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双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

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王都後編 7

 ルナはテーブルの上にお金を並べながら、手元に残っている金額を確認していた。


「……大体、百金貨くらいか」


 フィールズ家を出るときに持ってきた宝石を売ったお金に、これまで自分で稼いだ分。

 旅をしている間にも宿代や食費などで使ってきたが、まだこれだけ残っている。

 とはいえ、すべてを店に使うつもりはない。

 店を開いたあとも生活は続くし、食材の仕入れにもお金がかかる。何かあったときのことも考えれば、ある程度は手元に残しておきたかった。


「半分は残しておきたいな……」


 そうすると、店を始めるために使えるのは最大で五十金貨。

 ただ、実際にどれくらい必要になるのかは、まだ分からない。

 店舗を借りる費用だけではなく、家具や調理器具、食器も必要になる。


「まずは物件を見てからだね」


 できるだけ費用を抑え、その中で自分に合った店を探す。

 そう決めて、ルナは商業ギルドへ向かった。


「こんにちは、メーガンさん」

「こんにちは、ルナさん。今日はお店のことでしょうか?」

「はい。どれくらいの広さにするか、大体決めてきました」

「では、伺いましょう」


 メーガンが用意した紙を前に、ルナは考えてきた希望を伝えていく。


「そんなに大きなお店じゃなくていいんです。カウンター席がいくつかと、四人くらい座れるテーブルを二つ置ければ十分かなって」

「厨房は必要ですね?」

「はい。いろいろな料理を作りたいので、厨房はちゃんと欲しいです」


 露店で料理を売るうちに、もっといろいろなものを作って食べてもらいたいと思うようになった。

 ミアも店を手伝うと言ってくれている。

 最初から大きな店を構えるつもりはない。

 けれど、自分たちで料理を作り、お客さんにゆっくり食事を楽しんでもらえるような店にしたかった。


「そのくらいの店舗だと、家賃はどれくらいになりますか?」

「場所や設備によってかなり変わりますが、月に三十から五十銀貨ほどを考えておけばいいと思います」

「三十から五十銀貨……」

「大通り沿いや市場に近いところは高くなります。反対に、少し通りを入ったところなら、同じ広さでも安くなりますね」

「なるほど……」


 立地がよければ、それだけ客も来やすい。

 けれど、その分毎月の負担も大きくなる。


「それから、以前も飲食店だった物件なら、厨房設備が残っている場合があります。その分家賃が高くても、最初にかかる費用を抑えられることもありますよ」

「あ、そうか」


 家賃だけを見て決めればいいわけではない。

 安い店舗を借りても、厨房を一から整えるのに多くのお金がかかれば、結果的には高くなるかもしれない。


「難しいですね……」

「初めてですから、まずはいくつか比べてみるといいですよ」

「そうですね。できれば、厨房があるところを何軒か見てみたいです」

「分かりました」


 メーガンは一度席を離れると、しばらくして何枚かの資料を持って戻ってきた。


「今ご紹介できそうなのは、このあたりですね。ただ、店舗だけでは候補が少なかったので、以前お話しした住居付きのものも含めてみました」

「そっちも探してくださったんですね」

「ええ。一階が店舗で、上が住居になっているものが何軒かあります。そちらですと、月に六十から八十銀貨ほどになります」

「やっぱり、店舗だけよりは高くなるんですね」

「そうですね。ただ、今のお住まいをそのまま借り続けるのでしたら、そちらの家賃もかかります。店と住居を別々に借りる場合と比べて考えた方がいいでしょう」

「そうですね」


 店舗だけを見れば、住居付きの方が高い。

 けれど、今の家の家賃まで含めれば、必ずしも負担が大きくなるとは限らない。


 ルナはテーブルに並べられた資料を見る。


「これ、持ち帰ってもいいですか?」

「もちろんです。皆さんとも相談して、気になるところを選んでください。実際に見に行くこともできますよ」

「ありがとうございます」


 資料を受け取り、鞄にしまおうとしたところで、ルナはもう一つ聞こうと思っていたことを思い出した。


「あ、メーガンさん。もう一つ聞いてもいいですか?」

「はい。何でしょう?」

「ロイドさんっていう商人を知っていますか?」

「ロイドさん……」


 メーガンは少し考えてから頷いた。


「ええ。食品を中心に扱っている商人で、商業ギルドにも登録されています。現在のランクはDですね」

「やっぱりそうなんですね」

「何かありましたか?」

「友人が護衛依頼で一緒だったんです。そのときにムギボを食べてもらったみたいで、私に会ってみたいって言ってたらしくて」

「なるほど」

「ただ、知り合ったばかりの人だから、友人も少し気にしてて……。どんな人なのかなって」


 ラズの事件があったばかりということもあり、知らない相手に簡単に会うことには、ルナ自身も以前より慎重になっていた。


「独立されてからはまだそれほど長くありませんが、以前から商会で働いていた方です。商人としての経験や知識はありますよ。今のところ、ギルドで問題になったこともありません」

