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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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111/117

ルポア 1

 いよいよ、ルポアの開店日を迎えた。

 ルナとミアはいつもより早く起き、身支度を整えると市場へ向かった。


「いよいよ今日からだね」

「うん。なんだか、まだ実感が湧かないけど」

「あたしは昨日からずっと楽しみだったよ。ちゃんと眠れるか心配だったくらい」

「私も少し緊張してるよ」


 朝の市場はすでに多くの人で賑わっていた。

 今日の日替わり料理は、鶏の照り焼きだ。せっかく醤油が手に入ったので、開店初日のメニューに選んだ。

 二人は付け合わせやスープに使う野菜、鶏肉などを買い揃え、朝食用のパンも購入して店へ戻った。


 ロイドに頼んでいた調味料や保存の利く食材は、昨日のうちに届いている。必要なものはひととおり揃っていた。

 朝食を済ませると、お揃いの深緑色のエプロンを身につけ、さっそく仕込みを始めた。


 まずはスープとライサの準備だ。

 ミアが野菜を洗って切る間に、ルナはライサを研ぎ、炊く準備を進める。

 スープを煮込んでいる間には、おにぎり用の干物を焼いて身をほぐし、ドリア用のホワイトソースも作っておいた。


 続いて、日替わり料理の下準備に取りかかった。

 鶏肉を食べやすい大きさに切り、醤油と砂糖などを合わせて照り焼き用のたれを作る。


「これが、ロイドさんに探してもらった醤油を使う料理なんだよね?」

「そうだよ。甘辛いたれで鶏肉を焼くんだ」

「へえ、楽しみ!」


 切った鶏肉は小分けにして冷却魔道具に入れ、炊き上がったライサは保温箱に移した。

 開店初日でどれくらいのお客さんが来るかわからないので、ライサは少し余裕を持って炊いてある。

 こうして二人で手分けしながら、開店に向けた準備を整えていった。


 仕込みがひととおり終わった頃、レオとラズが店にやってきた。


「準備は順調か?」

「うん、なんとか間に合いそうだよ」

「おはよう」

「おはよう、ラズ」


 ラズは店内を見回すと、厨房の方に目を向けた。


「何かいい匂いがするね」

「スープを作ってたんだよ」

「へえ、美味しそう」


 そんなラズを見ながら、レオがルナに尋ねた。


「それで、俺たちは何をすればいい? 何か手伝えることはあるか?」

「僕も手伝うよ」

「ありがとう。でも、今日はまずミアと二人でやってみたいんだ」


 ルナが答えると、レオは頷いた。


「そっか。何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「うん。そのときはお願いするね」

「じゃあ、俺たちはもう少ししてから食べに来るか」

「うん! 僕も楽しみ!」


 二人はそう言って、いったん住居の方へ戻っていった。

 ルナとミアは最後に店内の確認をする。


 そして午前十時。

 店の扉を開け、入口に営業中の札を出した。


「いよいよだね、ルナ」

「うん。頑張ろうね」


 こうして、小さな食堂『ルポア』の営業が始まった。


 けれど、しばらく待ってもお客さんはやってこなかった。

 通りを歩く人の姿は見えるものの、店に入ってくる人はいない。


「……なかなか来ないね」

「まだ開店したばかりだよ。それに、お昼には少し早いし」

「そうだけど……」


 ミアの言うとおり、まだ午前十時を過ぎたばかりだ。

 それでも、誰も来ない店内にいると、少し心配になってしまう。


「初日だし、みんなまだお店のことを知らないのかもしれないね」

「うん。でも、看板を見てくれてる人もいたよ。きっとそのうち来てくれるって」

「そうだね。焦っても仕方ないし、もう少し待ってみようか」


 そう話していると、入口の扉が開いた。


「こんにちは。開店おめでとうございます」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはロイドが立っていた。


