第16話:【招待状は、甘い罠の香り】
ボロアパートの一室。自分たちの全てを詰め込んだオリジナル曲『深海から、ドームへ。』の再生回数は、止まることを知らずに伸び続けていた。絶対王者・天ノ川星羅から投げられた「偽物の宝石」という言葉すら、今や彼女たちの注目度を跳ね上げるスパイスへと変わっていた。
そんな熱気の中、氷室社長が泡を吹いて部屋に飛び込んできた。 「みんなぁぁぁ! 来ちゃった! ついに、あの大手『エターナル・ティアラ』の公式から直接メッセージが届いたわよ!!」
その場にいた全員が凍りつく。凛が即座に社長の端末を奪い取り、画面を解析した。そこには、あまりにも丁寧で、あまりにも尊大な「招待状」が綴られていた。
『Q.E.I.の皆様へ。皆様のライブで魅せた「声」の力、感銘を受けました。つきましては、我が事務所の絶対エース・天ノ川星羅との「タイマン・コラボ配信」をご提案したく存じます。……本物の輝きがどちらにあるか、世に問いませんか?』
「コラボ……っていうか、これ、公開処刑の呼び出しじゃないですか!?」 陽葵の悲鳴が響く。凛は瞬時に相手の狙いを弾き出した。
「……罠ね。相手は最新のスタジオと数千万規模の機材を用意してくる。その超高画質な画面に、私たちの『バグだらけで低スペックなガワ』を並べて晒し者にするつもりよ。……『公開処刑』という計算は、正しいわ」
「……。私を舞台から引きずり下ろした事務所が、今度は私を『踏み台』にしようってわけね」 湊が、かつてないほど鋭く冷たい怒りを瞳に宿して呟く。
「もうやめましょうよ社長! 私たち、今のままでも十分楽しいし、もやしだって一日二袋食べられるようになったし……!」 陽葵が弱音を吐きかけたその時、凛が星羅の個人アカウントが投稿したばかりの自撮り画像をモニターに映し出した。星羅は、ダイヤが散りばめられたような豪華な衣装を纏い、こう綴っていた。
『次のコラボ、楽しみ。……偽物のメッキが剥がれる瞬間、みんなで見届けましょう?』
静まり返るボロアパート。その静寂を破ったのは、陽葵の拳がボロい畳を叩く音だった。
「……やりましょう。機材がボロくても、アバターがバグっても、私たちの歌は偽物じゃない。ドームでキラキラしたライブしたいって、私の夢をバカにしたこと、後悔させてやります!」
「……フン。よく言ったわ、陽葵。王者の鼻をあかすには、これ以上ない舞台じゃない」 湊が不敵に微笑み、凛は無言でノートPCのエンターキーを叩いた。
「……了解。対・天ノ川星羅用、禁断のブーストプログラムの構築を開始する。私たちの『深海』、思い知らせてあげるわ」
こうして、弱小ボロアパート事務所は、V界の頂点に君臨する巨大帝国との全面戦争へ足を踏み入れた。




