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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか


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12/52

1-11

 その頃、王城。

 お披露目式が始まる前。

 リアは王宮の応接室に案内されていた。

 部屋には国王と王妃、現聖女エリシア、大神官の姿がある。そして、その隣には二人の青年が立っていた。


「リア」


 国王が穏やかに口を開く。


「今日は、この二人を紹介しておこう」

「はい」


 リアは姿勢を正す。


「こちらが王太子、チャールズだ」


 チャールズは優しく微笑み、一歩前に出る。


「改めまして、おめでとうございます。これから何かと顔を合わせる機会もあるでしょう。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 続いて、もう一人の青年に視線が向けられる。


「そしてこちらが第二王子、ジェームズだ」


 リアと年の近い青年は、一歩前に出て軽く頭を下げた。


「ジェームズです。よろしく」


 少し硬い口調だったが、不快な印象はない。


「リア嬢は王立学園に通う予定だったそうですね」

「はい」


 王妃が優しく続ける。


「聖女候補として学ぶことは増えますが、同世代との交流も大切です。学園生活も送ってもらう予定ですよ」


 リアは少し安心したように表情を緩めた。

 すると国王がジェームズに視線を向ける。


「ジェームズ。学園に慣れるまでは、お前が何かと力になってやりなさい」

「分かりました」


 ジェームズは真面目な表情で頷く。


「困ったことがあれば遠慮なく相談してください。学園を案内するくらいならできます」

「ありがとうございます」


 リアも自然と笑みを返した。

 エリシアはそんな二人を見て、穏やかに微笑んでいた。


「それでは、そろそろ時間ですね」


 大神官がそう告げると、部屋の空気が引き締まる。


 王宮の大広間で、お披露目式が始まった。

 広間には国内の有力貴族が集まり、リアが姿を見せると会場が静まり返る。


「彼女が新しい聖女候補か」


 国王がリアを四十年ぶりに現れた光属性の保持者として紹介し、エリシアが聖女候補として教育を受けることを告げた。


 様々な視線がリアに向けられる。

 紹介が終わると、貴族たちが次々と祝福の言葉をかけに来た。


「おめでとうございます」

「どうかこの国をお守りください」


 笑顔で応えながらも、リアは胸の奥で何度も深呼吸を繰り返す。まだ何もできない自分に向けられる期待の重さを感じる。

 慣れない挨拶が続き、気が付けばあっという間に時間が過ぎていた。ようやく全てが終わった頃には、張り詰めていた緊張が一気にほどけた。


「お疲れさまでした」


 優しい声に振り向くと、大神官が立っていた。


「ありがとうございます」


 リアはほっとしたように微笑む。

 大神官は労わるような眼差しを向けた。


「属性判定の日から今日まで、ずっと忙しかったでしょう。今日はもう十分です。これから数日は、しっかり体を休めてください。本格的な勉強は、それから始めましょう」

「……はい」


 リアは深く頭を下げた。

 その言葉に、ようやく肩の力が抜けた気がした。


◇◇◇


 お披露目式を終えた一行は、夕方になってフィールズ家に戻ってきた。

 馬車が屋敷の前で止まる。


「お帰りなさいませ」


 執事が恭しく一礼した。


「留守中、何か変わったことはあったか」


 父が歩きながら尋ねる。

 執事は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いた。


「実は……ルナ様のお姿が見当たりません」


 その言葉に、リアは思わず足を止めた。


「お姉様が?」

「はい」


 執事は静かに頷く。


「昼食をお持ちした者が不在に気づき、屋敷内と庭を捜しましたが、見つかっておりません」


 父は眉をひそめる。


「部屋は確認したか」

「はい。荷物も確認しております」

「案内しろ」


 一行はそのままルナの部屋に向かった。

 扉が開く。

 部屋はきれいに片付いていた。

 ベッドも、本棚も、机の上も普段と変わらない。


「門番には確認したのか」

「正門の者にも確認しましたが、ルナ様がお出になったところは誰も見ておりません。裏門の者にも確認しております」

「ミアはどうした」

「本日から休暇を取り、孤児院に向かう予定となっております」


 父は眉を寄せた。


「すぐに孤児院に人をやれ。ルナもミアを頼って向かった可能性がある」

「かしこまりました」

「それから、屋敷の周辺と王都の門を確認させろ。ただし、ルナが行方不明になったことは外に漏らすな」


 父は冷静に命じた。


「大きな荷物は残っている。遠くへは行けないはずだ」


 母も部屋を見回す。


「感情的になって屋敷を出ただけかもしれません。見つかれば、落ち着いて話を聞きましょう」


 二人の会話を聞きながら、リアだけは言葉を失っていた。


(お姉様……)


