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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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32/50

3-7

 翌朝。

 朝食を終えると、三人は宿の部屋で今日の予定を確認していた。


「俺は商会に行って、明日の馬車を手配してくる」


 レオが荷物を確認しながら言う。


「ルナたちは買い物だったな?」

「うん。食料とか、足りなくなりそうなものを買っておこうと思ってる」

「サラスまでは一日だから、それほど多くなくても大丈夫だけどな。何があるか分からないし、少し余裕は持たせておこう」

「分かった」


 アルミヤを出る時にも一度旅の準備をしている。

 そのおかげで、何が必要なのかはルナにも少しずつ分かるようになってきた。


「じゃあ、終わったら宿の前で待ち合わせでいい?」

「ああ。昼前には戻れると思う」

「私たちもそれくらいには戻るよ」

「じゃあ、またあとで」


 ルナとミアは市場に向かい、必要なものを順番に買い揃えていった。

 まずは旅の途中で食べるパンや干し肉。


「次は何?」


 荷物を持ったミアが尋ねる。


「えっと……」


 ルナは頭の中で確認する。


「食料はこれくらいで大丈夫かな。あとは消耗品を少し買っておきたい」

「ポーションは?」

「まだ残ってるよ」

「じゃあ大丈夫だね」


 必要なものを探しながら市場を歩いていると、昨日買ったアマンドや干し葡萄が並ぶ店の前を通りかかった。


 ルナは思わず足を止める。


「……やっぱり気になる?」


 ミアが笑う。


「ちょっとだけ」


 昨日作った試作品は、味は悪くなかったものの、見事に崩れてしまった。


「次は材料を減らして作ってみようかな」

「アマンドだけにするとか?」

「うん。まずそれでちゃんと固まるか試してみたい」


 幸い、昨日買った材料はまだ少し残っている。


「サラスに着いてからでいいよね」

「今度は成功するといいね」

「うん。今度は成功させたいな」


 ルナはそう言って店を離れた。

 最後に必要な日用品を買い足し、二人は荷物を確認する。


「これで全部かな?」

「たぶん」

「たぶん?」

「……もう一回確認する」


 ミアに笑われながら、ルナは買い物の内容を最初から確認した。

 食料もある。

 旅に必要なものも足りている。


「うん。今度こそ大丈夫」

「じゃあ戻ろうか」


 二人は買った荷物を抱え、まどろみ亭へ戻った。


◇◇◇


 一方その頃、レオは貸し馬車商会を訪れていた。


「明日の朝から借りられる馬車はあるか?」


 受付で確認してもらうと、幸い一台空きがあるという。必要な手続きを済ませ、馬車を借りることができた。


「これでよし、と」


 思っていたより早く終わった。

 商会を出たレオは、空を見上げる。

 ルナたちとの待ち合わせまでは、まだ時間がある。


「…………」


 少し考えてから、町の門がある方角に目を向けた。

 この前、孤児院で食事をした時のことを思い出す。

 肉が入っていると喜んでいた子供たち。

 何度もおかわりをしていたウェインやコビー。


「……まだ間に合うな」


 誰に言うでもなく呟くと、レオは宿とは反対の方向へ歩き出した。


◇◇◇


 買い物を終えたルナとミアが宿に戻ると、まだレオの姿はなかった。


「レオ、まだかな?」

「馬車の手配に時間かかってるのかも」

「先に荷物置いてくる?」

「そうしようか」


 一度部屋に戻って買ったものを整理し、再び宿の前に出る。それからしばらくして——。


「あ、レオだ」


 ミアが通りの先を指さした。

 レオがこちらに歩いてくる。


「おかえり。馬車どうだった?」

「ああ。明日の朝から借りられる。手配しておいた」

「よかった。私たちも買い物終わったよ」

「なら準備は大丈夫そうだな」

