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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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39/52

4-5

 翌朝。

 朝食を食べながら、三人は今日の予定を話していた。


「今日は森に行かない?」


 ルナがそう言うと、ミアがすぐに頷いた。


「行きたい。カロンを出てから、まだちゃんとした討伐依頼も受けてないし」

「俺もいいと思うぞ」


 レオも賛成する。


「奥まで行かなければそれほど危険な魔物はいないって話だしな」

「じゃあ決まりだね」


 ルナは嬉しそうにパンを口に運んだ。

 この前はパン屋の依頼を受けた。

 それも楽しかったが、せっかく冒険者になったのだから、森に行くのも楽しみだった。


「あ、そうだ」


 ルナは何かを思い出すと、足元に置いていた鞄を開けた。


「これも持っていこう」


 取り出したのは、先日ギルドの調理場で作ったシリアルバーだった。

 潰し麦にアマンドと干し葡萄を混ぜ、蜂蜜で固めたものだ。

 孤児院の子供たちのおやつには向かなかったが、持ち運びやすいため、自分たちの携帯食にすることにした。


「森で食べるのにちょうどよさそうだよね」

「そうだな」

「でもさ」


 ミアがシリアルバーを見ながら首を傾げる。


「それ、何か呼び名ないの?」

「……確かに」


 ルナは手にしたシリアルバーを見つめた。


「じゃあ、何て呼ぼう」

「潰し麦で作った棒状のものなんだから、潰し麦の棒とか?」


 レオが言う。


「そのまますぎない?」

「分かりやすいだろ」

「でも長いよ」


 ミアが考えながら口を開く。


「じゃあ、麦の棒で……麦棒?」

「麦棒……」


 ルナも繰り返す。


「もっと短くして、ムギボとか?」

「ムギボ?」

「うん。ムギボ」


 口にしてみると、意外と呼びやすい。


「いいんじゃない? 覚えやすいし」

「俺は何でもいい」

「レオもちゃんと考えてよ」

「食えれば名前なんて何でもいいだろ」

「もう」


 ルナは笑いながら、もう一度呟く。


「ムギボ……」


 その響きに、前世にあった何かが頭をよぎった。


(……なんか、似たような名前のものがあったような)


