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エピローグ 「いつか夢見た」

私は今、学院に通って勉学に励んでいる。学校でも「優等生」だともてはやされて親からも精一杯の愛情を受けて。


何一つ不満が無いはずなのに。夢に見た生活なのに。満たされない。貴方を忘れる事が出来ない。だって私は貴方のリリーなのだから。貴方の心に、夜空に咲く一輪の花なのだから。


今日もいつもと同じ。学院で授業を受けて帰り道を一人で歩く。そんな日は思い出す。いつか貴方が「世界を退屈だった」と言っていたことを。


ああ、会いたい。例え、この青空が終わっても、もう一度、終末世界が始まっても良いから。


この気持ちが抑えられなくなる。そんな時は、夜な夜な貴方を思って、慰めて。一頻り、乱れる。

(今日もそうしようかな)

なんて情欲を掻き抱いては。その行為が貴方との思い出を汚すかのように思えては罪悪感に浸る。


けれど、許してほしい。


なんて、そんな誰に分かるでも、聞かれるでもない言い訳を口にしたところ。突然、後ろでパラパラと何かが落ちる音がした。

その音を聞いて私はすぐに振り返る。そこにあったのは灰だった。一握りの灰。街の路地裏に続いている。私はそれを見て、直ぐに駆け出す。考えるより先に体が動いた。鞄も何もこの世界の物は全て、放り出して。


貴方を思いすぎた故の幻覚かもしれない。けれど、別に良い。

灰は、貴方と歩いた足跡が、街の端に。キラキラと点いては消えていく。


見失ってはダメだ。

やっとの事で掴んだ手掛かり。見逃す術はない。


街を行く人々が懸命に追いかける私の姿を見て驚く。けれど、構うものか。今なら、どこへでも行ける。

この制服も走りづらく、今すぐにでも脱ぎ捨てたい。もう必要ない。私がいるべきはもうここではないのだから。


そうして走っている内、気が付くと穏やかな春の風が吹く坂道。そこには二人の少女。


前には懐かしい姿。見た事がない制服に身を包む。そして、何よりも記憶に刻み込まれている真っ白な腰元までかかる長い髪。それに真っすぐ、ピンと背筋を伸ばして歩く姿。

(ああ、やはり、生きていた)


それに、やっと会えた。信じていて、諦めなくて良かった。見れば私もいつの間にか貴方と同じ制服にその身を包んでそこにいた。まるで最初から存在するかのように。違和感は微塵もなく。気づけばこんな所まで来ていた。


ここがどこかは分からない。

ただ、そんな事どうでも良い。だって魔女様がいるのだから。それだけで十分。ずっと待ち望んだ瞬間。夢に見た時。


「夜空、様!」

愛しのその名。

息を切らしながらその名を呼びかける。貴方の背中に何度も何度も。離れていた時間を埋めるように。そして、最後になってようやく教えてもらった名前をやっと呼べた。この世界、いや、魔女様が元々居たという世界だろうか。でも、いまや別にどっちでも良い。


貴方が居る場所が私の居る世界だ。居るべき世界だ。

貴方はもう私の事など覚えていないかもしれないけれど。離さないと決めていたから。だから、もう片時も離れずにいて貰いますから、と。


そうして、振り返った夜空様は私を見て目を見開いた。その感情は恐らく驚き。

その顔は紛れもなく。


けれど何も言わないのを見るに私の事はもう覚えていないか、朧気なのかもしれない。この世界の貴方にとっては。

でも、それでいい。


だって、これからまた歩み寄っていけば良いのだから。始まりを刻めば良いのだから。

お互い、沈黙の間が続く。私は乱れる呼吸をなんとか整えた後、何も言う事無く顔を上げて笑顔を向ける。夜空様も受け入れるかのように微笑んでいる。


ああ、いつか。

貴方とあの日の続きを。

そう願いながら歩み寄る。


辺りは春の百合の匂いでいっぱいに満たされていた。


某新人賞にて一次落ちしたもの。

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