↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/23

16_光

マシェルが見つけた男は家に連れ帰られ、その夜の内にルスラによって手当された。

翌日には目が覚めたが、衰弱と怪我による発熱があったためルスラと二人で手厚く看病し、その看病の甲斐もあって三日目には話せるようになった。


「マシェル嬢、ルスラ君、助けてくれてありがとう」


右目と左肩に包帯を巻いた美青年が、寝台からマシェルとルスラに頭を下げた。


「頭をお上げください。侯爵令息にそのようなことをされてはこちらが申し訳ないです」


マシェルは青年、フォルティオ・ケドラス侯爵令息に丁寧に答える。

マシェルが見つけたのは、ケドラス侯爵家の嫡男だった。

国境沿いの侯爵家ということもあり、社交界に殆ど参加することは無かったが、一度参加すればその容姿で頻繁に話題に上がる人物だ。

一八歳でありながら高い身長に引き締まった体躯、輝くような金髪に橙色の宝石のような瞳を持ち、男女関係無く見惚れてしまうその整った容姿から『太陽令息』と呼ばれている。


「いいなぁ、私も一度でいいから『太陽令息』を眺めてみたいわ。」


と、流行りものに敏感なリモニーがよくこぼしていたものだ。

しかし保守派のエマニティス家と革新派のケドラス家は派閥が異なり、サロンなどでの接点は全く無かった。

そのためマシェルが『太陽令息』の実際の姿を見るのは、これが初めてだった。


(確かに社交界で騒がれるだけのことはあるわ。……この怪我した状態を社交界のご婦人方が見たら『絵師を呼べ!』と騒ぐのではないかしら)


傷ついた美青年の絵は一定需要がありそうだ、と思う。

それと同時にこの美青年の右眼が失われてしまったと社交界で知られたら、卒倒する夫人も出るだろうとも思う。


「何故森で倒れていたのでしょうか?」


『話すと失礼なこと言いそう』ということで黙っているルスラに代わり、フォルティオに問いかけた。


「先日、森の近くの国境でアンガラ兵と戦っていたのだが、残党を追いかける内に矢傷を受けてしまったんだ。挙句の果てに味方とも逸れてしまい、いつの間にか行き倒れていたらしい」


「右目はどうされたのでしょうか?」


「これは森を彷徨っていたら、急に右目が見えなくなったんだ」


フォルティオの怪我は一見すると左肩の矢傷のみだったが、フォルティオが目覚めると右眼が出血の跡も無く綺麗に失われていたことが発覚した。

フォルティオ本人曰く痛みは無いそうだが、不可解な怪我ではあるため、念のため包帯を巻いている。


「隻眼とは、父上と同じだなっ!」


右目を失った本人はそう言ってあっけらかんとしている。


(ケドラス侯爵家は国防を担う騎士の家系だから、怪我に対する意識が常人とは異なるのかもしれないわ)


そのため、マシェルもルスラもフォルティオの空気に呑まれて、あまり深刻になれずにいた。


「ところで、ここは『迷いの森』の中にあるということだが……」


何故かウズウズとした様子でフォルティオはマシェルに尋ねる。


「君たちは迷いの森に棲むという、緑の賢者を見たことはあるのか?」


「お見かけしたことは……」


「そうか、無いのか。私は先日、そのお姿と勇姿を見ることができたのだ」


フォルティオの問いかけに敢えて濁すように答えると、一人納得し話始めた。


「先日のアンガラ兵との戦いで、苦戦していた際にご助力いただいたのだ」


「緑の賢者様が?」


「ああ。乱戦になってた際にヤツらが火矢を森に放ってあわや大惨事、という時に駆けつけてくださり、弓兵を中心に倒してくださったのだ」


説明するフォルティオの目は、英雄に憧れる幼子のように輝いている。


「矢を撃ち込まれても、剣を刺されても怯まず泰然としている姿!そして相手を土塊にする見たことも無い強き魔法!ローブを着ていたのでお顔が見えなかったのは残念だが、実際の活躍を初めて目にして私はとても感動した!!」


(…シオンが言ってた『害虫』ってもしかしてアンガラ兵のことかしら)


『害虫駆除』から帰って来た際の服の状態を思い出し、意外なところからシオンの活動の片鱗が知れたと感じた。

そして以前サロンで聞いた『アンガラ兵を土くずにした』という話も、何も誇張されたものでは無かったのだと今更ながら答え合わせをした気分となる。

ルスラに目配せすると、普段のシオンを思い出したのか、それとも知らぬとこで大暴れしてることに思いを馳せているのか死んだ魚のような目をしている。


「ケドラス侯爵令息は緑の賢者がお好きなのですね」


「我が領を守ってくれる素晴らしいお方だからな!そうだ、もし森で緑の賢者を見かけたら教えてくれ」


「それは……如何なさるつもりでしょうか?」


「直接お会いしたい。そして私を弟子にしてくれるよう頼もうと思っているのだ」


「お会いできるとよろしいですね」


マシェルはフォルティオにそう言う他なかった。




「ケドラス侯爵令息の目は何が起きたのかしら」


フォルティオが休んでいる部屋を出て、台所でルスラに念のため声を抑えヒソヒソと話しかける。


「シオンなら分かるのかもしれんが……。あいつ人の怪我治すのは出来ないけど、こういう呪いみたいなのは判別できるから」


「あれほどの魔法が使えるのに、治癒は苦手なの?」


「自分の体ならいくらでも弄って直せるけど、他人の体は脆弱だから無理なんだと。昔試しに師匠が怪我を直してもらったら、腹から木が生えきた……そんで木を取り除く方が大変だった……」


