↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の妹は聖女候補、無属性の私は食の知識で自由に生きます  作者: ぽかぽか
エレンジア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/117

王都後編 6.5

 研究所から帰ってきたルナは、自分の部屋に戻ると、ようやく大きく息を吐いた。


「疲れた……」


 国王と直接話すのは、クリーヴランド王国の王城へ呼ばれたとき以来だ。

 リアムが一緒にいてくれたおかげで、途中からは少し緊張も解けたけれど、それでも普段とは違う疲れが残っている。


 ルナは着ていたドレスを脱ぐと、皺にならないよう丁寧に広げた。

 落ち着いたネイビーのドレス。

 派手な装飾はないものの、王宮を訪れるのに失礼にならない、上品なものだった。


「マリアンナ様のおかげで、今日は助かったな」


 このドレスがなければ、何を着ていくか随分悩んでいたはずだ。

 ルナはドレスを整えながら、数日前のことを思い出した。


◇◇◇


 リアムとマシューが帰ったあと。

 ルナは、王宮に行くことになったとミアたちに話していた。


「国王陛下に会うの?」


 ミアが驚いて目を丸くする。


「うん……。リアムはそんなに緊張しなくていいって言ってたけど」

「無理だろ」


 レオが即座に言った。


「だよね」


 ルナも頷く。

 それから、ふと自分の服を見下ろした。


「それで、もう一つ困ってることがあって……」

「何?」

「服、どうしよう」


 三人がルナを見る。


「正式な謁見じゃないって言ってたけど、国王陛下に会うのに、いつもの服で行くわけにはいかないよね?」

「あ……」


 ミアも気づいたらしい。

 今のルナが持っているのは、旅をしたり、料理をしたりするのに困らない服ばかりだ。

 フィールズ家にいた頃に着ていたようなドレスは、一着も持っていない。


「買うしかないかな……」


 王都なら、探せばすぐに見つかるだろう。

 けれど、今後どれだけ着る機会があるかも分からないものを、この一度のために買うのは少しためらう。


「……あっ」


 考え込んでいたミアが顔を上げた。


「マリアンナ様に相談してみたら?」

「マリアンナ様に?」

「うん。カレンさんに聞いてもらってもいいし。何かいい方法を知ってるかもしれないよ」

「でも、こんなことで相談していいのかな」

「聞くだけ聞いてみたら? 駄目だったら、そのとき買えばいいんだし」

「そうだね……」


 確かに、相談するだけならいいかもしれない。

 そこでレオが口を開いた。


「手紙を書くなら、俺が届けてこようか?」

「レオが?」

「ああ。侯爵家には訓練で何度か行ってるから、門番とは顔見知りだ。手紙を預けるくらいなら問題ないだろ」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「ああ、いいぞ」


