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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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14/50

2-2

 翌朝。

 ルナは鳥のさえずりで目を覚ました。


「……あまり眠れなかったな」


 初めての野営だったせいか、何度も目が覚めてしまった。

 それでも体を起こし、小さく息を吐く。


「キュア」


 淡い光が体を包む。

 頭の重さが少し和らいだ気がして、ルナはほっと胸をなで下ろした。

 馬車の外に出ると、見張りを終えたばかりのレオが火の後始末をしていた。夜半までは御者が見張り、後半をレオが担当したようだ。少し離れたところでは御者が馬の様子を見ていた。


「おはよう、レオ」

「おはよう。よく眠れたか?」

「ううん、少し緊張しちゃって」


 苦笑しながら答えると、ルナはレオに手を向けた。


「見張り、お疲れさま。キュア」


 柔らかな光がレオを包む。

 レオは少し目を見開き、自分の肩を動かした。


「肩の張りが少し楽になった」

「本当?」

「ああ」


 少し驚いたような表情を浮かべたあと、レオは真面目な顔になる。


「一つだけ気をつけろ」

「うん?」

「昨日、クリーンの話をしてただろ。町に入ったらクリーンはなるべく使うな」

「どうして?」

「旅人なら服や靴が少しくらい汚れてるのが普通だ。毎日新品みたいに綺麗だったら、逆に目立つ」

「あっ……」


 ルナは納得したように頷いた。


「気をつける」


 ちょうどその時、ミアも眠そうに目をこすりながら馬車から降りてくる。


「おはよう……」

「おはよう、ミア」


 四人は簡単に朝食を済ませると、馬車を走らせた。

 街道を進むこと数時間。

 遠くに石造りの城壁が見えてくる。


「あれがアルミヤだ」


 レオの言葉に、ルナは思わず身を乗り出した。


「わぁ……」


 王都ほど大きくはない。

 それでも、人々が暮らす立派な町だった。

 ルナはその景色を目に焼き付ける。

 王都以外の町に来るのは、生まれて初めてだった。


「楽しみ?」


 ミアが笑って尋ねる。

 ルナは嬉しそうに頷く。


「うん。どんな町なのか、ずっと見てみたかったの」


 嬉しそうに外を眺めるルナを、ミアが一瞬だけ不思議そうに見つめた。


「ミア?」

「……ううん。何でもない」


 ミアは笑って首を横に振った。

 三人を乗せた馬車は、そのままアルミヤの門に向かった。


 門の前には荷馬車や旅人が列を作っている。

 順番が来ると、門番が近づいてきた。


「止まってください。入町手続きをお願いします」


 レオは慣れた様子でギルドカードを差し出す。

 門番は軽く目を通し、小さく頷いた。


「冒険者ですね。問題ありません」


 続いてルナとミアを見る。


「お二人は身分証をお持ちですか?」

「まだ持っていません」

「では、名前を。身分証をお持ちでない方は、入町税として一人銅貨五枚になります」


 ルナは少し緊張しながら財布を開き、銅貨を取り出した。

 誰かに用意された物ではなく、自分で選んで支払う。

 それだけのことなのに、少しだけ大人になったような気がする。


 「それから、茶色の長い髪に紫の瞳をした十五歳くらいの娘を見なかったか?」


 門番が何気なく尋ねた。

 ルナの心臓が大きく跳ねる。


「茶色の髪?」


 レオはルナを見ることなく首を傾げた。


「いや、見てませんね」

「そうか」


 門番はルナとミアにも視線を向けたが、すぐに興味を失った。


「王都から探し人の知らせが来ていてな。貴族の娘らしい」


 今のルナの髪は肩にかかる程度しかない。平民の服を着て、装飾品も身につけていなかった。


「ご苦労さまです」


 レオはそれだけ答えた。


「通ってよし」


 三人はそのまま門をくぐる。

 人通りの多い通りに出たところで、ルナは小さく息を吐いた。


「……大丈夫かな」


 不安そうにレオを見上げる。

 レオは落ち着いた表情のまま頷いた。


「大丈夫だ」

「でも、今……」

「門番が探してたのは、長い髪で貴族らしい格好をした娘だ。今のルナは、その特徴からかなり外れてる」


 レオが言い切る。


「それに、追っ手が来ていたとしても、ここまでは追われてもいい。アルミヤから先の足取りを消す」


 その言葉を聞いて、ルナの肩から力が抜ける。


「……わかった」


 レオは周囲を見回してから、小さく笑った。


「今日は必要な物を買ったら、早めに宿に入ろう」

「ギルドの登録は?」

「今日はやめとこう。昨日まともに眠れてないだろ。明日の朝一番に行けばいい」

「うん」


 ルナは大きく頷いた。

 

