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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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ハセンの町 3.

 翌朝。

 朝食を取りながら、ルナたちは今日の予定について話していた。


「昨日は依頼を受けたけど、今日はどうしようか」

「俺は特にないな」

「あたしも。牧場も見たしね」


 ミアが答える。

 ハセンに来てから、市場を回り、牧場の依頼も終えた。

 急いで次の町に向かう予定もないので、今日はゆっくり過ごしてもいいかもしれない。

 そんな話をしていると、マシューがルナを見た。


「予定がないなら、ルナに少し話があるんだが」

「私に?」

「ああ」


 何の話だろう。

 ルナは不思議に思いながらも頷いた。


「分かった」


 朝食を終えたあと、五人は一度部屋に戻ることにした。


◇◇◇


「商業ギルド?」


 部屋に集まったところでマシューから出てきた言葉に、ルナは首を傾げた。


「名前くらいは聞いたことあるけど……」


 冒険者ギルドなら、今では何度も利用している。

 けれど商業ギルドには、これまでほとんど縁がなかった。


「簡単に言えば、商売をする人間のためのギルドだな」


 マシューはそう前置きして説明を始めた。


「登録すれば、自分で作った物を売ったり、ギルドに商品を預けて販売してもらったりできる」

「自分で作った物……」

「ああ。最初は小さな商売から始めて、商人として実績を積めば、できることも増えていく」

「冒険者ギルドみたいにランクもあるの?」

「ああ。信用にも関わる」


 ルナは感心しながら話を聞く。

 冒険者ギルドとはまったく違う場所だと思っていたが、登録して実績を積み、信用を得ていくところは少し似ているらしい。


「でも、どうして急に商業ギルドの話を?」


 ルナが尋ねる。

 するとマシューは少し間を置いてから答えた。


「この前作ってたムギボなんだが、売ってみたらどうかと思ってな」

「……ムギボを?」


 思ってもいなかったことを言われ、ルナは目を瞬いた。


「でも、あれは旅の途中で食べるために作ったもので……」

「それは分かってる。ただ、需要はあると思うぞ」


 マシューの言葉に、リアムも頷く。


「俺もそう思う。研究所に置いてあったら買う人はいるんじゃないかな。手軽に食べられるし、ある程度日持ちもするんでしょ?」

「うん。持ち歩くことを考えて作ってるから」

「だったら研究所にはちょうどいいよ。食事を忘れる人もいるって話したでしょ」

「お前みたいにな」

「だから、たまにだって」


 二人のやり取りを聞いていたレオも口を開く。


「俺は冒険者にも売れると思う。依頼に持っていける食い物は多い方がいいからな」

「そうかな?」

「俺たちも食べてて便利だろ」


 思っていた以上に賛成され、ルナは戸惑いながらムギボを思い浮かべた。

 自分たちが食べるために作ったものを、誰かがお金を出して買う。

 今まで考えたこともなかった。


「騎士団にもいいかもしれないな」


 今度はマシューが言った。


「遠征や訓練の時に持っていける。保存できる期間や値段にもよるが、携帯食としては使いやすいと思う」

「……騎士団?」


 ミアが反応した。


「マシュー、騎士団のことも詳しいの?」

「ああ。俺も前は騎士団にいたからな」

「えっ!?」


 ミアが驚いてマシューを見る。


「マシュー、騎士だったの!?」

「ああ」

「初めて聞いたんだけど!」

「言ってなかったか?」

「聞いてないよ!」


 ミアがレオを見るが、レオも知らなかったらしく首を横に振っている。

 リアムだけは当然知っているので、平然としていた。


「その話は長くなる。今はルナの話だ」

「気になるけど……」


 まだ何か聞きたそうなミアを置いて、マシューはルナに話を戻した。


「ナキールで宝石を売ってただろ?」

「うん」


 ルナは頷く。

 旅を続けるための資金として、家を出る時に持ってきた宝石を少しずつ売っている。


「今すぐ困るわけじゃなくても、いつかはなくなる。それだけを旅の資金にするのにも限界があるだろ」

「それは……そうだね」


 宝石は売ればお金になる。

 けれど、当然ながら使えば減っていく。


「だが、自分で作れるものなら、材料さえあればまた作れる」

「また作れる……」

「ああ。だったら、自分で作れるものを売って旅の資金にする方法も考えていいんじゃないか?」


 ルナはすぐには答えず、マシューの言葉を考えた。

 料理はこれまで、自分たちが食べるために作ってきた。

 誰かに食べてもらって喜ばれるのは嬉しかったけれど、それを売るという考えはなかった。

 けれど、ムギボを欲しいと言ってくれる人が本当にいるのなら——。

 それは確かに、旅を続けるための新しい方法になるのかもしれなかった。


 マシューは少し間を置いてから、続けた。


「それに、昨日の討伐のことも少し気にしてただろ」

「……気づいてたの?」

「ああ」


 あの時、マシューに何でもないと答えた。

 それ以上聞かれなかったから、気づかれていないと思っていた。

 ルナは少し迷ってから、ミアとレオを見る。


「昨日みたいな討伐だと、私にできることが少なくて。このまま二人と一緒に依頼を受けてていいのかなって……」

「何言ってるの?」


 ミアは不思議そうに首を傾げた。


「昨日だって、ルナがもう一匹のゴブリンに気づいてくれたじゃん」

「ああ。それに討伐だけが依頼じゃないだろ」


 レオも気にした様子もなく続ける。


「採取もあるし、昨日みたいに調査が一緒になってる依頼もある。ルナができることをやればいい」

「……うん」


 二人とも、本当に気にしていないらしい。

