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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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2-1

 王都を出てしばらく進んだところで、レオは街道脇の木陰に馬車を止めてもらった。


「ここで少し休もう」


 三人は馬車から降り、昼食を広げる。

 院長が持たせてくれたパンに干し肉、それから少しの果物だった。

 御者にも同じものを渡し、少し離れた木陰で休んでもらう。


「美味しい……」


 パンを口にしたルナは、自然と笑みを浮かべる。


「孤児院のみんなが朝早くから用意してくれたんだよね」

「そうだな」


 レオも頷きながらパンを口に運ぶ。


「院長先生も子どもたちも、みんなルナの旅がうまくいくようにって送り出してくれたんだ」


 その言葉に、ルナは改めて感謝の気持ちが込み上げてくる。


「本当に……ありがたいね」


 ミアも嬉しそうに微笑んだ。


「院長先生、ルナのことを心配してたから」

「……そうだったんだ」


 胸が温かくなる。

 するとレオが、静かな口調で言った。


「もしフィールズ家の人間が孤児院に来て事情を聞いても、院長先生には知っていることを話してもらうよう頼んである」


 ルナは顔を上げた。


「いいの?」

「ああ」


 レオはあっさり頷く。


「嘘をつかせる必要はない。護衛依頼を出したことも話していいと言ってある」

「でも……」

「その頃には、もう俺たちは先に進んでる」


 レオは落ち着いた様子で言った。


「見つからないように動けばいいだけだ」


 その言葉に、ルナも少し安心した。

 昼食を食べ終えると、レオは街道の先に視線を向けた。


「さて、ルナ。一つ聞きたいことがある」

「はい」

「今日は宿に泊まるか、それとも野営するかだ。どっちを選んでも、今日の行程なら問題ない」


 ルナは少し驚く。


「私が決めるの?」

「旅をするのはルナだからな」


 レオは真っ直ぐルナを見る。


「宿に泊まれば、ゆっくり体を休められる。長旅では無理をしないことも大事だ」


 一度言葉を区切る。


「ただ、フィールズ家が今日中にルナたちがいなくなったと気づけば、まず街道沿いの宿を調べる可能性が高い」

「……野営なら」

「見つかる可能性は低くなる。ただし、体は休めにくい」


 少しだけ表情を引き締める。


「勘違いしないでほしいが、俺は無理をしてほしいわけじゃない」


 レオははっきりと言った。


「体調を崩されるのが一番困る。護衛としては、それが一番避けたい」


 その言葉に、ルナは思わず笑みをこぼした。

 回りくどい気遣いではなく、護衛として当然のことを言っているだけなのだろう。

 だからこそ、不思議と安心できた。

 少し考え、ルナは静かに頷く。


「今日は野営にする」

「理由を聞いてもいいか?」

「初めてのことだから不安はある……でも、今日は少しでも見つかる可能性を減らしたい」


 それに、と小さく笑う。


「旅に出ると決めた以上、野営も経験してみたいから」


 レオは満足そうに頷いた。


「わかった。それじゃあ今日は野営にしよう」


 再び馬車がゆっくりと走り始める。

 車輪の揺れに身を任せながら、三人はしばらく景色を眺めていた。

 不意にレオが荷物の中から一本の短剣を取り出す。


「ミア」

「ん?」

「これ、持っとけ」


 差し出されたのは、使い込まれた革の鞘に収まった短剣だった。


「えっ、いいの?」

「ああ。護身用だ」


 ミアは嬉しそうに短剣を受け取り、鞘に収まったまま大切そうに眺める。


「わあ……!」

「切れ味もまだ十分ある。しばらくはそれ使え」

「ありがとう!」


 大事そうに短剣を抱えるミアを見て、ルナは微笑む。


「ミアは剣を使うつもりだったの?」

「うん!」


 ミアは元気よく頷く。


「レオ、あたしにも剣教えて!」


 しかし、レオは首を横に振った。


「いや、お前は弓の方が向いてる」

「えぇー?」


 露骨に不満そうな声を上げる。


「なんで?」

「お前は体が軽いし、動きも速い。ルナのそばを離れずに援護するなら、剣より弓の方がいいと思う」

「でも、弓なんて触ったことないよ?」

「だから練習するんだろ」


 レオは苦笑する。


「冒険者ギルドに練習場がある。実際に使ってから決めればいい」


 ミアは少し考えてから頷いた。


