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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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31/50

3-6

 翌朝。

 三人は朝食を済ませると、昨日と同じように冒険者ギルドに向かった。ルナは採取依頼を、ミアは簡単な討伐依頼を受け、三人で町の外に出る。

 大きな問題もなく、昼前には二人とも依頼を達成することができた。ギルドで報告を済ませた三人は、そのまま昼食を買うため市場に向かった。


「何か作るんだろ?」


 市場を歩きながら、レオが尋ねる。


「うん。昨日、孤児院から帰る時に考えてたの」


 ルナは店先に並ぶ食材を一つずつ眺めていく。

 前世には、少し食べるだけでもお腹にたまり、栄養も取れる食品がたくさんあった。

 この世界にあるもので、似たようなものを作れないだろうか。


(昨日の潰し麦は使えそうなんだよね)


 安くて保存も利く。

 あれを中心にして、何かを混ぜて固めれば——。


「あ」


 ルナが足を止めた。

 店先に、何種類もの木の実が並んでいる。

 その中に、前世で見慣れたものによく似た木の実が『アマンド』として売られていた。


(アーモンドだよね)


「アマンド?」

「知ってるの?」


 ミアが隣から覗き込む。

 ルナは頷くと店主に尋ねる。


「すみません。これは、そのまま食べられるんですか?」

「ああ。炒って食べたり、菓子に入れたりするよ」


 値段を確認すると、思っていたほど高くはない。


「うん。これなら使えそう」

 

 ルナは少し考えてから、必要な分だけ購入した。


(潰し麦にアマンドを砕いて混ぜて……)


 前世にあったシリアルバーのようなものが作れるかもしれない。それなら持ち運びもしやすいし、ちょっとお腹が空いた時にも食べられる。


「これだけ?」

「うーん……」


 ルナは周囲の店を見回す。


「せっかくなら、ドライフルーツも入れたいな」

「どらいふるーつ?」

「あ、乾燥させた果物」

「それならあっちにあったよ」


 ミアが少し先の店を指さした。

 二人で向かってみると、干した果物がいくつも並んでいる。


(レーズンだ)


