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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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33/48

3-8

 翌朝。

 三人はいつもより少し早く起き、朝食を済ませると最後の荷物をまとめていた。


「これで全部かな」


 忘れ物がないことを確認してから、部屋全体を見回す。


「……一回だけ」


 ルナはそう呟いて、最後にクリーンを使った。


「またやってる」


 ミアがくすくす笑う。


「荷物持ったか?」


 すでに準備を終えていたレオが二人を見る。


「うん」

「あたしも大丈夫」

「じゃあ行くか」


 三人は荷物を持ち、何日か過ごした部屋をあとにした。

 一階に下りると、マディーが朝食の片づけをしているところだった。


「おや、もう出るのかい?」

「はい。馬車も借りてあるので、そろそろ行こうと思います」

「そうかい」


 マディーは手を止め、三人のところにやってくる。


「世話になったな。ありがとう」


 レオが言うと、マディーは笑った。


「こっちは泊まってもらったんだから、お互い様さ」

「短い間でしたけど、本当にありがとうございました」

「またカロンに来たら、うちに泊まりな」

「はい。また来たいです」


 ルナも頭を下げる。

 最後にもう一度礼を言い、三人はまどろみ亭を出た。


 宿の前には、レオが昨日手配しておいた馬車が用意されている。荷物を積み込むと、ルナは宿を振り返った。


「行こうか」

「ああ。その前にギルドに寄るぞ」

「サーシャさんにも挨拶しないとね」


 三人は馬車に乗り、まずは冒険者ギルドに向かった。

 受付を見ると、今日もサーシャがいる。


「あら、おはよう」

「おはようございます」


 ルナたちは受付に向かった。


「今日は依頼?」

「いえ。私たち、これからカロンを出るんです」

「あら、そうなの?」

「はい。次はサラスに行くことにしました」

「そう。もう出発するのね」


 サーシャは少し驚いたものの、すぐに笑った。


「短い間だったけど、二人ともちゃんと依頼をこなしてたわね」

「ありがとうございました。いろいろ教えてもらって」

「あたしも、初めてホーンラビットを倒せました!」


 ミアが嬉しそうに言う。


「討伐報告、確認したわよ。次の町でも焦らずに続けるのよ」

「はい!」

「ルナも、採取したものは最後までちゃんと確認すること。慣れてきた頃が一番間違えやすいんだから」

「分かりました」


 ルナも素直に頷く。


「レオが一緒なら大丈夫だとは思うけど、二人とも無理はしないようにね」

「気をつける」


 レオが答える。


「サラスまでの街道は、今のところ特に問題があったという報告はないわ。それでも何があるか分からないから、周りには気をつけて」

「はい」

「サーシャさんもお元気で」

「ええ。三人とも元気でね」


 最後に挨拶をして、三人はギルドをあとにした。

 馬車に戻ると、レオが御者台に座った。

 ルナとミアも乗り込み、荷物をもう一度確認する。


「準備いいか?」

「うん」

「いつでも大丈夫!」

「じゃあ出るぞ」


 レオが手綱を動かす。

 馬車はゆっくりと走り出した。

 朝のカロンを進み、やがて町の門が見えてくる。

 門を抜ける直前、ルナは後ろを振り返った。

 市場でアンと出会い、孤児院のみんなと知り合った。

 シェリーのために料理を作り、子供たちと一緒に笑った。

 短い滞在だったのに、思い出はずいぶん増えていた。


「……また来たいな」


 小さく呟く。


「うん」


 隣に座るミアも町を振り返った。


「今度来た時は、シェリーも一緒に料理したいね」

「そうだね」

「ウェインたちはもっと大きくなってそう」

「レオにまた剣を教えてって言いそうだね」

「聞こえてるぞ」


 御者台からレオの声が飛んできた。

 二人は顔を見合わせて笑う。

 馬車は門を抜け、カロンの町をあとにする。

 少しずつ遠ざかっていく町を、ルナはもう一度振り返った。


「またね」


 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。

 そして前を向いた。

 

