第6話:【バグも味方? 19円の魔法】
「陽葵ちゃん、ついに買っちゃったわよ! 最新鋭のモーションキャプチャー機材!!」
氷室社長が鼻息荒く持ち込んできたのは、怪しげな海外製のダンボール。しかし、いざ開封してみると、中に入っていたのは「最新鋭」とは程遠い、『犬の散歩用LED首輪』と『型落ちのWebカメラ』だった。
「社長、これ……どう見ても機材じゃなくて、ペット用品ですよね?」 「違うわ! これを全身に巻いて動けば、光を感知してアバターが動くはずなのよ(たぶん)!」
案の定、設定はボロボロだった。 配信を開始すると、陽葵(深海ねね)のアバターは、彼女が少し動くだけで関節が逆方向に曲がり、時々画面からフェードアウトして「ただの青い発光体」になる。
『ねねちゃん、今日はいよいよクリーチャー化が進んでるなw』 『Vっていうか、もはや現代アートだろこれ』
リスナーからは失笑の嵐。しかし、陽葵は諦めない。 「笑わないでください! 今日は……このバグを活かした新企画、『深海ねねの超次元ダンス』をやります!」
陽葵は、不自然に腕が伸びるバグを利用して、画面端から端まで「手が伸びる」という奇妙なダンスを披露。さらには、アバターが消える瞬間を「ステルスモード」と呼び、リスナーと隠れんぼを始める。
「見ててください! 最新の機材がなくても、キラキラしたステージは作れるんです!」
その時、横で見ていた湊が、耐えきれずに口を出した。 「……見苦しいわね。いい? 貴方の動きが雑だからバグが目立つのよ。関節を固定して、指先一つ一つに意識を集中させなさい。そうすれば、その『粗末なガワ』でも優雅に見えるはずよ」
湊の「女王の指導」が入り、陽葵の動きは劇的に変わった。 不自然なカクつきが、逆に「計算されたロボットダンス」のように見え始めたのだ。
『えっ、急に動きが綺麗になった!?』 『バグってるはずなのに、なんか幻想的……』 『もやし女、執念がスゲーな』
最新機材(笑)の失敗を、根性と演技力で「演出」に変えた瞬間。 その配信の同時視聴者数は、ついに2,000人を突破した。
一方、その頃。 近所のネットカフェで、その配信を死んだ魚のような目で眺める小学生がいた。 「……非効率。あんなの、ソースコードを三行書き換えれば済む話なのに」
彼女こそ、後に事務所の命運を握る天才エンジニア、白金凛。 彼女が「あまりの効率の悪さ」に耐えかねて事務所のドアを叩くまで、あと少し。




