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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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20/52

2-8

 三人は少し来た道を戻り、木々の間にある開けた場所で足を止めた。


「ここなら大丈夫そうだな」


 レオが周囲を確認してから荷物を下ろす。

 ルナも鞄を置き、朝用意した昼食を取り出そうとして、ふと顔を上げた。


「あ、そうだ」

「どうした?」

「せっかくだからパンを少し温めよう。その前に、ファイアを試してみてもいい?」


 レオが不思議そうにルナを見る。


「別にいいけど」

「一人だと危ないと思って、まだ試してなかったの」

「そういうことなら、俺が見てる。周りに燃えやすいものがない場所でやれよ」

「うん」


 家を出てから、クリーンやウォーターは何度か使った。

 けれど、生活魔法のファイアはまだ使っていない。

 自分の生活魔法が普通とは少し違うと分かってから、他の魔法も試してみたいと思っていたのだ。


 ルナはレオに教えてもらいながら、落ちている枝を集めた。乾いた葉や細い枝を重ね、その前にしゃがみ込む。


「これくらいでいい?」

「ああ。まずは普通に使ってみろ」

「分かった」


 ルナは乾いた葉に手を向ける。


「ファイア」


 ぽっと小さな火が現れた。

 火は乾いた葉に燃え移り、やがて細い枝へと広がっていく。


「これくらいが普通?」

「ああ」


 レオが頷く。


「火をつけるための魔法だからな。普通はこれくらいだ」

「私が使っても同じくらいだよ」


 ミアも隣から炎を覗き込む。


「そっか……」


 ルナは燃え始めた枝を見つめる。

 クリーンやウォーターのことがあったので、ファイアにも何か違いがあるのではないかと思っていた。


 そこで、ふと思いつく。


「ねぇ、もう一回試してもいい?」

「いいけど、今度は何するんだ?」

「出す火の大きさを変えられるか試してみたいの」

「火の大きさ?」


 ルナは少し離れた場所に、乾いた葉を一枚置いた。

 先ほどよりも小さな火。

 蝋燭に灯すくらいの火を思い浮かべる。


「ファイア」


 小さな炎が現れ、葉の端に火がついた。


「あ……」


 先ほどより明らかに小さい。


「小さくなった」

「本当だ」


 ミアが目を丸くする。

 ルナは嬉しそうに炎を見つめた。


「じゃあ、もう少し大きくしたら……」


 今度は先ほどより少し強い火を思い浮かべる。

 別の枝に手を向けた。


「ファイア」


 ぼっと炎が上がる。

 最初に使った時よりも大きな火だった。


「できた……!」


 思わず声が弾む。


「ウォーターと同じなのかな」

「どういうこと?」


 ミアに尋ねられ、ルナは少し考えながら答える。


「出した後の火を動かせるわけじゃないの。ほら、最初につけた火はもう普通に燃えてるでしょ?」

「うん」

「でも、ファイアを使う時なら、出す火の大きさを変えられるみたい」


 レオも燃えている枝とルナを交互に見る。


「なるほどな。火そのものを操れるわけじゃないのか」

「うん。多分、出す時だけ」


 ルナはさっそく手帳を取り出した。


『ファイア

 出す時に火の大きさを調節できる。

 燃え移った後の火は操作できない』


「これも色々使えそう」


 嬉しそうに書き終えるルナを見て、レオが笑う。


「また何か試すつもりか?」

「もちろん」


 ルナは手帳を閉じる。


「せっかく使えるんだから、何ができるのか知っておきたいでしょ?」


 そう言って、ルナは楽しそうに燃える火を見つめた。


 火が安定したところで三人は昼食にすることにした。

 朝作ったパンを取り出し、軽く火で炙る。

 香ばしい匂いが漂い始めると、ミアが嬉しそうに身を乗り出した。


「いい匂い!」

「焦がさないでね」

「分かってるって」


 パンの間にはチーズと燻製肉、葉野菜。それに昨日作ったポムのドレッシングが少しだけ入っている。

 三人は火を囲み、それぞれパンを手に取った。


「いただきます」


 ルナが一口かじる。

 外側は少し香ばしく、中のチーズはほんのり柔らかくなっていた。


「美味しい」

「うん!」


 ミアも嬉しそうに頬張る。


「昨日のドレッシング、パンにも合うね」

「本当だね。今度は別のものも挟んでみようかな」

「また料理するの?」

「できる時はね」


 昨日、ハンナに料理を美味しいと言ってもらえたことを思い出す。自分たちで用意した昼食を、森の中で三人で食べる。それだけのことなのに、なんだか楽しかった。


「レオ」

「ん?」

「ちょっと聞いてもいい?」


 ルナは鞄の中から、採取しておいたハッカソウの葉を取り出した。


「これって、本当に何にも使わないの?」

「ハッカソウか?」

「うん」


 レオは少し考えてから首を横に振った。


「少なくとも、俺は使ってる奴を見たことないな」

「こんなにたくさん生えてるのに?」

「たくさん生えてるから余計に嫌われてるんだよ」

「どういうこと?」

「魔力草と間違えやすいだろ」

「うん」

「初心者が大量に持ち込むことも多いし、慣れてる奴からすれば、魔力草を探してる時にこればっかり見つかると邪魔なんだ」

「じゃあ、間違えて採ったら?」

「大抵は捨てるな」

「捨てちゃうんだ……」


 ルナは手元のハッカソウに視線を落とした。

 葉を軽く指で擦れば、爽やかな香りがする。


(やっぱりミントにそっくりなのに……)


