↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/50

3-2

 翌朝。

 三人はまどろみ亭で朝食を済ませると、冒険者ギルドに向かった。昨日カロンに着いたばかりということもあり、まずはこの町の周辺について情報を集めるためだ。


 ギルドに入ると、朝早い時間にもかかわらず多くの冒険者で賑わっていた。依頼ボードの前には何人もの冒険者が集まり、受付でも依頼を受ける者や報告をする者が順番を待っている。


「アルミヤより人が多いね」

「ああ。町が大きい分、冒険者も多いんだろうな」


 レオは周囲を確認すると、比較的空いている受付に向かった。


「おはようございます」


 受付には、姿勢を正して座る落ち着いた様子の女性がいた。


「おはようございます。依頼をお探しですか?」

「その前に、この辺りのことを聞きたい。昨日カロンに着いたばかりなんだ」

「分かりました。私はサーシャです。分かる範囲でしたらお答えしますよ」

「助かる」


 レオはカロン周辺の地図を見せてもらいながら、順番に尋ねていった。

 初心者でも利用できる採取場所。

 近くの森に生息している魔物。

 最近、危険な魔物が目撃されていないか。

 サーシャも慣れているのか、一つずつ丁寧に説明してくれる。


「この辺りなら、比較的安全に薬草を採取できます。ただ、森に入るのでしたら注意してください」

「何かいるのか?」

「ホーンラビットやスライムのほか、奥に行けばもう少し強い魔物も出ます。今のところ危険な魔物が現れたという報告はありませんが、初めてでしたら浅い場所までにしておいた方がいいですね」

「分かった」


 ルナも横から地図を覗き込む。

 アルミヤとは採れる薬草にも少し違いがあるらしい。


(今度、資料も見せてもらおう)


