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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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開店準備 3

 数日後。

 ルナは、開店時のメニュー候補に挙げていたドリアを試作することにした。


 具材はいろいろ考えられるけれど、店で出すなら、なるべく扱いやすいものがいい。

 そこで今回は、比較的日持ちする燻製肉ときのこを使うことにした。

 先日注文した食器も届き、石窯で使える耐熱皿も揃っている。


 朝のうちにミアと市場へ行き、必要な食材を買い揃えてきた。牛乳やバター、チーズも手に入り、ライサも先に炊いてある。


 冷却魔道具が完成すれば、牛乳やチーズなども保存しやすくなるだろう。そのためにも、今のうちに作り方や必要な量を確かめておきたかった。


「じゃあ、さっそく作ってみようか」

「うん。あたし、ドリア楽しみにしてたんだ」

「ふふ。美味しくできるといいね」


 ミアは袖をまくり、ルナの隣に立った。


「それで、あたしは何をすればいい?」

「じゃあ、きのこを切ってもらってもいい? 私は燻製肉を切るね」

「わかった」


 二人で手分けして下ごしらえを始める。

 ミアがきのこの汚れを落として食べやすい大きさに切っている間に、ルナは燻製肉を小さめに切り分けた。

 燻製肉は香りが強く、塩気もあるので、たくさん使わなくても十分に味が出そうだ。


「きのこはこれくらいでいい?」

「うん、ちょうどいいよ。ありがとう」

「次は?」

「ホワイトソースを作るから、そっちを手伝ってもらおうかな」

「ホワイトソース?」


 聞き慣れない言葉だったのか、ミアが首を傾げる。


「ドリアにかける白いソースのことだよ。牛乳とバター、小麦粉を使って作るの」

「牛乳でソースができるんだ?」

「うん。小麦粉を使うと、とろみがつくんだよ」

「へえ、面白そう」


 まずは鍋にバターを入れ、弱火で溶かしていく。そこに小麦粉を加え、焦がさないように混ぜながら炒めた。


「ここでしっかり混ぜるのが大事なんだ」

「こんな感じ?」

「うん。じゃあ、次は牛乳を少しずつ入れていくね」


 ミアに鍋を混ぜてもらいながら、ルナは牛乳を少しずつ加えていく。

 最初は固かったものが、牛乳を加えて混ぜるうちに、少しずつなめらかになっていった。


「さっきまで固かったのに、こんなに変わるんだね」

「でしょ? これがホワイトソースだよ」


 仕上げに塩で味を調え、ひと口味見をする。なめらかにできているし、味も悪くない。


「ミアも味見してみる?」

「する」


 小皿に少し取って渡すと、ミアは慎重に口に運んだ。


「……あ、美味しい。牛乳を使ってるのに、こんな味になるんだね」

「バターも入ってるからね。じゃあ、今度は具材と合わせようか」


 別の鍋で燻製肉ときのこを炒めると、燻製肉の香ばしい匂いが広がった。


「こっちもいい匂い」

「燻製肉の塩気があるから、味付けは控えめにしようかな」


 きのこに火が通ったところでホワイトソースを加え、全体を混ぜ合わせる。


「あとはライサと合わせて焼くだけだよ」


 ルナは用意しておいた耐熱皿を並べた。


 皿にライサを盛り、その上から燻製肉ときのこの入ったホワイトソースをかける。最後に、細かくしたチーズを全体に散らせば準備は完了だ。


「これを石窯で焼くんだね?」

「うん。チーズが溶けて、表面に焼き色がついたら完成だよ」


 以前使ったときのことを思い出しながら、石窯の様子を確認する。火の魔石で十分に温めてから、耐熱皿を中に並べていった。


 しばらくして石窯の中を覗くと、チーズが溶け始めていた。

 奥の方が早く焼けているようなので、皿の位置を入れ替える。


「もういい匂いがしてきたね」

「うん。あと少しかな」


 表面にこんがりと焼き色がついたところで、耐熱皿を取り出した。

 チーズの下ではホワイトソースが小さな泡を立てている。見た目はよさそうだ。


「わあ、美味しそう」

「うん。ちゃんと焼けたみたい」


 あとは味を確かめるだけだ。


「じゃあ、レオとラズも呼んでこようか」

「あたしが呼んでくる」


 ミアはそう言うと、二人を呼びに行った。

 ルナはその間に皿をテーブルに運び、スプーンと水を用意する。

 ほどなくして、ミアがレオとラズを連れて戻ってきた。


「お、いい匂いがするな」

「これが言ってたドリア?」

「そうだよ。燻製肉ときのこを使ってみたの」


 ラズはテーブルに並んだ皿を覗き込み、目を輝かせた。


「すごい。チーズがこんがりしてる」

「焼きたてだから、まだ熱いよ。気をつけてね」


 四人で席につき、さっそく試食することにした。


