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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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24/50

2-12

 一方、フィールズ家では。

 アルドがフィールズ家の屋敷に戻ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 馬を預け、足早に玄関に向かう。

 結局、ルナを見つけることはできなかった。

 アルミヤからさらに港町まで街道を進み、途中の町や宿場でも聞き込みをした。

 しかし、それらしい娘を見たという話は一つもなかった。

 アルドが屋敷の中に入ると、ちょうど一人の侍女が通りかかった。


「アルドさん……!」


 こちらの姿を見た途端、侍女が足を止める。


「あ……お帰りなさいませ」

「ああ」


 アルドが短く返すと、侍女は何か聞きたそうな顔をした。

 けれど結局何も言わず、小さく頭を下げる。

 そしてアルドの横を通り過ぎると、先ほどまでとは違う早足で廊下の奥へ向かっていった。

 その後ろ姿を見て、アルドはわずかに眉を寄せる。


(リアお嬢様のところか)


 おそらく、アルドたちが戻ったことを知らせに行ったのだろう。

 アルドは何も言わず、当主の執務室に向かった。

 扉の前で立ち止まり、軽く服装を整える。


「旦那様、アルドです。ただいま戻りました」

「入れ」

「失礼いたします」


 扉を開けると、当主は机に向かっていた。

 アルドの姿を見るなり、持っていた書類を置く。


「戻ったか」

「はい」

「それで?」


 挨拶を交わすより先に問われ、アルドは当主の前まで進んだ。


「申し訳ございません。ルナお嬢様を見つけることはできませんでした」


 当主の眉間に皺が寄る。


「港町まで行ったのだろう?」

「はい。街道沿いの町や宿場でも確認しましたが、それらしい方を見たという話はありませんでした」

「……そうか」

「港町でも確認しましたが、手がかりはありません」


 当主は黙り込み、机の上で指を組んだ。


「本当に港町へ向かったのか?」

「それも分かりません」


 アルドは正直に答える。


「王都を出たことは間違いないと思われます。しかし、その後も街道を進んだのか、途中で別の道に向かったのかまでは……」


 それに、冒険者ギルドからも情報は得られなかった。

 ミアが護衛を依頼したことまでは分かっている。

 だが、誰がその依頼を受けたのか、どのような馬車を使ったのかも教えてはもらえなかった。


「アルミヤには?」

「帰りにも立ち寄りました。以前と同じように門番に確認しましたが、情報はありませんでした」


 そこでアルミヤの捜索を打ち切り、アルドたちは王都に戻ってきた。


 当主は険しい表情のまま、何かを考えていた。

 その時——。

 廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 アルドが振り返った直後、扉が叩かれる。


「お父様!」

「リア?」

「失礼します」


 返事を待つ間もなく扉が開いた。

 そこに立っていたのはリアだった。

 少し息を切らしている。


「アルドが戻ったと聞きました」


 やはり先ほどの侍女が知らせたらしい。

 リアは当主ではなく、真っ先にアルドを見る。


「お姉様は?」

「リア」


 当主が窘めるように名前を呼ぶ。

 それでもリアは視線を逸らさなかった。


「お姉様は見つかったんですか?」


 期待と不安が入り交じった目を向けられ、アルドは一瞬答えに詰まった。

 良い報告を持ち帰りたかった。

 できることなら無事を確認したかったという気持ちは、アルドにもある。

 だが、事実を隠すわけにはいかない。


「……申し訳ございません」


 アルドは静かに頭を下げた。


「港町まで捜索しましたが、ルナお嬢様を見つけることはできませんでした」

「そんな……」


 リアの表情が曇る。


「どこにも、いなかったんですか?」

「少なくとも、我々が調べた範囲では手がかりもありませんでした」

「……そうですか」


 リアは俯いた。

 けれど、そのまま黙ってはいなかった。

 しばらくして顔を上げると、今度は当主を見る。


「それで……これからどうするんですか?」


 当主はすぐには答えなかった。

 重い沈黙の中、アルドもまた主人の言葉を待った。

 当主は険しい表情のまま、しばらく黙り込んでいた。


 このまま捜索を続けるのか。

 それとも、別の方法を取るのか。

 アルドは迷った末に口を開いた。


「旦那様」

「なんだ」

「差し出がましいことを申し上げますが、まだ探す方法はございます」


 当主が顔を上げる。


「言ってみろ」

「ルナお嬢様が行方不明になったことを公にするのです」

「……何?」


 当主の表情が変わった。

 隣にいたリアも驚いたようにアルドを見る。


「王家に事情をお伝えし、正式に捜索への協力をお願いしてはいかがでしょうか」

「王家に……」

「はい。各地の衛兵だけでなく、冒険者ギルドにも協力を求められるはずです」


 今までの捜索では、得られる情報に限界があった。

 特に冒険者ギルドは、依頼を受けた冒険者の情報を外部に漏らさない。

 しかし、王家から正式な捜索要請が出れば話は変わってくる。


「それに、ルナお嬢様が港町を目指している可能性が高いのであれば、あちらで待つという方法もございます」

「待つ?」

「はい。冒険者と一緒に旅をしているのであれば、いずれ依頼や情報を求めてギルドに立ち寄る可能性があります」


 アルドはそこで言葉を切った。


「人員を増やし、港町や街道沿いの町で待つ方が、我々だけで探し回るより見つけられる可能性は高いかと」

「駄目です!」


 声を上げたのはリアだった。

 二人の視線が一斉に向く。


