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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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30/52

3-5

 孤児院に到着して、ルナが扉を叩こうとしたところで、中から子供たちの声が聞こえてきた。

 ちょうど誰かが出ようとしていたのか、ほどなくして扉が開き——


「あ!」


 扉を開けたアンは、ルナたちに気づいた瞬間、ぱっと顔を輝かせた。


「ルナ! ミア!」

「こんにちは、アンちゃん」

「また来たよ」

「本当に来てくれた!」


 アンの声を聞きつけたのか、奥から子供たちが次々と集まってくる。


「昨日のお姉ちゃんたちだ!」

「今日は三人いる!」


 あっという間に賑やかになった。


「この人がレオ?」


 ウェインが真っ先にレオを見る。


「そうだよ」


 ミアが答えると、ウェインとコビーの目が輝いた。


「剣持ってる!」

「本当に冒険者なんだ!」

「昨日もそう言ったでしょ」


 ルナが笑う。

 二人はそんな言葉も聞かず、レオのところに駆け寄った。


「何ランク?」

「Dランク」

「すごい! どんな魔物倒したことある?」

「いっぱい倒してる?」

「その剣で倒すの?」

「魔法も使えるんだよね?」

「待て待て。一人ずつ話せ」


 次々と飛んでくる質問に、レオが困ったように眉を寄せる。


「……大人気だね」


 ルナがくすくす笑う。


「レオ、頑張って」

「おい、置いていくなよ」

「子供たちの相手お願いね」


 ミアも楽しそうに笑い、ルナと一緒に中に入る。


「ルナ、今日は何しに来たの?」


 アンが二人についてくる。


「アンちゃんたちに食べてもらいたいものがあって」

「食べ物?」

「今日はホーンラビットを狩ってきたんだよ」

「本当!?」

「ミアが一匹倒したの」

「ミアが?」


 アンが驚いたようにミアを見る。


「うん。ちゃんと一人で倒したよ」

「すごい!」

「えへへ」


 褒められたミアが照れくさそうに笑った。

 その時、奥から院長がやってきた。


「まあ。今日も来てくださったんですね」

「こんにちは。昨日はありがとうございました」

「こちらこそ。アンたちが、朝からまた来てくれるかもしれないと楽しみにしていたんですよ」

「アンちゃん、本当に?」

「……うん」


 アンが少し恥ずかしそうに頷く。

 ルナは笑ってから、ふと昨日のことを思い出した。


「そうだ。シェリーちゃんの具合はどうですか?」

「昨日よりは少し良くなっていますよ。熱もほとんどありません」

「よかった……」

「ただ、まだ食欲はあまり戻っていなくて。今朝も少ししか食べてくれませんでした」


 院長は心配そうに奥の部屋に目を向けた。


「本人は大丈夫だと言っていますけれど、もう少し食べてくれれば安心なのですが」

「まだ食べられないんですね……」


 ルナは持ってきた荷物に目を落とす。

 ちょうどよかったかもしれない。


「あの、院長先生」

「はい?」

「お願いがあるんですけど……今日、こちらの調理場を使わせてもらえませんか?」

「調理場を?」

「はい」


 ルナは市場で買ってきた潰し麦や野菜を見せる。


「昨日、シェリーちゃんがあまり食べられないって聞いたので、何か食べやすいものを作れないかなって考えてみたんです」

「そのために……?」

「ホーンラビットのお肉も持ってきました」


 ミアが嬉しそうに付け加える。


「みんなで食べられるくらいあると思います」

「まあ……」


 院長が驚いたように二人を見る。


「でも、そこまでしていただくわけには……」

「私が作りたいんです」


 ルナは笑って答えた。


「初めて使う食材なので、上手くできるかは分かりませんけど」

「初めて?」

「えっと……」


 ルナは少しだけ視線を逸らした。


「似たような料理は作ったことがあるので、たぶん大丈夫です」

「たぶんなんだ」


 ミアが横から言う。


「大丈夫。ちゃんと味見するから」

「そこは心配してないけど」


 二人のやり取りに、院長が小さく笑った。


「分かりました。それでは、お願いしてもよろしいですか?」

「はい!」

「調理場にあるものも、必要でしたら使ってください。あまり大したものはありませんが」

「ありがとうございます」

「シェリーちゃんにも、食べられそうなら少し食べてもらってもいいですか?」

「ええ。本人が食べられそうならお願いします」


 ルナの表情が明るくなる。


「アンちゃんも食べてくれる?」

「うん!」

「何作るの?」

