するだけで楽しみになってくる。

 そのまま歩いていると、穀物を扱う店が目に入った。

 小麦や潰し麦など、いくつもの穀物が袋に入れられて並んでいる。


「あっ」


 ルナはその一角を見つけて足を止めた。


「ライサだ」


 牧場でもらったものと同じ、白っぽい粒が袋に入って、少量だけ置かれていた。


「ちゃんと売ってるんだ……」


 家畜の餌として使われることが多いと聞いていたが、人が食べるために処理されたものも、こうして扱われているらしい。値段もそれほど高くない。


「ルナ、買うの?」

「うん。牧場でもらった分だけじゃ、すぐなくなっちゃうから」


 これから作ってみたい料理はいくつもある。

 そう考えていると、ふと気になった。


「ねえ、マシュー」

「どうした?」

「これって、王都でも買える?」


 エレンジアのことなら、自分たちよりマシューの方が詳しい。マシューは店先のライサを見てから答えた。


「探せばあるとは思うぞ。ただ、王都ではあまり食べてるのを見ないから、どこの店でも置いてるわけじゃないだろうな」

「そっか……」

「ハセン周辺の方が手に入りやすい穀物なんだろうな。でも、王都なら店に置いてなくても相談すれば取り寄せてもらえると思うぞ」

「本当?」

「定期的に欲しいなら、その方が確実かもしれないな」


 それを聞いて、ルナはほっとした。


「よかった。じゃあ、ここでは旅の途中で使う分を買っておこうかな」

「そんなに気に入ったんだね」


 リアムが笑う。


「うん。だって、ライサがあれば作れる料理がいっぱいあるから」

「この前は炊いただけだったんだよね」

「そう。あれは最初だから、そのまま食べたかったの。でも次からは色々作ってみるつもり」


 ルナは楽しみながら、持ち運びに困らない程度のライサを購入した。

 必要な材料を揃え終わる頃には、持ってきた袋の中も随分賑やかになっていた。


「これで全部かな」

「じゃあ宿に戻る?」

「うん。午後になったら早速作ろう」


 ライサに、玉ねぎ、キノコ、それから燻製肉。

 ハセンで買ったチーズもまだ残っている。

 必要なものが揃ったことを確認して、ルナたちはメドウ亭へ戻ることにした。


 昼を過ぎた頃、ルナたちはセージに声をかけ、調理場に向かった。


「調味料はここにあるものを使っていいからな」

「ありがとうございます」


 塩や胡椒など、必要なものは宿のものを借りることにした。

 ルナは市場で買ってきた食材を調理台の上に並べる。

 ライサ、玉ねぎ、キノコ、燻製肉。

 それから、先日市場で買ったハセンのチーズだ。


「じゃあ、作ろうか」

「何からやる?」


 ミアが早速隣に立つ。


「まずは具材を切ろう。ミアはキノコをお願いしていい?」

「任せて!」

「レオはこっちのお肉をお願い」

「ああ」


 すっかり慣れた様子で二人が作業を始める。

 ルナも玉ねぎを細かく切り、すべての具材が揃ったところで鍋を火にかけた。

 バターを落とすと、熱でゆっくりと溶けていく。

 そこに玉ねぎを入れて炒める。


「いい匂い……」


 ミアが鍋を覗き込んだ。


「まだ始まったばっかりだよ」


 玉ねぎがしんなりしてきたところで、燻製肉とキノコも加える。

 炒めていくうちに、バターと燻製肉の香ばしい匂いが調理場に広がっていった。


「これだけでも美味しそうだな」


 レオの言葉に、ルナも笑う。


「でも、今日はここからだからね」


 具材に火が通ったところで、ルナは買ってきたライサを取り出した。


「ライサもそのまま入れるの?」

「うん。今日はこの前みたいに先に炊かないよ」


 鍋にライサを加え、具材と一緒に軽く炒めていく。

 ライサの表面にバターが馴染んだところで、水を注いだ。


「これで炊くの?」

「そう。でも、ご飯を炊く時とは少し違うよ」


 塩で味を整え、そのまま弱めの火で煮ていく。

 一度に水を入れすぎず、ライサが水分を吸うたびに少しずつ足していく。時々鍋底から返すように混ぜながら、ライサが柔らかくなるのを待った。

 しばらくすると、硬かったライサが水分を吸ってふっくらとしてきた。


「そろそろかな」


 ルナはライサの味見をする。

 少しだけ芯を感じるものの、ちょうどいい硬さになっている。


「よし」


 最後に取り出したのは、ハセンで買ったチーズだった。

 細かくしたチーズをたっぷりと鍋に入れる。


「そんなに入れるの?」

「せっかくチーズが美味しい町なんだから、たっぷり入れようよ」

「賛成!」


 ミアが嬉しそうに頷く。

 さらに少量のバターを加え、全体をゆっくり混ぜ合わせる。

 熱でチーズが溶け、ライサと具材を包み込んでいく。

 仕上げに胡椒を振れば完成だ。


「できた!」


 鍋の中には、とろりとしたチーズが絡んだライサと具材がたっぷり入っている。

 バターとチーズの濃厚な香りに、燻製肉やキノコの香りも重なっていた。


「これが作りたかった料理?」

「うん」


 ルナは満足そうに頷く。


「チーズリゾットっていうの」