ルスラは思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をする。

話題の人である『緑の賢者』ことシオンはいつものように何処かに出かけたまま不在である。


「あいつが戻ったら一回診てもらおう。もちろん正体は隠してな」


ルスラの言葉に頷いた。


ここ数日、フォルティオの世話と家事、きのこの研究で忙しい日々を送っていたが、


(最近、なかなか寝付けないな…)


夜、自分の寝台で寝転んではみたがうまく眠れず身を起こした。

少しだけ夜風に当たろうと外に出る。

空を見ると雲が多く月や星が見えたり隠れたりしている。


「どうした?夜に森に出ると危ないぞ」


マシェルが外に出た音が聞こえたのか、ルスラも家の外に出てきた。


「なんだか眠れなくて、少しだけ家の周りを歩いたら戻るわ」


「危ないから一緒に行く」


そう言ってルスラがマシェルの隣にやって来る。

ルスラの申し出を断るべきか、諦めて家に戻るべきか、と一瞬逡巡したが、何となくそのまま歩き始めた。


「…なんか久しぶりに貴族令息と接して、元婚約者とのことをいろいろ思い出してしまったの」


歩きながら気付いたらルスラにぽつりと溢してしまった。


「どんな婚約者だったんだ?」


ルスラは淡々した声で尋ねた。


「そうね、すごく私を頼ってくれる方だったのだけど……」


婚約からサロンでの婚約破棄までの経緯をルスラに全て話した。

ルスラは途中話を遮ることなく、静かに相づちを打って聞いてくれた。


「もう過ぎたことは仕方ないし、思い返しても意味は無いと分かっているの。だけど胸の中がもやもやして、あの婚約破棄の日により良い行動がもっとあったのではないかとか、そもそももっと良い関係を作れなかったのか、とか考えてしまうの」


「俺からすれば、相手方に問題があるような気がするけど……そんなに元婚約者のこと好きだったのか?」


ルスラにそう聞かれ、虚を突かれた気持ちになる。


「……好きとか嫌いとか考えたこと無かったわ」


「え、婚約者だろ?」


「家のための婚約だったから、好悪が入り込む余地が無かった……のだと思う」


ルスラに答えながら、トニトスウェールのことやグランシャン侯爵家のことをどう思っているか考えてみるが、好きなのか嫌いなのか決められない。


「……貴族の結婚ってそんな感じなのか」


「私はそうだっただけで、他の方は違うのかもしれないわ」


どう見ても仮面夫婦という家もあれば、仲睦まじい貴族の夫婦というのも確かにいた。


(トニトスウェール様に抱いていた感情は何だったのかしら……。義務感はあったように思う。それ以外の感情はあったのか……分からない)


「何と言うか……部外者が勝手にいろいろ言うのは簡単なんだがな。納得できるまで悩んでみるのもいいんじゃないか?」


「いつまでもクヨクヨ悩むのは、良くない事と聞くけれど」


「四六時中じゃないからたまに悩むくらいいいだろ。それに自分で考えて納得するのが大事なんじゃないか?」


「……ルスラさんにもそういう時ある?」


「……ある。どうしようも無いことをツラツラと考えて後悔したりする時はあるよ」


ルスラはしばし沈黙し、答えた。


「偉そうなこと言ったけど俺だってこんな体たらくなんだから、お前だって悩むのは当たり前なんだって」


重苦しい雰囲気を散らすようにルスラは笑ったので、マシェルもつられて「それもそうね」と笑う。


「悩みすぎて眠れなくなったら、また話ぐらいは聞いてやるよ」


「ありがとう。その時はお願いするわ。……あら?あそこ何か光ってない?」


心が少し軽くなってルスラにお礼を言うと、ルスラの背後の木がぼんやり光っているように見えた。


「……これはっ、これはバケキノコでは?!」


木にはきのこが多数生えており、ぼんやりとした淡い緑の光を放っていた。

最近はフォルティオの看病で家の周りの散策が出来ていなかったので、これほど素晴らしいきのこが生えていることに気付いていなかった。


「すごいわ、ルスラさん!本当に光っている!」


「……おい、ちょっと騒ぎすぎじゃ?」


「だってこんな図説でしか見たことないの!まさかこんな身近に生えてるなんてっ!あ、月の光には負けてしまうのね……」


思わず大はしゃぎし、嬉々としてルスラに報告した。

その間に雲間から月が顔を出し、マシェルやバケキノコを照らす。

するとバケキノコの光は月光より弱々しいため、普通の平たいきのこに見えた。


「どうした?!外からマシェル嬢の大きな声が聞こえてきたが……」


家の扉が勢いよく開く音がし、フォルティオが飛び出して来た。

どうやらはしゃぐ声が大きかったらしい。


「あ、申し訳ありません。少し珍しいものが見れたので思わずはしゃいでしまいました。問題ございませんので、ケドラス侯爵令息はどうぞお休みください」


マシェルは急ぎ取り繕って笑みを浮かべ、フォルティオに答える。

フォルティオは何故かそんなマシェルを見て硬直していた。


「きのこがあれば悩まないのでは?」


月がルスラも照らしていたが、ひどく呆れた顔をしていたのだった。


バケキノコ=ジャック・オ・ランタンタケ(ツキヨタケの仲間)


すみません、更新遅くなりました。

お詫びという訳ではないですが、準備ができ次第閑話を投稿しようと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。