「ロイドさん!」

「もしかして、私が最初のお客でしょうか?」

「はい。いらっしゃいませ!」


 ミアが迎えると、ロイドは笑顔で店内に入ってきた。


「今日が開店日だと伺っていたので、さっそく来てしまいました」

「ありがとうございます。来ていただけて嬉しいです」


 ロイドはカウンター席に腰を下ろし、メニュー表を手に取った。


「なるほど。どれも美味しそうですね」

「本日の日替わりは、鶏の照り焼きになります」

「鶏の照り焼き、ですか。では、そちらをお願いします」

「はい。少々お待ちください」


 ミアが注文を伝えると、ルナはさっそく調理に取りかかった。

 用意しておいた鶏肉を取り出し、熱したフライパンに並べていく。ジュウッと音を立て、鶏肉が焼け始めた。

 片面に焼き色がついたところで裏返し、中までしっかり火を通す。そこに、醤油を使った甘辛いたれを加えた。

 たれが煮詰まるにつれ、香ばしい匂いが厨房に広がっていく。


「へえ、いい香りですね」


 カウンター越しに、ロイドが声をかけてきた。


「もう少しでできますよ」


 ルナは鶏肉にたれを絡め、副菜の野菜と一緒に皿に盛りつけた。


「ミア、お願い」

「うん」


 ミアは保温箱からライサを取り出して器によそい、温めておいたスープも器に注いだ。

 ルナから料理の皿を受け取ると、ロイドの前に並べる。


「お待たせしました。本日の日替わり、鶏の照り焼きセットです」

「これは美味しそうですね。いただきます」


 ロイドは照り焼きをひと口食べると、驚いたように目を見開いた。


「美味しいです。もしかして、先日の醤油を使っているんですか?」

「はい。砂糖などを加えて、甘辛いたれにしているんです」

「なるほど。あの調味料がこんな料理になるとは。以前のムギボもそうでしたが、ルナさんの料理には驚かされますね」

「ありがとうございます。気に入っていただけてよかったです」


 ロイドは今度はライサと一緒に鶏肉を食べ始めた。

 その様子を見て、ルナはほっとした。

 最初のお客さんが知り合いのロイドだったおかげで、少し緊張も和らいだ気がする。


 それからしばらくして、レオとラズが店に戻ってきた。


「そろそろ食べても大丈夫か?」

「うん、もちろん。いらっしゃいませ」


 二人はカウンター席に腰を下ろし、メニュー表を眺めた。


「さっきからいい匂いがしてて、僕、お腹が空いちゃった」

「ふふ。何にする?」

「そうだな……」


 レオがメニューを眺めていると、入口の扉が開いた。


「いらっしゃいませ」


 ミアがすぐに声をかける。

 入ってきたのは、男女二人組のお客さんだった。


「二人なんだけど、空いてる?」

「はい。こちらへどうぞ」


 ミアは二人をテーブル席に案内し、メニュー表を渡した。


「へえ、日替わりセットにドリア、おにぎりセットか。どれも聞き慣れない料理だね」


 メニュー表には、それぞれの料理の簡単な説明と値段が書かれている。日替わりセットとドリアは、どちらも銅貨四枚だ。


「今日の日替わりは、鶏の照り焼きです。甘辛いたれで焼いた鶏肉に、ライサとスープ、副菜がついています」

「ライサって、あの穀物のこと?」

「はい。炊いて食べるんですよ」

「へえ。じゃあ、ドリアは?」

「ライサにホワイトソースとチーズをのせて焼いた料理です」

「それも美味しそうね。私はドリアにしようかしら」

「じゃあ、俺は日替わりにするよ」

「かしこまりました。日替わりとドリアを一つずつですね」


 ミアは注文を確認すると、厨房に戻ってきた。


「ルナ、日替わりとドリアが一つずつだよ」

「うん、分かった」


 その様子を見ていたレオが、声をかけてくる。


「俺たちの分は、あの二人の料理が終わってからでいいぞ」

「そう? ありがとう」

「先にお客さんの分を作ってやってくれ」

「僕も待てるよ」


 ラズも頷いた。


「じゃあ、少し待っててね」


 ルナは新しく入った注文の調理に取りかかった。

 まずはドリアの準備だ。

