↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/23

18_妖精の輪

ケドラス侯爵家へシオンが手紙を送ると、翌日には迎えの騎馬が二騎やって来た。


「フォルティオ様を見つけてくださり、ありがとうございます。こちらはお礼になります。」


年嵩の騎士が謝辞を述べつつ差し出した袋を、マシェルが受け取るとずっしりとした重みがあった。


「ささ、フォルティオ様、戻られますぞ。早くお戻りになり領主様と父君を安心させてくださいませ」


「待て!私もせめて挨拶を……」


もう一人の騎士が戸惑うフォルティオを手際よく馬に乗せていく。


「「それでは失礼」」


それだけ挨拶をすると、二騎はあっという間にフォルティオを連れて去って行ってしまった。


「何だか焦ってるというか、逃げるみたいに去っていったな。俺は報酬がもらえるなら別にいいけど」


ルスラが騎馬が消えた方を眺めながら呟いた。


「んー、それはあたしが侯爵に文句の手紙を送ったからだね」


シオンが上機嫌に答えた。

その顔には『めんどくさいやつが居なくなってスッキリした!』という表情が露骨に浮かんでいる。


「ケドラス侯爵様は、シオンのことをご存知なのですか?」


「侯爵とは領地と森で不可侵の取り決めをしてるからねー。あたしの森にちょっかいかけて森から閉め出されたら困るのはあっちだから」


マシェルの問いかけにシオンが胸を張る。


「今代の当主は弁えてるからちゃんと仰々しくせずに迎えに来てくれたよ。家の前にでっかい馬車とか来たら目立ってしょうがないからなー」


「だからあんな誘拐みたいな感じだったのか。あの傷で騎馬は…まぁ肩だから大丈夫か」


シオンの言葉を聞いて納得したようにルスラは頷いた。


「あ、報酬はルスラとマシェルで分けちゃっていいよー。あたしは特に何もやってないし」


手をヒラヒラさせてシオンは家の中に戻って行った。

残されたマシェルとルスラで手元の報酬が入った袋に目を向けた。


「平等に半分半分で分けるか」


「いえ、ルスラさんを多めにしましょう。治療をしたのはルスラさんだし」


「いや、別に気にしなくても……」


堂々巡りになりそうだったので、強引ではあるが袋から三割ほど抜き、残りはルスラの手に袋ごと乗せる。


「『素晴らしい技術には正当な報酬を』、と父がよく言っていたの。受け取って」


「……分かった」


不承不承ではあるがルスラは受け取ってくれた。

ルスラとフォルティオが使っていた部屋を片付けた後、時間があったので森に行ってみることにした。


(『妖精の輪』はあるかしら?)


昨日シオンから話を聞いて、ずっと探したくてうずうずしていた。

あまり家から離れないよう気を付けながら散策を始める。

きのこの季節、秋ということもあり、クロミミやマイタケなどの食べられるきのこや、ニガクリタケやコブタタケの仲間の毒きのこなどを見つけることができた。

しかし目当てのものは中々見つけることが出来ない。


(やはりそう簡単には見つけられないわね……)


諦めて引き返そうとした時、薄紫色のきのこが規則正しく並んで生えているのを見つけた。

駆け寄ってみると、ブナの木を丸く囲うようにその薄紫色のきのこが生えている。


(これは真ん中に木が生えてはいるけれど、『妖精の輪』よね……?)