 知らない植物があるかもしれない。

 そう考えているうちに一通り説明が終わり、三人は依頼ボードの前に移動した。


「今日はどうする?」


 ミアが尋ねる。


「そうだな……」


 レオは並んでいる依頼を確認してから、二人に向き直った。


「今日はまた、二人で町の中の依頼を受けてもらってもいいか?」

「レオは?」

「俺は一人で森を見てくる」

「一人で?」


 ルナが聞き返す。


「ああ。明日以降、お前たちを連れていくなら、一度自分の目で見ておきたい」


 どの程度の魔物がいるのか。

 道は歩きやすいか。

 二人でも問題なく行動できる場所なのか。

 先に確認しておきたいらしい。


「ついでに何か討伐依頼も受けていく」

「一人で大丈夫?」


 ルナが心配して尋ねると、レオがじっとこちらを見る。


「……俺、一応Dランクなんだけどな」

「あ」

「忘れてたの?」


 ミアが笑う。


「忘れてたわけじゃないよ。ただ、いつも三人だから」

「お前たちが冒険者になる前から一人で依頼は受けてる」

「そうだよね」


 言われてみれば当然だった。


「夕方までには戻る。二人は町の外には出るなよ」

「分かった」

「私たちも夕方までには宿に戻るね」

「ああ」


 三人はそれぞれ依頼を探す。

 レオはビッグボアの討伐依頼を一つ選んだ。

 一方、ルナとミアが選んだのは——。


「畑の草むしり?」

「うん。これなら二人でできそう」


 町の外に出る必要もなく、午前中には終わりそうだ。

 依頼を受ける手続きを済ませると、三人はギルドの前で別れることになった。


「じゃあ、気をつけてね」

「お前たちもな」


 レオはそう言い残し、一人で森に向かう。

 ルナとミアも依頼先に向かって歩き出した。


◇◇◇


 依頼された畑は、町を囲む城壁の内側、そのすぐ近くにあった。


「この辺を全部お願いね」

「はい!」


 畑の持ち主から説明を受け、二人はさっそく作業に取りかかった。野菜が植えられた列の間には、ところどころ雑草が伸びている。


「間違えて野菜まで抜かないようにね」

「それくらい分かるよ」

「ルナ、こういう作業したことないでしょ?」

「……ないけど」


 屋敷では庭の手入れも畑仕事も使用人の仕事だった。

 もちろん、草むしりをした経験もない。


「分からなかったらあたしに聞いてね」

「はーい」


 孤児院で暮らしていたミアは慣れているようで、次々と雑草を抜いていく。

 ルナも見よう見まねで作業を始めた。


「これは……雑草で合ってる?」

「うん」

「こっちは?」

「それも」

「これは?」

「……ルナ」

「何?」

「全然進んでないよ」

「だって間違えて抜いたら大変でしょ」

「それはそうだけど」


 ミアは苦笑しながらも、見分け方を教えてくれた。

 しばらく続けているうちに、ルナも少しずつ慣れてくる。


「よいしょっと」


 根元を掴み、土から引き抜く。

 そこでルナは手を止めると、抜いた草をじっと見る。

 葉を指先で軽く擦ると、鼻に近づけた。


「…………」

「ルナ?」


 その様子を見ていたミアが呆れた顔をした。


「また?」

「何が?」

「草を見るたびに匂い嗅ぐのやめなよ」

「だって気になるんだもん」

「そのうち変なの嗅いで気分悪くなるよ」

「そこは気をつける」


 ミアがため息をつく。


「青葉草もハッカソウも、最初はただの草だったでしょ?」

「そうだけど」

「だから、こういうのも調べてみたら何かに使えるかもしれないし」

「……ルナ、全部の草を調べるつもり?」

「全部は無理だけど、気になったものは」

「やっぱり草ばっかり見てる」

「ちゃんと仕事もしてるよ」


 ルナはそう言って、再び草を抜き始めた。

 今度は少しだけ手を速める。


「ほら」

「はいはい。頑張って」


 ミアも笑いながら作業に戻った。

 途中で何度か休憩を挟みながら、二人は畑の草を抜いていく。慣れてくると作業の速度も上がり、昼前には頼まれていた範囲をすべて終えることができた。


「終わったぁ……」


 ルナは立ち上がると、大きく背中を伸ばした。


「腰が痛い……」

「普段使わないところ使ったからじゃない?」

「草むしりって思ったより大変なんだね」

「畑全部やるとなると大変だよ」


 二人で最後に抜き残しがないか確認する。

 畑の持ち主にも見てもらうと、満足そうに頷いてくれた。


「綺麗になったね。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 依頼完了の確認をもらい、二人は畑を後にする。


「お腹空いたね」

「うん。報告したらお昼にしよう」


 並んでギルドに戻りながら、ルナは何気なく自分の手を見る。土で少し汚れている。

 王都にいた頃なら、自分が畑で草むしりをするなんて想像もしなかっただろう。

 けれど——。


「結構楽しかったかも」

「本当?」

「うん。知らない草もあったし」

「そっち?」


 ミアの呆れた声に、ルナはくすくすと笑った。


◇◇◇


 ギルドで依頼完了の報告を済ませ、報酬を受け取った二人は、そのまま市場に向かった。


「何食べようか」

「昨日見た時、向こうにパンのお店があったよ」

「あ、串焼きもあったよね」

「それも食べたい」


 昼時ということもあり、市場は賑わっていた。

 食事を売る店の前には人が集まり、あちこちから肉を焼く香ばしい匂いや、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。

