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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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22/52

2-10

 朝食を終えると、三人は部屋に戻った。

 順調なら明日はアルミヤを発つ予定だ。

 テーブルの上に荷物を広げ、足りないものがないか一つずつ確認していく。


「まず食料だな」


 レオが荷物の中を確認しながら言う。


「次の町まで馬車で二日くらいなんだよね?」

「ああ。途中の宿場で一泊する予定だけど、食料は三日分くらい用意しておこう」

「三日分?」


 ミアが首を傾げる。


「何かあって予定通り宿場に着けないこともあるからな。宿場で欲しいものが買えるとも限らないし、少し多めに持ってた方がいい」

「なるほど……」


 ルナは手帳を開き、必要なものを書き出していく。


「パンと、チーズと、干し肉……」

「日持ちするものを中心にな」

「ポムも買っていい?」

「好きだな、ポム」

「美味しいから」


 アルミヤに来て初めて食べたポムパイも美味しかったし、ジャムもすっかり気に入ってしまった。


「そのままのポムなら何日か持つし、別にいいぞ」

「じゃあ買う」


 ルナはさっそく手帳に書き加える。


「水はどうする?」

「後で、水筒に補充しておこう。ウォーターは使えるけど、それだけに頼るのはよくないからな」

「ポーションは?」

「この前買ったのが残ってるから、今回は大丈夫だ」

「採取用の道具もあるし……」


 ルナが荷物を見回す。

 王都を出た時は、何が必要なのかもよく分からなかった。

 けれど、一度野営をして、依頼を受けて、森にも行った。

 まだ分からないことばかりだけれど、少しずつ旅の準備にも慣れてきた気がする。


「着替えも大丈夫。あとは……」

「消耗品を少し買い足すくらいかな」


 ミアも自分の荷物を確認しながら答える。


「じゃあ、今日のうちに全部揃えておこう」


 ルナが手帳に最後の一つを書き加えたところで、レオが立ち上がった。


「買い物は二人に任せてもいいか?」

「レオは?」

「俺は馬車を手配してくる」


 昨日話した通り、次の町までは貸し馬車を使う予定だ。


「明日の朝から借りられるように話をつけてくる。それが終わったら、門の辺りも見てくるつもりだ」


 ルナの手が止まる。


「追っ手が戻ってきてないか?」

「ああ」


 レオは頷いた。


「昨日も言ったけど、そろそろ港町の方から戻ってきてもおかしくない。今日一日は様子を見る」

「もし、まだ戻ってきてなかったら?」

「その時は明日の朝にもう一度考える。わざわざ危ない時に出る必要はないからな」

「そっか」


 できれば予定通り明日出発したい。

 けれど、見つかって王都に連れ戻されてしまっては意味がない。


「分かった。お願いします」

「任せろ。二人は買い物を頼む」

「うん!」


 ミアが元気よく返事をする。


「食料は三日分。あと必要なものはここに書いたから」


 ルナは手帳をミアにも見せる。


「結構あるね」

「二人で持てるかな?」

「買いすぎるなよ」

「分かってる」

「特にポム」

「そんなに買わないよ」


 疑うようなレオの視線に、ルナは少し頬を膨らませる。

 ミアが隣でくすくす笑った。


「じゃあ、よろしく」

「うん」


 三人はそれぞれ出かける準備を始める。

 ルナは手帳に書いた買い物の一覧を見つめてから、もう一つだけ書き加えた。

 ——お世話になった人へのお礼。


(何かできないかな)


 出かける準備をしながら、ルナは荷物の中に入れていた小さな瓶に目を留めた。


「あ……」

「どうしたの?」


 ミアが覗き込む。


「ポムジャム、まだ残ってた」


 数日前、初めて自分で受け取った依頼料で買ったものだ。

 パンにつけたり、ドレッシングに使ったりしたが、まだ少し残っている。

 ルナは瓶を手に取り、しばらく考える。


(これで何か作れないかな)


 せっかくなら、アルミヤの名産を使ったものがいい。

 それに、お礼として渡すのなら、ある程度日持ちするものの方がよさそうだ。


(焼き菓子……)


 そこで一つ思いつく。


「パウンドケーキはどうかな」

「ぱうんど……?」


 聞き慣れない言葉に、ミアが首を傾げた。


「えっと、バターと卵を使った焼き菓子。そこにポムジャムを入れたら美味しいと思う」

「作ったことあるの?」

「……多分、作れる」

「多分?」


 ミアが怪訝そうな顔をする。

 ルナは曖昧に笑った。

 前世では何度か作ったことがある。

 材料も作り方も覚えている。

 問題は——。


(前世では温度を設定できるオーブンでしか作ったことないんだよね)