輪の手前で立ち止まり、じっくりと観察してみる。

それと同時に前日にシオンから教えてもらったことを思い出していた。


*********


「何故『妖精の輪』に妖精が集まるのでしょうか?」


フォルティオの診察が終わって被っていた猫をすっかり捨て去ったシオンに、マシェルは質問した。


「あそこが妖精世界との出入口になってるからだよ」


イスに溶けたようにだらしなくシオンは座り、マシェルもシオンの向かい側に腰かけた。


「妖精世界……そのようなものがあるのですか?」


「あるよー。大体の小さい妖精はそこで生まれて、こっちの世界やあっちの世界を行き来して大きくなるんだよ」


「きのこが輪を作っているのは何度か見つけたことがあるのですが、本物の『妖精の輪』との違いは何でしょうか?」


「それは妖精が集まっているかいないかの差だね。さっきも言ったけどこの森は妖精が他と比べて比較的多いから本物があるけど、他の場所はあんま見かけないねー」


「シオンは妖精が視えるのですか?私にも見ることはできるでしょうか?」


「あたしは視えるよー。マシェルは…なんか条件が揃ったら視えるんじゃない?」


「条件?」


「なんか死にかけた時に視えたとか、馬糞の山に間違って突っ込んだら視えたとか、子どもの時には視えたとか話は聞いたことはあるよ。明確な条件とかは知らんけど」


もうすでに視えるのに、わざわざ視えるための条件を探すことはないか、と少し残念に思う。

そんなマシェルを見て、シオンは声をかける。


「もし森で『妖精の輪』を見つけたら気を付けなよ。妖精がいるのに輪を壊したり中に踏み込んだりしたら、容赦なく呪いをかけてくるからね」


「今回のケドラス侯爵令息のように?」


「あれはまだ可愛いもんだよ。眼が綺麗だったから片目で満足したんじゃない?足とか持ってかれたくなけりゃ手を出さないことだよ。もしくは怒りを納めるほどの何かを渡せば許してくれるかもね」


「それはどんなものなのでしょうか?」


「それは気まぐれ妖精様だからね~。珍芸披露して許されたってのは聞いたことあるよ?」


「珍芸、自信ある?」と聞かれ、首を横に振った。


(学べばできるかしら……?)


「とにかく!暗いとこにある『妖精の輪』には近づかないように!日中でも暗がりにあるのは危ないからね。陽が当たってたら大丈夫。多分」


ヘラヘラと心もとないことを言うシオンに、マシェルは不安になったのだった。


**********


見つけたきのこの輪には午後の明るい木漏れ日が降り注いでいた。

目を凝らして妖精らしきものが視えないか木の周りを見て回るが、名前も知らない小さな甲虫や蛾がいるくらいだった。


(おそらく大丈夫なはず)


一番木漏れ日が当たっているきのこに、まず枝を使って触れてみる。

自分に何も変化が起きてないことを確認し、今度はしゃがんで恐る恐る手を伸ばし、きのこに触れる。


(あ)


あまり手応え無くきのこが採れた。

念のためもう一度自分の体に変化が無いか、顔も異変が起きてないか触れて確かめてみる。


(……大丈夫のようね)


ほっと安心の溜息を一つついた。


(毎回こんな賭け事みたいなことをしながらきのこを採取するのは良くないわね。せめて妖精がいるかどうか分かればいいのだけど)


妖精の有無が分かる方法が無いか家の書籍を探してみよう、と心に決める。

胸の動悸が落ち着いた後、いくつか輪を作っているきのこを採取した。


(珍芸を覚える方が早いかしら。でもそもそもの妖精が好む芸風が分からないから無謀よね……)


妖精の怒りを買わずにきのこを採取する方法を考えながら歩いていると、いつの間にか家に着いていた。

すぐに自室に戻り採ったきのこを乾燥するもの、食べるもの、拡大筒で確認するものに仕分ける。


(食べられるものは後で台所に持って行くとして……。まずはこのきのこが触媒として使えるか確認しなきゃ。)


輪になっていたきのこを薄く切り取り拡大筒に入れ観察を始めた。


(見たところ普通のウラムラサキのようだけど)


ウラムラサキは林や森であればどこにでも生えるきのこであり、何度か観察し触媒になるか確認したことがあるものだった。


(以前確認したきのこは輪になってないものだったけど、輪になるのとならないので差は出るのかしら?)


そう思いつつ、ウラムラサキに魔力を流し始める。


(あら?)


体感ではあるが今までの実験の中で一番魔力の通りが良いと感じた。

残りのウラムラサキを刻み、保存していたホコリタケの粉と混ぜ合わせて魔力を流した。

満遍なく魔力が行き渡ったところで、水を一滴垂らして水のまとまりや吸水状態を見る。


(……触媒としてはまだ弱いわね。でも今までで一番反応がいいわ)


結果を全て紙に書き記していった。


(輪をつくるものが特別なのかしら?他のきのこも輪をつくれば変わるのかしら?妖精がいるのといないのとでは反応はさらに変わるのかしら?)


疑問や仮説が次々と湧き、尽きることは無い。


(もっと『妖精の輪』をつくってるきのこを採取して比べないといけないわ)


そのためにも妖精がいるかどうか確認できる方法を得なければ、と思うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。