 この前は、久しぶりに食べられたというだけで嬉しかった白いご飯。

 けれど、ライサはそのまま食べるだけではない。

 いろいろな食材と合わせて、まったく違う料理にもできる。


「じゃあ、温かいうちに食べよう」


 ルナは出来上がったチーズリゾットを器によそい始めた。


「セージさん、よかったら味見してみませんか?」


 ルナは出来上がったリゾットを小さな器によそった。


「俺もいいのか?」

「もちろんです。調理場も調味料も貸してもらいましたから」

「それじゃあ、いただこうかな」


 セージはスプーンですくい、まだ湯気の立つリゾットを口へ運んだ。


「……うまいな」

「本当ですか?」

「ああ。チーズの味がしっかりしてる。それに、ライサがこんな料理になるとは思わなかった」


 セージは驚いたように器の中を見る。


「この辺じゃ家畜の餌に使われることの方が多いからな。俺らが食べる時も、柔らかく煮るくらいだからな」

「作り方はそんなに難しくないですよ」


 ルナは使った材料と作り方を簡単に説明した。

 玉ねぎや燻製肉、キノコを炒め、そこにライサを加える。

 水を足しながら柔らかくなるまで煮て、最後にチーズとバターを混ぜる。


「具材は他のものでも大丈夫だと思います。季節の野菜を入れても美味しいはずです」

「なるほどな」


 セージは感心したように頷いた。


「それならうちでも作れそうだ。今度試してみるよ」

「ぜひ」


 ハセンであまり食べられていなかったライサが、この町のチーズと一緒に新しい料理になる。

 そう考えると、ルナも嬉しくなった。

 セージに味見をしてもらったあとは、五人で食堂の一角を借りて出来上がったリゾットを囲んだ。


「いただきます!」


 真っ先に口に運んだミアが、ぱっと表情を明るくする。


「美味しい!」

「本当?」

「うん! ライサだけの時より、こっちの方が好き!」

「俺もだな」


 レオも頷いた。


「この前のは少し物足りなかったけど、これは味がしっかりしてる」

「チーズとも合うんだね」


 リアムも興味深そうに食べている。


「同じものなのに、この前とは全然違う」

「ライサっていろんな料理に使えるんだよ。これ以外にも作ってみたいものがたくさんあるの」

「じゃあ、これからも食べられる?」

「もちろん」

「楽しみにしてる」


 リアムが笑う。

 ルナも自分の分を口に運んだ。

 チーズの濃厚な味に、燻製肉の塩気とキノコの旨味がよく合っている。

 この前食べた白いご飯とはまったく違うが、こちらも懐かしい味だった。


「あ」


 不意にミアが声を上げた。


「マシュー、もう二杯目食べてる!」


 見ると、マシューはいつの間にか空になった器に二杯目をよそっていた。


「駄目なのか?」

「駄目じゃないけど! また何も言わずに食べてるから」

「前に決めただろ。俺が黙って二つ目を食べたら、うまいってことにするって」

「そうだけど……本当にそれで済ませるつもりなの?」

「ああ」

「もう!」


 ミアが呆れた声を上げる。

 そのやり取りに、ルナたちは揃って笑った。

 どうやら今回の料理は、この前の白いご飯よりもみんなに気に入ってもらえたらしい。

 食事を終えたあとも、そのまま五人でのんびりと話していた。


「そういえば、そろそろ次の町のことも考えないとね」


 ルナが言うと、レオが頷く。


「ハセンにも何日かいるしな」

「次はどこに行くの?」


 ミアの問いに、レオが地図を広げた。


「このまま王都に向かうなら、次はマレットだな」

「マレット……」


 初めて聞く町の名前に、ルナが地図を覗き込む。

 するとマシューが何かを思い出したように口を開いた。


「今の時期なら、ちょうど花祭りをやってるんじゃないか?」

「花祭り?」


 ルナとミアが同時に顔を上げた。


「ああ。毎年この時期にやってる祭りだ。町中に花を飾って、露店なんかもかなり出る」

「お祭り!」

「露店!」


 ミアとルナがほとんど同時に声を上げる。


「ルナ、行きたい!」

「私も!」

「決まるの早いな」


 レオが苦笑する。


「だって、お祭りだよ?」

「どんな食べ物があるんだろう」

「ルナはそっちか」


 マシューに言われ、ルナは少しだけ頬を膨らませた。


「お祭りも楽しみだよ。でも、そこでしか食べられないものがあるかもしれないでしょ?」

「やっぱり食べ物じゃないか」


 リアムが笑う。


「じゃあ、次の目的地はマレットで決まりだね」

「うん!」


 ハセンでは、懐かしい米を見つけた。

 それだけでなく、料理を仕事にするという新しい道も知り、ミアとレオにも新しい目標ができた。

 旅を始めた頃には想像していなかったことが、少しずつ増えている。

 そして次に待っているのは、花祭りが開かれている町。


(マレットでは、どんなものに出会えるんだろう)


 まだ見ぬ町を思い浮かべながら、ルナは次の旅を楽しみにしていた。

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