 それがこの世界では、魔力草に似ているだけの厄介な草として扱われている。


(なんだか、もったいないな)


 昼食を食べ終えると、三人は火をきちんと消してから立ち上がった。


「魔力草はあと少しで必要な数になるな」


 レオが採取袋を確認する。


「じゃあ、もうちょっと探す?」

「その前に、少しミアの練習をしよう」

「本当?」


 ミアの顔がぱっと明るくなる。


「せっかく森まで来たからな。ホーンラビットがいたら狙ってみよう。ただし、見つけても勝手に動くなよ」

「分かってるって」

「朝、エリーにも言われただろ」

「もう、分かってるよ!」


 何度も念を押され、ミアが少し頬を膨らませる。

 ルナはその様子にくすっと笑いながら、自分も周囲を見回した。

 ホーンラビットはFランクの魔物で、草原や森の浅い場所に生息している。頭に一本の角が生えた、小型の魔物だ。

 三人は魔物を探しながら、しばらく森の中を歩いた。

 やがて先を歩いていたレオが足を止める。


「二人とも、止まれ」


 小さな声に、ルナとミアもぴたりと足を止めた。

 レオが視線で示した先を見る。

 少し離れた木の根元に、一匹のホーンラビットがいた。


「あれ……」


 ミアが小声で呟く。


「ああ。まだこっちには気づいてない」


 レオはさらに声を落とした。


「慌てなくていい。ゆっくり弓を構えろ」

「うん」


 ミアの表情から笑みが消える。

 背負っていた弓を手に取り、矢をつがえた。

 ルナも邪魔をしないよう、じっと見守る。

 ミアが弦を引く。

 狙いを定め——。

 矢を放った。

 けれど。

 矢はホーンラビットのすぐ横を通り過ぎ、地面に突き刺さった。


「あっ!」


 驚いたホーンラビットが跳び上がる。

 次の瞬間には、木々の間をものすごい勢いで走り去っていった。


「待って!」


 ミアが反射的に駆け出そうとする。


「ミア」


 ミアのすぐ後ろにいたレオが腕を掴んだ。


「追うな」

「でも、まだ——」

「森で勝手に離れるなって言っただろ」


 いつもより少し強い口調だった。

 ミアは逃げていくホーンラビットを見つめていたが、やがて肩を落とす。


「……ごめん」

「追いかけたことは反省しろ。でも、矢を外したことまで落ち込む必要はない」


 レオが地面に刺さった矢を拾い上げる。


「まだ弓を持って何日も経ってないんだからな」

「でも、スライムには当たったのに……」

「スライムはほとんど動かなかったでしょ」


 ルナもミアの隣に行く。


「ホーンラビットは逃げるんだから、同じようにはいかないよ」

「……うん」

「また次があるよ。今度は当てられるかもしれないし」


 ミアは少しだけ唇を尖らせたあと、ルナを見る。


「次は絶対当てる」

「うん。頑張ろう」

「ルナは戦わないけどね」

「応援はできるから」


 思わず二人で笑う。

 その様子を見ていたレオも表情を緩めた。


「じゃあ今日はここまでだ。魔物を探して森の奥まで行くようなことはしない」

「はーい」

「返事だけはいいな」


 その後は再び魔力草の採取に戻った。

 先ほどまでと同じように、ハッカソウと間違えないよう一株ずつ確認していく。

 二人で少しずつ集めていき、やがて予備として数本多めに集めたところで、レオが空を見上げる。


「そろそろ戻るか」

「もう?」

「町まで歩く時間も考えないとな。森を出るのが遅くなるのはよくない」

「そっか」


 ルナは採取袋の中を確認した。

 魔力草は依頼に必要な分だけ揃っている。

 別に取っておいたハッカソウも少しある。

 初めての森で、魔力草を自分たちで見分けて採ることができた。

 ミアの弓は外れてしまったけれど、それもきっと経験の一つなのだろう。


「じゃあ、帰ろう」

「ああ」

「帰ったらちゃんと全部魔力草か見てもらわないとね」

「大丈夫だって。自信ある!」

「最初に間違えそうになってたけど」

「それはルナもでしょ!」


 二人で言い合いながら歩き出す。

 少し前を歩くレオは、帰り道でも時折周囲に視線を走らせていた。


 森を出た三人がアルミヤに戻る頃には、日はだいぶ傾き始めていた。門でギルドカードを見せ、そのまま冒険者ギルドに向かう。


「ただいま戻りました」


 受付に行くと、エリーが三人に気づいて笑顔を見せた。


「おかえりなさい。無事に戻ってこられましたね」

「はい!」


 ルナは採取袋を取り出す。


「魔力草、集めてきました」

「では、確認しますね」


 エリーは受け取った魔力草をカウンターの上へ並べ、一株ずつ確認していく。

 ルナとミアは、その様子を少し緊張しながら見守った。


「……どうかな」

