ルポア 3
朝食を終えたあと、食器を片づけているとラズに声をかけられた。
「レオ、今日は何か予定ある?」
「いや、特にないな。どうした?」
「僕、ギルドに行って依頼を見てこようと思ってるんだ」
「依頼か。だったら、俺も一緒に行こうか?」
「いいの? やった!」
ラズは嬉しそうに笑った。
「でも、町の中の依頼でもいい?」
「ああ。学園が始まったら、一緒に依頼を受ける機会も減るだろうしな」
「……そうだね」
「じゃあ、今のうちに行っておくか」
「うん!」
二人は準備を済ませると、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに着くと、さっそく依頼掲示板を確認する。
「昼前には終わりそうなのがいいよな」
「うん。お昼はルポアで食べたいし」
「俺もそのつもりだ」
掲示板には、魔物の討伐や護衛のほか、町の中でできる仕事もいくつか貼られていた。
「これはどう?」
ラズが指さしたのは、商会の倉庫整理の依頼だった。
荷物を種類ごとに分け、指定された場所に運ぶ仕事らしい。
「いいんじゃないか。これにするか?」
「うん!」
二人は受付で依頼を受けると、指定された商会の倉庫へ向かった。
倉庫に着くと、商会の従業員が出迎えてくれた。
「依頼を受けてくれた冒険者さんですね。助かります」
中に案内されると、木箱や麻袋があちこちに積まれていた。
「このあたりの荷物を種類ごとに分けて、奥の棚に運んでもらえますか? 特に重いものはこちらで運びますので」
「分かりました」
説明を聞いた二人は、さっそく作業を始めた。
レオが木箱を運び、ラズは箱に書かれた品名を確認しながら、小さな荷物を種類ごとに分けていく。
しばらく作業を続けていると、ラズが口を開いた。
「ねえ、レオ」
「ん?」
「レオは、次はBランクを目指すの?」
「ああ。そのつもりだ」
「やっぱり、すごいなあ」
ラズは感心したように言った。
「僕も、もっと強くなりたいな」
「学園に入ったら、魔法もいろいろ習えるだろ」
「うん。でも、まだ魔物は怖いんだよね。レオみたいに戦えるようになるのかなって」
「別に、魔物を倒せるようになることだけが強さじゃないだろ」
「そうなの?」
「ああ。それに、何のために強くなりたいのかも大事だと思うぞ」
レオは次の木箱を持ち上げた。
「ラズは、どうして強くなりたいんだ?」
「えっと……」
ラズは少し考えた。
「また何かあったときに、何もできないのは嫌だから。僕も誰かの役に立てるようになりたいんだ」
「だったら、魔法だっていろんな使い方があるだろ。自分に何ができるのか、これから探していけばいいんじゃないか」
「……そうだね。学園に入ったら、いろいろ勉強してみるよ」
「ああ。それがいい」
ラズは荷物を棚に置くと、レオに尋ねた。
「ねえ、レオは? どうしてもっと強くなりたいの?」
レオは少し考えた。
孤児院を出たあと、生活していくために冒険者になった。
町で見かけた冒険者たちが自由で楽しそうに見えたことも、理由の一つだった。
実際、討伐の仕事は楽しかったし、ランクが上がれば受けられる依頼も増え、報酬もよくなる。
自分には向いていると思った。
だから、特に深く考えずに上のランクを目指していた。
けれど、今は少し違う。
ルナやミアと旅をし、ラズとも出会った。
Bランクを目指す気持ちは変わらないが、それは自分のためだけではなくなっていた。
もっと強くなれば、何かあったときにみんなを守れるかもしれない。
それに、高ランクの冒険者として名が知られれば、離れているときでも多少の抑止力になるだろう。
(……昔は、そんなこと考えもしなかったな)
「今は、守りたい奴らがいるからかな」
「ルナやミアのこと?」
「ああ。あいつら、たまに無茶することもあるからな」
ラズが笑った。
「確かに、そうかも」
「でも、お前のこともだぞ」
「……僕も?」
「当たり前だろ」
レオがそう答えると、ラズは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、レオ」
「別に礼を言われることじゃないだろ」
レオは少し照れくさくなって、付け加えた。
「……そうだ。今の話、あいつらには言うなよ」
「えっ、どうして?」
「本人たちに言うのは、なんか恥ずかしいだろ」
「ふふっ、分かった。内緒にしておくね」
「頼むぞ」
レオは残っていた木箱を持ち上げた。
「ほら、あと少しだ。さっさと終わらせるぞ」
「うん!」
二人は再び作業に集中した。
残りの荷物を運び終えると、商会の従業員に作業を確認してもらった。
その後、ギルドに戻って依頼の完了を報告し、報酬を受け取る。
「思ったより早く終わったな」
「うん。レオと一緒だったから楽しかったよ」