 その中でルナが選んだのは干し葡萄だった。


「これは日持ちしますか?」

「ああ。干し葡萄だからな。葡萄の産地からこっちまで運ばれてくるくらいだ」

「これも入れるの?」

「うん。甘みも出るし、アマンドと一緒に入れたら美味しいと思う」

「なんか豪華になってきたね」

「せっかくだから」


 ルナは楽しそうに干し葡萄も購入する。

 あとは、材料をまとめるためのものが必要だ。


「蜂蜜かな」


 しかし、蜂蜜を扱っている店で値段を確認すると、ルナは少し考え込んだ。


「……やっぱりちょっと高い」

「買わないの?」

「ううん。必要だから買う。でも少しだけにしようかな」


 孤児院でも作れるものにしたい。

 たくさん蜂蜜を使わなければ作れないようでは、あまり意味がないだろう。

 ルナは小さな容器に入った蜂蜜を一つだけ購入した。


「これで材料は揃ったかな」

「潰し麦は?」

「昨日買ったのがまだ残ってるよ」

「じゃあ、お昼にしようよ。お腹空いた」

「そうだね」


 三人は昼食を買うと、市場の近くにある休憩場所に向かった。


「問題は、どこで作るかなんだよね」


 買ってきたパンを食べながら、ルナが呟いた。


「マディーさんにお願いしてみる?」


 ミアが言う。


「うーん。昨日も孤児院で料理したし、今日は宿でっていうのも……」


 そんな二人の話を聞いていたレオが口を開いた。


「ギルドで聞いてみたらどうだ?」

「ギルド?」

「ああ。カロンのギルドなら、冒険者が使える調理場があるかもしれない」

「そういうところもあるんだね」

「ああ、町によるけどな。自分で獲った肉を調理したり、依頼に持っていく食事を用意したりする奴もいるから」

「なるほど……」


 それなら今回の試作くらいはできそうだ。


「じゃあ、サーシャさんに聞いてみようか」

「うん」


 ミアも頷く。


「借りられなかったら、その時はマディーさんにお願いしよう」

「そうだね」


 行き先が決まり、ルナは残っていたパンを食べる。


「それなら、ギルドで今後のことも話すか」


 今度はレオが言った。


「今後?」

「この先の旅についてだよ。カロンに来てからもう数日経ったし、そろそろ次の町にいつ出るか決めておいた方がいい」

「あ……そっか」


 ルナは少しだけ表情を曇らせた。

 カロンに来てから、孤児院の子供たちとも知り合った。

 アンやシェリーとも、まだもう少し話したいと思っていた。

 けれど、ここは旅の途中で立ち寄った町だ。

 いつまでも滞在しているわけにはいかない。


「分かった。試作を作りながら話そう」

「ああ」

「じゃあ、食べ終わったらギルドだね」


 ミアの言葉に、ルナは頷く。

 新しく買った食材で、思い描いているものが作れるのか。

 そして、これから三人はどうするのか。

 その二つを決めるため、昼食を終えた三人は再び冒険者ギルドに向かうことにした。


◇◇◇


 受付にいたサーシャのところに向かい、ルナはさっそく尋ねる。


「あの、サーシャさん。ここって料理ができる場所はありますか?」

「料理?」


 サーシャは少し意外そうな顔をした。


「はい。ちょっと作ってみたいものがあって……」

「それなら、裏に共同の調理場があるわよ。冒険者なら使えるから、空いていれば自由に使って大丈夫」

「本当ですか?」

「ええ。ただし、食材や調味料は自分で用意してね」

「はい。ありがとうございます!」


 これで試作ができる。

 ルナが嬉しそうに礼を言う横で、レオはギルドの中を見回した。


「じゃあ、俺は少し話を聞いてくる」

「情報集め?」

「ああ。この先の街道や町のことも聞いておきたいからな」


 次の町に向かうなら、今のうちに少しでも情報を集めておいた方がいい。


「分かった。じゃあ、私たちは先に作ってるね」

「終わったら行く」

「うん」


 レオと別れ、ルナとミアはサーシャに教えてもらった調理場へ向かった。

 ギルドの裏にある調理場は、それほど広くはなかった。

 いくつかの炉と作業台が並び、壁には鍋やフライパンなどが掛けられている。


「ちゃんといろいろあるね」

「これなら作れそう」


 ルナは空いている作業台に持ってきた材料を並べた。

 潰し麦。

 アマンド。

 干し葡萄。

 そして蜂蜜。


「まずはアマンドを小さくしようか」

「あたしもやる」

「じゃあお願い」


 ミアにアマンドを任せ、ルナは干し葡萄を細かく刻んでいく。


(潰し麦だけでもお腹にはたまりそうだけど、せっかくなら栄養も考えたいよね)


