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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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ナキールの町 6.

 翌朝。

 朝食を終えたルナたちが席を立とうとしたところで、ダグに呼び止められた。


「ルナ、ちょっと待ってくれ」

「はい?」

「渡したいものがあるんだ」


 ダグはそう言うと、一度厨房の奥に引っ込み、小さな袋を持って戻ってきた。


「ほら」

「何ですか?」


 受け取った袋を開いてみる。

 中に入っていたのは、薄く削られた茶色い欠片だった。


「あっ」


 ルナはすぐに気づいた。


「これ、この前の!」

「ああ。あの硬い魚だ」


 以前、市場で見つけた鰹節によく似た食材。

 あの時はあまりの硬さに削るのも一苦労だった。


「時間がある時に少しずつ削っておいたんだ。使うんだろ?」

「いいんですか?」

「ああ。俺もあの出汁は気に入ったからな」

「ありがとうございます!」


 ルナは嬉しくなって、もう一度袋の中を覗いた。

 これだけあれば、何度か出汁を取ることができそうだ。


「それとな」


 ダグが続ける。


「今度、道具屋に相談してみようと思ってる」

「道具屋?」

「これを削る道具だよ。毎回包丁で削るのは大変だからな」

「あ……!」


 ルナは顔を上げた。

 以前、ローサから『道具を作ってもらったらどうか』と言われた時は、ルナ自身もなるほどと思ったものだ。


「それ、いいと思います!」

「だろ? もっと簡単に削れるようになれば、うちでも使えるしな」

「はい。出汁が取りやすくなりますね」


 ダグもあの味を気に入ってくれたらしい。

 自分が見つけた食材を、この世界の人も美味しいと思い、さらに使いやすくしようとしてくれている。

 それがなんだか嬉しかった。


「道具ができたら、また見せてください」

「ああ。うまくできたらな」


 ダグと別れ、ルナはもらった袋を大切に抱える。


「よかったね、ルナ」

「うん!」


 ミアに答えながら、もう一度中身を見る。

 この削った魚があれば、出汁を使った料理もいろいろ作れそうだ。

 そう考えていたところで、ふと別のものが頭に浮かんだ。


(そういえば……煮干しも欲しいな)


 前世では、鰹節と同じくらい馴染みのある出汁の材料だった。

 小魚を使って作る煮干し。

 ナキールなら、小魚はいくらでも売っている。


(それに、小魚なら……)


 ルナは袋の中の薄い削り節を一枚つまむ。

 これほど硬く大きなものを作るのは難しい。

 けれど、小さな魚なら『ドライ』でも乾燥させやすいのではないだろうか。

 ハッカソウを乾燥させた時のことを思い出す。


(試してみる価値はあるかも)


