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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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15/50

2-3

 翌朝。

 ルナは気持ちよく目覚めることができた。ぐっすり眠れたからか、身体の調子はいい。


「レオは?」


 身支度を整えながら尋ねると、ミアが窓の外を見た。


「町の様子を見に行ってるよ。追っ手が来てないか確認するって」


 ルナは小さく頷く。

 昨日は「大丈夫」と言ってくれたレオも、念のため確認してくれているのだ。

 しばらくすると、部屋の扉がノックされた。


「戻ったぞ」


 レオが部屋に入ってくる。


「どうだった?」

「問題ない。門の様子も見てきたが、昨日と変わったところはなかった」


 その言葉に、ルナはほっと息をついた。


「よかった……」

「まだ油断はできないが、とりあえず今日は予定通り動けそうだ」


 三人は一階に降り、朝食をいただくことにした。

 焼きたてのパンにスープ、サラダ、それから目玉焼き。

 素朴な朝食だったが、焼きたてのパンは香ばしい香りが広がっている。


「美味しい!」


 ルナが思わず声を上げる。

 外はこんがり、中はふんわりと柔らかい。


「毎日食べたくなるね」


 ミアも嬉しそうに頷く。

 パンを運んできたハンナが、二人の反応を見て笑った。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。毎朝早起きして焼いてるからね」

「本当に美味しいです」


 ルナが笑顔でお礼を言うと、ハンナは満足そうに厨房に戻っていった。


 朝食を終え、三人は部屋に戻る。

 レオは椅子に腰掛けると、ルナに視線を向けた。


「ギルドに行く前に、一度所持金を確認しておこう」

「うん」


 ルナは荷物の中から革袋を取り出した。

 机の上にそっと置き、中身を取り出していく。

 金貨、銀貨、銅貨。

 そして、小さな布に包まれた宝石がいくつか。


「まだ残ってるんだね」


 ミアが安心したように言う。


「全部は売らなかったから」


 ルナは布をそっと開く。

 髪飾りや小さなブローチ。

 家を出る前、本当に必要になる時のために残しておいたものだった。

 レオはその宝石を見て静かに頷く。


「それでいい」

「でも、このままだと足りなくならないかな?」


 ルナが不安そうに尋ねる。


「今日は短剣を買う。それからミアの弓、冒険者として動くための服と……あと靴も必要だ。合わない靴で歩くとすぐ足を痛める」


 レオは指を折りながら数えていく。


「他にも採取用の道具や細かい物を揃えれば、それなりに金は減る」


 ルナは革袋の中を見つめ、小さく息を吐いた。


「やっぱり、宝石を売った方がいい?」


 しかし、レオは首を横に振る。


「いや。宝石はまだ持っておけ」

「でも……」

「宝石は最後の保険だ。本当に困った時に売ればいい。今の金なら、贅沢しなければしばらくは暮らせる」


 真っ直ぐルナを見て言う。


「これからの生活費くらいは、三人で稼げるようになろう」


 その言葉に、ルナはゆっくりと頷いた。


「うん。そのためにも、まずは冒険者にならないとね」


 レオは小さく笑う。


「ああ。そのために今日はギルドに行こう」


◇◇◇


 アルミヤの中心部に建つ二階建ての石造りの建物。

 入口には剣と盾を組み合わせた看板が掲げられている。


「ここが冒険者ギルドか……」


 ルナは緊張した面持ちで建物を見上げた。

 扉を開けると、活気のある声が耳に飛び込んでくる。

 依頼書がびっしりと貼られた掲示板。

 受付の前には順番を待つ冒険者たち。

 鎧姿の男や、大きな荷物を背負った女性、仲間同士で楽しそうに話す若い冒険者の姿もある。


「思ったより賑やかだね」


 ミアが辺りを見回しながら小声で言う。


「午前中は依頼を受ける人が多いからな」


 レオが答えた。

 三人が受付に向かうと、一人の女性が笑顔で声をかけてきた。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 二十歳くらいだろうか。

 明るい茶色の髪を後ろでまとめた女性は、優しい笑みを浮かべている。


「冒険者登録をお願いしたい」


 レオが答えると、女性は嬉しそうに頷いた。


「かしこまりました。私は受付のエリーです。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 ルナとミアも頭を下げた。

