第2話:【深海100メートルからのSOS】
初配信で「壁ドン」を記録した陽葵の元には、物珍しさから数人のリスナーが居着くようになった。しかし、現実は厳しい。氷室社長が中古ショップで買ってきたスマホは、配信開始から10分でホッカイロのように熱くなる。
「社長……ねねちゃんの顔、さっきからポリゴンが剥がれて中身(骨組み)が見えてるんですけど……」 「大丈夫よ、陽葵ちゃん! それは『深海の神秘』、あるいは『脱皮』ってことにしましょう!」
そんな無茶苦茶な会話を背に、陽葵は画面に向かう。 セーラー服の袖をまくり、今日の企画は「もやし10変化」。19円のもやしを、ステーキ風、パスタ風、お造り風に見立てて食べる、涙ぐましい食レポだ。
「ええと、これは……『もやしのカルパッチョ』です。味付けは、お母さんが内職で余った塩と、社長がどっかからもらってきた謎のドレッシングで……」
『ねねちゃん、画質が粗すぎて「もやし」が「白い線」にしか見えないぞw』 『右上の温度計アイコンが真っ赤だ! スマホが死ぬぞ!』
リスナーの指摘通り、スマホは限界だった。カクカクと動くアバターは、もはや深海魚というよりバグの塊。しかし、陽葵は一生懸命に声を張る。
「笑わないでください! このもやし、目をつぶれば……ほら、うっすらと鯛の味が……しませんね! でも、美味しいです! 誰かと一緒に食べてるみたいで、楽しいから!」
その時、画面に初めての「ギフト(投げ銭)」が飛んだ。100円分。 陽葵は一瞬、フリーズした。 「……えっ。100円。これ、もやしが5袋も買えます……。ありがとうございます、ありがとうございます……!」
セーラー服の少女が、画面の向こうの100円に本気で涙ぐむ。 その「ガチすぎる」姿に、コメント欄の空気が少しだけ変わった瞬間だった。