「……わかった。じゃあやってみる」


 そのやり取りを見ていたルナが笑う。


「二人とも、息ぴったりだね」

「長い付き合いだからな」

「腐れ縁ってやつ!」


 ミアが笑うと、レオは呆れたように肩をすくめた。

 そして今度はルナに視線を向ける。


「ルナも短剣くらいは一本持っとけ」

「私も?」

「ああ」


 ルナは困ったように笑う。


「でも、私、戦えないよ」

「戦うためじゃない」


 レオは真っ直ぐルナを見る。


「逃げられなくなった時の最後の手段だ。隙を作ったら、すぐ俺のところまで逃げろ」


 少し間を置いて続ける。


「隙を作って逃げる。それで十分」


 ルナは安心したように頷いた。


「うん、わかった」

「町に着いたら一本見繕おう」

「お願いします」


 日が傾き始める頃、レオは馬車を止めてもらった。

 街道から少し外れたところに、旅人が野営に使う開けた場所があった。


「今日はここにしよう」


 三人は馬車から降りる。

 御者は馬の世話を始め、レオは手際よく周囲を確認すると、落ちている枝を集めて火を起こした。


「野営で一番気をつけるのは火だ」


 小さく燃える炎を見つめながら話し始める。


「離れる時は必ず消す。火を残すなら、見張りが必ず管理する。誰も見ていない状態にはするな。少しでも火種が残ってると、風で燃え広がることがある」


 二人は真剣な表情で頷いた。


「それから、夜は必要以上に歩き回るな。何かあったら一人で動かず、必ず俺を起こせ」

「わかった」

「うん」

「慣れるまでは俺が見張りもする。二人は安心して休め」


 レオはそう言って笑った。

 ルナとミアは顔を見合わせ、小さく笑みを浮かべる。

 やがて、昼に食べきれなかったパンと干し肉を火で軽く温め、夕食にした。


「昼より美味しいかも」


 ルナがそう言うと、ミアも嬉しそうに頷く。


「少し温めるだけで全然違うね」

「旅じゃこういう工夫も大事なんだ」


 レオは干し肉を一口かじりながら言った。

 三人は他愛ない話をしながら、夕食を楽しんだ。


 食べ終えた頃には、空はすっかり暗くなっていた。

 焚き火の炎が揺れる中、ルナはふと思い出したように二人に視線を向ける。


「ねぇ、生活魔法を見せてもらってもいい?」

「生活魔法?」


 ミアが首を傾げた。


「うん。家を出る前に少し練習してみたんだけど、自分の使い方が普通と少し違うみたいなの」

「違う?」


 レオも興味を持ったように顔を向ける。


「ミアにクリーンを使った時、普通より綺麗になるって言われたの。それで、他の人が使う魔法と比べてみたくて」

「なるほどな」


 レオは近くに置いてあった木のコップを手に取った。


「じゃあ、ウォーターからでいいか?」

「うん」


 レオがコップに手を向ける。


「ウォーター」


 次の瞬間、水が現れ、コップを満たした。

 ちょうど一杯分ほどで止まる。


「これが普通だ」

「やっぱり、量は私とほとんど同じなんだ……」


 ルナは真剣な表情で水を見つめる。


「私もやってみていい?」

「ああ」


 空のコップを用意し、ルナは手を向けた。

 前世で使っていた蛇口を思い浮かべる。


「ウォーター」


 手のひらの先から、細い水が流れ始めた。


 レオが眉を上げる。


「……なんだ、それ」

「こうやって少しずつ出せるの」


 コップが半分ほど満たされたところで、ルナは水が止まるところを思い浮かべた。

 流れていた水がぴたりと止まる。


「ほら」

「……そんな使い方、できるんだ」


 ミアも驚いたように見つめている。


「普通はできないの?」

「少なくとも、あたしはやったことないよ」


 レオも首を横に振った。


「俺も聞いたことないな。ウォーターは必要な分の水を一度に出す魔法だと思ってた」

「そうなんだ……」


 ルナは用意していた小さな手帳を取り出した。


『ウォーター

 水量は普通とほぼ同じ。

 普通は一度に出す。

 私は流しながら途中で止められる』


 さらさらと書き込んでいく。


「そこまで書くのか?」


 レオが手帳を覗き込む。


「何かを調べるなら、まず普通の状態を知っておいた方がいいでしょう?」


 ルナが当然のように答えると、レオは少し意外そうな顔をした。


「……まあ、それはそうだな」

「次はクリーンを比べてみようよ」


 ミアが自分のスカートの裾を示す。

 地面に座っていたため、薄く土埃がついていた。


「まず、あたしがやるね」


 裾に手を向ける。


「クリーン」