「柔らかく煮込んだ料理にしようと思ってるの。シェリーちゃんも食べやすいように」

「シェリーも食べられる?」

「食べてもらえるといいな」


 まだ上手くできるかは分からない。

 けれど、できるだけ食べやすくて美味しいものにしたい。


「じゃあ、さっそく作ろうか」

「あたしも手伝う!」


 ミアが言うと、アンもすぐに手を挙げた。


「私も!」

「じゃあ三人で作ろう」

「うん!」


 ルナたちは荷物を持って調理場に向かう。

 その後ろでは、まだウェインとコビーの質問攻めにあっているレオの声が聞こえていた。


「だから、剣は触るなって」

「ちょっとだけ!」

「駄目だ」

「じゃあ魔法見せて!」

「ここで使えるわけないだろ」


 どうやら、しばらく解放してもらえそうになかった。


 院長に案内され、ルナたちは孤児院の調理場に入った。

 広さはそれほどない。

 大きな鍋やフライパン、包丁など、必要な調理器具は一通り揃っているものの、ゆりかご亭の調理場と比べればずいぶん質素だった。


「まずは……」


 ルナが周囲を見回していると、アンがすぐに棚を指さした。


「包丁はそこだよ。まな板は下!」

「ありがとう」

「お鍋はこっち。大きいのもあるよ」


 アンは慣れた様子で次々と教えてくれる。


「アンちゃん、詳しいね」

「いつもお手伝いしてるから」

「料理もするの?」

「まだ一人じゃ無理だけど、野菜を洗ったり、お皿を並べたりするよ。あと食べ終わったら片づけもする」

「偉いね」


 ルナがそう言うと、アンは少し照れたように笑った。


「院長先生たち、いつも大変だから」


 その言葉に、ルナは手を止める。


「先生たちを助けたいの?」

「うん」


 アンは当たり前のように頷いた。


「いつもみんなのことしてくれてるもん。だから私もできることはやるの」

「そっか」

「分かるなぁ」


 隣で野菜を洗っていたミアが呟いた。

 アンが振り返る。


「ミアも?」

「うん。あたしも孤児院にいた時はよく手伝ってたよ」

「何してた?」

「掃除とか洗濯とか。料理も少しだけ。小さい子の面倒も見てたかな」

「私も小さい子のお世話する!」

「同じだね」

「うん!」


 アンが嬉しそうに笑う。

 二人はすっかり意気投合していた。

 ルナはその会話を聞きながら、買ってきた潰し麦を確認する。


(ミアもこういうことしてたんだ)


 王都の孤児院で暮らしていた頃のミアについて、知っていることはそれほど多くない。こうして旅をしていると、少しずつ知らなかった一面を知ることができる。


「ルナ、次は何する?」


 ミアに声をかけられ、ルナは我に返った。


「じゃあ、野菜を細かく切ろう。できるだけ小さくしたいの」

「分かった」

「アンちゃんは洗った野菜をこっちに持ってきてくれる?」

「うん!」


 三人で手分けして準備を進める。

 まずは野菜を細かく刻む。

 ホーンラビットの肉も、シェリーが食べることを考え、脂の少ない部分を選んで細かく切る。


「これ、ミアが倒したんだよね?」

「うん。一匹だけだけど」

「すごいなぁ」

「もう一匹はレオが倒したの。すっごく簡単そうに」

「レオって強いの?」

「強いよ。あたしもまだ全然敵わない」

「ウェインたちが喜ぶわけだね」


 そんな話をしながら、ルナは鍋に肉を入れて火を通していく。続いて野菜を加え、水を入れる。

 煮立ってきたところで、いよいよ潰し麦を取り出した。


「それがさっき買ったやつ?」

「うん」


 ミアも興味深そうに覗き込む。


「初めて作るんだよね?」

「……そうだけど」

「大丈夫?」

「たぶん」

「また言った」


 ミアが笑う。


「ちゃんと少しずつ入れるから大丈夫」


 ルナは様子を見ながら潰し麦を鍋に加えた。

 焦げつかないよう、ときどき底から混ぜながら煮込んでいく。しばらくすると、潰し麦が水分を吸って柔らかくなってきた。


「あ……いいかも」


 ルナは木べらですくって確認する。

 全体にとろみがつき、思っていた以上に雑炊に近い仕上がりになっている。


「なんか、とろとろしてきたね」

「うん。これなら食べやすそう」


 味を確認しながら、塩を少しずつ加える。

 シェリーが食べることを考えて、味は濃くしすぎない。

 肉と野菜から出た旨味もある。


「ちょっと味見してみる?」

「する!」


 アンが真っ先に手を挙げた。

 小皿に少量を取り、冷ましてから三人で味を見る。


「……美味しい!」


 アンがすぐに笑顔になる。


「お肉の味もする!」

「本当だ。優しい味だね」


 ミアも頷く。


「ルナ、これならシェリーも食べられるんじゃない?」

「そうだといいな」


 ルナも一口食べてみる。


(うん。お米とは違うけど、これはこれで美味しい)


