97.
須田は山中が完成させた絵のコピーを持って、三島と清水と一緒にタクシーに乗っていた。さすがに警察にずっと置いておくわけにもいかなかった。
「最近は不景気で参りますよねえ。お客さん、ご商売は何をなさってるんです?」
「コンサルタントですよ」
タクシーの運転手の話に適当に話を合わせながら、助手席に座った須田は夜の街を眺めていた。同乗している2人は、須田の親戚の親子ということにしてある。
「景気はどうです?」
「いいとは言えませんね」
「まあ、客商売なんてどこもそうですよね」
その通り。だが、仕事があればあったで、苦しいこともある。そう思いながら、須田は後部座席の2人を見た。商売と頭痛の種の2人は、特に何かを話すわけでもなく、静かに座っていた。
今この状況で話を聞くわけにもいかず、かと言って、今向かっているホテルでのんびりと聞くという気もなかった。
客観的に見て、すでに十分後手を踏んでいる状況で焦りがあるのは事実だが、それ以上に、三島の話を聞いても、おそらく事態の解決には役に立たない。個人的な動機やいきさつを聞いたところで、それが今、役に立つとは考えられなかった。
もちろん今回の件の全貌を明らかにする、ということであれば重要なはずだが、それは後でやるべきことだし、自己満足に過ぎないことだった。さし当たって、今の仕事には必要ない。
そうして、とりとめのない考え事をしているうちに、タクシーはホテルに到着した。この街では一番高級なホテルで、須田の得意先でもあった。多少の無理はいつでも聞いてくれる。
例えば、わけありの人間を事情を聞かずに泊めてくれるということだ。