 エリーは一瞬だけ二人の姿を見つめた。

 けれど、何かを尋ねることはなく、変わらない笑顔で口を開いた。


「それでは、登録の前に簡単な説明をさせていただきますね」


 三人は頷く。


「冒険者にはFからSまで七つのランクがあります」


 受付の後ろに掛けられた一覧表を指差す。


「新人はFランクから始まり、依頼の達成数や実績によって昇格していきます」


 ルナは真剣な表情で耳を傾ける。


「依頼は自分のランク以下のものを受けるのが基本です。無理な依頼は命に関わりますので、決して背伸びはしないでください」

「はい」


 ルナとミアは揃って返事をした。


「また、依頼人や冒険者の個人情報はギルドが管理しています」


 エリーは穏やかな口調で続ける。


「原則として、依頼人や冒険者の個人情報を第三者へ伝えることはありません」


 その言葉に、ルナは少しだけ肩の力が抜けた。


「依頼の失敗についてですが、体調不良などやむを得ない事情があれば、必ず事前にご相談ください」


 そして表情を少しだけ引き締める。


「ただし、正当な理由なく依頼を放棄したり、報告を怠った場合は違約金や一定期間の依頼停止などの処分を受けることがあります」

「なるほど……」


 ルナは手帳を取り出し、要点を書き留める。

 その姿を見たエリーは、思わず微笑んだ。


「では、登録を始めますね」


 受付の奥から、小さな水晶が埋め込まれた板を取り出す。


「それでは、お名前をお願いします」


 エリーに尋ねられ、ルナは一瞬だけ言葉に詰まった。

 ルナ・フィールズ。

 十五年間、当たり前のように名乗ってきた名前。

 けれど、今それを口にするわけにはいかない。


「……ルナです」


 姓は告げなかった。


「ルナさんですね」


 エリーが「ルナ」と登録すると、魔道具が属性だけを読み取り、カードに刻んだ。

 ルナはそれを受け取る。

 カードには『ルナ』という名前とFランク、属性なしという判定、それから新しく割り振られたギルド番号が刻まれていた。

 フィールズ子爵家の名前は、どこにもない。


(これが……私の新しい身分なんだ)


 不安よりも、少しだけ嬉しい気持ちが勝った。


「これがギルドカードです。身分証明書にもなりますので、大切に保管してください」


 フィールズ子爵家の令嬢ではなく、一人の冒険者として歩き始める。その第一歩が、今、静かに刻まれた。

 

 続いてミアも同じように登録を済ませ、Fランクの銅色のカードを受け取った。

 二人がギルドカードを受け取ったのを見ると、レオはエリーに声をかけた。


「一つ相談がある」

「はい、何でしょう?」

「登録が終わったら、訓練場と資料室を使いたいんだけど」


 エリーはにっこりと微笑んだ。


「もちろんです」


 受付の横を指差す。


「建物の裏に訓練場があります。木剣や練習用の弓でしたら、登録したばかりの方でも自由に使えますよ」

「ありがとうございます」

「使用後は元の場所に戻してくださいね」


 レオが頷くと、エリーは今度はルナに視線を向けた。


「資料室は二階になります」

「資料室もあるんですか?」

「はい」


 エリーは嬉しそうに頷いた。


「薬草や魔物の図鑑、各地の地図、それから冒険者向けの基礎知識などをまとめた本を置いています」

「自由に読んでもいいんですか?」

「もちろんです。ギルド内であればご自由にどうぞ。ただ、持ち出しはできませんので、その点だけお願いします」

「わかりました」


 ルナは嬉しそうに頭を下げる。

 エリーはそんな様子を見て、優しく笑った。


「薬草に興味がおありなんですね」

「はい。まだ知らないことばかりなので、たくさん勉強したいと思って」

「ふふっ。それでしたら、きっと楽しめますよ」


 エリーはそう言うと、レオたちに向き直った。


「それでは、ごゆっくりどうぞ。何かわからないことがあれば、いつでも声をかけてください」

「ありがとう」


 レオは軽く手を挙げる。


「じゃあ、ミア。行くぞ」

「うん!」


 ミアは元気よく返事をし、レオの後について訓練場に向かった。ルナは二人を見送ると、小さく息を吸う。


「それじゃあ私は、資料室に行ってきます」


 胸を弾ませながら、二階への階段を上っていった。

 棚には薬草や魔物についてまとめられた本が並んでいる。


「すごい……」


 思わず声が漏れた。

 ルナは一冊を手に取り、近くの机に座る。

 手帳を開き、気になったことを書き留めながら読み進めていく。


「癒し草は草原……魔力草は森の入口……」


 知っていることもあれば、初めて知ることも多い。

 ページをめくっていると、一枚の植物の挿絵が目に入った。


「……あれ?」


 思わず手が止まる。

 細長い葉に、爽やかな香りがすると書かれている。

 名前は——ハッカソウ。


(これ……)