 この世界の厨房にあるのは、当然ながら温度を設定できるオーブンではない。

 火加減をどうするのか、ルナにはさっぱり分からなかった。


(まあ、ハンナさんに聞けば何とかなるかな)


 焼き菓子なら、料理人であるハンナの方が火の扱いには詳しいはずだ。


「作るなら、ハンナさんたちとエリーさんに渡したいな」

「お礼?」

「うん。二人にはすごくお世話になったから」


 ルナは指を折りながら考える。


「それと、私たちの分も作ろう」

「私たちのも?」

「明日からまた馬車でしょ? 途中で食べられるお菓子があったら嬉しくない?」

「嬉しい!」


 ミアはすぐに賛成した。


「じゃあ三つ?」

「うん。三本作りたい」


 残っているジャムの量を見る。

 これだけでは三本分には少し心許ない。


「ポムジャムも買い足そう。材料も必要だし」

「今日の買い物、増えたね」

「これは必要な買い物です」

「お菓子なのに?」

「お礼だから必要なの」


 ルナが真面目な顔で答えると、ミアが楽しそうに笑った。

 二人は荷物を持って部屋を出る。

 そのまま一階に降りると、ハンナは食堂の片づけをしているところだった。


「ハンナさん」

「どうしたんだい?」

「今日もお願いがあるんですけど……」

「その言い方は、また厨房かい?」

「分かりました?」

「楽しそうに料理してたからね」


 ハンナが笑う。


「それで、今日は何を作るんだい?」

「お菓子です」

「へえ」


 途端にハンナが興味深そうな顔をする。


「午後、また調理場を借りてもいいですか?」

「昼の営業が終わってからなら構わないよ」

「ありがとうございます!」

「今度は何を作るのか楽しみにしてるよ」


 ルナは一瞬迷ってから、にこりと笑った。


「それは、できてからのお楽しみです」

「なんだい。教えてくれないのかい?」

「まだちゃんと作れるか分からないので」


 失敗してしまったら格好がつかない。

 ハンナはおかしそうに笑いながら頷いた。


「分かったよ。必要な道具があったら言いな」

「はい!」


 厨房を借りる約束もできた。

 あとは材料と、明日の旅に必要なものを揃えるだけだ。


「じゃあ行こう、ミア」

「うん」


 二人は並んでゆりかご亭を出た。

 外に出ると、朝のアルミヤにはいつもの賑やかな光景が広がっていた。

 明日には、この町を離れる。

 そう思うと、見慣れてきた市場へ向かう道さえ少し名残惜しく感じる。


「まずは旅の食料からだよね」

「うん。そのあとお菓子の材料」

「ポムも買うんでしょ」

「もちろん」

「レオに買いすぎるなって言われたばっかりなのに」

「必要な分だけです」


 ルナはそう言いながら、ミアと一緒に市場に向かった。

 市場では、朝書き出したものを確認しながら順番に買い揃えていった。

 パンや干し肉、チーズなどの日持ちする食料に、細かな消耗品。予定より一日分多く用意し、それとは別にポムもいくつか買っておく。

 そして最後に、午後のお菓子作りに必要な材料を揃えた。


「小麦粉、卵、バター、砂糖……あとはポムジャム」

「結構買ったね。それに、思ったより材料代がかかるんだね」

「うん。でもお礼だから今日は特別」


 残っているジャムだけでは足りないので、新しい瓶を一つ買い足す。

 荷物は多くなったものの、二人で分ければ宿まで運べないほどではない。


「これで全部かな」

「うん。帰ろう」


 買い忘れがないことを確認し、二人はゆりかご亭に戻った。


◇◇◇


 昼食を終え、食堂の客が少なくなった頃。


「ハンナさん、お願いします」

「ああ。好きに使いな」


 約束通り調理場を借りたルナは、買ってきた材料を台の上に並べた。


「さて……」


 小麦粉、砂糖、卵、バター。そしてポムジャム。

 必要なものは揃っている。


(作り方は覚えてる)