 器に炊き上がったライサを盛り、ホワイトソースをかけて、その上にチーズをのせる。

 温めておいた石窯に入れると、その間に鶏の照り焼きを仕上げた。


「ミア、日替わりができたよ」

「うん」


 ミアが料理を運んでいく間に、ルナはドリアの焼き加減を確かめる。

 しばらくすると、チーズが溶けて表面にこんがりと焼き色がついた。


「ドリアもできたよ」


 ミアは熱い器に気をつけながら、テーブル席へ料理を運んでいった。


「お待たせしました。こちらがドリアになります。器が熱くなっていますので、お気をつけください」


 二人組のお客さんへの料理を出し終えると、ルナはレオとラズに声をかけた。


「お待たせ。二人は何にする?」

「俺は日替わりにしようかな」

「僕はドリアが食べたい」

「分かった。じゃあ、少し待っててね」


 ルナが鶏肉を焼き始めたところで、入口からミアの声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ」


 新しいお客さんが入ってきたようだ。

 ミアが席へ案内し、注文を取る。


「ルナ、日替わりが二つだよ」

「うん、分かった」


 ルナはレオたちの料理を仕上げると、続けて新しい注文に取りかかった。


 十一時を過ぎた頃から、少しずつお客さんが増え始めた。

 最初は一組ずつだったのが、次第に間を置かずに入ってくるようになる。


「ドリアが一つと、おにぎりセットが二つ」

「はーい」


 ルナは注文を確認しながら、次々と料理を作っていった。

 鶏肉を焼き、ドリアを石窯に入れ、その間におにぎりを握る。


 ミアも料理を運んでは空いた食器を下げ、次のお客さんを迎える準備を進めていた。

 注文が重なると、料理を出すまでに少し時間がかかることもあった。


「ルナ、次の日替わり、もう少しかかりそう?」

「うん。あと少しで焼き上がるよ」

「分かった。お客さんに伝えてくるね」


 ミアは客席に戻り、料理を待っているお客さんに声をかけた。

 ルナも順番を確認しながら、調理を進めていく。

 気づけば、カウンター席はすべて埋まり、空いているテーブルも一つだけになっていた。

 そして昼前。


「いらっしゃいませ。お二人ですね。こちらへどうぞ」


 ミアが最後の空いているテーブルにお客さんを案内すると、厨房を振り返った。


「ルナ、満席になったよ」

「えっ、本当?」


 客席を見ると、四つのテーブル席もカウンター席も、すべて埋まっていた。


「……本当だ」


 開店してすぐは、誰も来てくれないのではないかと心配していたのに。


「すごいね」

「うん」


 けれど、喜んでばかりもいられない。


「すみませーん。注文いいですか?」

「はい。ただいま伺います」


 ミアが返事をして、客席に向かっていく。

 ルナも気持ちを切り替えると、次の料理を作り始めた。


 昼を過ぎると、店内も少しずつ落ち着いてきた。

 レオとラズは食事を終えたあと、住居の方に戻っている。

 忙しくなったら声をかけてくれと言ってくれたが、結局、手伝いを頼まずに済んだ。


 ルナは使い終わった調理器具を片づけながら、客席に目を向けた。

 カウンターでは、男性客が照り焼きを食べながら、隣の客と楽しそうに話している。窓際のテーブルでは、二人連れの女性がドリアを食べていた。

 料理を口に運びながら笑顔を見せるお客さんたちを見て、ルナも嬉しくなった。


 露店で料理を売っていた頃は、買ってくれた人がそのあとどんな顔で食べているのか、なかなか見ることができなかった。

 でも、ここなら違う。

 料理を食べている人の表情も、交わしている言葉も、こうして見ることができる。

 やっぱり、お店を開いてよかった。

 まだ初日だけれど、ルナはそう思った。


「いらっしゃいませ」


 ミアの声に顔を上げると、そこにいたのは、オルソン侯爵家の護衛を務めるカーターだった。


「あっ、カーターさん。いらっしゃいませ」

「こんにちは、ルナさん。開店おめでとう!」

