第7話:【企業案件? いえ、ただの押し売りです】
登録者が増えてきたことに調子を乗った氷室社長が、どこからか「企業案件」を取ってきたと豪語して事務所に駆け込んできた。
「みんな、お祝いよ! 大手飲料メーカー……の、親戚がやってる個人商店から案件をもぎ取ってきたわ!」 「……要するに、ただの近所の商店街の手伝いじゃない」
湊が冷たく突き放すが、社長は止まらない。 「違うわよ! 今回紹介するのは、新発売の健康ドリンク『超絶・苦み極まる汁』! これを配信で紹介すれば、次こそちゃんとした防音室を買えるわ!」
しかし、ここからが社長の本領発揮だった。 なんと社長、メーカーから送られてきた商品サンプルを「喉が渇いたから」という理由で、配信前に全部自分で飲んでしまったのだ。
「……はぁ、美味しい……。あ、ごめん、これでおしまい」 「社長ーーーっ!! 何やってるんですか!? 今から本番ですよ!?」
陽葵の叫びも虚しく、配信開始のタイマーはゼロになる。 画面の向こうには、3,000人のリスナーが「新商品の紹介」を待っている。手元にあるのは、社長が飲み干した空き瓶と、なぜか社長が間違えて買ってきた「大量の乾燥わかめ」だけ。
「……陽葵、やるわよ。プランB」 湊が極限の空腹(と怒り)で、逆に透き通った声を出す。
配信が始まると、陽葵は必死に空き瓶を振りながら叫んだ。 「みなさーん! 今日紹介するのは……この『空き瓶』の再利用法です! そして、この健康ドリンクの成分を凝縮(?)したのが、この……乾燥わかめです!!」
『え、飲み物じゃなくてわかめの紹介?w』 『ねねちゃん、目が泳いでるぞ!』 『カレン様が後ろでわかめをそのままボリボリ食ってるんだがww』
湊は無表情で乾燥わかめを噛み砕き、舞台女優の演技力で「この磯の香り……まさに、深海の宝石ね」と、さも高級品であるかのように熱演。 陽葵はアバターの腕をバグらせながら、わかめに水をかけすぎて画面いっぱいに増殖させるという大惨事を引き起こす。
『わかめが増えすぎてアバターが見えないwww』 『案件っていうか、もはや怪談だろこれ』
結局、商品は一つも売れなかったが、視聴者からは「カオスすぎる」「わかめV誕生」と大ウケ。社長はクライアントにこっぴどく怒られたが、その様子もマイクが拾っており、「社長の謝罪RTA」として切り抜き動画がバズり、登録者はさらに加速していく。
「……陽葵、私、次はまともな仕事がしたいわ」 「……私もです、湊さん。ドームへの道、わかめで埋まっちゃいそうですよ……」
ボロアパートに、磯の香りと二人のため息が充満した夜だった。