 もう少しだけ煮込めば、さらに柔らかくなりそうだ。

 火加減を弱め、底が焦げないようゆっくりとかき混ぜる。


「いい匂い」


 アンが鍋を覗き込む。


「みんな喜ぶかな?」

「きっと喜ぶよ」

「ウェインたち、お肉大好きだもん」

「じゃあ、たくさん食べてもらわないとね」

「絶対おかわりするよ」


 三人で笑う。

 やがて野菜も肉も十分に柔らかくなった。

 ルナは最後にもう一度味を確かめてから、火を止める。


「よし」

「できた?」

「うん。完成!」


 大きな鍋から、温かな湯気が立ち上っている。


「じゃあ、みんなを呼ぼうか」

「私、呼んでくる!」


 アンは元気よく返事をすると、調理場から駆け出していった。


「走ったら危ないよー!」


 その背中にミアが声をかける。


「みんなー! ご飯できたよー!」


 廊下からはすぐにアンの大きな声が響いた。

 ルナとミアは顔を見合わせ、くすくすと笑った。


 アンの声を聞いた子供たちが、次々と食堂に集まってきた。


「いい匂い!」

「今日、お肉あるってほんと?」

「アンから聞いた!」


 ウェインとコビーを先頭に、子供たちは大きな鍋を興味津々に覗き込む。


「ちゃんと全員分あるから、順番にね」

「おかわりもある?」

「全員に行き渡ってからならね」

「やった!」


 その喜びように、ルナは思わず笑った。

 ミアと一緒に器に雑炊をよそい、一人ずつ配っていく。

 レオもようやく子供たちから解放されたらしく、配膳を手伝ってくれた。


「シェリーちゃんは?」

「連れてくるわ。今日は少し調子がいいみたいだから」


 院長がそう言って席を外し、しばらくするとシェリーを連れて戻ってきた。


「シェリー!」


 アンがすぐに駆け寄る。


「大丈夫?」

「うん。今日は昨日より元気」


 確かに昨日より顔色はよさそうだった。

 それでも、ほかの子供たちほど元気があるわけではない。

 ルナはシェリーの前に、少なめによそった器を置いた。


「無理して全部食べなくていいからね」

「うん」

「食べられそうな分だけで大丈夫」

「ありがとう、ルナ」


 全員に料理が行き渡る。


「それじゃあ、いただきましょうか」


 院長の言葉に、子供たちが元気よく声を揃えた。


「いただきます!」


 さっそくウェインが大きな一口を食べる。


「うまい!」

「お肉入ってる!」


 コビーも嬉しそうに肉を探している。


「本当だ!」

「柔らかい!」

「おいしい!」


 あちこちから声が上がった。


「よかった」


 ミアが嬉しそうにルナを見る。


「うん」


 ルナも笑ったものの、気になっているのはシェリーだった。そっとそちらに目を向ける。

 シェリーはスプーンで少しだけすくうと、ゆっくり口に運んだ。何度か噛んで飲み込む。

 ルナは思わずその様子を見つめてしまう。


「……どう?」


 聞くと、シェリーが顔を上げた。


「おいしい」

「本当?」

「うん。柔らかいから食べやすい」


 もう一度、スプーンを動かす。

 一口。

 少し休んで、また一口。

 ほかの子供たちのような勢いはない。

 それでも、ちゃんと食べている。

 朝も少ししか食べていないと聞いていたので、それだけでも十分だった。


「シェリー、おいしい?」


 隣に座ったアンが心配そうに尋ねる。


「うん」

「いっぱい食べられそう?」

「いっぱいは無理かも」

「そっか……」

「でも、これならもうちょっと食べられるよ」

「本当?」

「うん」


 アンの表情がぱっと明るくなった。

 そんな二人を見て、ルナも胸を撫で下ろす。


「ルナ!」


 突然ウェインに呼ばれ、そちらを向く。


「おかわり!」

「もう食べたの?」

「うん!」

「僕も!」


 コビーまで空になった器を差し出してきた。


「早すぎない?」


 ミアが呆れたように笑う。


「だってうまいんだもん」

「肉もまだある?」

「ちゃんと入れるから」

「やった!」


 ルナは立ち上がると、二人の器に雑炊をよそう。


「私もおかわり!」

「僕も!」


 ほかの子供たちからも次々と声が上がった。


「ちょっと待ってね。まだあるから」


 思っていた以上の人気だった。


「多めに作っておいて正解だったな」


