第17話:【ライバル視点:鏡の中の孤独な支配者】
『エターナル・ティアラ』本社の最上階。防音完備の真っ白な自室で、天ノ川星羅は冷めた紅茶を口に含んでいた。
目の前の巨大なモニターには、Q.E.I.の「伝説の放送事故ライブ」のアーカイブが流れている。画面は暗転し、アバターすら映っていない。それなのに、スピーカーから流れる陽葵の剥き出しの歌声と、湊の気高い旋律、そしてそれらを支える凛の緻密な音が、最高級のオーディオシステムを震わせている。
「……目障りなのよ」
星羅は独り言ち、リモコンを机に叩きつけた。
彼女にとって、バーチャルとは「完璧な美」を構築するための聖域だ。数千万の機材、一流の作詞作曲家、そして非の打ち所のない「ガワ」。それら全てを揃えて初めて、自分は「神」になれると信じてきた。
だが、あのボロアパートの少女たちはどうだ。 劣悪な機材、バグだらけのアバター、もやし生活という泥臭い現実。 星羅が「美しくない」として切り捨ててきたゴミのような要素を武器にして、彼女たちは自分には届かないほど熱い喝采を浴びている。
『偽物の宝石は、本物の輝きを知らないから幸せなのね。』
SNSに投稿したあの言葉は、半分は本心、もう半分は「焦り」だった。
「星羅様、Q.E.I.から返信が届きました。……コラボ依頼、受諾とのことです」
マネージャーの報告に、星羅の口角がわずかに上がった。だが、その瞳には温度がない。
「そう。……いいわ。彼女たちには、本物の『格差』というものを教えてあげないと。宝石の輝きは、闇の中でしか証明できないもの」
星羅の計画は冷徹だった。 今回のタイマン・コラボは、エターナル・ティアラが誇るフルスペックの3Dスタジオで行われる。最高画質の自分の隣に、彼女たちのボロいアバターを並べる。その圧倒的な映像美の差で、リスナーに「やはり底辺は底辺だ」と視覚的に叩き込む――。
「陽葵。あなたのその『もやし精神』が、私の完璧な檻の中でも歌えるのか……楽しみだわ」
星羅は鏡に映る自分の完璧なアバターを見つめる。 その無機質な輝きだけが、彼女の唯一の正解だった。