「いただきます」


 スプーンを入れると、焼けたチーズの下から白いソースとライサが顔を出す。

 ルナは少し混ぜ合わせてから、息を吹きかけて冷まし、口に運んだ。


 なめらかなホワイトソースがライサによく絡み、燻製肉の塩気ときのこの旨味もちょうどいい。チーズの香ばしさも加わって、思っていた以上にいい仕上がりだった。


「んー、美味しい」


 隣では、ミアが頬を緩めていた。


「これ、すごく好き。ライサってこんな食べ方もできるんだね」

「確かにな。燻製肉の味もよく合ってる」


 レオも頷きながら、もうひと口食べる。


「僕は上のチーズが好きだな。ライサも入ってるから、お腹いっぱいになりそう」

「よかった。みんなの口に合ったみたいだね」


 ひとまず安心して、ルナももうひと口食べた。


「でも、これって注文が入ってから焼くんだろ?」


 レオの言葉に、ルナは頷いた。


「うん。ソースは先に作っておけるから、注文が入ったらライサと一緒に皿に盛って、チーズをのせて焼くつもり」

「なるほどな。でも、注文が重なったら大変そうだな」

「そうなんだよね。石窯に一度に入れられる皿の数も限られてるし」


 何人ものお客さんから一度に注文が入ったら、少し待ってもらうことになるだろう。


「でも、あたしなら待つよ。こんなに美味しいんだもん」


 ミアがそう言って笑う。


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」


 ルナは自分の皿に視線を落とした。

 味はこれでよさそうだ。あとは一度に何皿焼けるかや、材料にどのくらい費用がかかるかも確かめておきたい。


「よし。今度はもう少し多めに作って、まとめて焼けるか試してみようかな」

「じゃあ、また食べられるの?」

「うん。もちろん」

「やった」


 ミアが嬉しそうに笑い、レオとラズもつられて笑った。

 こうして、ルポアで出す料理が一つ、形になってきた。


◇◇◇


 一方、魔法研究所では、リアムとオリバーが冷却魔道具の仕上げに取りかかっていた。


 必要な術式はすでに完成しており、あとは魔道具に組み込んで、正常に動くか確認するだけだった。


「それじゃあ、始めようか」

「ええ。こちらの準備はできています」


 二人の前には、縦長の箱が置かれていた。


 以前、ルナが考えた形をもとに、店の厨房に合わせて作ったものだ。上には小さな冷凍室、下には棚のついた冷蔵室があり、それぞれに扉がついている。


 リアムとオリバーは、氷と風の術式を刻んだプレートを取り付け、それぞれに魔石をはめ込んだ。


「これでよし。起動させるよ」

「お願いします」


 リアムが術式を起動させると、魔石が淡く光り始めた。


「……うん。ちゃんと冷えてきたね」

「風の術式も問題なく動いていますね」


 二人は水を入れた容器を上下の部屋に置き、冷え方を確かめることにした。


 数時間後、上部に入れた水は凍り、下部の水は凍らずに冷えていた。


「うん。冷却の具合も問題なさそうだね」

「ええ。魔石の消耗も想定した範囲に収まっています」


 その後も動作確認を続けたが、冷却の状態は安定していた。


「これなら完成と言ってよさそうだね」

「ええ。無事にできましたね」


 オリバーが満足そうに頷く。


「それにしても、今回の製作は面白かったですね」

「うん。氷の性質を持たせた魔石の方も、今回の術式を使って改良できるかもしれないね」

「そうですね。あっちの試作品でも試してみたいです」

「うん。もう一つ作って比べてみるのもよさそうだね」


 リアムは完成した冷却魔道具を眺めながら笑った。


「さて、問題なく動くことも確認できたし、ルナのところに届けようかな」


 少し離れたところで書類を確認していたマシューが顔を上げた。


「もう持っていくのか?」

「うん。早く使ってもらいたいから。馬車を手配して、今日中に届けよう」


 リアムがそう答えると、オリバーは小さく笑った。


「それなら、使い方の説明も殿下にお願いしますね」

「もちろん。そのつもりだよ」


 リアムはもう一度、完成した魔道具を見た。


◇◇◇


「こんにちは」

「あ、リアム。マシューもいらっしゃい」


 日が落ち始めた頃、店にやって来たのはリアムとマシューだった。

 店の前には、冷却魔道具を積んだ馬車が停まっている。


「今日はルナにいいものを持ってきたんだ」

「いいもの?」

「うん。頼まれていた冷却魔道具が完成したよ」

「えっ、本当!?」


 ルナの顔が明るくなった。


「もう完成したの?」

「オリバーが協力してくれたから、思ったより早く仕上がったんだ」

「すごい。ありがとう」


 ルナの声を聞いて、ミアとラズも近づいてきた。少し遅れて、レオも顔を出す。


「冷却魔道具って、食材を冷やしておけるんだよね?」


 ミアが尋ねると、リアムは頷いた。


