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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
クリーヴランド

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王都 5.5

 一通りの話を終える頃には、すっかり夜も更けていた。

 張り詰めていた空気が少しだけ緩み、二人は淹れ直した紅茶に口をつける。


 ミアは少し懐かしそうに微笑んだ。


「ルナ様は、私と初めて会った日のことを覚えていらっしゃいますか?」


 ルナは少し考え、小さく頷いた。


「……雑貨屋さんだったわね」

「はい」

 

 それは四年前。

 ルナが十一歳、ミアが十歳の頃だった。

 その日、ルナは母と買い物に出かけていた。

 母が仕立て屋に立ち寄っている間、護衛とともに近くの雑貨屋を見て回っていた時のことだった。


「待ってよ!」


 店の奥から、必死な声が聞こえてくる。


「あと少しだけだから!」


 思わず足を止めると、一人の少女が店主に頭を下げていた。


「お願い。残りは必ず持ってくるから」

「そう言われても困るよ」


 店主は困ったように首を振る。


「取り置きは今日までって約束だっただろう?」


 少女は唇を噛みしめる。

 手には、小さな布で包まれた花の髪飾りが握られていた。


「院長先生に……プレゼントしたくて」


 その声は今にも泣き出しそうだった。

 ルナは店主に歩み寄る。


「足りない分は、おいくらですか?」


 店主は驚いたようにルナを見る。


「銀貨一枚ですが……」


 ルナは持っていた小遣い袋を護衛に渡した。


「お願いできますか?」

「かしこまりました」


 護衛が代金を支払うと、店主はほっとしたように髪飾りを少女に差し出した。


「ありがとう!」


 少女は大切そうに髪飾りを抱きしめる。

 そしてすぐにルナに向き直った。


「……お金、絶対に返すから」


 その目には強い警戒心が宿っていた。

 助けてもらったからといって、簡単には信用しない。

 そんな空気が伝わってくる。

 ルナは少しだけ驚いた後、ふっと笑った。


「急がなくて大丈夫よ」

「でも……」

「返せる時でいいわ」


 そう言って名前も聞かず店を後にした。


 数日後、店主からルナがフィールズ子爵家の令嬢だと聞いたミアが、返金のため屋敷を訪ねてきた。

 返金に来たミアから孤児院の話を聞き、興味を持ったルナは、後日そこを訪ねた。


 そこから交流が始まった。

 ルナはミアのいた孤児院を訪れるようになった。

 最初は警戒して距離を置いていたミアも、少しずつ笑顔を見せるようになり、一緒に話をする時間が増えていった。

 読み書きを教えたり、本を贈ったり。

 他愛もない話をしたり。

 気が付けば、ルナにとっても孤児院を訪れる時間は楽しみの一つになっていた。


 そしてある日。


「ミア」

「はい?」

「屋敷で働きながら、私の侍女になるための勉強をしてみない?」


 突然の誘いに、ミアは目を丸くした。


「……私が?」

「ええ」


 ルナは優しく微笑む。


「ミアなら、きっと立派な侍女になれると思うの。それに……そばにいてくれたら、もっとたくさんお話ができるでしょう」


 その誘いが、ミアの人生を大きく変えた。

 ミアの返事を聞いたルナは、両親と執事に何度もお願いした。そして、ミアを見習いとして迎えることが認められた。


「あの日、ルナ様に出会っていなかったら、私は今ここにはいません」


 ミアは優しく微笑むと、静かな声で続ける。


「孤児院を出た子どもの多くは、使用人や工房で働きます。けれど、貴族令嬢付きの侍女になれる者はごく一部です」

「……そう」

「読み書きも礼儀作法も必要ですし、孤児を雇ってくださる家は多くありません。だから、侍女になれるなんて思ってもいませんでした」


 けれど、ルナは自分を選んでくれた。

 読み書きが苦手だった頃は、何度も根気よく教えてくれた。

 失敗をして落ち込めば、大丈夫だと励ましてくれた。

 それだけではない。

 初めて王都の夜会を遠くから眺めた日。庭園の花が咲いた日。新しいドレスが届いて、二人で喜んだ日。

 この屋敷で過ごした四年間には、楽しい思い出がたくさんあった。


「いろいろな経験をさせていただきました」


 ミアは小さく頷く。


「でも、一番嬉しかったのは侍女になれたことではありません」


 真っ直ぐルナを見つめる。


「ルナ様に出会えたことです」


 その一言に、ルナは言葉を失った。


「だから、今度は私がルナ様の力になりたいんです」


 その瞳に迷いはない。

 ルナはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「……ありがとう。私もミアに出会えて嬉しいわ」

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