 ルナは思わず笑みを浮かべた。


(ミントだよね)


 もちろん、前世のミントとまったく同じ植物ではない。

 それでも姿も特徴も、とてもよく似ている。

 さらにページをめくる。

 今度は魔力草の挿絵が載っていた。


「やっぱり……」


 葉の形や色合いが、ハッカソウによく似ている。

 昨日、市場で見かけた青葉草も、四つ葉のクローバーによく似ていた。


(この世界にも、前世に似た植物があるんだ)


 そう思うと、不思議と胸が躍った。

 もしかすると、まだ知らないだけで、他にも見覚えのある草花があるのかもしれない。

 ルナは手帳を開き、さらさらと書き込む。


『ハッカソウ

 ミントに似ている。爽やかな香り。

 魔力草と見間違えそうなので注意』


 書き終えると、小さく笑う。


「もっと色々探してみよう」


 薬草だけじゃない。

 花も、木も、果物も。

 この世界には、まだ知らないことがたくさんある。

 そう思うと、ルナは自然と次のページをめくっていた。


 しばらくして、ギルドの入口で三人は再び合流した。


「お待たせ」


 ルナが声をかけると、ミアが笑顔で駆け寄ってくる。


「ルナ!」

「どうだった?」


 そう尋ねると、ミアは照れくさそうに笑った。


「思ったより難しかった」

「そうなの?」

「うん。でもね、一回だけ的に当たったんだ!」


 嬉しそうに話すミアを見て、ルナも笑顔になる。


「すごいじゃない」

「まだまだだけどな」


 レオが苦笑する。


「最初にしては悪くない。少し練習すれば十分使えるようになるだろう」


 その言葉に、ミアは嬉しそうに頷いた。


「よし! 頑張る!」

「それじゃあ、次は武器を見に行こう」


 三人はギルドを後にし、武器や冒険者用品を扱う店に向かった。

 店内には剣や槍、弓だけでなく、革袋や採取道具など冒険者向けの品も並んでいた。


「いらっしゃい」


 店主が笑顔で迎えてくれた。


「初心者向けの武器を探してるんだけど」


 レオがそう伝えると、店主は頷く。


「それならこっちだ」


 案内された棚には、比較的軽く扱いやすい武器が並んでいた。

 店主はミアの体格を見て、張りの強さが違う三本の弓を並べた。


「これ、軽い」

「引いてみろ」


 レオに言われ、弦を引いてみる。


「これなら弦を最後まで引ける」

「無理なく引けるなら、それくらいから始めるのがいい」


 ミアは嬉しそうに弓を抱えた。

 一方、ルナは短剣の前で足を止める。


「短剣も色々あるんだね」

「護身用なら長すぎない方がいい」


 店主が一本手渡してくれる。


「握ってみな」


 ルナは恐る恐る柄を握る。

 手の大きさにもよく合い、思っていたより軽かった。


「これなら持ちやすいです」

「無理に高い物を買う必要はない。最初はそれで十分だ」


 レオも頷く。


「じゃあ、それにします」


 武器を選び終えると、今度は採取道具の棚に移動した。


「薬草採取なら、これがおすすめだよ」


 店主が取り出したのは、小さな革袋に道具がまとめられたセットだった。


「採取用のハサミ、小型ナイフ、革手袋、小袋が入ってる。初心者は大体これを買っていく」


 ルナは目を輝かせる。


「全部揃ってるんですね」

「便利そうだろ?」

「はい!」


 迷うことなく、その初心者用セットも購入した。


 その後は服屋に向かい、動きやすい冒険者用の服を選ぶ。

 丈夫な生地でできた上着にズボン。それから、歩きやすい靴。

 派手さはないが、依頼を受けるにはぴったりだった。

 必要な物を一通り買い終える頃には、三人とも両手いっぱいに荷物を抱えていた。


「これで準備はできたね」


 ルナが嬉しそうに言う。

 レオは荷物を確認しながら頷いた。


「ああ。明日はいよいよ初依頼だ」


 その言葉に、ミアは期待に胸を膨らませる。


「楽しみ!」


 三人は笑い合いながら、ゆりかご亭への道を歩き始めた。

 新しい装備を手に、明日はいよいよ初めての依頼だ。

 そう思うだけで、ルナの胸は期待でいっぱいになった。

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