 前世では何度か作ったことがある。

 まずは柔らかくしたバターに砂糖を加え、よく混ぜる。

 そこへ溶いた卵を少しずつ加え、さらに小麦粉を入れる。


「ミア、手伝ってくれる?」

「もちろん。何すればいい?」

「これを混ぜてほしいんだけど……結構大変かも」

「任せて」


 ミアが張り切って器を受け取る。


 最初は勢いよく混ぜていたものの、しばらくすると動きが遅くなってきた。


「……これ、思ってたより疲れる」

「でしょ?」

「ルナもやってよ」

「もちろん」


 今度はルナが受け取り、混ぜていく。

 けれど、こちらも長くは続かなかった。


「疲れた……」

「早くない?」

「ミアだって疲れたって言ったでしょ」

「あたしはもっとやったよ」

「じゃあ、もう一回お願い」

「そういう意味じゃない!」


 二人のやり取りを聞いていたハンナが、少し離れたところで声を上げて笑った。

 結局、何度か交代しながら混ぜていく。


「最後にこれ」


 ルナが取り出したのはポムジャムだった。

 ジャムを加えさっくりと混ぜ合わせる。

 甘いポムの香りが広がった。


「いい匂い」

「焼いたらもっといい匂いになると思うよ」


 出来上がった生地を三つの型へ分けて入れる。

 ここまでは順調だった。

 問題は——。


「ハンナさん」

「なんだい?」

「これ、焼きたいんですけど……」


 ルナは厨房に備え付けられたオーブンを見る。

 前世で使っていたものとはまるで違う。


「どのくらいの火で焼けばいいのか分からなくて」

「作ったことがあるんじゃなかったのかい?」

「焼き加減だけが分からなくて。このオーブンを使ったことがないので」


 ハンナは不思議そうにしながらも、焼く前の生地を覗き込んだ。


「焼き菓子なら、このくらいでいいと思うよ」


 火の状態を確認しながら、手際よく調整してくれる。


「最初は私も見ててあげるから、入れてみな」

「ありがとうございます」


 ハンナに教えてもらいながら、三本の型を中へ入れる。

 あとは焼き上がるのを待つだけだ。


「ちゃんとできるかな」

「大丈夫じゃない?」


 ミアは気楽に言うが、ルナは落ち着かない。

 何度も様子を見ようとして、そのたびにハンナから、


「そんなに何度も開けるんじゃないよ」


 と止められた。


「気になるんです」

「気になるのは分かるけど、少し待ちな」

「はーい」


 しばらくすると、厨房に甘い香りが漂い始めた。


「あ、いい匂い!」


 ミアが嬉しそうに声を上げる。

 ルナも期待しながら待っていると、やがてハンナが中を確認した。


「そろそろよさそうだね」


 三本の焼き菓子を取り出す。

 表面には綺麗な焼き色がつき、真ん中がふっくらと膨らんでいた。


「できた……!」

「ちゃんと焼けてるね」


 ハンナにもそう言われ、ルナはほっと息を吐く。


「でも、味も確認しないと」

「味見?」


 ミアがすぐに反応した。


「私たちの分を少しだけね」


 旅に持っていく一本を切り分ける。

 まだ少し温かいケーキを口へ運ぶと、バターの風味と一緒にポムの甘酸っぱさが広がった。


「……美味しい!」


 ミアも一口食べ、何度も頷く。


「うん、美味しい! ポムの味もちゃんとする」

「よかったぁ」


 ルナももう一口食べてみる。


「あたしももう一切れ食べたい」

「駄目。レオにも味見してもらうんだから」


 前世で作ったものとまったく同じとはいかないけれど、十分に美味しくできている。


「ハンナさんもどうぞ」


 一切れ渡すと、ハンナも味を確かめる。


「へえ。ジャムをこうやって焼き菓子に使うのもいいね」

「ですよね?」

「パンよりは日持ちしそうだし、旅のおやつにもよさそうだ」


 料理人から褒められ、ルナは嬉しくなる。

 そして、残った二本のうち一本をハンナに差し出した。


「これ、ハンナさんに」

「私に?」

「はい。ここに来てから、いろいろお世話になってるので」


 ルナはパウンドケーキを両手で差し出す。


「厨房も何度か貸してもらったし、美味しいご飯もたくさん食べさせてもらったから。そのお礼です」

「でも、その厨房を使って私への贈り物を作ったんだろ?」

「あ……」


 言われてみれば、その通りだった。

 ルナが困ったように笑うと、ハンナも声を上げて笑った。


「冗談だよ。ありがたくもらっておくさ」

「はい!」


 ハンナはケーキを受け取ると、嬉しそうに眺めた。


「それにしても、青葉草の次はポムかい。ルナちゃんといると、見慣れた食材が違うものに見えてくるね」

「まだ作ってみたいもの、いっぱいありますよ」

「それは楽しみだ」


 そう言ってもらえることが嬉しくて、ルナも笑顔になる。

 もう一本は、エリーへのお礼だ。


「これ、あとでエリーさんにも持っていこうか」

「うん。きっと喜んでくれるよ」


 ミアと話しながら、ルナはふと窓の外へ目を向けた。


「そういえば、レオはどうなったかな」


 馬車の手配を済ませたあとは、門の近くで様子を見ると言っていた。もし追っ手がまだ戻ってきていないのなら、明日の出発はもう一度考えなければならない。


「そろそろ戻ってくるんじゃない?」

「うん」


 ルナは少し気になりながら、残ったケーキを丁寧に包み始めた。

 明日、この町を離れられるかどうか。その答えを持って、レオはもうすぐ戻ってくる。

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