「そうだよ。上では凍らせることもできるし、下では冷たいまま保存できるんだ」

「へえ。早く見てみたいな」

「じゃあ、まずは設置しようか」


 馬車から魔道具を降ろしてもらい、リアムとマシューも手伝って厨房へ運び込む。

 以前確認しておいた場所に設置し、扉が問題なく開くことを確かめた。


「この位置で大丈夫?」

「うん。ここなら料理をするときにも使いやすそう」

「それならよかった」


 リアムは術式を起動させ、上下の扉を開けながら使い方を説明してくれた。


「上が冷凍室で、下が冷蔵室だよ。下の棚は取り外せるから、入れるものに合わせて動かしてね」

「うん。ありがとう」


 ルナが冷蔵室に手を入れてみると、少しずつ冷気が広がり始めていた。


「わあ、もう冷えてきてる」

「うん。もう少しすれば、もっと冷えるよ」


 ミアとラズも興味津々で中を覗き込んだ。


「すごいね。これなら食材も長く置いておけそう」

「そうだな。今までより保存もしやすくなるだろうな」


 レオも感心したように頷く。


「そうだ。ちょっと水を冷やしてみてもいい?」

「もちろん」


 ルナはコップを一つ持ってくると、生活魔法の『ウォーター』で水を注いだ。


「上に入れたら、早く冷えるかな?」

「うん。ただ、入れっぱなしにすると凍っちゃうから気をつけてね」

「わかった」


 ルナは冷凍室にコップを入れ、扉を閉めた。


「それから、使うときに気をつけてほしいことがあるんだ」

「なに?」

「この魔道具には氷と風、二種類の魔石を使ってるんだけど、どっちも使い続けると魔力が減っていくから、定期的に補充する必要があるんだ」

「魔石って、魔力を補充できるの?」


 ミアが不思議そうに尋ねた。


「うん。ただ、魔石の品質によるけどね。一般に出回っている安価な魔石は、魔力がなくなったら交換するものが多いけど、質のいい魔石なら、魔力を補充して何度か使えるんだよ」

「そうなんだ」

「ただし、補充するには同じ属性の魔力が必要だし、少しコツもいるんだ」


 リアムは上部のプレートを指さした。


「氷の魔石は、オリバーが補充してくれることになってるから、魔力が減ってきたら俺に知らせてくれればいいよ」

「わかった。ありがとう」

「それから、風の魔石なんだけど……」


 リアムがレオに目を向ける。


「レオは風属性だったよね?」

「ああ、そうだけど」

「それなら、練習すれば自分で補充できると思う」

「俺が?」

「うん。もちろん、最初からうまくできるとは限らないけど」


 レオは少し考えてから頷いた。


「なるほどな。自分でできるようになれば、その方が便利だろうし」

「そうだね。一応、練習用に魔石を持ってきたから、やってみる?」


 リアムは小さな魔石を取り出し、レオに見せた。


「そうだな。でも、いきなりできるか?」


 マシューが隣から口を開いた。


「魔石への魔力補充なら、俺が教えようか」

「いいのか?」

「ああ。属性は違っても、基本は同じだからな。少しコツがいるが、覚えておいて損はないだろ」

「それなら頼む」

「僕も見たい」

「あたしも」


 ラズとミアも興味を示し、三人はマシューと一緒に少し離れた作業台の方へ移動した。


 ルナはその様子を見送ってから、リアムに向き直った。


「リアム、本当にありがとう」


 ルナは隣にいるリアムを見上げ、満面の笑みでお礼を言った。


「……」

「リアム?」


 リアムは一瞬、何かに気づいたように目を見開いた。

 どうしたのだろうと思っていると、リアムはふっと表情を和らげた。


「……ルナに喜んでもらえて、俺も嬉しいよ」


 いつもと少し違う笑顔に、ルナは思わず目を逸らした。


「あ、そうだ。さっきのお水、そろそろ冷えたかな?」


 ルナは冷凍室からコップを取り出した。

 コップに触れると、入れたときよりずっと冷たくなっている。


「わっ、結構冷えてる」

「本当? ちょっと早いくらいだね」

「うん。飲んでみようかな」


 もう一つコップを用意し、冷やした水を二つに分ける。


「リアムもどうぞ」

「ありがとう」


 二人でコップを手に取り、水をひと口飲んだ。


「……あ、美味しい」


 冷たい水が喉を通っていく。


「本当だ。ただの水なのにね」

「うん。冷えてるだけで美味しく感じるよね」


 ルナが笑うと、リアムも笑った。


 ふと視線を向けると、少し離れたところでは、レオがマシューに教わりながら魔石に魔力を流し込んでいた。ミアとラズも、その様子を見守っている。


 みんなのおかげで、開店に向けた準備がまた一つ進んだ。

 ルナは手の中の冷たいコップを見つめた。

 これから、この魔道具を使ってどんな料理を作ろうか。考えるだけでも楽しみだった。

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