98.
2人をホテルに置いてきた須田は、木村の事務所に電話をかけた。
「はい、木村興信所です」
「お仕事ご苦労様だな」
「おかげさまで。それで、また厄介ごとを追加してくれるわけ?」
「大したことじゃない。ただの張り込みだ」
木村はあからさまに溜息をついた。
「今誰もいないんだけど、これがどういうことかわかる?」
「商売繁盛だろ。けっこうなことじゃないか」
「正解。それなら、そういうときに面倒なだけの電話がきたらどう思うかもわかると思うんだけど」
「面倒だけってこともない。今回の件には、裏では警察もご執心だ」
「だから警察にいい顔ができっるてわけ?」
「俺からだってちゃんと支払いはするさ。おまけもつけてるだろ」
「会社の利益にはならないおまけだけど」
「経営者のためになってれば、会社にもいい影響はあるんじゃないか」
「ためになってれば、ね」
須田と木村はしばらくの間、黙っていた。先に口を開いたのは須田だった。
「まあ部外者にはわからないことだな」
「部外者どころか誰もわかってないと思うけど」木村はあきらめたように声の調子を変えた。「それじゃ、内容を聞かせてもらいましょうか」
「簡単なことだ。ホテルに泊まってる2人に張り付いてくれればそれでいい。ここらで一番のホテルだ」
「それはまた楽しそうな仕事だこと」
「警察に頼むわけにもいかないからな」
「その上、孤高の探偵様は他のことで忙しいと」
「色々な人間の努力を無駄にしないためだ。残念だが、現状でまともに動けるのは、その孤高の探偵様だけなんだよ」
「その探偵様の働きは、当然支払いにもいい影響を及ぼすわけね」
「たぶんな」
「たぶん? いや、おおいに期待しておくとこにするから」
「それじゃ、ホテルのほうは頼む。話は通しておく」
「はいはい。せいぜいうまくやってね」
須田は電話を切った。まずここは大丈夫。




