第14話:【重なる周波数、響く産声】
「……湊さん、そこのフレーズ、もっとこう……『もやしを食べてる時の切なさ』と『ドームの照明への憧れ』を混ぜた感じで歌えませんか!?」 「要求が支離滅裂よ。貴方の歌詞、泥臭すぎて音符が喉に引っかかるわ」
ボロアパートの一室は、熱気と苛立ちで充満していた。 第13話で制作が始まったオリジナル曲『深海から、ドームへ。』。陽葵の書いた歌詞は、あまりにも「現実」に寄りすぎていた。家計の苦しさ、オーディションに落ち続けた夜の寒さ、それでも消えない夢。
凛は自作の防音ブース(段ボールと中古の吸音材製)の中で、三日三晩徹夜してトラックを組み上げていた。 「……陽葵の言葉はノイズが多い。湊の歌声は波形が完璧すぎて冷たい。……今のままじゃ、ただの『上手な曲』。計算上、バズる確率は1.2%以下」
そんな停滞した空気を打ち破ったのは、またしても氷室社長のポンコツな「失言」だった。
「あら、なんだか暗いわね! もっとこう、キラキラしたアイドルソングにすればいいじゃない。ほら、『ラブリん・どっきん・ドーム・イェイ!』みたいな!」
「「「…………」」」
あまりのセンスのなさに、3人の間に沈黙が流れる。 しかし、その瞬間に凛の指が動いた。
「……待って。社長の今の言葉……『イェイ』の部分、周波数を極限まで歪ませて、絶叫に近いシャウトに変換すれば……いける」 「えっ、私の気品ある歌声を歪ませるの?」 「……そうよ湊。綺麗に歌おうとするのをやめて。ドームに行けなかった悔しさを、そのままマイクに叩きつけて」
凛のディレクションにより、湊の「プロの技術」が剥がれ落ち、生々しい「魂の叫び」が録音されていく。陽葵もそれに応えるように、ノートを破り捨て、その場で新しい言葉を紡ぎ出した。
「書けました! 綺麗な言葉じゃなくていい。これが……今の私の、全部です!」
録音を終えた深夜。凛が最後のマスタリングを終え、再生ボタンを押した。 安物のスピーカーから流れてきたのは、これまでのVチューバーの常識を覆す、歪んでいて、泥臭くて、けれど涙が出るほどキラキラした、唯一無二の旋律だった。
「……悪くないわね。私のキャリアで、一番『汚くて美しい』曲だわ」 湊が微かに微笑む。 「……計算終了。これなら、ネットの海をハッキングして、世界中の耳に強制的に届けられるレベル。……やるわよ、Q.E.I.」
陽葵は、震える手で投稿ボタンに指をかけた。 「……いきます! 私たちの、最初の反撃!」
この夜、一本の動画がYouTubeにアップロードされた。 翌朝、彼女たちは「通知の嵐」で叩き起こされることになる。