 淡い光が布地を包み、付着していた土埃が消える。

 けれど、以前からあった薄い染みはそのまま残っていた。


「これが普通?」

「うん。埃とか、軽い汚れなら落ちるよ」


 ルナは頷き、手帳に書き込む。


『クリーン

 埃、軽い汚れを落とす。

 染みは残る』


「じゃあ、今度はルナがやってみろ」


 レオに言われ、ルナは少し離れた場所にあった布を手に取った。

 夕食の準備で使ったため、土と油が少しついている。


「やってみるね」


 汚れを消すのではなく、綺麗に洗う。

 石鹸で汚れを落とし、水で洗い流した後のような状態を思い浮かべる。


「クリーン」


 淡い光が布を包んだ。

 光が消えると、土汚れだけでなく、油っぽさまでほとんどなくなっていた。

 ミアが布を手に取る。


「やっぱり違う」

「そんなに?」

「うん。これなら、ちゃんと洗った後みたい」


 レオも布を確認し、少し考え込む。


「魔法が強いって感じとも違うな」

「どういうこと?」

「ウォーターで出した水の量は、俺とほとんど変わらなかっただろ?」

「うん」

「クリーンも、広い範囲を一気に綺麗にしたわけじゃない」


 レオは布をルナに返す。


「同じ生活魔法なのに、使い方が違うって感じだ」

「やっぱり……」


 ルナは家を出る前に読んだ入門書を思い出す。魔法は、術者のイメージによって結果が左右されることがある。


「たぶん、思い浮かべているものが違うんだと思う」

「思い浮かべてるもの?」


 ミアが尋ねる。


「うん。クリーンなら、ただ汚れが消えるんじゃなくて、ちゃんと洗って綺麗になった状態を思い浮かべてるの」

「へえ……」


 ミアは感心したように布を眺める。


「じゃあ、他の生活魔法も違う使い方ができるのかな」

「私もそれを調べてみたいの」


 ルナは嬉しそうに手帳を胸元へ寄せる。


「旅をしながら少しずつ試して、何ができるのか記録してみようと思ってる」

「いいんじゃないか」


 レオは頷いたが、すぐに少し真剣な顔になる。


「ただ、無茶な使い方はするなよ」

「無茶?」

「特にキュアだ。あれは体に使う魔法だろ。よく分からない使い方を試すのはやめとけ」

「あ……」


 そこまでは考えていなかった。


「そうだね。キュアは普通の使い方だけにしておく」

「それがいい」


 レオが頷く。


「ウォーターとかクリーンなら、失敗しても濡れるとか汚れが落ちない程度で済む。でも体に関わる魔法は別だ」

「分かった」


 ルナは手帳に小さく書き足した。


『キュアは勝手に応用しない』


 それを見たミアが吹き出す。


「そこまで書くの?」

「大事なことでしょう?」

「はいはい」


 笑うミアにつられて、ルナも笑った。


「せっかく旅に出たんだもの。これからいろいろ調べてみたいな」

「その話はまた明日にしよう」


 レオは焚き火に薪を一本足した。


「今日は初日だ。そろそろ休んだ方がいい。明日の昼頃にはアルミヤに着く」


 レオが見張りの準備を始める中、ルナとミアは少し離れた場所に腰を下ろした。

 見上げると、夜空いっぱいに星が瞬いている。

 王都では夜も街の明かりが多く、こんなにはっきり星を見ることはなかった。


「すごい……」


 ルナは思わず息をのんだ。


「こんなにたくさんの星、初めて見た」

「王都じゃ明かりが多いからね」


 ミアも空を見上げながら笑う。


「孤児院にいた頃は、よくこうしてみんなで星を見たんだ」

「そうなんだ」

「院長先生が星座を教えてくれたりして。あたしは全然覚えられなかったけど」


 二人は顔を見合わせて笑う。

 しばらくの間、静かな時間が流れた。

 風が木々を揺らし、虫の声が遠くから聞こえてくる。

 ルナはもう一度空を見上げた。


「旅に出るまでは、不安も多かったんだけど……」


 ぽつりと呟く。


「今は楽しみになってきた」


 ミアは優しく微笑んだ。


「きっと大丈夫」

「うん?」

「困ったら三人で考えればいいよ」


 迷いのないその言葉に、ルナは照れくさそうに笑う。


「ありがとう」


 今日まで過ごしてきた屋敷はもう遠い。

 目の前にあるのは、まだ見たことのない景色ばかり。

 不安はある。

 それでも——。

 ルナは夜空に輝く星々を見つめながら、小さく笑った。


「明日も、楽しみだね」

「うん!」


 二人の笑い声が、静かな夜の草原に優しく溶けていった。


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