 ルナはさっそく手紙を書き、レオに託した。

 王宮を訪れることになったものの、それにふさわしい服を持っていないため、どうすればいいか相談したいとだけ書いておく。

 返事が届いたのは、その日の夕方だった。


「明日、ミアと一緒に来てほしいって」

「あたしも?」


 隣にいたミアが目を丸くする。


「うん。何か考えてくださってるみたい」

「じゃあ、行ってみようよ」

「そうだね」


 相談に乗ってもらえるだけでも十分ありがたい。

 ルナはマリアンナからの返事を大切にしまった。


 翌日。

 ルナとミアは二人でオルソン侯爵家を訪れた。


「なんだか久しぶりに来た」


 屋敷を見上げながら、ミアが言う。


「ミアもそう思うの?」


 レオとミアは訓練のために何度か訪れているが、ルナは最初に一度ついてきただけだ。


「何か考えてくださってるみたいだけど、何だろうね」

「行けば分かるよ」

「そうだね」


 ルナはミアとともに屋敷の中に入った。

 案内された部屋の扉が開く。


「いらっしゃい、ルナさん。ミアさんも」

「マリアンナ様。急に相談してしまって、すみません」

「気にしなくていいのよ。手紙を読んで、ちょうど使ってもらえそうなものがあると思ったの」

「使ってもらえそうなもの?」


 ルナが首を傾げると、マリアンナは楽しそうに笑った。


「ええ。とりあえず、中へどうぞ」


 何のことだろう。

 ルナはミアと顔を見合わせてから、マリアンナに続いて部屋の奥へ入った。

 そこで、思わず足を止める。


「これ……全部ドレスですか?」


 部屋には、色の違うドレスが数着用意されていた。


「ええ。私が結婚する前に着ていたものよ」

「マリアンナ様の?」

「今も実家に置いたままになっていたものを、何着か持ってきてもらったの。もう私が着る機会もほとんどないし、ルナさんなら合うものがあるんじゃないかと思って」

「私のために……?」


 相談に乗ってもらえればと思っていただけなのに、まさかここまでしてもらえるとは思わなかった。


「ありがとうございます。でも、こんなに用意していただいて……」

「いいのよ。せっかくだから、似合うものを一緒に選びましょう」


 マリアンナがそう言うと、そばに控えていたカレンが、一着ずつ見やすいようにドレスを広げていった。


「わあ……綺麗」


 ミアはさっそくドレスのそばに寄った。

 色も形も少しずつ違い、どれもきれいに手入れされている。


「これなんかいいんじゃない?」


 ミアが真っ先に選んだのは、淡い紫色のドレスだった。


「ルナの瞳にも合いそう」

「そうね。私もそれがいいと思うわ」


 マリアンナも楽しそうに頷く。


「マリアンナ様まで……」

「せっかくなのだから、まずは着てみましょう」

「でも、私は王宮に着ていくものを一着選べれば……」

「着てみなければ、似合うかどうか分からないでしょう?」

「それはそうですけど……」


 ルナが言葉に詰まっている間にも、カレンは紫色のドレスを手に取っていた。


「では、こちらからお召しになりますか?」

「カレンさんまで……」

「よくお似合いになると思いますよ」


 穏やかに言われてしまい、ルナは諦めるように息を吐いた。


「……分かりました。じゃあ、着てみます」

「うん!」


 なぜかミアが一番嬉しそうだ。

 カレンに案内され、ルナは着替えることになった。


「ミアさん、こちらをお願いできますか?」

「はい!」


 カレンがドレスを広げ、ミアも慣れた様子で手を貸す。

 その様子を見て、カレンが少し意外そうにした。


「ミアさん、慣れていますね」

「前はルナの着替えを手伝ってましたから」

「そうでしたね。ミアさんはルナさんの侍女をされていたのでしたね」

「はい。こういうの、久しぶりです」


 ミアはどこか懐かしそうに笑った。


「ルナ、腕上げて」

「はいはい」


 言われるままに腕を上げながら、ルナも少しだけ昔を思い出す。

 フィールズ家にいた頃は、ドレスを着ることなど珍しくなかった。けれど、家を出てからは動きやすい服ばかりで、一度も袖を通していない。

 カレンに細かな部分を整えてもらい、最後にミアが裾を直す。


「できた」

「いかがですか? 苦しいところはありませんか?」

「大丈夫です」

「では、マリアンナ様に見ていただきましょう」


 ルナは二人に連れられるようにして、マリアンナの待つ場所に戻った。


「あら」


 ルナを見るなり、マリアンナの表情が明るくなる。


「やっぱり素敵ね」

「本当ですか?」


 ルナも鏡の前に立って、自分の姿を見る。

 淡い紫色は、思っていた以上に自分の瞳によく馴染んでいた。華やかではあるものの、派手すぎるほどではない。


「うん。似合ってるよ」


 ミアも満足そうに頷く。


「やっぱり紫にしてよかった」

「ミアが着るわけじゃないんだけど」

「でも、選んだのは私だもん」


 嬉しそうなミアに、ルナは苦笑した。


 久しぶりに着たドレスは、少し落ち着かない。

 けれど鏡の前に立っていると、不思議と昔の感覚が戻ってくる。

 王宮へ行くのなら、こうした所作も必要になるかもしれない。ルナは背筋を伸ばし、何となく確かめるようにドレスの裾を軽くつまんだ。


「……こうだったかな」


 片足を後ろへ引き、静かに腰を落とす。

 考えるより先に、体が動いた。

 久しぶりだったにもかかわらず、幼い頃から何度も繰り返してきた所作は、まだしっかりと体に残っている。