 潰し麦だけより、木の実を入れれば脂質やたんぱく質も補える。干し果物なら甘みも加えられる。

 それに、美味しくなければ子供たちも喜んで食べてくれないだろう。


「これくらい?」

「うん。ありがとう」


 砕いたアマンドを受け取り、潰し麦と合わせる。

 そこに干し葡萄も加えた。


「結構いっぱい入れるんだね」

「うん。いろいろ入ってた方がいいかなって」

「美味しそう」

「でしょ?」


 あとは蜂蜜だ。

 少しずつ加えながら、全体に行き渡るよう丁寧に混ぜていく。


「こんな感じかな……」

「もう入れないの?」

「蜂蜜は高かったから、できるだけ少なくしたいんだよね」


 ルナは混ぜ合わせたものを手で押してみる。

 少し崩れやすい気もするが、焼けば固まってくれるかもしれない。


「とりあえず、これで焼いてみよう」

「上手くいくかな?」

「……たぶん」

「またそれ?」

「やってみないと分からないもん」


 二人で笑いながら形を整え、焼く準備をする。

 宿とは違う炉なので、火加減にも気をつけなければならない。途中で何度か様子を確認しながら、焦がさないようじっくりと焼いていった。

 しばらくすると、香ばしい匂いが調理場に広がり始める。


「いい匂い!」

「うん。味は期待できそう」

「味は?」

「……ちゃんと固まってくれれば大丈夫」


 焼き上がったものを取り出し、しばらく冷ましておく。

 見た目は悪くない。

 潰し麦の間からアマンドと干し葡萄が見えていて、ルナが思い描いていたものに近かった。


「できた?」


 ちょうどその時、レオが調理場に入ってきた。


「レオ。ちょうどいいところ」

「いい匂いするな」


 レオも作業台の前までやってくる。


「何入れたんだ?」

「潰し麦とアマンドと干し葡萄。それを蜂蜜でまとめて焼いてみたの」

「へえ」

「お腹にもたまるし、持ち歩けて、栄養も取れるものにしたくて」

「栄養?」

「えっと……体を作るのにいいもの、っていう意味」

「……それでこれか」

「うん」


 そろそろ大丈夫だろう。

 ルナは期待しながら、焼き上がったものを持ち上げた。


「…………あ」


 端がぽろりと落ちた。


「え?」


 もう少し慎重に持ち上げようとする。

 しかし——。

 ぽろぽろ。

 形を保っていたものが、次々と崩れていく。


「……崩れちゃった」


 ミアが呟く。


「…………」


 ルナは無言で作業台の上を見つめた。

 見た目はそれなりに上手くできていた。

 焼き上がった直後までは。


「失敗?」

「……失敗だね」


 ルナは肩を落とした。

 レオが崩れた一欠片を手に取る。


「食べてもいいか?」

「いいけど……」


 口に放り込み、何度か噛む。


「うまいぞ」

「本当?」


 ミアも一欠片を食べてみる。


「あ、美味しい。干し葡萄は甘いし、アマンドも合うよ」

「味はね……」


 ルナも自分で食べてみる。

 確かに味は悪くない。

 むしろ思っていたより美味しくできている。

 問題は別のところだった。


「蜂蜜が足りなかったのかな……」


 材料同士がしっかりくっついていない。

 アマンドも干し葡萄も入れたかったので、少し多めに使ってしまった。その分、少ない蜂蜜では全体をまとめきれなかったのだろう。


「もっと蜂蜜入れればいいんじゃない?」


 ミアが言う。


「たぶんそれでも固まると思う。でも……」


 ルナは残った蜂蜜を見る。


「これ以上たくさん使うと高くなっちゃうんだよね」

「そっか」

「材料を入れすぎたのかも。アマンドも干し葡萄もって欲張っちゃったから」


 ルナは崩れた試作品を一つつまむ。


「もうちょっと考えないと駄目だね」


ルナはそう呟くと、手帳を取り出した。


『潰し麦、アマンド、干し葡萄、蜂蜜。

 味は問題なし。

 蜂蜜が少なく、形が崩れる。

 次は材料を減らすか、まとめ方を変える』


そこまで書いて、少し考える。


「失敗した時こそ、ちゃんと残しておかないと」

「また作るつもりなんだ」


ミアが笑う。


「もちろん。次はちゃんと固めたいもの」


 ルナは手帳を閉じると、崩れた試作品をもう一度見つめた。


「でも、食べる分には問題ないだろ?」


 レオはそう言って、また一欠片取った。


「レオ、結構気に入ってない?」