「うん。あとは孤児院に——」


 そこまで言って、ルナはレオの持っている荷物に気づいた。


「……レオ、それ何?」

「ん?」


 ミアもそちらを見る。

 レオが持っているのは、ギルドで馬車を手配するだけなら必要ないはずの荷物だった。

 そして、袋から見覚えのある角が覗いている。


「それ……ホーンラビット?」

「ああ。時間なかったから丸ごと持ってきた」

「なんで持ってるの?」

「馬車の手配が早く終わったから、町の外を少し見てきた」

「外に!」


 ルナとミアが揃ってレオを見る。

 レオは少しだけ視線を逸らした。


「今日、孤児院に行くんだろ」

「……もしかして、みんなのため?」

「この前、喜んでたからな。ついでだよ」

「ついでって……」


 ミアがにやりと笑う。


「レオ、優しいね」

「うるさい」

「照れてる?」

「照れてない」


 レオは面倒そうに答えると、さっさと宿の中に入っていく。


「荷物置いたら行くぞ」

「はーい」


 楽しそうに返事をするミアの隣で、ルナもくすくすと笑った。三人は準備を整えると、もう一度孤児院に向かうことにした。


 孤児院に着くと、今日も子供たちが賑やかに出迎えてくれた。


「来た!」

「レオもいる!」

「今日は何するの?」


 あっという間に囲まれ、ルナは笑いながら一人ずつ返事をする。


「今日はね、またみんなでご飯を作ろうと思って」

「ご飯!」

「お肉ある?」


 真っ先に聞いたウェインに、ミアが笑った。


「あるよ。レオが狩ってきてくれたの」

「本当!?」

「レオが!?」


 子供たちの視線が一斉にレオに向く。


「……一匹だけだぞ」

「やった!」

「レオ、ありがとう!」

「分かったから、そんなに騒ぐな」


 口ではそう言いながらも、レオは嫌そうではなかった。


 ルナたちは院長にも挨拶をして、料理を始める前に、まずはホーンラビットの処理をすることにした。

 院長に場所を借り、レオに教えてもらいながら、ルナとミアも初めて解体に挑戦する。

 難しい部分はレオに任せ、二人は比較的簡単なところから手を動かしていった。

 処理を終えると、ルナとミアは調理場に移動した。


「ルナ、今日は何作るの?」


 アンが後ろをついてくる。


「今日はみんなで食べられるスープにしようかな。パンも買ってきたから」

「私も手伝う!」

「じゃあ、野菜を洗ってくれる?」

「うん!」


 アンはすっかり慣れた様子で野菜を受け取った。

 ミアも隣で調理器具を準備する。


「包丁、ここだったよね」

「うん。覚えてるの?」

「前にも使ったからね」


 ルナも買ってきた食材を取り出し、料理を始める。

 肉は小さく切り、野菜と一緒にたっぷり煮込むことにした。


「何か手伝える?」


 声がして振り返る。


「シェリーちゃん」


 そこにはシェリーが立っていた。

 この前よりも顔色がよく、最初に会った時と比べればずいぶん元気そうに見える。


「もう大丈夫なの?」

「うん。今日は朝ご飯もちゃんと食べたよ」

「本当?」

「院長先生にも、今日は無理しなければ起きていていいって言われた」


 ルナはほっとした。


「よかった」

「だから私も手伝いたい」

「シェリーはまだ駄目だよ」


 すぐにアンが止める。


「もう元気だもん」

「でも、また具合悪くなったらどうするの?」

「野菜を洗うくらいなら平気だよ」

「だーめ」

「アンだってやってるのに」


 二人のやり取りに、ルナはくすっと笑った。


「じゃあ、座ってできることだけお願いしようか」

「ほら!」

「でも疲れたらすぐ休むんだよ?」

「分かってる」


 シェリーには椅子に座ってもらい、簡単な作業だけ手伝ってもらう。アンもそれなら納得したようで、隣に座って一緒に作業を始めた。


「私もやる!」

「僕も!」


 いつの間にかほかの子供たちまで集まってくる。


「全員は入れないよ」


 ミアが笑いながら追い返す。


「できたら呼ぶから待ってて」

「はーい」