「そんなことをしたら、お姉様は……」


 リアはぎゅっと手を握った。


「せっかく自分で出ていったのに、連れ戻されてしまいます」

「リアお嬢様……」

「お姉様は自分の意思で家を出たんです。だったら、もう探さなくても——」

「それはできない」


 当主が冷たく遮った。

 リアが口を閉ざす。


「ですが、お父様……」

「それと、アルドの案も却下する」


 今度はアルドを見る。


「王家には知らせない」

「旦那様。しかし——」

「リアが聖女候補となった直後だ。そんな時に姉が家出したなどと公になれば、何を言われるか分からん」


 当主は不機嫌そうに眉を寄せる。


「なぜ家出したのか。フィールズ家で何があったのか。余計な詮索をする者も出てくるだろう」


 アルドは黙った。

 確かに、王家に協力を求めれば、ルナが行方不明になったことを隠し続けるのは難しい。


「今はリアのことで注目を集めている。これ以上、余計な噂を増やすつもりはない」

「……承知いたしました」


 アルドは頭を下げた。

 その隣で、リアが小さく息を吐いた。

 アルドの提案が受け入れられなかったことに、少しだけ安心したようだった。

 だが——。


「捜索は規模を縮小して、あと一週間だけ続ける」


 リアが顔を上げる。


「まだ探すんですか?」

「今までのように人を出して探し回るわけではない」


 当主は机の上に置かれていた紙を一枚引き寄せる。


「アルド。フィールズ家の名は出さず、各地の町に問い合わせろ。身元不明の若い娘が保護されていないかだけ確認するんだ」

「かしこまりました」

「それから——」


 父が一瞬だけ言葉を止める。


「身元不明の死亡者についても調べろ」

「……死亡者、ですか」


 アルドは思わず聞き返した。


「王都を出てから一週間近く経っている。それにもかかわらず、港町まで探して何の手がかりもない。街道を外れたのなら、魔物や盗賊に襲われた可能性も考えなければならない」

「ですが——」

「可能性を確認するだけだ」


 当主の声は冷静だった。

 アルドはわずかに口を閉ざす。

 ルナは、使用人である自分たちにもいつも礼を言ってくれる令嬢だった。その可能性を考えるのは、アルドにとっても気の重いことだった。

 だが、命じられた以上は従うしかなかった。


「……承知いたしました」


 アルドは深く頭を下げる。


「では、すぐに手配いたします」

「ああ」

「失礼いたします」


 もう一度頭を下げ、アルドは執務室を後にした。


◇◇◇


 部屋に残されたリアは、閉じた扉をじっと見つめていた。

 ——身元不明の死亡者。

 その言葉が、頭から離れない。


「……お姉様は生きています」


 ぽつりと呟く。

 父がリアを見る。


「どうしてそう言い切れる」

「分かるんです」

「何がだ」

「うまく説明できません。でも……お姉様は生きています」


 根拠なんてない。

 けれど、リアには分かる。

 姉はどこかで生きている。

 今も自分の知らない場所で過ごしている。


「とにかく、必要な確認はする」


 父はそれ以上取り合わなかった。


「そして、一週間待って何の情報もなければ——」


 一度言葉を切り、父は淡々と告げた。


「ルナをフィールズ家から除籍する手続きを始める。行方不明のままだと正式な手続きには時間がかかるだろうが、準備は進める」

「……え?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「除籍……?」

「そうだ」

「それって……」


 リアは父を見つめる。


「お姉様が、フィールズ家の人間ではなくなるということですか?」

「このまま行方不明の娘を籍に残し続けるわけにはいかない」

「どうして?」


 思わず声が強くなる。


「お姉様は生きてるんです。家を出ただけなんです。それなのに、どうして——」

「リア」

「私は、そんなことをしてほしいなんて言ってません!」


 父が眉を寄せる。


「私はただ、お姉様を追いかけないでほしいだけです。連れ戻さないでほしいだけで……」


 リアはぎゅっと両手を握った。


「家族じゃなくしてほしいなんて、一度も言ってません」

「家族かどうかという話をしているのではない」


 父の声は変わらず冷静だった。


「フィールズ家としての問題だ」

「同じじゃないですか……」

「同じではない」


 父はきっぱりと言い切る。


「お前はこれから聖女候補として王家や神殿と関わっていく。姉がいつまでも行方不明という状態では、今後どのような問題になるか分からん」


 父は淡々と続ける。


「ルナがフィールズ家の娘である限り、その名を利用してお前や家に近づこうとする者も出るだろう。いつまでも曖昧な状態にはしておけない」

「……だから、お姉様を家族から外すんですか?」

「これは当主として必要な処置だ」


 返ってきた言葉に、胸が苦しくなる。

 まただ。ルナのことなのに、最後には聖女やフィールズ家の話になる。

 自分が光属性だったから。

 自分が聖女候補になったから。

 それを理由に、姉がこの家から切り離されようとしている。


(違う……)


 こんなことを望んだわけではない。

 ルナが自由に生きられたらいいと思った。

 もうこの家に連れ戻されず、自分の好きな場所に行けたらいいと思った。

 それだけだった。


「……そんなの、嫌です」


 声が震える。


「お姉様は、私のお姉様です」


 父は何も答えなかった。

 リアは強く唇を噛む。

 探してほしくない。

 けれど、家族でなくなってほしいわけでもない。

 その二つは、リアにとってまったく別のことだった。

 父にとって一番大切なのは、いつだってフィールズ家なのだ。

 リアは俯いた。

 ルナが家を出てから、まだ一週間ほどしか経っていない。

 けれどこの屋敷ではもう、姉が戻らなかった場合の話まで進み始めていた。

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