「そうなんですね」


 それを聞いて、少し安心する。

 もちろん、それだけですべてを信用していいとは思わない。

 けれど、少なくとも素性の分からない相手ではないようだ。


「それなら、もしロイドさんから私やムギボについて問い合わせがあったら、最初はここで会うことってできますか?」

「もちろんです。問い合わせがあれば、こちらからルナさんにお知らせします。そのうえで、お互いに都合のいい日に商談の場を用意しましょう」

「ありがとうございます。それなら安心です」


 ギルドを通して会えるのなら、ルナも安心だった。

 レオにも心配をかけずに済むだろう。


「では、物件の方も決まりましたら教えてくださいね」

「はい。また相談に来ます」


 ルナは今度こそ資料を鞄にしまい、商業ギルドをあとにした。


 家に戻ると、ルナはさっそくテーブルの上に資料を広げた。


「これ、お店の候補?」


 ミアがすぐに覗き込んでくる。


「うん。今日、メーガンさんに探してもらったの」


 レオとラズもテーブルのそばに集まる。


「それでね、みんなに相談したいことがあるの」

「何?」


 ルナは資料の中から、住居付きの物件を何枚か取り出した。


「店舗だけだと、今はあまり候補がないみたいで。こういう、一階がお店で上が住居になってるところも紹介してもらったの」

「ここに住むってこと?」


 ラズが資料を覗き込む。


「うん。もしこういうところに決めたら、今の家から引っ越すことになるけど……候補に入れてもいい?」


 店はルナが始めるものだ。

 けれど、住居まで一緒になれば、三人の生活にも関わる。


「あたしはいいよ」


 最初に答えたのはミアだった。


「店と家が一緒なら便利そうだし」

「俺も別に構わないぞ」


 レオも資料を手に取る。


「今の家にずっと住むって決めてたわけでもないしな」

「僕も大丈夫だよ。学園に通うのに困らない場所なら」

「本当?」

「うん」


 三人の返事を聞いて、ルナはほっとした。


「ありがとう。じゃあ、住居付きも含めて探してみるね」

「どれを見に行くの?」


 ミアに聞かれ、ルナは資料を見比べた。


「全部見るのは大変だから、三軒くらいかな」


 大通りに近く、設備がある程度残っている店舗。

 小さいが家賃の安い店舗。

 そして、以前はパン屋だった住居付きの物件。


 それぞれ条件が違う三軒を選ぶ。


「この三つを見れば、どんなところがいいのかも分かりそう」

「じゃあ、みんなで見に行こうよ」

「うん」


 資料だけでは分からないことも多い。

 ルナは翌日、メーガンに三軒を見たいと伝えることにした。


◇◇◇


 数日後。

 ルナたちは商業ギルドの職員に案内してもらい、選んだ三軒の物件を見に行った。


 一軒目は、大通りに近い元飲食店だった。


「広いね……」


 店内に入ってすぐ、ルナは周囲を見回した。


 奥には厨房があり、調理台や流しなど、使えそうな設備もある程度残っている。

 場所もよく、人通りも多い。

 条件だけを見れば悪くない。

 けれど、客席が広い。


「ここなら、かなり席を置けそうだな」


 レオの言葉に、ルナは苦笑した。


「それがちょっと困るかも」


 自分が考えているのは、カウンター席とテーブルが二つほどの小さな店だ。

 これだけの広さを使うとなれば、それなりの数の客を相手にすることになる。

 自分一人で料理を作るには、今のルナには大きすぎた。


「家賃も三軒の中では一番高いんだよね?」

「うん」


 設備や立地は魅力的だが、自分がやりたい店とは少し違う。そう感じながら、ルナは一軒目をあとにした。


 二軒目は、反対に小さな店舗だった。


「広さはいいんだけど……」


 ルナの声が、何もない店内に響く。

 客席の広さは理想に近く、家賃も安い。

 けれど、厨房には設備がほとんど残っていなかった。


「ここに全部置くの?」


 ミアが厨房になる場所を見る。


「うん。調理台に流し、棚もいるし……」


 必要なものを考えるだけでも、次々に出てくる。


「中古で状態のいい設備を揃えることもできますが、これだけ何もないと、それなりに費用はかかると思います」


 案内してくれている職員の説明に、ルナは頷いた。


「家賃が安くても、最初にお金がかかるんですね」

「そういうことになりますね」


 広さはちょうどいい。

 けれど、一から店を作ることを考えると、今のルナには少し大変そうだった。


 そして最後に向かったのは、大通りから一本入った場所にある店舗付きの住居だった。


「ここだね」


 ルナは資料と目の前の建物を見比べる。


 建物は三階建てで、一階が店舗、二階と三階が住居になっている。