 カロンを出てから、馬車は穏やかな街道を進んでいた。

 左右には草原が広がり、その向こうには小さな森や丘が見える。

 時折、反対方向から商人の馬車とすれ違うことはあるものの、レオが聞いていた通り、今のところ街道に問題はなさそうだった。

 しばらく進んだところで、レオが馬車を止める。


「ミア。そろそろ代わるか?」

「いいの?」

「ああ。この辺りなら道も平坦だし、練習にはちょうどいい」

「やる!」


 ミアはすぐに御者台に移動した。

 アルミヤからカロンに向かう途中にも一度教えてもらっている。レオが隣に座り、手綱の持ち方を確認する。


「前に教えたこと覚えてるか?」

「たぶん」

「たぶんかよ」

「覚えてるって!」

「じゃあ、ゆっくり出してみろ」

「うん」


 ミアが慎重に手綱を操ると、馬が歩き始めた。

 最初こそ少し緊張していたものの、しばらくすると肩から力が抜けてくる。


「前より上手くなってるな」

「本当?」

「ああ。もう少し周りを見る余裕ができればな」

「分かった」


 褒められたミアは嬉しそうだった。

 馬車の中からその様子を見ていたルナも笑う。


「そのうちレオより上手くなりそう」

「それならそれで俺も助かるけどな」

「その頃には私にも教えてくれる?」

「……まあ、そうだな」

「絶対だよ」

「分かったって。一人しか御者ができないよりはいいからな」

「……それはそうだね」


 冒険者の依頼だけではない。

 旅を続けるうちに、覚えることがどんどん増えている。

 でも、それも楽しい。

 そんなことを考えながら、ルナは馬車から流れていく景色を眺めた。


◇◇◇


 昼頃になると、三人は街道から少し外れた場所で馬車を止めた。


「この辺りで休憩にするか」

「はーい」


 馬を休ませ、その間に三人も昼食を取ることにする。

 木陰に腰を下ろし、朝に用意しておいたパンや干し肉を取り出した。


「外で食べるのも慣れてきたね」


 ルナがパンをちぎりながら言う。


「最初はちょっと落ち着かなかったけどね」

「今は?」

「お腹空いてるからね、どこでも美味しい」

「それ、慣れたのと関係ある?」


 二人が笑う。

 レオはそんな二人を見ながら干し肉を食べていた。


「順調なら、夕方にはサラスに着くぞ」

「もう結構進んだ?」

「まだ半分には届いてないくらいだな。このあとも今の調子なら問題ない」

「じゃあ、まだまだだね」

「だからちゃんと休んどけ」

「うん」


 昼食を終えたあとも、馬を休ませるためにもう少しここで過ごすことになった。

 ルナは立ち上がると、近くを軽く歩いてみる。


「遠くには行くなよ」

「分かってる」


 街道の周辺には、草や低い木が生えている。

 最近は薬草採取をすることも増えたため、ルナは自然と植物を見るようになっていた。


(この辺にも何かあるかな)


 そう思いながら歩いていると、少し先に赤いものが見えた。


「……ん?」


 近づいてみる。

 低い木の枝に、小さな赤い実がいくつもついていた。


「これ……」


 ルナはしゃがみ込んだ。

 どこかで見たことがある。


(ローズヒップ……?)


 前世で見たものによく似ている。

 けれど、この世界の植物がまったく同じものとは限らない。


「レオ、ちょっと来て!」

「どうした?」


 すぐにレオとミアがやってくる。

 ルナは赤い実を指さした。


「これ、何か知ってる?」

「ああ。ラバヌイだな」

「ラバヌイ……」

「よくあるやつだよ。森とか街道の近くでも見かける」


 レオは特に珍しそうでもない。


「食べられる?」

「毒はないから食べられるけど……」


 レオは赤い実を一つ見てから首を傾げる。


「実が硬いし酸っぱいから、わざわざ食う奴はほとんどいないと思う」

「そうなんだ……」

「秋になるとこの辺じゃよく実をつける。珍しいものじゃないぞ」

「花は綺麗なんだけどね」


 ミアが言う。


「春になるといっぱい咲いてるよ。孤児院の近くにもあった」

「ミアも知ってるんだ」

「うん。実は食べたことないけど」


 ルナはもう一度、赤い実を見る。


(やっぱり似てるんだよね……)


 前世でも、ローズヒップはお茶やジャムなどに加工されていた記憶がある。

 だからといって、これが同じものだとはまだ分からない。


「ルナ、また食べること考えてる?」

「……ちょっとだけ」

「やっぱり」


 ミアが笑う。


「今すぐ食べたりはしないよ」

「それならいいけど」

「でも、覚えておこうかな」


 ルナは鞄から手帳を取り出した。


『ラバヌイ。

 赤い実。食べられるが、硬くて酸っぱい。

 春に花が咲く。街道や森の近くにも多い』


 そこまで書いてから、ルナはもう一度赤い実を見る。


(見た目はローズヒップに似てるんだけど……)