「普通にうまいからな」

「あたしも好き」

「失敗作なんだけどなぁ……」


 そう言いながらも、ルナも一緒に食べる。

 形にはならなかったものの、捨てる必要はなさそうだ。

 作業台を囲んで失敗作を食べながら、ルナはレオに目を向けた。


「それで、何か分かった?」

「ああ。いくつか聞いてきた」


 レオの答えに、ルナとミアも表情を改める。

 試作は失敗してしまった。

 けれど、今日ここに来た目的はもう一つある。


 崩れてしまった試作品をつまみながら、レオは先ほど聞いてきたことを二人に話し始めた。


「次に向かうなら、サラスって町がいいらしい」

「サラス?」

「ああ。ここから馬車で一日くらいだ」


 レオは作業台の上に簡単な地図を広げる。

 カロンから街道を進んだ先に、サラスという町がある。


「一日なら、途中で泊まらなくても大丈夫そうだね」

「朝に出れば、日が暮れる前には着けるはずだ。街道も今のところ問題ないらしい」

「魔物は?」


 ミアが尋ねる。


「出ないわけじゃないけど、最近は危険な魔物が出たって話はない。商人や旅人も普通に行き来してるそうだ」

「じゃあ、アルミヤから来た時より楽そうだね」

「ああ」


 レオが頷く。

 サラスまでの道については、それほど心配する必要はなさそうだ。


「問題は、いつ出るかだな」


 その言葉に、ルナは少し黙った。

 カロンに来てから数日。

 依頼にも慣れてきたし、町のことも少しずつ分かってきた。何より、孤児院の子供たちと仲良くなったばかりだ。


「……もう出た方がいい?」

「できればな」


 レオは少し考えてから続ける。


「アルミヤでは、ルナを探してるらしい奴らを見かけた。あいつらが王都に戻って、その後どうなったのかは分からない」

「お父様がまだ探してるかもしれないってことだよね」

「ああ。逆に、もう諦めてるかもしれない。でも、それを俺たちが確認する方法はない」


 ルナは小さく頷いた。

 父が自分をどうするつもりなのかは分からない。

 ただ、見つかればフィールズ家へ連れ戻される可能性がある以上、油断はできない。


「港町まで行って海を渡れば、少なくとも今よりは追ってきにくくなる」

「やっぱり、早く港町まで行った方がいいんだね」

「俺はそう思う」

「そっか……」


 分かっていたことだった。

 ルナたちは、この先にある港町を目指して旅をしている。

 それでも、少し寂しかった。


「孤児院のみんなと、せっかく仲良くなれたのにな」


 思わず本音がこぼれる。


「うん……」


 ミアも少し寂しそうに頷いた。


「アンとも、もっと話したかったな」

「シェリーちゃんのことも、もう少し様子を見たかったし」

「ウェインたちはレオに懐いてたしね」

「……あれは懐かれてたのか?」

「すごく懐かれてたよ」

「質問攻めにされてただけだと思うけどな」


 レオが微妙な顔をする。

 ルナはくすっと笑った。

 少しだけ寂しい気持ちが和らぐ。


「でも、ずっとここにいるわけにもいかないもんね」


 ルナは自分に言い聞かせるように呟いた。

 ここでの生活が楽しくても、自分たちはまだ旅の途中だ。


「じゃあ、明日は準備にしようか」

「そうだな」


 レオが頷く。


「馬車の確認と、必要な食料を買っておく。サラスまで一日なら、それほど多くはいらないけどな」

「孤児院にも行きたい」


 ミアが言った。


「うん。ちゃんとお別れを言いたい」


 何も言わずに町を出るのは嫌だった。


 アンにも、シェリーにも。

 ウェインやコビー、それにほかの子供たちにも、きちんと挨拶をしてから出発したい。


「じゃあ、明日は出発の準備をして、孤児院にも挨拶に行く。それで明後日の朝にカロンを出る。これでいいか?」

「うん」

「あたしもそれでいい」


 二人の返事を聞いて、レオは地図を畳んだ。

 これで今後の予定は決まった。


「……あと一日か」


 ルナは手元の崩れた試作品を一つ口に入れる。

 完成させることはできなかった。

 けれど、次に試したいことはいくつも浮かんでいる。


(また、どこかで作ってみよう)


 少しだけ名残惜しさを感じながら、ルナはそう心に決めた。

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