「お肉いっぱい入れてね!」

「分かったから」


 賑やかな声を聞きながら、ルナは鍋をかき混ぜた。

 こうしてみんなで料理をするのも、今日が最後だ。

 そう思うと少し寂しくなったが、今は口には出さなかった。


「おかわり!」

「僕も!」

「まだあるから順番ね」


 昼食が始まると、食堂は賑やかになった。

 ホーンラビットの肉と野菜をたっぷり入れたスープは好評で、パンを浸して食べている子もいる。


「レオ、肉うまい!」

「俺が料理したわけじゃないけどな」

「でもレオが狩ったんだろ?」

「そうだけど」

「じゃあレオのおかげじゃん!」

「ルナのおかげでもあるよ!」


 アンが言う。


「ミアも手伝ったよ!」

「じゃあ三人のおかげ!」


 子供たちの結論に、ルナたちは顔を見合わせて笑った。

 ルナは自分も食べながら、時折シェリーの様子を確認する。

 今日は前のように少なめにする必要もなかった。

 ほかの子よりゆっくりではあるものの、パンもスープもきちんと食べている。


「シェリーちゃん、美味しい?」

「うん」


 シェリーは笑って頷いた。


「今日は全部食べられそう」

「そっか」


 その一言が嬉しかった。

 最初に会った時は食欲もなく、横になっていた少女が、今日はみんなと同じ食卓を囲んでいる。


「ルナ、私もおかわりしていい?」

「もちろん」

「少しだけ」

「うん。無理しないくらいにしようね」


 器を受け取りながら、ルナは笑った。

 シェリーはもう大丈夫そうだ。

 それだけでも、カロンを出る前にもう一度ここに来てよかったと思えた。


 昼食を終え、片づけまで済ませると、午後は子供たちと一緒に過ごすことになった。


「レオ、外行こう!」

「遊ぼう!」


 ウェインとコビーがレオの腕を引っ張る。


「何して遊ぶんだよ」

「剣!」

「駄目だ」

「じゃあ魔法!」

「それも駄目」

「じゃあ何ならいいんだよ!」

「普通に遊べ」

「普通って何!?」


 言い合いながらも、レオは二人に連れられて外に出ていった。ほかの男の子たちもそのあとを追っていく。


「レオ、また捕まったね」


 ミアが窓の外を見て笑う。


「でも楽しそう」


 ルナも外を見る。

 最初は面倒そうにしていたレオだったが、しばらくすると子供たちと一緒に走り回っていた。


「レオ、速い!」

「待ってよ!」

「お前らが追いかけてこいって言ったんだろ」


 外から楽しそうな声が聞こえてくる。

 一方、ルナとミアはアンやシェリーたちと部屋で過ごすことにした。


「ルナ、これ読んで」


 アンが一冊の本を持ってくる。


「どれ?」

「これ。途中までは読めるんだけど、分からないところがあるの」

「じゃあ一緒に読もうか」

「うん!」


 ルナの隣にアンが座り、その反対側にはシェリーが座る。

 ほかの子たちも少しずつ集まってきた。

 最初はアンと一緒に読んでいたはずが、いつの間にかルナがみんなに読み聞かせることになっていた。


「それでね——」


 物語を読み進めると、子供たちは真剣に耳を傾ける。

 時々、質問が飛んでくる。


「このあとどうなるの?」

「その人、悪い人?」

「まだ言ったら面白くないでしょ」

「ルナは知ってるの?」

「今読んでるんだから、私も知らないよ」

「じゃあ早く読んで!」

「はいはい」


 その隣では、ミアが小さな子に文字を教えていた。


「これは?」

「……あ?」

「正解。じゃあこっちは?」

「えっと……」


 穏やかな時間が過ぎていく。

 外からは、レオと男の子たちの賑やかな声。

 部屋の中では、ページをめくる音と子供たちの笑い声。

 ルナは本を読みながら、ふと周囲を見渡した。

 カロンに来たばかりの時には、ここにいる誰のことも知らなかった。

 それなのに今は、名前も顔も分かる。

 アンがどんな子なのかも。

 シェリーが元気になってきたことも。

 ウェインたちがレオを気に入っていることも。


(明日には、もうここを出るんだ……)