「そりゃよかった」
「また一緒に依頼を受けたいな」
「学園が休みの日なら、できるだろ」
「そっか。じゃあ、また誘うね!」
「ああ、いいぞ」
二人はそんな話をしながら、ルポアへ向かった。
◇◇◇
レオと一緒にルポアに戻ると、店の前に何人かのお客さんが立っていた。
「あれ? お客さんが待ってる」
店の中を覗くと、テーブルもカウンターもほとんど埋まっている。
「レオ、忙しいみたいだよ」
「ああ。何か手伝えることがあるか聞いてみるか」
「うん!」
二人は店に入った。
「ただいま」
「あ、ラズ。レオもおかえり」
ミアは料理を運んでいるところだった。
「すごく忙しそうだね」
「うん。ちょうどお客さんが来るのが重なっちゃって」
「何か手伝えることあるか?」
「いいの? 助かる!」
ちょうど食事を終えたお客さんが席を立ち、テーブルが一つ空いた。
「ミア、僕、あの食器を片づけようか?」
「うん、お願い」
ラズは空いたテーブルの食器を下げ、ミアに教わりながら片づけや掃除を手伝った。
レオも厨房で洗い物を引き受け、二人でルナたちを手伝う。
最初は何をすればいいのか分からなかったけれど、ミアに教えてもらううちに、少しずつ要領が分かってきた。
しばらくすると、お客さんの数も減り、店内が落ち着いてきた。
「ありがとう。二人が来てくれて助かったよ」
ミアが声をかけた。
「ううん。僕も楽しかったよ」
「俺も大したことはしてないぞ」
「そんなことないよ。洗い物も片づけも、すごく助かったんだから」
厨房から出てきたルナも、二人に声をかけた。
「本当にありがとう。ちょうどお客さんが重なっちゃって、どうしようかと思ってたの」
「間に合ってよかったな」
ルナは空いたカウンター席に目を向けた。
「二人とも、まだお昼食べてないよね?」
「ああ。ここで食べようと思ってたんだ」
「じゃあ、カウンターが空いたから座って。何にする?」
「僕、日替わりがいい」
「俺もそれにするか」
「分かった。少し待っててね」
ルナが厨房へ戻ると、二人はカウンター席に腰を下ろした。
「今日は忙しかったね」
「ああ。開店したばかりなのに、すごいな」
「うん。お客さんもみんな美味しそうに食べてた」
ラズは店の中を見回した。
ミアに教えてもらいながら、自分にもできる仕事があった。
(レオの言ってたとおりだな)
魔物と戦うことだけが、誰かの役に立つ方法ではない。
学園に入ったら、もっといろいろなことを学んでみたいと思った。
そのとき、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ!」
ミアが声をかけると、入ってきた男性がレオに気づいた。
「おっ、レオじゃないか」
「カーター! お前も昼飯か?」
「うん。昨日食べた料理が美味かったから、また来たんだ」
「そうか。隣、空いてるぞ」
「ああ」
カーターが隣の席に座ると、レオはラズに顔を向けた。
「ラズ、こいつはカーター。侯爵家で世話になったんだ」
「初めまして。ラズです」
「カーターです。よろしく」
挨拶を終えると、カーターがレオに尋ねた。
「そういえば、また今度、剣の手合わせに付き合ってくれよ」
「いいけど。次は負けないからな」
「前もそう言ってなかったか?」
「うるさいな」
二人は楽しそうに話していた。
ラズはそんな様子を見ながら、少し羨ましくなった。
(いいなあ。僕も学園で友達ができるといいな)
同じ年頃の子たちと一緒に勉強したり、遊んだりする。
そう考えると、学園に通うのが少し楽しみになった。
そうしているうちに、厨房からルナが料理を運んできた。
「お待たせ。今日の日替わりはハンバーグだよ」
「あっ、ハンバーグ!」
目の前に置かれた皿には、丸く焼かれた肉に茶色いソースがかかっていた。付け合わせの野菜も添えられていて、美味しそうな匂いがする。
「これ、また食べたかったんだ」
以前、ルナに肉が食べたいと頼んだとき、作ってくれた料理だった。あのとき食べたハンバーグは、とても美味しかった。
「そんなに気に入ってくれてたんだね」
「だって、すごく美味しかったもん」
レオも目の前の皿を見ていた。
「相変わらず美味そうだな」
「温かいうちに食べてね」
「ああ。いただきます」
「いただきます」
ラズはさっそくハンバーグを一口食べた。
柔らかい肉から旨味が広がり、ソースの味がよく合っている。
「……やっぱり美味しい!」
思わずそう言うと、ルナが笑った。
「よかった」
「これ、お店でいつでも食べられたらいいのに」
「日替わりだから毎日ではないけど、また作るつもりだよ」
「そっか。じゃあ、そのときも食べたいな」
「うん。楽しみにしててね」
ラズは頷くと、もう一口ハンバーグを頬張った。




