第13話:【産声は、深海から響く】
楽曲制作は難航した。 湊が要求する「舞台芸術としての美しさ」と、陽葵の「もやしのような泥臭さ」、そして凛の「完璧な理論」が衝突し、アパートの壁を隔てて激しい議論が飛び交う。
「湊さん、ここはもっと元気に! 笑顔が溢れる感じで!」 「安っぽいわね。ドームの五万人を跪かせるには、もっと重厚な響きが必要よ」 「……二人とも静かに。周波数が乱れる。……いい? 感情は理論で補強して初めて、デジタルを介してリスナーの脳に届くの」
そんな3人を繋ぎ止めたのは、氷室社長がこっそり買ってきた(凛の管理をすり抜けた)一皿の安いドーナツだった。 「みんな、糖分補給よ! 夢を追う女の子は、甘いものがないと始まらないわ!」
三者三様の不満を飲み込み、ドーナツを分け合った夜。ついに、一つの曲が完成した。 タイトルは――『深海から、ドームへ。』
初披露のライブ配信。 凛が組んだ最新の音響プログラムが、安物スピーカーの限界を超えてリスナーの耳に届く。 湊の気高い歌声が空気を震わせ、陽葵の真っ直ぐな叫びが、画面越しのリスナーの心を貫いた。
『何これ、鳥肌が止まらない……』 『低画質だったあの「ねねちゃん」が、こんなに綺麗な曲を!?』 『歌詞が……ガチの貧乏生活を知ってる奴の重みだ……』
同接数は初めて1.5万人を記録し、チャット欄は虹色のペンライトで埋め尽くされた 。 「……計算通り。リスナーの心拍数、最大値を更新」 凛が微かに笑い、湊は満足げに顎を引いた。
そして陽葵は、画面に向かって最高にキラキラした笑顔で叫んだ。 「届きましたか!? これが私たちの、逆転劇の主題歌です!」
この一曲が、後に社会現象を巻き起こす「伝説のバズ」の始まりになることを、まだ彼女たちは知らない。