「ミア、レオ」

「何?」

「どうした?」


 ルナは二人を振り返った。


「これから市場に行かない?」


 その顔を見て、レオがわずかに眉を寄せる。


「……また何か見つけたのか?」

「まだ見つけてないよ」

「じゃあ、何するの?」


 ミアに聞かれ、ルナは笑った。


「ちょっと作ってみたいものがあるの」

「やっぱり何かするんじゃないか」

「いいでしょ。せっかく港町にいるんだから」


 呆れたように言うレオを気にすることなく、ルナはもらった削り節の袋を抱えて立ち上がる。


 目当ては、小さな魚。

 うまくいくかは分からない。

 それでも、思いついてしまえば試してみたくなる。


「じゃあ、市場に行こう!」


 ルナは楽しそうに二人を誘った。


 市場に着いたルナたちは、早速魚を扱う店を見て回った。

 大きな魚から手のひらほどのものまで、さまざまな魚が並んでいる。

 その中から、ルナは煮干しに使えそうな小魚を探した。


「これくらいがいいかな」


 目に留まったのは、小指より少し長い程度の小さな魚だった。

 値段も安い。

 ルナは店の人に話を聞き、まとまった量を購入した。


「こんな小さい魚、どうするの?」


 袋を覗き込みながらミアが尋ねる。


「煮干しを作るの」

「にぼし?」

「出汁を取るためのものだよ。この前の硬い魚とは違うけど、これもいい味が出るの」

「へえ」

「それを『ドライ』で作るのか?」


 レオに聞かれ、ルナは頷いた。


「うん。うまくいけばだけどね」


 材料を手に入れた三人は、そのまま宿に戻った。

 ローサに厨房の一角を借り、ルナは買ってきた小魚を広げた。

 まずは簡単に下処理をしてから、鍋で茹でていく。


「これで食べるの?」

「まだだよ」


 ミアの問いに笑いながら答え、茹で上がった小魚を取り出す。

 水気を切り、少し冷ましてから布の上に並べた。


「本当なら、ここからしっかり乾燥させたいんだけど……」


 ルナは一匹を手に取る。

 自然に乾燥させるとなれば時間がかかる。

 けれど、今のルナには試してみたい方法があった。


「ドライ」


 小魚を意識しながら魔法を使う。

 ハッカソウを乾燥させた時と同じように、急激にではなく、少しずつ水分を抜いていくイメージだ。

 一度で完全に乾燥させようとはせず、状態を確かめながら何度か繰り返す。

 やがて、先ほどまで柔らかかった小魚が乾いていった。


「……うん。できそう」

「これが煮干し?」

「まだ試しに作っただけだけど、こんな感じ」


 ルナは満足そうに頷いた。

 少なくとも、『ドライ』で小魚を乾燥させることはできるらしい。

 しかし、買ってきた魚はまだたくさん残っている。

 ルナはそれを見てから、ミアとレオに顔を向けた。


「二人も手伝ってくれない?」

「あたしたちも?」

「『ドライ』なら使えるでしょ?」

「使えるけど……食べ物に使ったことないよ」

「俺もないな」

「大丈夫。私も最初はハッカソウで試しただけだから」


 そう言って、ルナは二人にやり方を説明する。


「一気に乾かそうとしないで、少しずつ水分を抜く感じ。普通に濡れたものを乾かす時より、弱く使った方がいいと思う」

「少しずつ……」


 ミアが真剣な顔で小魚を見つめる。


「ドライ」


 魔法を使い、しばらくしてから魚に触れる。


「どう?」

「まだ柔らかいかな」

「じゃあ、もう一回?」

「うん」


 隣ではレオも試していた。


「これ、加減が難しいな……乾かしすぎた」

「レオ、これはちょっと硬すぎるかも」

「服ならこんな面倒じゃないんだけどな」

「服なら乾けば終わりだけど、食べ物だからね」

「戦うより面倒じゃないか?」

「そんなことないよ」

「ルナはそうだろうな」


 レオが呆れたように返す。

 最初は二人とも加減が分からず、何度も魚の状態を確認していた。

 それでも繰り返しているうちに、少しずつ感覚を掴んできたらしい。


「あ、今度はいいんじゃない?」


 ミアが嬉しそうに乾燥させた小魚を見せる。


「うん。さっきよりずっといいよ」

「こっちもこんなもんか?」

「見せて」


 レオのものも確認する。


「うん、大丈夫そう」

「やっとか」


 三人で手分けして『ドライ』を使っていくと、残っていた小魚も少しずつ乾燥していった。

 気づけば、昼もだいぶ過ぎている。


「これなら今日中に全部できそうだね」

「三人いると早いね」

「二人に手伝ってもらって正解だった」


 ルナが笑いながら、次の小魚に手を伸ばした。

 その時だった。


「……何してるの?」


 不意に、後ろから聞き覚えのある声がした。


「え?」


 ルナの手が止まる。

 ミアも同時に振り返った。

 そこに立っていたのは——。


「リアム!?」

「マシューも!」


 二人が驚いて声を上げる。

 リアムはそんな二人を見て、楽しそうに笑った。


「よかった。まだいた」


 その隣では、マシューがいつものように落ち着いた顔をしている。

 一方、レオだけは大して驚いた様子もなく二人を見た。


「……やっぱり来たか」


 今度はリアムが目を瞬いた。


「やっぱり?」

「やっぱりって……レオ、リアムが来るって分かってたの?」


 ミアが驚いたように尋ねる。


「分かってたってほどじゃない。ただ、なんとなくだ」

「なんとなく?」

「あの時、妙に俺たちの予定を聞いてただろ」

「あ……」


 言われて、ルナも別れ際の会話を思い出す。

 確かにリアムは、ナキールにどのくらい滞在するのか、その後は王都へ向かうのかと聞いていた。


「あと、マシューの反応」


 レオが今度はマシューに目を向ける。


「俺?」

「ああ。また何か始まったって顔してただろ」

「……そんな顔してたか?」

「してた」


 レオが言うと、ミアが感心したように頷く。


「レオ、よく見てるね」

「二人が気づかなさすぎなんだよ」

「えー?」


 納得できない様子のミアの隣で、ルナも首を傾げる。

 リアムはそんな三人のやり取りを聞きながら笑っていたが、ふと机の上に並べられた小魚へ目を向けた。


「ところで、さっきから何してるの?」