「ふふっ」


 思わず笑ってしまう。


「何?」

「ううん、なんでもない」


 ミアに不思議そうに見られたが、ルナは首を振った。


「じゃあ、とりあえずムギボってことで」

「とりあえずなんだ」

「正式な名前をつけるほどのものでもないしね」


 三人の間で呼ぶだけなら、それで十分だ。

 ルナは今日の分のムギボを鞄にしまった。


 朝食を終えると、三人はそのまま冒険者ギルドに向かった。


「おはよう」


 中に入ると、受付にいたアニーが三人に気づいた。


「おはよう。今日は依頼?」

「うん。今日は森に行こうと思って」

「そう。気をつけてね」

「あ、それとアニーに渡したいものがあるんだ」

「私に?」


 ルナは鞄から包みを一つ取り出した。


「はい」


 アニーが受け取り、不思議そうに包みを見る。


「これは?」

「この前、調理場で作ってたもの」

「ああ!」


 アニーはすぐに思い出したらしい。


「結局、何を作ってたのか気になってたのよ」

「ちゃんと完成したから、よかったら味見して」

「わざわざいいのに」

「食べてみて」


 包みを開いたアニーが、中に入っているムギボを眺める。


「お菓子?」

「お菓子っていうより、携帯食かな」

「へえ……」


 アニーは一口食べてみる。

 何度か噛んでから、目を少し見開いた。


「美味しい」

「本当?」

「ええ。それに結構食べ応えがあるわね」

「でしょ?」


 褒められ、ルナは嬉しくなる。


「森に持っていくには良さそうね」

「うん。だから今日も持っていくつもり」

「それならちょうどいいわね」


 アニーにもう一度礼を言われ、三人は依頼の掲示板に向かった。


「私は薬草採取にしようかな」


 ルナは依頼票を順番に確認していく。

 癒し草をはじめ、いくつかの採取依頼が並んでいる。

 その中で目に留まったのは、魔力草の採取依頼だった。


「これにする」

「じゃあ、あたしは……」


 ミアも討伐依頼を見ていき、一枚の依頼票を手に取った。


「ホーンラビットにする」

「また?」

「今度はもっと上手くできるか試したいの」


 以前はレオに見守ってもらいながら、慎重に一匹を仕留めた。どうやら、もう一度自分の力で挑戦したいらしい。


「いいんじゃないか?」


 レオも二人の選んだ依頼を確認する。


「場所も同じ森だし、両方できるだろ」

「じゃあ決まりだね」


 三人は依頼票を持って受付で手続きを済ませた。

 今日の昼食には、完成したばかりのムギボもある。

 こうして三人は、サラスへ来て初めての森の依頼に向かうことになった。


 サラスの町を出てしばらく歩いて、三人は森へと入った。

 今回ルナが受けたのは、魔力草の採取依頼だ。


「この辺にあるはずなんだけど……」


 ルナは足元を見ながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。

 やがて、それらしい草がまとまって生えている場所を見つけた。


「あった」


 ルナは嬉しそうに近づくと、その場にしゃがみ込む。

 けれど、すぐには採らなかった。


「これが魔力草で……こっちはハッカソウ」

「また混ざってるの?」


 近くにいたミアが覗き込んでくる。


「うん。やっぱり一緒に生えてるみたい」


 今回も、魔力草の間にはハッカソウが混じっていた。


「こっちが魔力草……」


 葉の形を確かめ、ルナは小さく頷いた。


「うん。大丈夫」


 一つ確認してから刈ると、依頼用の袋に入れた。

 その隣にもよく似た草が生えている。


「これは……」


 葉の形を確かめたあと、念のため指先で軽くこすってみる。

 すぐに爽やかな香りが広がる。


「ハッカソウだ」

「匂いなら分かりやすいね」

「うん。でも一つずつ確認するのは面倒かも」

「だから嫌われてるんじゃない?」

「確かに」


 ルナは苦笑する。

 けれど、ハッカソウならルナにとっては外れでもない。

 以前、お茶にして飲んだ時には美味しかった。


「これもまた少し持って帰ろうかな」

「お茶にするの?」

「うん。美味しかったし、すっきりするから」


 ルナはハッカソウを依頼品とは別の袋に入れた。


「間違えて採っても持って帰れるなら、ルナにはちょうどいい依頼かもね」

「それはそうかも」


 それからもルナは一つずつ確認しながら、魔力草とハッカソウを分けて採っていった。


 その後、ミアも無事にホーンラビットを見つけた。

 草むらから姿を現した一匹を見つけると、今度は追いかけず、その場で動きを見ながら慎重に狙いを定める。

 少し時間はかかったものの、レオに手を借りることなく仕留めることができた。


「やった!」

「かなり慣れてきたな」

「本当?」

「ああ」


 レオに褒められ、ミアが嬉しそうに笑う。

 ルナも必要な数の魔力草を集め終えていたため、三人は少し開けた場所で休憩することにした。


「じゃあ、早速食べてみよっか」


 ルナが鞄から取り出したのは、朝に話していたムギボだ。

 一人一本ずつ受け取り、レオがかじる。


「こういう時は便利だな」

「でしょ?」

「手もそんなに汚れないし、歩きながらでも食べられそう」


 ミアも食べながら頷く。

 ルナも一口かじった。

 潰し麦とアマンドで食べ応えがあり、干し葡萄と蜂蜜の甘さもある。


「これだけで一食っていうのは、あんまりよくないけどね」

「そうなの?」

「毎回こればっかりっていうのはね。食べられるなら、ちゃんと他のものも食べた方がいいと思う」


 前世でも、手軽に栄養を取れる食品はいろいろあった。

 けれど、それだけを食べ続ければいいというものではない。


「でも、依頼が予定より長引いた時とか、ゆっくりご飯を食べてる余裕がない時には便利そう」

「それなら冒険者には合ってるな」


 レオの言葉に、ルナは頷いた。


「うん。作っておけば日持ちもするし」

「孤児院のおやつには向かなかったけど、作ったのは無駄じゃなかったね」


 ミアが笑う。


「そうだね」


 最初に考えていた使い道とは変わってしまった。

 それでも、別の使い道が見つかったのなら十分だ。

 ルナは残っていたムギボを口に運ぶ。


「……ムギボって名前は、やっぱりちょっと変だけど」

「自分で決めたんだろ」

「みんなで決めたの!」


 三人でそんな話をしながら休憩を終える。

 依頼も無事に達成できた。

 ルナは採取した魔力草とハッカソウを確認すると、それぞれの袋を鞄にしまった。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「ああ」