「ありがとうございます。来てくれたんですね」

「うん。今日からって聞いてたからさ」


 カーターが食事を終えた頃には、店内もだいぶ落ち着いていた。


「そういえば、アイシャ様の誕生日のお菓子、すごく好評だったんだって?」

「うん。みんな喜んでくれて、私も嬉しかったです」

「アイシャ様、また食べたいって言ってたよ。俺も食べてみたかったなあ」

「また作る機会があったら、カーターさんの分も用意しますね」

「本当? やった!」


 カーターと笑い合っていると、入口の扉が開いた。


「いらっしゃいませ」


 ミアの声に振り向くと、リアムとマシューが入ってきたところだった。


「あっ、リアム。マシューも」

「開店おめでとう、ルナ」

「おめでとう」

「ありがとう。二人とも来てくれたんだね」

「もちろん。楽しみにしてたからね」


 リアムはそう言ってから、カウンターに座るカーターへちらりと目を向けた。

 カーターも二人に気づき、軽く会釈をした。


「リアム、マシュー。カウンターが空いてるよ」

「ありがとう」


 二人がカウンター席に腰を下ろすと、ミアがメニュー表を渡した。


「今日の日替わりは鶏の照り焼きだよ。ほかにドリアとおにぎりセットもあるよ」

「へえ、どれも美味しそうだね」


 二人は少し相談してから注文を決めた。

 ルナは厨房に戻り、料理の準備に取りかかった。

 リアムたちが食事をしている間に、カーターは会計を済ませ、マシューに挨拶をして店をあとにした。

 しばらくして、リアムとマシューも食事を終えた。


「ごちそうさま。美味しかったよ」

「ありがとう」


 リアムは店内を見回した。


「それにしても、いい店になったね」

「うん。みんなが手伝ってくれたおかげだよ。リアムが用意してくれた冷却魔道具も、さっそく役に立ってるんだ」

「それならよかった」

「初日からずいぶん忙しそうだったな」


 マシューが言った。


「うん。お昼には一度満席になったんだよ」

「初日から満席か。順調な滑り出しじゃないか」

「そうだといいな」


 リアムは二人の会話を聞きながら、ふとカーターが座っていた席に目を向けた。

 ルナはそれに気づかず、マシューと話を続けていた。


「じゃあ、そろそろ行くか」


 マシューが声をかけると、リアムも頷いた。


「ごちそうさま。また来るよ」

「二人ともありがとう。また来てね」

「ミアもお疲れ。無理するなよ」

「うん、ありがとう!」


 二人は会計を済ませ、店をあとにした。


 その後は大きな混雑もなく、午後三時を迎えた。

 最後のお客さんを見送ってから、ミアが入口の札を裏返した。


「終わったね」

「うん。お疲れさま」


 二人は残っていた食器を洗い、厨房やテーブルを片づけていった。すべての作業を終える頃には、さすがに疲れが出てきた。


「はぁ……疲れたぁ」


 ミアが椅子に腰を下ろし、大きく背伸びをした。


「今日は忙しかったね」

「うん。でも、たくさんお客さんが来てくれてよかったね」

「そうだね」

「ねえ、あたしたち、ちゃんと二人でできたね」

「うん。ミアのおかげだよ。ありがとう」

「あたしだって、ルナがいたから頑張れたんだよ」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 もちろん、まだ慣れないこともあるし、これから工夫していかなければならないこともある。

 それでも、初日を無事に終えられたことが何より嬉しかった。


 ルナは改めて店内を見回した。

 自分たちで選んだテーブルや椅子。ラズが考えてくれた看板。そして、ミアとお揃いの深緑色のエプロン。

 念願だった自分たちのお店が、こうして動き始めた。


「明日も頑張ろうね」

「うん!」


 疲れてはいたけれど、二人の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

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