 少しだけ胸が寂しくなる。

 けれど今は、まだ言わなくていい。

 もう少しだけ。

 ルナは気持ちを切り替えると、待っている子供たちのために、再び本の続きを読み始めた。


 気づけば、窓から差し込む光が少しずつ傾き始めていた。

 ルナが本を閉じる。


「今日はここまでにしようか」

「えー!」

「もうちょっと!」

「続き気になる!」


 子供たちから一斉に不満の声が上がり、ルナは困ったように笑った。


「ごめんね。そろそろ宿に戻らないと」


 そう言ったところで、ルナは少しだけ言葉に詰まった。

 隣にいたミアと目が合う。


「……それと、みんなに話しておきたいことがあるの」

「なに?」


 アンが不思議そうに首を傾げる。


「私たち、明日の朝にカロンを出ることになったの」

「え……」


 アンの表情が止まった。

 シェリーも驚いたようにルナを見る。


「もう行っちゃうの?」

「うん。私たち、港町を目指して旅をしてるから」

「じゃあ、もう来ないの?」


 寂しそうに聞かれ、ルナは少し迷ってから微笑んだ。


「もう来ないって決まったわけじゃないよ。いつになるかは分からないけど、またカロンに来ることがあったら、ここにも遊びに来たいと思ってる」

「……本当?」

「うん」

「約束?」

「約束」


 アンが差し出した小指に、ルナも自分の小指を絡める。


「あたしも約束する」


 ミアも横から加わった。


「また来たら、一緒にご飯作ろうね」

「うん!」


 アンは嬉しそうに頷いたものの、やはりどこか寂しそうだった。


「ルナ」


 今度はシェリーが声をかける。


「ご飯、美味しかった。今日のも、この前のも」

「本当?」

「うん。元気になったら、私も料理を覚えたい」

「いいね」


 ルナは嬉しくなって笑う。


「じゃあ今度来た時は、一緒に作ろうか」

「うん!」


 最初に会った時とは違う、元気な笑顔だった。


 その時、外から子供たちの賑やかな声が近づいてきた。


「おーい!」


 少しすると、レオとウェインたちが戻ってくる。

 走り回っていたのか、ウェインとコビーは汗だくだった。


「もう帰るの?」


 ウェインが尋ねる。


「ああ。それと、お前たちにも話がある」


 レオが頭をかきながら続けた。


「俺たち、明日の朝には町を出るんだ」

「え?」

「明日?」


 さっきまで騒いでいた男の子たちが一斉に静かになる。


「なんで?」

「次の町に行くからだよ。俺たちは旅の途中だからな」

「もうちょっといればいいじゃん」

「そういうわけにもいかないんだ」


 ウェインは少し俯いた。


「……じゃあ、また来る?」

「まあ……近くに来ることがあればな」

「絶対だぞ!」

「今度は剣教えて!」

「それは駄目だ」

「なんでだよ!」


 すぐにいつもの調子に戻ったウェインに、レオが呆れたように息を吐く。


「お前ら、もう少し大きくなってからにしろ」

「じゃあ大きくなったらいいの?」

「その時は自分で冒険者になって習え」

「俺、冒険者になる!」

「僕も!」

「簡単に決めるなよ……」


 レオはそう言いながらも、少し笑っていた。


「レオ、寂しい?」


 ミアがにやりと笑う。


「なんで俺なんだよ」

「だって一番懐かれてたから」

「俺は遊び相手にされてただけだ」

「同じようなものじゃない?」

「違う」


 そんなやり取りをしていると、院長もやってきた。


「もうお帰りですか?」

「はい」


 ルナは姿勢を正し、改めて院長に向き直る。


「私たち、明日の朝にカロンを出ることになりました」

「まあ……そうでしたか」


 院長は少し寂しそうに目を細めた。


「短い間でしたけど、本当にありがとうございました」

「お礼を言うのはこちらですよ」


 院長は穏やかに首を振る。


「子供たちと遊んでくださって、食事まで作っていただいて。シェリーのことも気にかけてくださって、本当にありがとうございました」

「私たちがしたくてしたことですから」

「それでも、子供たちはとても喜んでいましたよ」


 院長は周囲に集まっている子供たちを見渡した。


「ここ数日は、あなたたちが来てくれるのを毎日楽しみにしていたんです」

「そうだったんですね……」


 それを聞くと、余計に離れがたくなる。

 ルナは少しだけ迷ってから口を開いた。


「本当は、子供たちのおやつになるものも作ってみたかったんです」

「おやつですか?」

「昨日試してみたんですけど、失敗しちゃって」


 ルナは少し照れくさそうに笑う。


「でも、もう少し試したら作れそうな気がするんです。だから、もしちゃんと作れるようになったら……いつか作り方をお伝えしてもいいですか?」

「もちろんです」


 院長は嬉しそうに微笑んだ。


「その時を楽しみにしていますね」

「はい」


 ルナも笑みを返す。

 そして、もう一度子供たちを見る。


「アンちゃん、元気でね」

「うん。ルナも」

「シェリーちゃんも、無理しないでね」

「うん。ルナたちも気をつけて」

「ウェインもコビーも、院長先生を困らせないようにね」

「分かってる!」

「僕も!」


「本当かなぁ」


 ミアが笑うと、二人が同時に「本当!」と声を上げた。


「それでは、皆さん。どうかお気をつけて」


 院長が静かに頭を下げる。


「はい。院長先生もお元気で」


 三人も揃って頭を下げた。

 そして孤児院を出て、歩き始める。


「またねー!」

「元気でね!」

「絶対また来てよ!」

「レオー! 今度は剣教えてよー!」

「だから教えないって言ってるだろ!」


 背後から聞こえる声に、三人は振り返った。

 孤児院の前には、院長と子供たちが並んでいる。

 アンもシェリーも、ウェインもコビーも、大きく手を振っていた。

 ルナも笑って手を振り返す。


「またね!」


 いつ会えるかは分からない。

 それでも、さようならとは言いたくなかった。

 子供たちの姿が見えなくなるまで、ルナは何度も振り返りながら手を振った。

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