第9話:【最年少管理職と、0と1の支配者】
「……社長。この領収書の山は何? 『高級エステ』『開運の壺』……これ全部、経費に落ちない。即刻、給与から天引きして」 「ちょっと凛ちゃん!? 事務所の風水も大事なのよ!?」
ランドセルを置いた凛は、慣れた手つきで社長の私物PCを操作し、わずか数分で事務所の家計管理ソフトを爆速で組み上げた。今日から、氷室社長の「自由(散財)」は終わったのだ。
「陽葵、湊。貴方たちも。……いつまでも社長のポンコツに付き合って、もやしとパンの耳ばかり食べていたら、ライブの途中で倒れる。計算上、今の収益なら一人一日1,000円までは食費に出せる。今日から私が全ての財布を管理するわ」
「「凛さま……!!」」
陽葵と湊は、初めて現れた「まともな理性」に後光が差すのを見た。 しかし、凛の「管理」はそれだけでは終わらない。
凛の初配信:『インセクト・リン』起動
凛のデビューは、唐突だった。 「……陽葵たちの配信環境があまりに非効率。まずは、私がシステムの『正解』を見せてあげる」
アバターの名は、『インセクト・リン』。 陽葵の「深海ねね」がカクカク動いていたのに対し、凛のアバターは指先の震え一つまで完璧に同期し、画面内を縦横無尽に動くデジタルエフェクトが背景を彩る。
『え、画質が4K超えてる!?』 『誰この子、声は可愛いのに喋り方がガチのエンジニアなんだがww』
凛は、挨拶もそこそこに画面を二分割し、片方で「現在の事務所の絶望的な通信環境」の改善コードをリアルタイムで書き始めた。
「……現在、この事務所の回線速度はもやし並。今から隣のアパートの野良Wi-Fiをジャック……じゃなくて、通信効率を1200%までブーストする。瞬き禁止。……計算終了(デバッグ・完了)」
凛がEnterキーを叩いた瞬間、陽葵と湊のPCのファンが爆音を上げ、これまでにない超高速通信が開始された。
『配信中にインフラ整備するV初めて見たww』 『タイピング速すぎて指が見えないんだが』 『「もやし並の回線」で草』
「……質問があるならマシュマロに投げて。ただし、偏差値50以下の質問には答えない。時間の無駄だから」
可愛らしいビジュアルとは裏腹な、一切の妥協を許さない毒舌と圧倒的な技術。 その「ギャップ」がリスナーに突き刺さり、凛の初配信は同時視聴者数5,000人を叩き出すという、事務所最大のロケットスタートとなった。
配信後、真っ白な灰になった社長を横目に、凛は冷たく言い放つ。 「……次は、陽葵と湊の『教育』。覚悟しておいて」