 間口はそれほど広くないが、奥行きがあり、以前はパン屋として使われていたらしい。


 大通りには面していない。

 それでも周囲には店や住宅があり、人の行き来もある。

 一軒目のような賑やかさはないが、ルナにはそのくらいの方が落ち着いて感じられた。


「まずは店舗からご覧になりますか?」

「はい」


 職員が扉を開ける。

 中に入ったルナは、足を止めた。


「……あ、いいかも」


 一軒目ほど広くない。

 かといって狭すぎるわけでもない。

 ルナは店の中を歩きながら、頭の中で家具を置いてみる。


「ここにカウンターを置いて……こっちにテーブルを二つくらいなら置けそう」

「それでも少し余裕ありそうだね」


 ミアも店内を見回している。


「うん。これくらいがいいな」


 奥の調理場に入る。


「あ、石窯も残ってる」

「調理台もあるよ」


 元がパン屋だったこともあり、奥には大きな石窯があり、調理台や流し台、食材を置く棚などもそのまま残されていた。


「この石窯は火の魔石を使うんですよね?」

「はい。一般的な使い切りの魔石を使用するものです」


 火の魔石を使う調理設備は珍しくない。

 小さな魔石でも一ヶ月ほど使えるので、一般家庭や飲食店でも広く利用されている。


 もちろん、石窯も含めて設備がきちんと使える状態かどうかは確認してもらう必要がある。

 それでも、二軒目のように一からすべて揃えなくてもよさそうだ。


 ルナは調理場の中をゆっくり見回す。

 料理をする場所。

 食器を置く棚。

 食材を置く場所。

 そして——。


「あそこなら、冷やす魔道具も置けそう」


 少し空いた場所を見つけ、リアムたちに作ってもらう予定の魔道具を思い浮かべる。

 店の中を見れば見るほど、ここで料理をする姿が想像できる。


「ルナ、気に入った?」


 ミアに聞かれ、ルナは素直に頷いた。


「うん。今までで一番好きかも」


 続いて、二階と三階の住居部分を見せてもらう。

 居間や食事をする場所もあり、四人が暮らすための部屋も確保できそうだった。


「ここなら俺たちも普通に住めそうだな」


 レオが部屋を見回す。


「うん。あたしもいいと思う」

「僕も。自分の部屋もあるし」


 三人とも気に入ったようだ。


「本当にここで大丈夫?」

「だから大丈夫だって」


 ミアが笑う。


「ルナも気に入ってるんでしょ?」

「うん」


 店として使いやすそうで、四人でも暮らせる。

 大通りから少し離れている分、家賃も一軒目ほど高くない。

 今のところ、一番希望に近い。

 ただ、店舗には客席用の家具がほとんど残っていなかった。


「テーブルと椅子は必要だよね。カウンターも欲しいし……」


 住居にも、足りない家具はいくつかある。


「家具も中古を扱っている店がありますよ」


 職員が教えてくれた。


「状態のいいものが見つかれば、新品で揃えるよりかなり費用を抑えられます」

「見に行ってみてもいいですか?」

「もちろんです。先に必要なものの値段を調べてから決めてもいいと思いますよ」

「そうします」


 五十金貨までなら使えると決めている。

 けれど、使えるからといって、何も考えずに使うつもりはない。

 店を借りたあとに必要なものを揃えて、さらに食材の仕入れも始まる。

 できるだけ余裕を残しておきたかった。


 ルナはもう一度、店内を見回した。


「この物件、少しだけ押さえてもらうことはできますか?」

「数日でしたら、他の方への紹介を止めておくことはできます。ただ、それを過ぎれば、またご紹介することになります」

「分かりました。それでお願いします」


 一軒目にもいいところはあった。

 二軒目も、広さだけなら理想に近かった。

 けれど、三軒見たことで、ルナの中では欲しい店の形がかなりはっきりしていた。


「じゃあ次は、家具を見に行ってみようか」

「うん!」


 ミアがすぐに頷く。


「俺も行くのか?」

「もちろん」

「俺、店の椅子なんて座れれば何でもいいぞ」

「そういうわけにはいかないよ」

「じゃあ、俺は座り心地を確かめる係な」

「それならちゃんと働いてね」

「座るだけだろ?」


 レオの言葉に、ミアとラズが笑う。

 ルナも笑いながら、店を出る前にもう一度振り返った。


 まだ、ここに決めたわけではない。

 家具や調理器具にどれくらいかかるのかも調べなければならない。

 それでも、三軒見た中で、ここだけは店を出るのが少し惜しいと思った。


「……やっぱり、ここがいいな」


 小さく呟いてから、ルナは三人のあとを追った。

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