 そのことに少し安心していると、マシューが口を開いた。


「冒険者の依頼が楽しいなら、無理にやめる必要はないと思うぞ」


 ルナはマシューを見る。


「ただ、冒険者ギルドだけにこだわる必要もないだろ」

「冒険者ギルドだけに……」

「ああ。依頼を受けながら、作ったものを売ったっていい。できることが一つじゃなきゃいけない理由はないからな」


 冒険者として依頼を受けながら、自分の作ったものを売る。そんな旅の仕方もあるのだと、ルナは初めて知った。


「まあ、今すぐ決める必要はない。ゆっくり考えればいい」


 マシューはそう言ってから、さらに付け加える。


「もし興味があるなら、王都に着いた時に信用できる商人を紹介することもできるから、実際に話を聞いてから考えてもいい」

「信用できる商人……」

「ああ。商売を始めるなら、分からないことも多いだろ。最初から一人で全部やる必要はない」

「……ありがとう、マシュー」


 ルナが礼を言うと、マシューは「ああ」と短く答えた。


 冒険者の依頼を続けながら、料理を売る。

 旅を始めた時は、とにかく家から離れて、自分たちで生活していくことしか考えていなかった。

 そのために冒険者ギルドに登録し、できる依頼を受けてきた。

 けれど、これからも旅を続けるのなら、冒険者の依頼だけで安定して旅費を稼げるとは限らない。


 ルナは自分の手を見つめた。

 魔物を倒すことはできない。

 それでも、自分にできることは他にもある。


 料理を作ること。

 知らない食材の使い方を考えること。

 生活魔法を工夫すること。


 前世では、食に関わる仕事に就きたいと思っていた。

 それなのに、この世界で自分の料理を仕事にすることは、今まで考えてもいなかった。

 冒険者としてできないことばかりを気にしていたけれど、何も冒険者だけにこだわる必要はないのかもしれない。


(商業ギルドか……)


 まだ、どうしたいのかは分からない。

 それでもマシューに教えてもらった新しい選択肢は、ルナの中にしっかりと残っていた。


◇◇◇


 その日の夕方。

 ミアは部屋で荷物を整理しながら、少し離れたところにいるルナに目を向けた。

 ルナはベッドに腰掛け、何かを考えている。

 きっと、朝にマシューから聞いた話のことだろう。

 商業ギルドに登録して、自分で作ったものを売る。


 ミアも、ムギボなら売れると思う。

 ルナが作る料理は美味しいし、今までだって知らなかった食材をいくつも料理に変えてきた。

 それを仕事にできるのなら、きっとルナに向いている。

 そう思ったところで、ミアはふと自分の手を見た。


(じゃあ、あたしはどうしたいんだろう)


 家を出ると聞いた時は、ルナと一緒に行くことしか考えていなかった。

 一人にはしたくなかった。

 それに、自分もルナと一緒にいたかった。

 その気持ちは今も変わっていない。

 けれど、旅に出てからいろいろなことがあった。

 冒険者になって、弓の使い方も覚えた。

 昨日の依頼では、自分の弓でゴブリンを倒すことができた。

 まだまだレオには及ばない。

 それでも、もっと上手くなれば。


(あたしも、もっとルナの力になれるかな)


 ルナは戦えない。

 だからこそ、自分がもっと強くなりたい。

 何かあった時に、ルナを守れるようになりたい。

 そう考えると、じっとしていられなくなった。


「ルナ、あたしちょっとレオのところに行ってくるね」

「レオのところ?」

「うん。ちょっと話があるの」

「分かった」


 ルナにそう告げて、ミアは部屋を出た。


「レオ、ちょっといい?」


 部屋を訪ねると、レオはすぐに中に入れてくれた。


「どうした?」

「ちょっと相談したいことがあって」


 ミアは椅子に座ると、少し考えてから口を開いた。


「あたし、もっと強くなりたい」


 その言葉に、レオは驚かなかった。

 むしろ、どこか納得したような顔をする。


「……やっぱりか」

「やっぱり?」

「ああ。俺も同じことを考えてた」

「レオも?」


 ミアが聞き返すと、レオは頷いた。


「この先も旅を続けるなら、今のままで満足してちゃ駄目だって」


 これから先、どんな町に行くのか分からない。

 道中で魔物に遭うこともあるだろう。

 今までは大きな危険に遭わないよう、レオが依頼を選んできた。

 けれど、それだけではいつまでも変わらない。


「俺ももっと強くなりたいし、冒険者としてランクも上げたい」

「あたしも。もっと弓が上手くなりたい」


 ミアは自分の手を握る。


「ルナが自分にできることを見つけようとしてるなら、あたしも自分にできることを増やしたい。それに……」


 少しだけ間を置いて、続ける。


「何かあった時、ちゃんとルナを守れるようになりたい」

「ああ。それは俺も同じだ」


 レオは迷うことなく答えた。

 その言葉に、ミアは少し嬉しくなった。


「でも、強くなるっていっても、どうしたらいいんだろう」

「そこなんだよな」


 レオは腕を組む。

 依頼を受けて経験を積むことはできる。

 けれど、自分たちだけで続けていて、それで十分なのかは分からない。

 そこでミアは、朝の会話を思い出した。


「……マシュー」

「ん?」

「マシューって、騎士団にいたんだよね」

「ああ」

「だったら、一度相談してみない?」


 レオもすぐに意味が分かったらしい。


「俺たちよりずっと戦いの経験もあるだろうし、自分たちだけじゃ分からないことも教えてもらえるかもしれない」


 レオは少し考えてから頷いた。


「頼んでみるか」

「うん!」


 二人は顔を見合わせると、そのまま立ち上がった。

 マシューが引き受けてくれるかは分からない。

 それでも、今より強くなるために何をすればいいのか。

 まずは聞いてみよう。

 二人はマシューの部屋に向かった。

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