 ルナも何を食べようかと店を見回して、ふと足を止めた。


「あ……」

「どうしたの?」

「昨日の子」


 少し先にある店の前に、見覚えのある女の子がいた。

 昨日、果物を買おうとして諦めていた子だ。

 今日も小さな財布を手に持ち、店先に並んだ食べ物を見ている。


「本当だ」


 ミアも気づいたようだった。

 二人で様子を見ていると、女の子は店主に何か尋ねた。

 値段を聞き、財布の中を確認する。

 そして昨日と同じように、何も買わずに店から離れた。


「……やっぱり気になる」


 ルナが呟く。


「あたしも」

「声かけてみてもいいかな」


 昨日は事情も分からないまま話しかけるのをやめた。

 けれど、二日続けて同じような姿を見れば、さすがに気になる。

 ミアも少し考えてから頷いた。


「うん。でも、嫌がったらそれ以上は聞かないようにしよう」

「分かった」


 二人は少し先を歩く女の子に追いつくように歩き出した。


「あの!」


 呼びかけると、女の子が振り返る。


「……私?」

「うん」


 ルナたちを見る目には、少し警戒が浮かんでいた。

 知らない人間から突然声をかけられたのだから当然だろう。

 ルナはできるだけ驚かせないように笑いかけた。


「急にごめんね。私、ルナ」

「あたしはミア」

「……アン」


 女の子——アンは、小さな声で名乗った。


「アンちゃんね」

「うん」

「昨日も市場にいたよね?」


 そう尋ねると、アンの表情が少し強張った。


「……見てたの?」

「あ、ごめん。ずっと見てたわけじゃないの」


 ルナは慌てて首を横に振る。


「たまたま見かけただけ。でも、今日も何か探してるみたいだったから……」


 どう聞けばいいのか迷っていると、ミアが横から口を開いた。


「何か困ってる?」

「……別に」


 アンはそう答えたものの、ぎゅっと財布を握りしめた。

 やはり何かありそうだ。

 けれど、無理に聞き出すわけにもいかない。


「そっか」


 ルナはそれ以上聞くのをやめた。


「私たち、これからお昼を食べるんだけど、アンちゃんも一緒に食べない?」

「え?」

「ちょうど何を食べようか話してたところなの」


 アンは戸惑ったように二人を見る。


「でも、お金……」

「今日は私たちが誘ったから気にしなくていいよ」

「知らない人にそんなことしてもらえない」


 きっぱり断られてしまった。

 しっかりしている。

 ルナがどうしようかと考えていると、ミアがアンの前にしゃがんだ。


「あたしもね、孤児院で育ったんだ」

「……え?」


 アンが初めてミアの顔をしっかりと見る。


「だから、もしかしたらアンもそうなのかなって思ったの。違ったらごめんね」

「……どうして分かったの?」

「なんとなく。あたしも同じだったから」


 ミアは少し笑ってから続けた。


「でも、話したくないことまで話さなくていいからね。あたしも知らない人に色々聞かれるの、嫌だったから」


 アンは黙ってミアを見つめる。

 さっきまでより、その瞳から少しだけ警戒が薄れていた。


「今は冒険者をしてるの?」

「うん。まだなったばっかりだけどね」

「私も冒険者だよ」


 ルナも自分のギルドカードを見せる。


「二人とも?」

「そう」


 アンはカードと二人の顔を交互に見た。

 少し迷ってから、小さく頷く。


「……じゃあ、一緒に食べてもいい?」

「もちろん!」


 三人は市場でパンとスープを買い、近くにある休憩場所に移動した。


「いただきます」

「いただきます」


 アンは最初こそ遠慮していたものの、一口食べると少しだけ表情が和らいだ。


「美味しい?」

「うん」


 その答えにルナも笑う。

 しばらくは市場のことや、ルナたちが昨日カロンに着いたばかりだという話をしながら食事をした。

 やがて、アンの方からぽつりと口を開いた。


「……昨日もね、食べ物を買いに来たの」

「うん」

「シェリーに何か買ってあげようと思って」

「シェリー?」

「孤児院にいる子。十歳で、私より二つお姉ちゃん」


 やはりアンは孤児院で暮らしているらしい。


「シェリーちゃん、どうかしたの?」

「最近、あんまり元気がないの」


 アンの表情が曇る。


「熱があるの?」

「少しだけ。でも、すごく高いわけじゃないって院長先生が言ってた」

「他には?」

「ご飯をあんまり食べない。ずっと疲れたって言ってて……」


 ルナは少し考える。

 それだけでは原因までは分からない。


「神殿には行ったの?」

「まだ。院長先生が、もう少し休んでも治らなかったら連れていくって」

「そっか……」

「ずっと元気がないの。寝ても疲れたって言うし、ご飯もあんまり食べないの」


 話を聞いただけでは、どこが悪いのかは分からない。

 ただ、食欲がない状態が続いているのは気になった。


「それで、何か食べられそうなものを探してたんだ」

「うん」


 アンは小さな財布を取り出した。


「私が貯めてたお金で、果物なら買えるかなって思ったの。具合が悪い時に食べるといいって聞いたから」


 けれど、思っていたより値段が高かった。

 昨日は何も買えずに帰り、今日はもっと安いものがないか探しに来たらしい。


「院長先生には?」


 ミアが尋ねる。


「言ってない」

「どうして?」

「だって、院長先生も困ってるから」


 アンは俯いた。


「みんなのご飯も用意しなきゃいけないし、お金がたくさんあるわけじゃないから。だから私のお金で買おうと思ったの」


 その言葉を聞いて、ミアが少しだけ目を細めた。

 何か思うところがあるのだろう。

 ルナも、昨日アンが何も買えずに帰っていった理由をようやく理解した。

 自分が食べたかったわけではない。

 体調を崩したシェリーのためだったのだ。


「アンちゃん」

「なに?」

「その孤児院って、ここから遠い?」

「そんなに遠くないよ」

「そっか」


 ルナはミアを見る。

 ミアも同じことを考えていたらしく、小さく頷いた。


「もし迷惑じゃなければ、孤児院まで一緒に行ってもいい?」

「孤児院に?」


 アンは不思議そうにルナを見る。


「どうして?」

「うーん……」


 聞かれて、ルナは少し困った。

 何かできると決まったわけではない。

 ただ——。


「アンちゃんの話を聞いたら、気になっちゃったから」


 そう答えると、アンはしばらくルナを見つめた。

 やがて、少しだけ嬉しそうに頷く。


「じゃあ、ご飯を食べ終わったら案内する」

「うん。お願い」


 シェリーに何が必要なのかは、まだ分からない。

 それでも、食欲がないというなら、食べやすいものを考えることくらいはできるかもしれない。

 ルナはそんなことを考えながら、残っていたスープを飲み干した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。