プロローグ 「夜空が煌めく海岸」
ザザーンザザーンと波の音が耳に響く。
辺りは海岸。そして、目を開ければ見渡す限り一面の海。私はそこへ打ち上げられていた。身を起こして周りを見る。見覚えはない。この場所に心当たりもない。ただ、肌に触れる水は冷たく、塩辛かった。
いつからいたのか。最初に浮かんだ疑問。もしかしたら随分長く、いたのかもしれないし、たった今漂着したのかもしれない。どっちだかははっきりとしない。けれど、今、私は紛れもなくここにいる。ここで息を吸って吐いている。決して夢ではない。
何も言わず、受け入れるよりほかなかった。海岸、波打ち際、砂浜、目に飛び込んでくるそれらを前にして。そして、上を見上げると同時に私は一層、目を奪われた。
そこには見た事も無い程に無数の星が煌めく夜空。ざっと目に入るだけでも数百はある。数え出したらキリがない。それほどまでに沢山。そして、それらはバラバラで規律なく、各々が自由に輝きを放っている。
こんな夜空は見た事がない。東京では決して見る事が出来ない空。
込み上げる感動。熱くなる目頭。それもこれも生涯で見た事がないこの空のせい。あまりの感動から形に残したかったが、今の私にはカメラもスマホも写真を撮れるような道具を持ち合わせていない。形として残す術は残念ながらない。だから、忘れないように記憶として脳に焼き付ける。それに伴う感情を添えて。
星空の次は時刻。しかし、辺りに時計等はないので時刻は分からないが夜更け。本来なら暗闇に包まれ、何か人為的な光源か夜目が慣れるまで何も見えないはず。けれど、私が今、視界に困っていないのはこれらの月と星々の放つ明かりのお陰だった。
星空と海岸。佇む私。
寄せては返す波の音が聞こえてくる。その音は心を落ち着かせてくれる。
落ち着くのはなぜだろう。それはきっと暗い部屋の中で、外から聞こえてくる夜風に耳を澄ませるかのような。現実世界で散々積んできた経験からか、なんだか懐かしさを覚えてしまう。
可笑しくて笑ってしまう。ここは現実ではないのに、あの世界ではないのに、あの世界の事を思い出してしまうなんて。私はまだ囚われているのだろうか。あの飽き飽きとした退屈な世界に。
こうしてはいられない。
手には濡れた砂が一握り。鼻に突き抜ける潮風。
そもそも、ここはどこなのか。
私がいた日本。もしくは海外なのか。
それすらも分からない。けれど、微塵も不安は感じない。
息を大きく吸って吐く。肩の力が抜ける。
そんな事はどうでも良い。私は自由なのだ。ならばこの世界を好きに見回らないと。




