第11話:【ユニット名、それは「逆転」の記号】
凛による徹底したスケジュール管理と、湊による過酷なボイストレーニング。陽葵の日常は、もはや部活動を通り越して「養成所」のようになっていた。
「いい、陽葵。貴方のその『もやし精神』は認めるけれど、歌声に気品が足りないわ。もっと、ドームの最上階まで声を届けるつもりで腹筋を使いなさい!」 「は、はい! 湊さん……でも、腹筋しすぎてお腹が空きました……」
そんな中、またしても氷室社長が空気を読まずにボロアパートへ滑り込んできた。
「みんな! 配信環境も良くなったし、そろそろ正式なユニット名を発表しなきゃ! 私が徹夜で考えたわよ。その名も……『もやしっ娘戦隊・貧乏レンジャー』!!」
「「「却下」」」
三人の声が完璧に揃った。 凛が冷たくキーボードを叩く。 「……社長、ネーミングセンスが昭和。それに、貧乏を売りにするのは持続可能性が低い。計算上、三ヶ月後には私たちは次のステップへ進んでいるはずだから」
結局、ユニット名は3人で決めることになった。 深夜、1本の栄養ドリンク(凛の許可済み)を3人で分け合いながら、陽葵がノートを広げる。
「私……ただの貧乏Vで終わりたくないんです。女王様みたいな湊さんと、天才の凛ちゃんと、何もない私。バラバラな私たちが、重なったときにだけ見える景色がいいなって」
陽葵がノートの端に書いた落書き。それは、チェスの駒と、デジタル回路と、一輪の花を組み合わせたような不思議なロゴだった。
「……湊さんの『Q(Queen)』、凛ちゃんの『E(Engineer)』、そして私の『I(I/私)』。……あ、これ、繋げると『Q.E.I.』ですね」
「……『Q.E.D.(証明終了)』みたいで悪くないわね。私たちの存在を世界に証明する、という意味にも取れるわ」 湊が微かに微笑む。
「……。周波数の相性もいい。……決まりね。私たちのコードネームは『Q.E.I.』」
その決定を、社長が陰で「私の考えたレンジャーが……」と泣きながらSNSにフライング投稿しようとして、凛に即座に端末をハッキングされ、ロックをかけられる。
「あいたた! スマホが爆熱に! 凛ちゃん、ごめんなさいーー!」
ボロアパートに響く笑い声と悲鳴。 こうして、後に伝説となるユニット名が決まり、物語は初のオリジナル曲制作へと動き出していく。