「煮干しを作ってるの」

「にぼし?」

「この小魚を乾燥させたもの。料理に使うんだよ」

「乾燥って……『ドライ』で?」

「うん」


 リアムが興味を示したように、乾燥途中の小魚を手に取る。


「前も、お茶にする植物を『ドライ』で乾燥させたって言ってたよね」

「ハッカソウのこと?」

「そう、それ」

「今回も同じような感じ。小魚なら乾燥させやすいかなと思って」

「へえ……」


 リアムは小魚と、完成した煮干しを見比べる。


「俺もやってみていい?」

「いいけど、普通に『ドライ』を使うより弱くした方がいいよ」

「分かった」


 リアムは早速、まだ乾燥させていない小魚を一匹選んだ。

 手を向ける。

 次の瞬間——。


「あっ」


 小魚が急激に乾いていく。

 ルナが止めるより早く、見るからに水分が抜けすぎた状態になってしまった。


「……失敗?」


 リアムが小魚を持ち上げる。


「強すぎるよ」


 ルナは思わず笑った。


「もっと弱く。少しずつ水分を抜く感じ」

「これでもかなり弱くしたんだけど」

「リアムは魔力が多いんじゃないか?」


 レオが横から言う。


「もっと抑えないと駄目か」


 リアムは失敗した小魚をしばらく眺めたあと、すぐに次の一匹を手に取った。


「じゃあ、これくらいかな」


 今度は先ほどより慎重に魔力を調整する。

 ルナも隣から魚の状態を見守る。

 少しずつ水分が抜けていき——やがて、先ほどルナたちが作ったものとほとんど変わらない状態になった。


「……できた」

「うん。今度は大丈夫」

「もうできたの?」


 ミアが驚く。


「あたしたちは何回かやったのに」

「魔力を抑えるのは慣れてるから」


 リアムはそう言うと、完成した煮干しを手のひらに乗せ、興味深そうに眺めた。


「今度は魚か。ほんと、いろんな使い方するね」


 そして、小さく笑う。


「面白いな」


 そのままリアムも加わり、残っていた小魚を乾燥させていく。

 人数が増えたこともあり、作業はそれほど時間もかからなかった。


「これで最後」


 ルナが完成した煮干しを並べる。


「終わったー」


 ミアが大きく伸びをした。


「思ったよりたくさんできたね」

「これならしばらく使えそう」


 ルナも満足しながら、出来上がった煮干しを眺める。

 その時、レオがリアムに顔を向けた。


「リアム」

「ん?」

「ちょうどよかった。お前にやってほしいことがある」

「俺に?」

「ああ」


 レオは少し間を置いてから続けた。


「正確には、『鑑定』で見てほしいものがあるんだ」


 リアムが興味を引かれたように顔を上げた。


◇◇◇


 煮干し作りを終えた五人は、そのまま港へ向かった。


「見てほしいものって、港にあるの?」

「ああ」


 リアムの問いに、レオが短く答える。

 その隣を歩きながら、ルナはふと昨日のことを思い出した。


「あ……もしかして」

「何だ?」

「昨日、置いててもらったのって、リアムが戻ってくると思ってたから?」

「そうだけど」


 レオはあっさりと認めた。


「やっぱり! だからだったんだ」


 昨日は理由を聞いても、はっきり答えてくれなかった。

 まさかリアムの『鑑定』を待っていたとは思わなかった。


「戻ってくるって決まってたわけじゃないだろ?」


 マシューが尋ねる。


「だから二、三日置いてもらう予定で、来なかったら諦めるつもりだった」

「それで、俺に何を鑑定してほしいの?」

「見れば分かる」

「?」


 リアムは不思議そうにしながらも、レオについていく。

 やがて五人は、昨日レッサークラーケンを運び込んだ低温倉庫に到着した。

 ダニーたちに事情を話して中に入れてもらう。


「これだ」


 レオが示した先を見て、リアムが足を止めた。


「……何これ?」


 倉庫の中には、レッサークラーケンが横たわっていた。


「レッサークラーケン」

「それは見れば分かるけど。なんでこんなのがあるの?」

「昨日、俺たちで討伐したんだよ」

「三人で?」

「ダニーたちにも協力してもらったけどな」


 レオが簡単に説明すると、リアムは驚いたようにレッサークラーケンを眺めた。


「俺たちがいない間にそんなことしてたんだ」

「依頼があったからな」

「それで、これを鑑定すればいいの?」

「ああ。食えるかどうか分からないか?」

「食べるの?」


 リアムがレオを見る。

 レオは黙ってルナを指さした。


「私?」

「食いたがってたのはルナだろ」

「だって、どう見ても知ってる食べ物に似てるんだもん」

「これが?」


 リアムがもう一度レッサークラーケンに目を向ける。


「うん。でも魔物だから、本当に食べても大丈夫なのか分からなくて」

「なるほど。それで『鑑定』か」


 リアムは納得すると、レッサークラーケンの前にしゃがみ込んだ。


「ちょっと待って」


 そのままじっとレッサークラーケンを見る。

 ルナも隣で結果を待つ。

 やがてリアムが口を開いた。


「……毒性はないみたいだよ」

「本当?」

「うん。それに、食用可能って出てる。ただ、どう調理するかまでは分からない」

「それなら十分!」


 思わず大きな声が出た。

 リアムが少し驚いたようにこちらを見る。


「そんなに嬉しい?」

「だって、ずっと気になってたから!」

「よかったね、ルナ」


 ミアが笑う。


「うん!」

「で、どうするんだ?」


 レオに聞かれ、ルナはレッサークラーケンの前にしゃがみ込んだ。


「どうしようかな……」


 食べられることは分かった。

 それなら、試してみたいことはいくらでもある。

 まずは茹でて、そのまま味を確かめてみたい。

 ガルムをつけても美味しそうだ。

 それに、この前作ったトマーテのスープに入れるのもきっと合う。


「……何から作ろうかな」


 考えているうちに、自然と笑みがこぼれる。

 レッサークラーケンを前にしながら、ルナの頭の中はすでに、これから作る料理のことでいっぱいになっていた。

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