第10話:【地獄の三者三様マシュマロ配信】
凛による「事務所のデバッグ」が完了し、ボロアパートの配信環境は劇的に改善された。凛は社長の私物PCを「教育用」として没収し、そこから配信の全システムを制御している。
「いい? 陽葵、湊。今回は3人の初顔合わせ。リスナーは『仲の良さ』か『致命的な不仲』を期待している。そのどちらでもない『ただの馴れ合い』は最も非効率。私の指示に従って」
「……は、はい! 凛さま!」 「……子供に指図されるのは癪だけど、背に腹は代えられないわね」
こうして、凛の監視のもと、3人揃っての「初・マシュマロ(質問箱)配信」が始まった。
配信開始:高画質と低密度のパワーバランス
画面には、凛が調整した最高画質のアバターが3体並ぶ。 陽葵の「深海ねね」は滑らかに瞬きし、湊の「夜帳カレン」は気高く微笑み、凛の「インセクト・リン」は無表情に浮遊している。
『えっ、画質が良すぎてボロアパート感がないぞ!?』 『ねねちゃんの首が360度回らなくなってる! 奇跡だ!』 『エンジニアちゃん、今日も社長を監視してるの?w』
期待が高まる中、凛が冷徹にマシュマロを読み上げる。 「最初。『皆さんの最近の悩みは何ですか?』。陽葵、答えて」
陽葵:「ええと、最近もやし以外の食べ物の味が濃く感じて怖いです! あと、隣の部屋の壁ドンが最近、一定のリズムを刻むようになってきて……」 湊:「私に言わせれば、隣の女(陽葵)が寝言で『ドームの屋根はお寿司でできてる』とか叫ぶのが最大の悩みよ。不快極まりないわ」 凛:「……私は、社長が『配信の成功祈願』とか言って、勝手に怪しい高額な盛り塩を買おうとするのを阻止するのに、メモリの30%を割いていることが悩み」
『格差がひどいww』 『一人だけガチの生存危機(貧乏)が混ざってるぞ』 『盛り塩www 社長、凛ちゃんに管理されてて草』
社長の反撃と、凛の制裁
ここで、画面の外で大人しくしていたはずの氷室社長が、耐えきれずにマイクに割り込んできた。 「ちょっとみんな! 私だって頑張ってるのよ! 次回、この3人で『滝行ライブ』をやる企画を今思いついたわ!」
その瞬間、凛の瞳が冷たく光り、キーボードを叩く。 「……社長。台本以外の発言は禁止したはず。今、社長が座っているゲーミングチェア(中古)の高さ調節機能をハッキングした。大人しくして」
「あいたたた! 椅子が勝手に沈む! 上がる! ちょ、お尻がーーーっ!!」
背景で激しく上下する社長の悲鳴と、ガタガタという物音がマイクに拾われる。
『放送事故www』 『社長、小学生に椅子で物理的に管理されてるのかよww』 『このユニット、まとまってるのかバラバラなのかわからんww』
最後の質問:ドームへの想い
場がカオスになる中、凛が最後の一つを選んだ。 『どうしてこんなバラバラな3人が、ドームを目指してるんですか?』
一瞬、静寂が流れる。 陽葵は、中古スマホのレンズ(凛が磨いたおかげで今は綺麗だ)を見つめた。
「……バラバラですよね。でも、私……いつかドームでキラキラしたライブしたいなー! って、あの六畳一間で一人で叫んだとき、本気だったんです。それを、湊さんみたいなプロや、凛ちゃんみたいな天才が、馬鹿にせずに隣にいてくれる。それだけで、私はもう……最強だと思ってます!」
湊は鼻で笑い、凛は無言でログを流す。 しかし、湊は小さく「……ドレスの用意だけは、させておくことね」と呟き、凛は「……計算上、この3人の出力なら、ドームの屋根を吹き飛ばすのは容易。……サポートしてあげる」と答えた。
同時視聴者数、驚異の10,000人突破。 「管理される社長」の悲鳴をBGMに、バラバラな3人の心が、初めて「ドーム」という一点で重なった夜だった。