「うん!」


 三人は荷物をまとめ、サラスの町に戻るため森をあとにした。


◇◇◇


 その日の夕食後。

 レオは先に自分の部屋に戻り、ルナとミアは食堂に残っていた。

 ルナの手元には、森から持ち帰ったハッカソウがある。


「サリー、お湯を少しもらってもいい?」

「いいよ。何に使うの?」

「これでお茶を淹れようと思って」

「これって……草だよね?」


 サリーが興味深そうにハッカソウを覗き込む。


「ハッカソウっていうの。森に生えてるんだよ」

「これがお茶になるの?」

「うん。前にも飲んだことがあるんだけど、美味しかったよ」

「へえ……」


 サリーは気になるようで、ハッカソウをじっと見ていた。

 ルナより一つ年上のサリーとは、なごみ亭に来てから少しずつ話をするようになっていた。


 やがてサリーがお湯を持ってくる。

 ルナは綺麗に洗ったハッカソウの葉を入れ、そこにお湯を注いだ。

 しばらく待っていると、爽やかな香りが広がってくる。


「いい匂い……」

「でしょ?」

「サリーも飲んでみる?」

「いいの?」

「もちろん」


 三人分のカップに注ぎ、テーブルを囲む。

 サリーは少し冷ましてから、一口飲んだ。


「あ、美味しい」

「すっきりするよね」

「うん。もっと草っぽい味なのかと思ってた」

「あたしも最初はそう思った」


 ミアが笑う。


「ルナが急に森の草をお茶にするって言い出した時は、大丈夫かなって」

「ちゃんと安全な草だって確認したじゃん」

「分かってるけど、最初はびっくりしたの」

「私もその場にいたら止めてたかもしれない」

「サリーまで?」


 三人で顔を見合わせて笑う。

 ルナもカップに口をつけた。

 爽やかな香りが鼻を抜ける。


「やっぱり好きだな、これ」

「また森に行ったら採ってくればいいんじゃない?」

「うん。でも……」


 ルナは残っているハッカソウに目を向けた。


「森に行った時だけじゃなくて、いつでも飲めたらいいのにな」

「持って帰っておけば?」

「そのままだと長くは置いておけないでしょ?」

「あ、そっか」


 ミアが納得する。

 前世なら、ハーブを乾燥させて保存するのは珍しいことではなかった。


「乾燥させればいいんだけど……」


 ルナは考える。

 自然に乾燥させることもできるはずだ。

 けれど、それでは何日もかかる。


「……生活魔法でできないかな」

「生活魔法?」

「うん。ドライとか」


 この世界の生活魔法には、濡れたものを乾かす《ドライ》がある。ただ、普通は雨に濡れた服や髪などを乾かすために使う魔法だ。

 食材を保存するために乾燥させる場合は、普通は風通しのいい場所に干す。

 少なくとも、ルナは《ドライ》を食材に使うという話を聞いたことがなかった。


「ハッカソウにドライを使うの?」


 サリーが驚いたように聞く。


「試してみようかなって」

「そんな使い方、考えたこともなかった」

「私も今思いついただけだけどね」


 ルナは残っているハッカソウの一部を取り、布の上に広げた。


「とりあえず少しだけ」


 失敗しても、全部駄目にならないようにする。

 ルナはハッカソウに手をかざした。


「ドライ」


 淡い光が葉を包む。

 光が消えると、ルナは一枚をそっと手に取った。


「……あれ?」


 先ほどまで瑞々しかった葉が、少ししんなりとしている。

 指先で触れてみると、表面だけでなく、中の水分まで抜け始めているようだった。


「結構乾いてる……」

「え?」


 ミアも一枚手に取る。


「普通のドライって、こんなになる?」

「あたしは服にしか使ったことないけど……」


 ミアは少し考え、首を横に振った。


「でも、こんなに水分が抜ける感じじゃないと思う」

「やっぱり?」


 サリーも興味深そうに葉を覗き込む。


「私も髪とか服にしか使わないから分からないけど、ちょっと不思議だね」


 ルナは葉を鼻元に近づけた。

 爽やかな香りは、まだきちんと残っている。


「香りは大丈夫そう……」


 完全に乾燥しているわけではない。

 けれど、何もしない状態よりはずっと早く乾きそうだった。


「このまま一晩置いてみようかな」


 ルナはサリーを見る。


「これ、明日の朝までここに置かせてもらってもいい?」

「もちろん。邪魔にならないところに置いておけば大丈夫だよ」

「ありがとう」

「私もどうなるか見てみたいし」


 サリーもすっかり興味を持ったらしい。

 三人で相談し、風通しのいい場所にハッカソウを広げておくことにした。


「明日の朝、ちゃんと乾いてたらいいね」

「うん」


 もし上手くいけば、森で採ったハッカソウを保存しておける。そうすれば、旅の途中でも好きな時にお茶を飲めるようになるかもしれない。


「なんか朝が楽しみになってきた」

「私も」

「失敗してたら?」


 ミアに聞かれ、ルナは少し考える。


「その時は、また別の方法を考える」

「ルナならそう言うと思った」


 三人は笑いながら、残っていたお茶を飲み干した。

 明日の朝には、どんなふうになっているだろう。

 ルナは乾燥させているハッカソウをもう一度確認してから、ミアと一緒に部屋に戻った。

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