 街に入ると、三人は馬車を降り、御者にお礼を言って別れた。

 その後、人々で賑わうアルミヤの町へと歩き出した。

 道の両側には露店が並び、店主たちの威勢のいい声が飛び交っている。


「まずはお昼にしようか」


 レオが周囲を見回しながら言う。


「食べながら町の様子も見て回ろう」


 三人は焼きたてのパンと串肉を売る屋台で昼食を買った。

 ルナは財布から銅貨を取り出し、代金を支払う。


「これで銅貨二枚か」


 ルナは手の中に残った硬貨を見つめる。


「王都よりは安い方だよ」


 レオがパンを一口かじる。


「街によって多少違うけど、このくらいが普通だ」


 ルナは小さく頷く。

 これも覚えておこう。

 頭の中で、自然と値段を記憶していく。

 昼食を食べ終えると、そのまま市場を歩き始めた。


「あれ?」


 ルナは辺りを見回して足を止める。

 どの店にも、赤い果実が山積みにされている。


「この果物、たくさんあるね」

「ポムだな」


 レオが答えた。


「アルミヤの名産なんだ」


(ポム……)


 ルナは赤い果実を見つめる。


(……りんごみたい)


 形も色も、前世で見慣れたりんごによく似ていた。

 思わず笑みがこぼれる。


「気になる?」


 ミアが覗き込む。


「うん。せっかくだから食べてみたいな」


 三人は近くの店に立ち寄る。

 そこにはポムを使ったお菓子が並んでいた。


「ポムパイ、おすすめだよ!」


 店主が元気よく声をかけてくる。


「昨日は野営も頑張ったし、ご褒美に買おうか」


 レオが笑う。


「いいの?」

「もちろん」


 焼きたてのポムパイを受け取り、一口食べる。


「美味しい……!」


 甘酸っぱい果実と温かい生地がよく合っていた。

 ルナとミアは顔を見合わせて笑う。


「また食べたいね」

「うん!」


 市場を歩いていると、今度は露店の隅に積まれた緑色の葉が目に入った。


「これは?」


 店主が答える。


「青葉草だよ。家畜の餌にしたり、たまにスープに入れたりする草さ」


 ルナは一枚手に取る。

 丸みを帯びた四枚の葉。


(四つ葉のクローバーみたい)


 もちろん、前世のクローバーとは違う植物だ。

 それでも、その姿はどこか懐かしかった。


(四つ葉って幸運の象徴だったよね)


 そんな縁起のいい見た目なのに、こちらでは珍しいものではないらしい。

 ルナは不思議な気持ちになりながら、青葉草を元の場所に戻した。


 市場をあとにした三人は、町の中を歩いた。

 しばらくすると、木造二階建ての建物が見えてくる。

 入口には、大きく『ゆりかご亭』と書かれた看板が掲げられていた。


「ここだ」


 レオが扉を開ける。

 店内には木の温もりが感じられ、食事を楽しむ冒険者や旅人たちの笑い声が響いていた。


「いらっしゃい!」


 奥から元気な声が聞こえ、一人の女性が笑顔で近づいてくる。

 四十代半ばほどだろうか。

 エプロン姿の女性は、三人を見渡してにっこりと笑った。


「泊まりかい?」

「はい。三人です」


 レオが答える。


「二部屋お願いできますか」

「もちろんさ」


 女性は慣れた手つきで帳簿を開く。

 レオのギルドカードを確認すると帳簿に名前を書き込んだ。


「私はここの女将、ハンナだよ。困ったことがあったら何でも言っとくれ」

「よろしくお願いします」


 ルナとミアも頭を下げた。

 部屋の鍵を受け取ると、ハンナが笑いながら付け加える。


「夕食はもう決めてるかい?」


 三人が顔を見合わせると、ハンナは胸を張った。


「うちの自慢はシチューだよ。旅人にも冒険者にも評判なんだから」

「シチュー……」


 ルナの目が輝く。

 隣でミアも嬉しそうに笑った。


「食べたい!」

「ふふっ。それじゃあ決まりだね」


 ハンナは満足そうに頷いた。


「できたら呼ぶから、それまでゆっくり休んでおいで」


 三人は礼を言い、部屋に向かった。

 部屋は決して広くはない。

 それでも掃除が行き届いていて、窓からは町並みがよく見えた。

 ベッドに腰を下ろしたルナは息を吐く。


「やっと落ち着いたね」

「昨日は馬車の中だったもんね」


 ミアが笑いながらベッドに倒れ込む。


「今日はぐっすり眠れそう」


 ルナもつられて笑った。


「私も」


 少し休んでいると、一階からハンナの明るい声が聞こえてきた。


「夕食できたよー!」


 三人は顔を見合わせ、一階に降りていく。

 テーブルの上には、湯気を立てるシチューと焼きたてのパンが並んでいた。


「美味しそう……」


 ルナが思わず呟く。

 レオはコップに果実水を注ぐと、二人を見た。


「アルミヤ到着、お疲れさま」


 ルナとミアもコップを持ち上げる。


「乾杯!」


 三人のコップが小さく触れ合った。

 ルナはさっそくシチューを一口運ぶ。

 野菜の甘みと肉の旨みがゆっくりと口いっぱいに広がった。


「美味しい……」


 自然と笑みがこぼれる。


「評判になるのも納得だね」


 ミアも幸せそうな表情で頷く。


「うん。毎日でも食べたいくらい」


 その言葉にレオも笑った。


「気に入ったなら何よりだ」


 温かい料理を囲みながら、三人は穏やかな時間を過ごした。

 今までいた屋敷とは何もかも違う。

 それでも、不思議と心は落ち着いていた。

 アルミヤで迎える最初の夜は、ルナにとって旅の始まりを優しく祝福してくれているようだった。

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