第3話:『もやしと喝采、そして約束の場所』
第3回配信。フォロワーは100人を突破したが、コメント欄にはまだ冷やかしが多い。 『もやし女、どうせ貧乏営業だろ』『Vのくせに夢見すぎ』
そんなコメントを眺めながら、陽葵はセーラー服の襟元をぎゅっと握りしめた。 そして、氷室社長が用意した台本を無視して、画面の向こう側に語りかけ始めた。
「みんな、なんで私がこんなボロアパートで、バグだらけのアバターで配信してるか……不思議ですよね。……実は私、家族を救いたいんです」
一瞬、チャット欄が静まる。
「私の家、すっごく貧乏なんです。弟たちは押し入れを二段ベッドにして寝てるし、お父さんもお母さんも、毎日遅くまで働いてボロボロで……。だから私、決めたんです。この六畳一間からドームまで駆け上がって、家族全員が一生笑って暮らせるくらいの、おっきな夢を掴み取るって!」
陽葵は、中古スマホのレンズを真っ直ぐに見つめた。
「笑われてもいいです。大ボラだって言われてもいい。でも、私にはこれしかないから。いつかドームを五万人のペンライトでいっぱいにして、その光を全部、私の家族に届けるんです。それが、私のこの場所からの逆転劇なんです!」
あまりの熱量に、アンチのタイピングも止まる。 その時、隣の部屋から、社長が感極まって壁を蹴り飛ばした。
ドォォォォン!!
『また壁抜けたwww』 『ドームの前に事務所が崩壊するぞ!』 『……よし、お前の大ボラ、100円分(もやし5袋分)だけ乗ってやるよ』
笑いと呆れ、そしてほんの少しの期待。 六畳一間の「深海」に、ドームという名の巨大な光が、初めて差し込んだ夜だった。