 胸の奥がざわつく。

 嫌な予感が消えない。

 ふと机に視線を向けると、小さな箱が目に入った。

 リアはそっと手に取る。

 中に入っていたのは、淡い紫色の花を模した髪飾り。


「これ……」


 昔、一緒に王都で買った色違いの髪飾りだった。

 リアのものは今も自分の部屋にある。

 ルナもずっと大切にしていたはずだ。


「どうして……置いていったの」


 小さく呟いたその声は、誰にも届かなかった。


「リア」


 父の声で我に返る。


「はい」

「ルナのことはこちらで対処する。お前は今日の疲れを取ることだけを考えなさい」


 リアは髪飾りを握り締める。


「はい。ありがとうございます」


 リアは深く一礼すると、髪飾りを大切に胸に抱えたまま部屋を後にした。

 廊下を歩きながらも、その胸のざわめきは消えない。


 部屋に戻ったリアは、そっと髪飾りを机の上に置いた。

 ルナが置いていった髪飾り。


「お姉様……」


 父と母は、すぐ戻ってくると言っていた。

 けれど、リアにはそうは思えなかった。

 根拠なんてない。

 それでも、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚が消えない。

 双子だからなのだろうか。

 昔から、ルナがひどく体調を崩した時や、強く苦しんでいる時は、何となく胸騒ぎがすることがあった。


◇◇◇


 幼い頃、親戚を招いた食事会が開かれた日のこと。

 朝から、ルナはいつもと変わらない様子で過ごしていた。

 具合が悪そうな様子など、少しも見せていなかった。

 けれどリアだけは、なぜか落ち着かなかった。

 胸の奥が重く、体まで熱を持っているような気がした。


「ルナ、大丈夫?」


 小さな声で尋ねても、ルナは笑って首を横に振った。


「大丈夫よ」


 けれど、その直後。

 食事会を終えて部屋に戻ったルナは、その場に倒れ込んだ。

 高い熱が出ていた。

 朝から体調が悪かったものの、両親や客人に迷惑をかけたくなくて、ずっと我慢していたのだという。

 リアは泣きながら、眠るルナの手を握っていた。


「どうして分かったの?」


 熱が下がった後、ルナは不思議そうに尋ねた。


「分からない。でも、ルナが苦しい気がしたの」


 そう答えると、ルナは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。


「やっぱり、双子だからかな」

「うん」


 リアも嬉しそうに笑った。


◇◇◇


 ルナが無事なのかどうかは分からない。

 それでも、すぐに戻ってくるような気はしなかった。


「……あの頃は」


 リアは小さく笑う。


「ルナって呼んでたのに」


 いつからだっただろう。

 『お姉様』と呼ぶようになったのは。

 勉強も礼儀作法も、ルナは何でも出来た。

 リアも頑張った。

 でも、どれだけ努力しても、ルナには届かない。

 ルナのことが羨ましかった。

 自分もルナのように褒められたかった。


 そんな時、周りの大人たちはいつも、

『リア嬢は笑顔が可愛いわね』

『素直でいい子ね』と言っていた。

 そしてある日。

 何気なく『お姉様』と呼ぶと、

『まあ、きちんとお姉様と呼べるのね。偉いわ』とみんな嬉しそうに笑って褒めてくれた。

 その時、思ったのだ。

 ルナのようになれなくてもいい。

 私は妹なんだから。

 妹なら、ルナのように出来なくても許してもらえる。

 それから自然と、『お姉様』と呼ぶようになった。

 ルナは最初だけ少し驚いた顔をした。

 でも、何も言わなかった。


「……あれが始まりだったのかな」


 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 二人は本音を話さなくなっていった。


 判定の日。

 光属性と告げられた瞬間、嬉しかった。

 初めて、自分自身を認めてもらえた気がしたから。

 でも、嬉しかったことと、ルナを心配する気持ちは別だった。

 属性がなくても、ルナは自慢の姉だった。

 それだけは変わらない。

 私だけでも、そう伝えられたらいいと思っていた。

 聖女として認められるようになったら、お姉様の力になれるかもしれない。

 そんなことを思っていた。

 でも。


「……違った」


 リアは髪飾りをぎゅっと握り締める。

 それもルナの気持ちを聞かずに、自分だけで決めたことだった。


「そんなことより先に」


 涙が一粒、髪飾りに落ちた。


「何でもいいから、ルナと話せばよかった」


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