 前世と同じものかは分からない。

 けれど、いつか調べる機会があるかもしれない。


「よし」


 ルナは手帳を閉じ、鞄に戻した。


 十分に休憩を取ったところで、三人は再び馬車に戻った。


「今度は俺がやる」


 レオが御者台に座る。


「もう交代?」

「午後もずっとやったら疲れるだろ。練習は少しずつでいい」

「分かった。次もやらせてね」

「ああ」


 ミアはルナの隣に戻ってきた。

 馬車がゆっくりと動き始める。

 ルナは少し遠ざかった木の方を見る。

 赤いラバヌイの実は、街道沿いの景色に紛れてすぐに見えなくなった。


「じゃあ次はどんな町かな」


 ミアが楽しそうに言う。


「行ってみれば分かるよ」


 ルナも笑って前を見る。

 カロンはもう遠い。

 けれど、目指す港町はまだずっと先にある。

 まずは次の町、サラスへ。

 三人を乗せた馬車は、穏やかな街道をさらに先へと進んでいった。


◇◇◇


 一方その頃。

 エレンジア王国の王都。

 王城から少し離れた場所にある魔法研究所では、今日も多くの研究員たちが慌ただしく行き交っていた。

 その一室で、リアムは机いっぱいに広げた資料を眺めていた。魔法陣の一部を書き直し、少し離れて確認する。


「……こっちの方がいいな」


 そんなことを呟いていると、扉が開いた。


「リアム、頼まれてた資料」

「ありがとう。そこに置いといて」


 書類を抱えて入ってきたのは、リアムの補佐を務めるマシューだった。マシューが机の端に書類を置く。

 リアムはふと思い出したように顔を上げた。


「そうだ、マシュー。聞いた?」

「何を?」

「ナキールのこと」

「ああ……」


 マシューはすぐに何の話か分かったようだった。


「クリーヴランドからの荷が遅れてるって話だろ?」

「そう、それ」


 海を挟んだ隣国、クリーヴランド王国。

 その港町タリオンと、エレンジア王国の港町ナキールの間では、多くの船が行き来している。

 しかし、最近クリーヴランドから到着する船が予定より遅れることが増えていた。中には、出港予定を大きく過ぎても姿を見せない船もあるという。

 今のところ原因は分かっていない。

 そのため、船員や商人から直接事情を聞き、港に残る記録を確認するため、王都からナキールへ調査員を送ることが決まっていた。


「それでナキールに調査員を出すんだよね?」

「ああ。数日後に出発する予定だ」


 そこまで答えたところで、マシューが口を閉じた。

 リアムを見る。

 何やら楽しそうな顔をしている。


「……まさか」

「何?」

「一応聞くけど」


 マシューは露骨に嫌そうな顔をした。


「また何か考えてる?」

「人聞き悪いな」

「その顔してる時、大体ろくなこと考えてないだろ」

「失礼だな」

「今まで何回振り回されたと思ってるんだよ」


 リアムはそれには答えず、楽しそうに笑った。


「俺も加わろうと思って」

「駄目」

「早くない?」

「聞く前から分かってた」

「まだどの調査に加わるか言ってないけど」

「ナキールだろ?」

「正解」

「嬉しくない」


 マシューは深いため息をついた。


「今回は正式な調査なんだぞ」

「分かってる。俺だって遊び半分で行くつもりじゃない」

「本当か?」

「なんで疑うんだよ」

「普段の行い」

「ひどくない?」

「事実だろ」


 リアムは不満そうな顔をしたものの、反論はしなかった。


「調査員に魔法関係に詳しい人間も入れるって話だろ?」

「……まあ、それはそうだけど」

「だったら俺が行っても問題ないだろ?」

「あるだろ」

「どこに?」

「お前が第三王子だってところに」


 即答され、リアムが肩をすくめる。


 リアムは第三王子でありながら、王城にいるより魔法研究所で過ごすことを好む変わり者だった。

 魔法の才能に恵まれ、珍しい《鑑定》のスキルまで持っている。

 そして何より——気になるものを見つけると、自分の目で確かめずにはいられない。


「王子だからって、研究所の仕事をするなとは言われてない」

「だからって、何でも自分で見に行こうとするなよ」

「自分で見た方が早いから」

「毎回それじゃ、こっちが大変なんだよ」

「マシューも一緒に来ればいいじゃん」

「なんで当然のように俺まで行くことになってるんだ?」

「来ないの?」

「…………」


 リアムが不思議そうに尋ねる。

 マシューはしばらく黙っていたが、やがて大きく息を吐いた。


「そもそも、勝手に決めるな。許可も取ってないだろ」

「じゃあ許可を取ればいい?」

「許可が出れば、な」

「分かった」


 リアムはあっさり頷くと、机の上の資料を片づけ始めた。

 その様子を見て、マシューが眉を寄せる。


「……何してる?」

「許可をもらいに行く準備」

「今から?」

「早い方がいいでしょ」

「ちょっと待て」

「何?」

「リアム」


 マシューの声が少し低くなる。

 その瞬間、リアムの手が止まった。


「……はい」

「勝手に話を進めるな」

「でも許可を取ればいいって」

「まず今回の調査内容をちゃんと確認する。それからだ」

「……分かったよ」


 先ほどまでの勢いはどこへやら、リアムは素直に椅子に座り直した。

 マシューはそんな姿を見て、呆れたように息を吐く。


「最初からそうしろ」

「マシュー、怒ると怖いんだよな……」

「誰のせいだよ」

「俺かな」

「分かってるじゃないか」


 リアムは苦笑しながら、先ほどマシューが持ってきた書類に手を伸ばした。

 その表情は、まだどこか楽しそうだ。

 それを見たマシューは、もう一度ため息をついた。

 おそらく、何を言ってもナキールに行くことになる。

 そしてその時は、自分も一緒に行くことになるのだろう。


「……本当に勘弁してくれ」

「何か言った?」

「何も」


 ルナたちが港町タリオンを目指して旅を続ける、その頃。

 海の向こうでもまた、一人の王子が動き始めようとしていた。

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