 レオが言う。


「本当だね」

「俺の分は残ってるよな?」

「……たぶん?」

「おい」

「冗談だよ」


 ルナが笑うと、レオは小さく息をついた。

 賑やかな食堂を見渡す。

 みんな美味しそうに食べている。

 ミアが捕まえたホーンラビットも、レオが捕まえた一匹も、小さくしたことで全員の器に入れることができた。

 そしてシェリーも——。

 もう一度見ると、最初によそった量の半分以上がなくなっていた。今もゆっくりと、自分のペースで食べ続けている。


(よかった……)


 全部食べられなくてもいい。

 少しでも体力が戻る助けになれば、それでいい。

 何より、自分が作ったものを美味しいと言って食べてもらえた。それがルナには嬉しかった。


「ルナ、おかわり!」

「はいはい。今行くよ」


 また呼ばれて、ルナは鍋の前に向かう。

 楽しそうな声が響く食堂の中で、大きな鍋の中身は少しずつ減っていった。その光景を見ながら、ルナは作ってよかったと心から思った。


「今日はありがとうございました」


 そろそろ宿に戻ろうとしたところで、院長が改めて三人に頭を下げた。


「シェリーがあれだけ食べてくれたのは久しぶりです。本当に安心しました」

「よかったです。私も食べてくれるか心配だったので」

「今日はみんな、お腹いっぱい食べられて喜んでいました」


 院長は食堂に目を向ける。

 そこではウェインとコビーが、またレオを捕まえて何やら話していた。


「特にあの子たちは、たくさん食べますから」

「二人ともおかわりしてましたね」

「一回じゃないよ。ウェインなんて三回してた」


 ミアが笑う。


「普段は足りないんですか?」

「食事の量は足りていますよ。ただ、育ち盛りなので、夕食前にはお腹が空いたと言う子も多くて」

「何か軽く食べたりは?」

「果物などをいただいた日は分けますが、毎日そこまで用意する余裕はなくて……」

「あ……」


 朝、昼、夜の食事は用意できる。

 けれど、その間に食べるものまでとなれば別なのだろう。


「だから今日は、みんなあんなに喜んでたんですね」

「ええ。お肉もたくさん入っていましたし、お腹いっぱい食べられたようです」


 院長は嬉しそうに笑った。


「本当にありがとうございました」

「いえ。私たちも楽しかったです」

「また来るね!」


 ミアが子供たちに声をかける。


「絶対だぞ!」

「今度はもっと魔物の話してよ!」

「レオに言って」

「なんで俺なんだよ……」


 レオの困った声に、ルナたちが笑う。


「ルナ」


 アンが近づいてきた。


「今日はありがとう。シェリーも食べられてよかった」

「うん。早く元気になるといいね」

「また来てね」

「もちろん」


 約束をして、三人は孤児院を後にした。


◇◇◇


 まどろみ亭に戻る道を歩きながら、ルナは先ほどの院長の話を思い返していた。


(おやつか……。安くて、お腹にたまって……できれば栄養もあるもの)


 何かないだろうか。

 今日使った潰し麦も、安くて腹持ちがいいと店主が言っていた。あれを使って何か作れないだろうか。


「ルナ、どうしたの?」


 ミアに声をかけられ、ルナは顔を上げた。


「ううん。ちょっと考え事」

「また料理?」

「……なんで分かったの?」

「ルナが考え込んでる時、大体食べ物のことだから」

「そんなことないと思うけど」

「あるよ」


 即答され、ルナは少しだけ頬を膨らませる。

 その横でレオが小さく笑った。


「レオまで笑わないでよ」

「悪い悪い」


 ルナはもう一度、今日のことを思い返す。

 嬉しそうに雑炊をおかわりしていた子供たち。

 ゆっくりではあるものの、最後まで食べてくれたシェリー。

 そして、毎日おやつまで用意する余裕はないという院長の言葉。


 ふと、前世で食べていたものがいくつか頭に浮かんだ。

 シリアルや栄養補助食品。

 少し食べるだけでもお腹にたまり、手軽に栄養を取れるものもたくさんあった。


(この世界にあるもので、似たようなものを作れないかな)


 すぐには答えは出ない。

 それでも、今日買った潰し麦を思い浮かべながら、ルナは新しい料理について考え始めていた。

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