 ゆっくりと姿勢を戻すと、マリアンナが感心したようにルナを見ていた。


「とても綺麗ね」

「ありがとうございます」

「久しぶりとは思えないわ。きちんと身についているのね」

「ずっと練習していましたから」


 ルナは少し照れながら笑う。


「やっぱり……」


 隣から聞こえたミアの声に、ルナが振り返った。

 ミアはどこか懐かしそうにルナを見つめていた。


「よくお似合いです、ルナ様」

「……ミア?」

「あっ」


 呼び方に気づいたのか、ミアが目を丸くする。


「ごめん。久しぶりにドレス姿を見たら、つい……」

「ううん」


 ルナは首を横に振った。


「なんだか懐かしいね」

「……うん」


 ミアも笑った。


 家を出てから、二人の関係は大きく変わった。

 今では主人と侍女ではなく、一緒に暮らす仲間だ。

 それでも、こうして昔を思い出すことを嫌だとは思わなかった。

 そんな二人を見ていたマリアンナが、楽しそうに口を開く。


「紫も素敵だけれど、せっかくだから他のものも着てみましょうか」

「え?」

「そうですね」


 すぐさまカレンも別のドレスへ目を向けた。


「こちらの水色も、ルナさんによくお似合いになると思います」

「あ、それ私も思った!」


 ミアまで水色のドレスを手に取る。


「ちょっと待って。まだ着るの?」

「もちろん」

「せっかくだもの」


 ミアとマリアンナがほとんど同時に答えた。

 その横では、カレンがすでに次のドレスを準備し始めている。


「……一着決めればいいだけなんだけど」


 どうやら誰にも止めてもらえそうにない。

 ルナは小さく息を吐きながらも、どこか楽しそうな三人を見て笑った。


 その後、水色のドレスにも袖を通した。

 紫とは違って明るく軽やかな印象で、ミアたちからは好評だったが、王宮へ着ていくことを考えると、ルナにはもう少し落ち着いたものの方がしっくりきた。


 用意されたドレスに目を向ける。

 その中で、一着のドレスが目に留まった。


「次は、あれを着てみてもいいですか?」


 ルナが指したのは、深いネイビーのドレスだった。


「もちろんよ」


 再びカレンとミアに手伝ってもらい、ネイビーのドレスに袖を通す。

 着替えを終えて鏡の前に立ったルナは、先ほどまでより少し長く自分の姿を眺めた。


 派手な装飾はなく、色合いも落ち着いている。

 それでも地味すぎることはなく、王宮へ着ていくにも十分きちんとして見えた。


「……うん」


 ルナは小さく頷く。


「私、これがいいかも」

「やっぱり?」


 ミアが笑った。


「ルナはこういう落ち着いた色を選ぶと思った」

「私もこれが一番落ち着く」

「よく似合っているわ」


 マリアンナも賛成してくれた。

 ルナはもう一度鏡を確認してから、マリアンナを見る。


「あの、マリアンナ様。このドレスを王宮に行く日にお借りしてもいいですか?」

「もちろん。でも、貸すのではなく、そのまま持っていってちょうだい」

「え?」


 思わぬ言葉に、ルナは目を瞬いた。


「いただいてもいいということですか?」

「ええ」

「そんな、それは駄目です。今日こうして用意していただいただけでも十分なのに……」

「気にしなくていいのよ。結婚してから着る機会もなくて、ずっと実家に置いたままだったものだから」

「でも……」


 これだけ上質なドレスだ。

 着なくなったものだからと言われても、簡単にもらうわけにはいかない。


「これからも何かの機会に必要になるかもしれないでしょう? 一着くらい持っていた方がいいわ」

「それは……そうかもしれませんけど」


 今回のようなことが、今後絶対にないとは言い切れない。

 それでもルナが迷っていると、マリアンナが少し考えてから笑った。


「それなら、今度私のお願いを聞いてもらおうかしら」

「お願い?」

「ええ。私、ルナさんの作る料理に興味があるの」

「私の料理に?」

「マシューからもいろいろ聞いているわ。以前ミアさんからいただいたムギボも美味しかったし」


 そう言われ、ルナはミアを見る。

 ミアは否定することなく微笑んでいた。


「だから、そのうち料理のことでお願いをするかもしれないわ。そのときは聞いてもらえる?」

「もちろんです。私にできることなら」

「では、それでいいでしょう?」

「でも、それとドレスは……」

「ルナさん」


 マリアンナが笑顔のまま名前を呼ぶ。

 どうやら、これ以上断っても受け取ってくれそうにない。

 ルナは少し迷った末、もう一度自分が着ているドレスを見る。これからも使える一着があるのは、確かにありがたい。


「……分かりました。ありがとうございます。大切にします」

「ええ。そうしてちょうだい」

「よかったね、ルナ」

「うん」


 嬉しそうなミアに、ルナも笑い返した。


◇◇◇


 そこまで思い出したところで、ルナは手にしていたドレスに視線を戻した。


「大切にしないとね」


 ルナはもう一度ドレスを眺めてから、丁寧にしまった。


 これから着る機会がどれくらいあるのかは分からない。

 それでも一着持っていれば、今回のように慌てることもないだろう。

 何より、今日無事に王宮へ行けたのは、このドレスのおかげでもある。


(今度、改めてお礼を言わないと)


 そう思いながら、ルナは扉をそっと閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。