「全部合ってると思うけど……」

「途中からはちゃんと見分けられてたよね」


 小声で話していると、確認を終えたエリーが顔を上げた。


「大丈夫ですよ。全部、魔力草です」

「よかったぁ」


 ミアがほっと息を吐く。

 ルナも思わず笑顔になった。


「初めての魔力草採取で一株も間違えていないのは立派ですよ。ハッカソウの方が多かったでしょう?」

「はい。思っていたよりずっと多くて、最初は何度も見比べました」

「それがよかったんだと思います。慣れないうちは、少しでも迷ったら確認するのが一番です」


 エリーは依頼達成の処理を済ませ、二人に報酬を渡した。


「ありがとうございます」


 受け取った報酬を大切にしまってから、ルナはハッカソウの入った袋を取り出した。


「あの、エリーさん。ハッカソウって、薬草としては使わないんですよね?」

「はい。ギルドでは買い取り対象になっていません」

「毒はありますか?」

「ありません。ただ、香りが強いので、わざわざ食べる人はほとんどいませんね」

「なるほど……」


 それなら、一度試してみてもよさそうだ。

 ルナはハッカソウを袋に戻す。

 やっぱり、この世界では特に使い道のない草らしい。

 それでも捨てる気にはなれなかった。

 本当にミントと同じように使えるのか、確かめてみたかった。

 三人はエリーに礼を言い、ギルドを後にした。


 ゆりかご亭に戻ると、ルナは部屋に上がる前にハンナからお湯を分けてもらった。


「何に使うんだい?」

「ちょっと試してみたいことがあって」

「また何か作るのかい?」

「作るというほどじゃないんですけど」


 昨日のことを思い出したのか、ハンナは楽しそうに笑った。


「何ができるか楽しみにしてるよ」


 お湯の入ったポットを借り、三人で部屋に戻る。

 ルナはテーブルの上に、森から持ち帰ったハッカソウを置いた。


「まだそれ持ってたの?」


 ミアが不思議そうに尋ねる。


「うん。ちょっと試してみたくて」


 綺麗に洗った葉を何枚か取る。

 指先で軽く揉むと、森で嗅いだのと同じ爽やかな香りが広がった。


(見た目も匂いもミントにそっくり)


 だったら、使い方も同じかもしれない。

 ルナは葉をカップに入れると、そこへ熱いお湯を注いだ。


「それだけ?」

「うん。少し待ってみよう」


 三人でしばらくカップを眺める。

 やがて湯気とともに、爽やかな香りが漂い始めた。


「あ、いい匂い」


 ミアが鼻を近づける。


「でしょ?」


 十分に香りが出たところで、ルナはカップを手に取った。


「飲むのか?」


 レオが少し心配そうに見る。


「毒はないってエリーさんも言ってたから。一口だけ」


 少し息を吹きかけ、慎重に口をつける。

 爽やかな香りが鼻に抜け、口の中にすっきりとした風味が広がった。

 ルナの目が大きくなる。


(やっぱり!)


 前世で飲んだミントティーによく似ている。


「美味しい?」

「うん。思ってた通りの味」

「思ってた通り?」

「あ……匂いから、こんな味かなって思ってたの」


 危ない。

 ルナは誤魔化すようにもう一口飲んだ。


「二人も飲んでみる?」


 ミアはすぐに頷いた。


「飲む!」

「俺も?」

「もちろん」


 それぞれのカップにもハッカソウを入れ、お湯を注ぐ。

 最初に口をつけたミアは、すぐに目を丸くした。


「なんか、すーっとする」

「口の中がさっぱりするでしょ?」

「うん。あたし、これ好きかも」


 レオも少し警戒しながら飲んでみる。


「……悪くないな」

「また悪くないって言った」

「美味いよ。甘いものを食べた後とかによさそうだな」

「あ、それいいかも」


 ルナはすぐに手帳を取り出した。


『ハッカソウ

 熱湯で香りがよく出る。

 爽やかな風味。飲用可能。

 甘い菓子にも合いそう。』


 そこまで書いて、少し考えてからもう一行加える。


『他の使い方も試してみる』


「まだ何かするつもり?」


 ミアが笑う。


「だって、捨てるだけなんてもったいないでしょ?」


 青葉草だって、少し工夫すれば美味しいスープになった。

 ハッカソウは、この世界ではほとんど見向きもされない草だ。

 それでも、こうして飲めば十分美味しい。

 ルナはカップを両手で包み、もう一口飲んだ。

 爽やかな香りがふわりと広がる。


(他にも、前世と似たものがあるかもしれない)


 知らない町を見て、知らないものを見つける。

 自分の知識と結びつけながら、新しい使い方を探していく。それも、この旅の楽しみの一つになりそうだった。

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